2004.4.4
 CD発売にちなんで、曲のイメージから着想したケーキやデザートを発売する動きが出ている。今年に入って、エブリリトルシング、ラヴサイケデリコといった洗練されたサウンドを聞かせるJポップのユニットが相次いで、アルバムとスイーツを一緒に楽しむ企画を提案。いずれも、これまでにない新しい試みと、ファンの反応も上々のようだ。
ELTの新譜のジャケット(初回限定盤)
音楽とケーキ両方楽しむ
「食べるアルバム」


 全国の三越系列40店では、エブリリトルシング(以下ELT)が3月10日に発売した、ニューアルバム「コモンプレイス」にちなんだオリジナルスイーツを、3月15日に発売した。11曲の収録曲があるが、1曲につき1つのケーキを製作。11種類のスイーツを提案した。

 3月中で発売を終えた店も多いが、都内では三越銀座店が好評につき、4月いっぱいまで販売を継続。デパチカの1スペースを占拠し、“ELTがお店を出した”という形で営業している。CD「コモンプレイス」も一緒に販売している。

 ホームページで通販も継続して行っており、今後、台湾からのオファーにこたえて、5月以降台湾での展開を考えているところだ。


 ELTはヴォーカル・持田香織さん、ギター・伊藤一朗さんの2人組男女のユニットで、当初はプロデューサーでもあったキーボードの五十嵐充さんが参加していた。持田香織さんの透明感のあるヴォーカルが人気で、アコースティックなバラードに定評がある。代表曲にカラオケの定番である「Fragile 」など。

「コモンプレイス」チラシ

 これは、ELT担当マネージャーのアクシヴ・マネジメント事業部、平塚敦子さんが、「ニューアルバムを盛り上げたい」と企画した。持田さんもケーキが好きなので大賛成だったとのことだ。

ELTがお店を出した!? デパ地下の1スペース
 アルバムタイトルの「コモンプレイス」とは、平凡な事といった意味だが、なぜケーキとのコラボレーションかといえば、平塚さんによれば、「ニューアルバムには小さな幸せ、当たり前の日々を大切にというメッセージが込められている。ケーキも同じように小さな幸せを象徴する食べ物です」というわけであるらしい。

 ELTのファン層は男性も多いが、最近は中学生くらいから30歳前後のOL層の女性にまで広がっている。幅広い顧客を取り込めることから、百貨店での展開を考えた。

 音楽とケーキを両方楽しむ、「食べるアルバム」のコンセプトを打ち出している。


 
 

インターネット通販で5000セットを販売

 三越での展開はアクシヴが新規事業部というマーチャンダイジングを行う部署を持っており、流通・小売との接点を持っていることから、協力を仰ぎ実現したそうだ。1月に三越にデパチカにELTの店を出してみないかと提案を持ち込み、ほとんど立ち話のような形で即断即決となった。万事慎重な大手流通では異例であり、それだけ企画がユニークでインパクトがあったのだろう。

 アクシヴはエイベックスのグループ会社で、所属アーチストも浜崎あゆみさん、BoAさんなど売れっ子を多く抱えている。そうした信用力も背景にあったかもしれない。

 生産はコンビニにも商品を卸している、中堅菓子メーカーに委託し、メーカーのシェフが、1つ1つの曲のイメージを膨らませて商品に落とし込んだ。たとえばアップテンポの曲なら赤い色をポイントに使うなどのいろんなアイディアが込められている。

 たとえば、「ソラアイ」という曲では空模様をイメージしたやわらかいバナナ味のバナナムース、「ファンダメンタル・ラブ」ではピンクを基調にPOPさを出しピーチをトッピングしたピーチムース、「一日の始まりに…」では目覚めのよい朝をイメージしたブルーベリーヨーグルト、「また あした」では日本の四季・秋を思わせるモンブラン、などといった展開になっている。

「ソラアイ」に合わせた
バナナムース
「ファンダメンタル・ラブ」のピーチムース
「一日の始まりに…」をイメージしたブルーベリーヨーグルト
「また あした」秋を思わせるモンブラン 

 価格は4個入りセットが3種類あり、1260円。

 売れ行きは各店舗毎日70〜100セットが売れており、予想以上の反響。特に地方のほうが売り上げは上がっているようだ。ネットでの問い合わせも多く、すでにトータルで5000セットが売れている。

 「ケーキを買って食べてみて、CDを買ったとか、CDを聞きながら食べていますといった声をよくいただきます。2つの楽しみがあるのが好評です」と平塚さん。

 相乗効果があってか、「コモンプレイス」はオリコン週間チャートで1位を獲得している。

 アクシヴでは東京プリンという所属アーチストにちなんだ「東京銘菓東京プリン」を、羽田空港みやげとして、菓子メーカーのパレフリオンとのライセンス契約で売り出すなど、音楽とスイーツのコラボレーションを実験的に始めている。あくまで“アーチストのイメージに合えば”であろうが、今後も同種の企画が展開されそうだ。
 
 
ラヴサイケデリコの新譜ジャケット
アルバム曲にちなむ
スイーツでシェフが競演


 今年2月25日に発売されたラヴサイケデリコ(LOVE PSYCHEDELICO)のニューアルバム「ラヴサイケデリコⅢ」はジャケットがケーキのイラストというユニークなものである。

