2003.12.29  
 2003年もいよいよ大詰め。思えば、牛肉セーフガード問題が浮上したのが昨年の暮れ。そして、今年の暮れもアメリカのBSE問題で揺れている。牛肉に始まり、牛肉に暮れた1年だったかも知れない。しかし、そのような中、六本木ヒルズオープン、焼酎のブレイクなど明るい話題もあった。記録的な冷夏の影響もあった。そこで、フードリンクニュースが独自視点で、「飲・食・店」の2003年10大ニュースを選定する。
            2003年フードリンク厳選10大ニュース

     1.六本木ヒルズオープン
     2.本格焼酎ブーム到来
     3.店名に“月”シリーズが流行、「月の雫」と「月の宴」が訴訟合戦
     4.食品トレーサビリティ本格始動
     5.日本マクドナルドが社長交代、プレタマンジェから撤退
     6.冷夏でビール消費が落ち込み、米価沸騰・牛肉セーフガード発動も
     7.ボージョレ・ヌーボーが爆発的人気
     8.ベンチャー・リンクが大赤字決算
     9.健康増進法で禁煙・分煙が業界に広がる
    10.老舗の寿司屋・本格フレンチが復調

六本木ヒルズ
1.六本木ヒルズオープン

 今年は昨年に引き続き、東京都心部で「街づくり再開発」が一気に開花した年だった。
 この流れは、秋口9月の丸ビルオープンに始まり、11月の川崎ラ・チッタデッラ「マッジョーレ」オープン、12月のカレッタ汐留と続き、今年4月の品川グランドコモンズ、さらには六本木ヒルズのオープンで頂点に達した。
 六本木ヒルズは、4月25日のオープンから1ヶ月間に、約635万人もの来客数を数え、期待の高さを見せつけた。10月18日には森美術館が開館。六本木ヒルズフルオープンを迎え、文化・情報発信基地としての本格稼動をはじめた。 イベント時には今も多くの人で賑わいを見せており、平日では1日約10万人が訪れる東京の新しいランドマークとなっている。
 約210のショップ&レストラン、オフィス、シネマコンプレックス、ホテル、住宅などが揃っている「文化都心」という、新しいコンセプトを提案したことは、大きなインパクトを与えた。
 また、地下鉄六本木駅から六本木ヒルズを経て、麻布十番に抜けるという、新しい導線が自然発生的に出現。麻布十番地区の商店街が大盛況となる効果ももたらした。
 六本木ヒルズに代表される街づくりラッシュで、注目されるのは、アメリカの建築デザイナー、ジョン・ジャーディ氏の存在である。
 ジョン・ジャーディ氏は六本木ヒルズ、ラ・チッタデッラ「マッジョーレ」、カレッタ汐留という話題の街づくりのデザイン思想構築の中心となり、推進した人物。1985年、ゴーストタウンだった地区を一躍、全米有数の観光スポットに変えた。その時のコンセプトが「街の中の街」であった。 ジャーディ氏のデザインは、イタリアなどヨーロッパ中世の城壁都市や自然の岩、滝などをモチーフとし、わざと入り組んだ構造にしたり、道幅を狭くしたりして、人間の復権を試みたスローライフにも通じる作風を特徴とする。日本社会も成熟期を迎えて、ハイテクを装備した中にも自然、環境との調和が求められるようになってきたということだ。
 さらに、ジャーディ氏は、今年10月にオープンした大阪の屋上公園を備えた、旧大阪球場再開発・なんばパークスにも参加。なんばパークスはオープン1週間で139万人を集客した。また、4月にオープンした北九州・小倉再開発のリバーウォーク北九州のデザインを担当しており、六本木ヒルズ−ジャーディ的な新しい街づくりの考え方は、全国の主要都市に広がっている。


 

おいしくて体に良い本格焼酎
2.本格焼酎ブーム到来

 ここ数年来、焼酎ブームが続いている。これは日本酒の不振と比べても対照的であり、今年あたり生産量が日本酒を抜く可能性がある。
 酒税ベースの統計では、酒類の生産比率は、平成13年で清酒9.6%、焼酎8.2%となっていた。最近は毎年、0.5%くらいずつ清酒から焼酎が消費が流れており、今年は逆転したものと推測される。
 焼酎ブームは1980年代にもあり、「いいちこ」、「純」などのヒット商品が生まれた。この時は税金アップによる価格高騰で鎮静化したが、甲類焼酎がブレイクし、「チューハイ」というジャンルが確立されたのが、今回のブームにつながっている。
 つまり、当時、甲類焼酎で「チューハイ」を知った人たちが味のわかるミドルになり、今度は乙類の本格焼酎消費を下支えしているのだ。
 焼酎ブームの要因の1つには、消費者が軽いお酒を好む傾向が出ていることだ。
 日本酒は一部カクテルを除けばそのまま飲むお酒なのに対して、焼酎は水やお湯、お茶などで割って飲むのもいいし、「チューハイ」というバラエティもある。実際に消費者が飲む時点でのアルコール度数は、焼酎のほうが日本酒よりも、圧倒的に軽いのだ。
 缶チューハイについては、若者、女性を取り込む目的のテレビCMが大量に放送されており、時には缶ジュースより安く、市場に出回っているということもある。

