・酒類卸「小網」元社長。惣菜ビジネスで宇野氏に出会う
笹田氏は甲南大学卒業後、キッコーマンに入社。その後、酒類卸「小網」の社長までになった人物だ。小網時代に新規事業として、フーズサプライサービスを立ち上げ、お惣菜店のチェーン展開を目指した。
東京・豊島区で1店舗出店したが、客単価400円と安く、忙しいけれど儲からなかったそうだ。しかし、3年目にようやく黒字化。「生鮮の強い小売店があると惣菜店は成り立たない。昔の住民ばかりだと総菜は買わない」と惣菜の難しさを笹田氏は教えてくれた。
大皿料理が流行っている話を聞き付け、そこで惣菜が売れるのではと考え、笹田氏は草分けの「くいものや楽」の宇野隆史氏を訪ねた。当時の「くいものや楽」は古くて、トイレの扉が勝手に開いたりする建付けの悪い店だが、しこたま混んでいた。
惣菜をテイクアウトではなく大皿で出して、居酒屋をやれば儲かると話し、宇野氏と意気投合し、その日の内に共同で居酒屋を運営することを決めた。
それが「くいものや楽 六本木店」。非常に流行った。25坪で月商2500万円。6時前からお客が並んで12時まで1席も空かない日が続いた。宇野氏は有名人となった。小網にも大きなメリットをもたらした。自社輸入ビール「グロルシュ」や「プリモ」を店で扱わせ、年間3千ケースも売れたのだ。
1998年から小網の社長となった笹田氏は、2000年には同業の三友と合併。小網三友の社長に就任。その後、現在の三井食品と社名が変わっていく。2002年には、社長を退任し、「くいものや 楽」などを経営していた子会社フーズサプライサービスの株式を譲り受けた。
・宇野氏の天才的運営とファンド知識を合体させて「上昇気流」
フーズサプライサービスは飲食3店舗を経営し、20年以上黒字。「ちゃんとやれば安定した収益が望めるのが飲食」と笹田氏は確信する。
卸業の粗利はわずか6.5%。片や飲食業は75%もある。また、お客が喜んでくれる顔を目の前で見ることができ、スタッフも成長する。この2点で笹田氏は飲食にのめり込んで行った。
チェーンやファンドの知識と、宇野氏の天才的な店舗運営。これを結んで、ベンチャーファンドにも出資してもらい、2004年に上昇気流を設立した。
「独立したい一匹狼を育てていこう。野性的なセンスが個性的な繁盛店を作れる。資金が少なくても、路地裏の居抜き物件で十分に成功できる経営者を続々育てたい」というのが上昇気流のコンセプトだ。
出店時に必要な保証金や設備投資にかかる費用をトータルパッケージで提供し、初期投資を大幅に抑えて開業できる仕組み。最近、同様のサービスが増えているが、同社はユニークな野性的手法を取っている。
1号店「青山ゑびす堂」(港区北青山3-9-12-3F) 改装前
「青山ゑびす堂」改装後
・野性経営者を縛らないのが「上昇気流」流
出店者と上昇気流の間で、システム加盟契約を結ぶ。投資額により異なる50〜100万円の加盟金と、トータル投資額の4分の1から5分の1の加盟保証金を出店者は最初に用意するのみ。入居保証金程度で自分の店が持てる。
月々の費用は完全定額制。売上スライドではなく、売上は出店者のもの。売れば売るほど利益が出店者の手元に残る仕組み。しかも、売上スライドではないので、売上報告義務はない。売上管理もしていない。野性経営者は口出しをされたくない人が多い。
出店希望者は登録制。飲食経験者のみで店長や経営者の方々。経験者は失敗の確率が低い。必ず、笹田氏が面接し、人物とキャリアを見て確信が持てた人のみを登録させるという野性には野性でという審査方式。現在は、100名近くが登録されているそうだ。
物件は居抜きだが、1店舗ごとにオーダーメイドで業態を作り投資を行う。同社のシステムは、3年間の活動で、現在18店舗で利用されている。業態は居酒屋、スペインバル、イタリアンなど多岐に渡る。
居抜き物件が出た段階で、登録者とマッチングを行い、店舗作りのプランニングに入る。「物件、人、業態を見る目が育った。成功が見えてくる。マニュアルにはならない直感」でマッチングしていく笹田氏。
「今、最も欲しいのは物件です!」と笹田氏は声を大にする。
笹田氏は、NHK教育テレビ「ビジネス未来人」12/9(日)19:30〜19:55に登場する予定だ。