 そしてこのニューアルバムのジャケットにちなんで、それぞれの曲のイメージに合ったスイーツを発売。コラボレーションのパートナーとなったのが、キハチアンドエスだ。

 キハチの展開は壮観であり、東京を中心にした全国14の系列飲食店と、パティスリーキハチ9店が参加して、15人のシェフがそれぞれ、収録13曲のイメージで、オリジナルのスイーツ1つずつを提供するというものだった。パティスリーキハチでは9店同一のケーキを提供したので、シェフの数は15人となる。キハチとしても、初の試みであった。

 期間はアルバムの発売日を挟んで、2月14日〜3月14日の1カ月間展開した。価格は480円〜1260円。

 キハチに白羽の矢が立ったのは、ラヴサイケデリコのファンのコアであるOL層とファン層が重なるからであると推定される。

 現在、音楽業界では全般的にCDの売れ行きが低迷しており、パンチの効いた宣伝企画が必要だった事情もあるようだ。たとえば、アルバムにちなんだオリジナルのケーキをつくって売り出せば、飲食店とも相乗効果が生まれて、話題が広がるのではないかということなのだろう。

 
 

「カフェ・ビーナス」でビーナスブレンドを飲む
映画のプロモーションが
相乗りする大型企画に


 しかも、この話がさらに大きくなったのは、「ラヴサイケデリコⅢ」の中の1曲「Everybody needs somebody」が、3月6日に公開された草薙剛さん主演の映画「ホテルビーナス」の主題歌に決まったことだ。もう1曲「neverland 」も、劇中に使われている。

 劇中「ホテルビーナス」にある喫茶店「カフェ・ビーナス」で提供する「ビーナスブレンド」を、オリジナルのレシピによりキハチ各店で期間中提供することになった。

 これには「スイートバージョン」と「ビターバージョン」の2種類があり、銀座と横浜のキハチチャイナ以外で販売した。

 キハチが、CDと映画のプロモーションを同時に行うことになったのである。

 そのほか、パティスリーキハチ・アークヒルズ店など9店では、2月14日〜25日のアルバム発売直前に、主にティータイムで、「ラヴサイケデリコⅢ」をBGMで流し、いち早くオンエア。

 新宿の2店、キハチイタリアン・新宿フラッグス店、パティスリーキハチ・新宿フラッグス店と、タワーレコード・新宿店が提携してスタンプラリーを実施。スタンプを2個集めて応募すると抽選で、ラヴサイケデリコのオリジナルグッズが当たるという、CDショップとコラボレーションした企画も一部行った。

「Everybody needs somebody」をイメージしたスイーツ(キハチイタリアン 新宿フラッグス店)
「リンゴスパイラル」アルバム全体をイメージ(キハチイタリアン あべのHOOP店)
「fleeng star」をイメージした「真っ赤な苺とミルクアイスクリーム はじけとんだコアントローソース」(キハチイタリアン 伊勢丹相模原店)
アルバム全体をイメージした「木苺とチョコのプロット」(パティスリーキハチ)    

 これらの企画は各種媒体に採り上げられ、多くの取材を受けた。
 
 
OL層がキハチ各店食べ歩きツアーも

「My last fight」をイメージした「シャンパンルージュパルフェ」(パティスリーキハチ アークヒルズ店)
 このように多彩に展開したコラボであったが、予期せぬ現象も引き起こした。30歳前後のOL層がキハチのいろんな店を食べ歩き出したのだ。各店に置いた全店の創作メニューを写真付きで掲載したチラシの効果もあったようだ。

 15人のシェフがそれぞれ曲を聞いてイメージを膨らませたスイーツは、見た目にも鮮やかで単純に面白い。同じ曲を聞いてもシェフのセンスで全然違う表現方法になることもある。そうしたシェフのセンスを楽しむこともできる。

 果して、CD、映画、飲食のそれぞれにどれだけの底上げ効果があったのかは検証中であるが、少なくとも「ラヴサイケデリコⅢ」、「ホテルビーナス」ともにヒットチャート、興行成績の上位に顔を出しており、ヒットに少なからず貢献したと推測される。


 キハチでは、キハチカフェ・伊勢丹新宿店とパティスリーキハチ・アークヒルズ店で、特に反響が大きかった。特に映画が公開した3月6日の売れ行きはピークとなり、その日アークヒルズ店で90個がオーダーされた。

映画「ぼくは怖くない」の舞台、南イタリアの大地をイメージしたメニュー
 キハチは今後も、さまざまなコラボレーション企画を行っていく考えにあり、現在も3月14日〜4月30日の期間限定で、キハチイタリアン・新宿フラッグス店が、テアトルタイムズスクエアで3月20日よりロードショーしているイタリア映画「ぼくは怖くない」よりインスピレーションを得たメニューを展開中である。

 山室シェフは映画の舞台である南イタリアに広がる黄金色の大地をテーマに、アンティパスト、プリモピアット、セコンディピアット、ドルチェ、パン/カフェのプリフィックスコース料理(4200円〜)を提案。コースはアラカルトでもオーダーできる。

 いずれにしても、キハチとラヴサイケデリコと「ホテルビーナス」のトリプルコラボレーション、三越とエブリリトルシングのコラボレーションはともに、「食」と「音楽」がますます密接になっている象徴的な現象だ。食の空間づくりに、音楽の役割がますます大きくなっていることを示している。

 
2004年4月4日 取材・執筆 長浜淳之介