 また、本格焼酎と泡盛(乙類)に関しては、血管内に固まった血液を溶かす効果が、ワインの約1.5倍で、どんな酒類よりも強いことが知られており、健康が気になる中高年以上では選ばれるだけの理由がある。このような健康増進効果が、マスコミ報道された結果として、新しい焼酎ファンが生まれているのだ。
 もう1つの要因は、和食、沖縄料理、韓国料理のブームである。
 和食に関しては最近はライト感覚の創作和食の人気が続いている。そこで選ばれるお酒として焼酎が浮上している。また、沖縄には泡盛、韓国にも「眞露」のような焼酎文化がある。そうした料理の流行が焼酎人気を後押ししている。
 つまり、若者の甲類に加えて、ミドルの本格焼酎や泡盛(乙類)が重層的になって、強い流れをつくり出しているのが、今回の焼酎ブームの特徴である。
 

3.店名に“月”シリーズが流行、
「月の雫」と「月の宴」が訴訟合戦


 去る、12月12日、モンテローザは三光マーケティングフーズを、悪質な営業妨害をされたとして、横浜地方裁判所に、1億3000万円の損害賠償を請求する訴訟を起こした。
 モンテローザは、「月の宴」という居酒屋チェーンを展開しているが、その雰囲気、メニューが三光マーケティングフーズの展開する「月の雫」に似ているとの指摘が、数多くなされてきた。三光マーケティングフーズは、「店をまねされた」として、モンテローザを1億1000万円の損害賠償と、不正競争防止法による表示の差し止めで、すでに横浜地方裁判所に提訴している。 今回はモンテローザが三光マーケティングフーズを反訴した形だが、雑誌などで、三光マーケティングフーズが「『月の宴』は質が低い」などと発言した記事が掲載され、それによって「信用に傷がついた」としている。
 しかし、「豆冨」をメインにした創作和食、ロゴの手書きの文字、薄暗く和風旅館のテイストを取り入れた店内が、両者が極めてよく似ているのは紛れもない事実。顧客が間違って入るということも、当然、あるに違いない。それだけ三光マーケティングフーズの業態開発力が優れていたということなのだろう。    
 今回のモンテローザの反訴は、面子の問題と言えなくもない。
 例えば芸能界では、当初「宇多田ヒカルに似すぎ」と言われた倉木麻衣がその後頑張って、独自の地位を得ているということもある。モンテローザも倉木麻衣のように、粘り腰で、「月の宴」を唯一無二の存在にブラッシュアップしていってほしい。

 
 
4.食品トレーサビリティ本格始動

インターネットがトレーサビリティに活かされている
 2001年9月、千葉県で国内初のBSE(牛海綿状脳症、狂牛病)感染牛が発見されて以来、かねてからあったO−157などの食中毒問題、その後発覚が相次いだ産地表示偽装問題、中国などからの輸入食品に使われた無許可の農薬や養殖魚向け薬品の問題等々、食品の安全に誰もが疑問を抱かざるをえない事態が次々と噴出。
 食中毒、産地表示偽装と不祥事を重ねた雪印グループは、すでに崩壊。食品関連業者は、食品の安全な生産、製造、流通に留意しなければ、市場で生き残っていけない状況となった。これは「食」を通して人の健康、命にもかかわる食品関連業界では、競争に勝ってシェアを奪い、コストダウンを進めれば勝ち組になれるといった市場原理だけでは、もはや消費者の支持を得ることができないということなのである。
 そうした状況で注目を浴びているのが、「食品トレーサビリティ」。トレーサビリティとは、英語の「トレース=追跡」と「アビリティ=できること」を合わせた言葉で、直訳すると追跡可能性となる。
 具体的には、生産段階から加工段階、各流通段階、川上から川下まで履歴を取り、いつ誰が何をしたのかがわかるように、データを連結して保管しておく必要がある。つまり農産物なら、いつ種をまき、どんな農薬・肥料を使い、いつ収穫したか、消費者から問い合わせがあれば、小売にせよ、卸にせよ、農協にせよ、きちんと答えられるような体制を目指す。そのために、場合によってはITの助けも借りて、システムをつくる。
事例が豊富な「図解食品のトレーサビリティのすべて」フードリンクニュース編著
 国の制度としてのトレーサビリティは、国内牛については、すでに個体識別番号を打った耳標が一頭一頭に付けられ、独立行政法人・家畜改良センター内でデータベース化されている。12月からは、牛肉流通の記録と管理が義務づけられており、来年12月には個体識別番号の表示が義務づけられる。

