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 2003.5.25  
 BSE(狂牛病)の発生や相次ぐ食品表示偽装問題で、消費者の食の安全性への信頼は地に落ちている。そこで、農林水産省、民間企業でも、店頭の食品が、どこで、どのように生産されたものなのか、履歴がわかるような仕組みとして、トレーサビリティを構築する動きが始まっている。その現状をレポートした。
 
 
BSEや偽装表示問題で食への信頼性が急落

 2001年9月に発生したBSE(狂牛病)が、国内の牛肉関連ビジネスを大混乱に陥れたのは記憶に新しい。スーパーマーケット店頭から一時、牛肉が消える異常事態となり、焼肉屋や牛丼店からは賑わいが消えた。その後、牛肉消費は回復基調にはあるものの、去る5月21日には、カナダ・アルバータ州でBSE感染牛が発見されたことを受けて、農林水産省がカナダ産の牛肉の輸入を停止。消費者の牛肉の安全性への信頼が、完全に回復するまで、まだ時間がかかることを印象づけた。
 また、00年6月に雪印乳業大阪工場の引き起こした、1万人を超える日本最大級の集団食中毒事件、02年1月に雪印食品が輸入牛肉を国産牛肉に詰め替えて偽装、国産牛肉の産地も偽装していたことが発覚した偽装牛肉事件により、食に携わる業者の衛生管理、産地表示に対するモラルの問題が問われた。

 この2つの事件により、雪印グループは解体、雪印食品は清算を余儀なくされた。
 消費者はBSEショック、雪印ショック、さらには続出する産地偽装、無許可農薬使用の輸入野菜、無許可添加物使用食品等々の発覚により、今や店頭に並んでいる食品の安全性を信用していない。日本経済新聞社が昨年6月に行った電話リサーチによれば、消費者の98%が「表面 化していない事例がまだある」と食への不信感を募らせているというデータもある。

 国としても、広がる食への不信の払拭を緊急課題の1つと位置付け、昨年来より内閣府で準備してきた「食品安全基本法案」を衆参両議院に提出。5月16日の参議院本会議で、賛成多数で可決され、内閣府内に「食品安全委員会」を設置して監督にあたるなど、食の安全性確保に向けて、本腰を入れた取り組みを始めようとしている。

 一方で農林水産省では01年10月より、全国の食肉処理場でBSEの全頭検査を実施。国産牛に関しては、少しでもBSEの疑いのある牛肉は流通 させない厳しい態度で臨んでいる。また、日本で飼育されている全ての牛に10ケタの耳標を付け、個体識別 ができ る体制を構築、流通の各段階で履歴を参照できるシステムを整えようとしている。これが、トレーサビリティと言われるものだ。

 トレーサビリティとは、英語の「トレース」(足跡を追う)と「アビリティ」(できること)を合わせた語で「追跡可能性」を意味する。
 農林水産省は今後、牛以外の農産物、畜産物、海産物についても、トレーサビリティを確立し、全食品の安全が一元管理できることを目標に、さまざまな実証実験に取り組んでいくという。

 
 取材・執筆 長浜 淳之介 2003年5月25日
 

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