 しかし、12月25日にはアメリカでBSE感染牛を確認。禁輸措置が取られ、BSE問題がまだまだ解決していないことが明らかになった。
 牛肉以外のシステム構築は、基本的に民間に任されている。生鮮食品、加工食品ともに、熱意を持って食品トレーサビリティに取り組む業者は増えているが、その道のりは、牛肉1つを取っても平坦ではない。
 食品トレーサビリティの概要については、フードリンクニュース編著で『図解 食品トレーサビリティのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター刊 1800円)が、今年7月に刊行されている。手前味噌で恐縮ではあるが、豊富な事例が紹介されており、食の安全に関心のある方は必読と言っておこう。
 
 
5.日本マクドナルドが社長交代、
プレタマンジェから撤退


 日本マクドナルドは、昨年12月に、創業以来社長として30年間君臨してきたカリスマ、藤田田氏が会長に退き、八木康行副社長が社長に昇格する人事を発表。世代交代が印象づけられた。
 さらに、今年5月、米国マクドナルド社の駐日代表、ドナヒュー氏が藤田氏の後任として、会長兼CEOに就任。藤田色を払拭して、経営再建を目指す体制となった。日本は世界企業マクドナルドとしても、米国に次ぐ第2の大市場。低価格路線の行き詰まりにより、2002年12月期決算で、29年ぶりの赤字に転落した日本マクドナルドの苦境は、米国本部としても重大な事態と認識しており、米国主導で再建を図っている。
 新生マクドナルドは、豆腐など健康素材を使った商品を投入したり、高級感あるモツァレラチキンカツを提案する、ベーグル商品の投入など、期間限定の多様な商品を展開。メニュー開発力の強化を進めている。
 一方で、経営資源のハンバーガーチェーンへの集中を目的に、高級サンドイッチ店のプレタマンジェからの撤退を去る11月に表明した。 
 2003年6月期中間決算では、単独・連結ともに、当期利益は黒字に転換しており、今年1年で業績は上向いている。
 しかし、目立ったヒット商品、ヒット企画が生まれるにはいたっておらず、ファーストフードの雄にとって、試練が続いている。
 
 
牛肉市場の復活はあるのか
6.冷夏でビール消費が落ち込み、
米価沸騰・牛肉セーフガード発動も


 今年は冷夏の影響でビール・発泡酒の消費が10%程度も落ち込む不振。特に右肩上がりの成長を続けてきた発泡酒にとっては初の前年割れに見舞われた。また、酒類全般に関しては、道路交通法改正による飲酒運転罰則強化の影響もボディーブローのように効いており、特にビールメーカーにとっては厳しい夏商戦となった。
 米価においては、1993年以来の米の凶作とはいえ、その教訓を生かして政府米の備蓄は十分あり、極端な高騰は考えにくい状況にあった。しかし実際は、一時期、宮崎産「コシヒカリ」が50%近く、「あきたこまち」が20%近く値上がりするなど、米価沸騰が起こった。
 「コシヒカリでも魚沼産ならともかく、宮崎産では本来ありえない」といった驚きの声が関係者から聞こえてきた。これは相次ぐ偽装表示問題で、業者が「コシヒカリ」などのブランド米確保に奔走したためで、政府米はブランドとしての価値の乏しいものばかりだったために、一部のブランドで高騰が起こったということである。米もブランドの時代となったことを象徴する現象であった。

 また、8月より牛肉セーフガードが発動され、来年3月まで、輸入牛肉(生鮮・冷蔵)の関税が38.5%から50%に引き上げられている。牛肉の場合、セーフガードは関税暫定措置法で定められ、輸入が4半期毎に前年同期比で1.17倍を超えると自動的に発動されることになっている。
 昨年、BSEの影響で低迷していた牛肉消費が8割程度まで回復。その前年同期比で1.17倍という基準値を超えたために発動されたものだ。セーフガードの影響で牛肉の輸入価格は8月、9月は20%を超える上昇を見せており、いまだBSE禍の傷が癒えない牛肉関連卸、小売、飲食店の経営を圧迫している。
 さらに、12月に入って発覚した米国牛のBSE問題がどう影響を与えるか不透明であり、現在は禁輸措置が取られているが、しばらく牛肉関連業者の苦境は続くだろう。
 
 
7.ボージョレ・ヌーボーが爆発的人気

 今年のヨーロッパは異常気象の影響で記録的猛暑。降水量の少なさと、日照時間の長さは、ブドウにとっては最適な環境であったため、最良のブドウを原料にできる、ボージョレ・ヌーボーも当たり年となった。
 しかし、出荷数は例年の半分程度と品薄。これは、干ばつの影響がブドウにも出たといことだが、ブドウの実の成熟が早まって、収穫量は極端に減ったが、中身が濃く、果汁の糖分濃度が高い、最高の品質となったということである。 「2003年のボージョレ・ヌーボーは、1893年以来の最高傑作」との声も聞く。
 このため、日本でもバブル期1990年以来のボージョレ・ヌーボー人気が沸騰。11月20日解禁日早々に売り切れる銘柄も続出したようだ。
 
 
8.ベンチャー・リンクが大赤字決算

 フランチャイズ支援企業として、飲食業界に大きな影響を与えてきたベンチャー・リンクが、2003年5月期決算(連結ベース)で、60億2100万円もの大幅当期損失に見舞われた。営業利益で見ても、35億3900万円の損失であった。
 02年5月期決算(連結ベース)では、52億7400万円の当期利益、88億7300万円の営業利益を出し、これまで高利益率の会社として知られていただけに、急降下の赤字転落であった。売上高は465億円から609億円へと大きく伸ばしながらの大赤字であり、何が起こったのか、業界に衝撃が走った。
 ケチのつき始めは、昨年10月の「タリーズ」を展開するフードエックス・グローブとの業務提携解消。コーヒーメーカーのトラブルなどから、フードエックス・グローブの松田公太社長よりかなり一方的な契約解消の申し入れがあった模様だ。
 その後、フランチャイズ展開において、オーナーと契約を結んでいながら、実際のオープンまでにこぎつけない物件が多数存在するなど、会社の急成長に人材育成が追いつかない実態が明らかになってきた。
 ベンチャー・リンク失速の原因には、株価低迷で、資本を入れて支援した企業が上場しても、キャピタルゲインが期待しにくい環境悪化も背景にあった。
 類まれなビジネスモデルを持つ企業であるだけに、株価の持ち直し傾向が出ている04年は巻き返しなるか。注目していきたい。
 
 
吸わない人には嬉しいのだが・・・
9.健康増進法で
禁煙・分煙が業界に広がる


 今年5月1日に、がん、脳卒中、心臓病などを含む生活習慣病の抑制を目的に、健康増進法が施行された。
 この健康増進法で特に注目されるのは、第25条の「受動喫煙」の防止を義務づける条項だ。「受動喫煙」とは、本人の意思とは関係なく喫煙しているのと同じ状態にさせられていることで、飲食店でも分煙または禁煙が必要な状況となってきた。       
 そうした動きを受けて、家庭的な定食屋チェーンを展開する大戸屋では、6月1日より、全105店で全面禁煙を実施。ドトールコーヒーでも、7月1日に厚生労働省内に初の禁煙店を出店するなど、禁煙強化の動きが出てきた。
 しかし、禁煙の広がりばかりでは、愛煙家はどうするのかといった問題が当然、出てくる。他の飲食チェーンでも、何らかの形で分煙を図っていく動きが出ており、煙草を吸う人、吸わない人、両方に満足してもらえる店づくりが大きな課題となっている。
 
10.老舗の寿司屋・本格フレンチが復調

 回転寿司やカジュアルダイニングの大流行で、元気がなかった老舗の寿司屋・本格フレンチが復調の気配を見せている。
 これは大手企業の業績がリストラ、スリム化によって復調しており、多少財布の紐が、会社、個人ともに緩んできたことが関係している面がある。厳冬を凌ぎきり、薄日が差してきたといったところか。
 それと、「サライ」、「日経おとなのOFF」など、“渋いおじさん”雑誌が、本物指向のグルメ、旅を盛んに提唱している宣伝効果も大きい。また、「ひらまつ」のようにディフュージョンラインも展開して、まずお試しでディフュージョンで顧客を囲い込んで、本格フレンチに集客するといったような戦略を試みて、その営業努力が成功してきたといった事情もあるようだ。
 
取材・執筆 長浜 淳之介 2003年12月28日