2004.4.25  
 飲食業界でも「ワインファンド」、「ラーメンファンド」など、ファンドを組んで投資家を募り、事業を進める動きが出てきた。果してファンドでどれくらいの資金が集まり、運用状況はどうなのか。投資家にとってどれほどのメリットがあるものなのか、探ってみた。
個人投資家を対象としたファンドが続々登場

 日本経済がようやく復興の兆しが見える中、日本企業の株価は上昇基調。東証1部の1日の売買が、今年4月15日に28億6514万株と過去最高となるなど、株の売買高はバブル期並みに急上昇している。

 これはネットトレーディングの普及で個人投資家の余剰資金が集まっているからだというが、一攫千金を狙う輩もおそらく多いだろう。これまで株式市場を動かしてきたのは、金融機関や企業などをバックにした機関投資家か、外国人と総称されるアメリカやヨーロッパの投資家であった。

 しかし、いまの日本の株式市場の活況は、目覚めた日本の個人投資家が動かしている側面が強くなっているのだ。

 そうした投資ブームに乗ってか、これまで考えられなかったようなものを証券化して、1口いくらのファンドという金融商品で、投資家を募る動きが、各界から起こっている。「不動産ファンドあたりからの流れじゃないんでしょうかね。ここ2、3年、いろんなものを証券化する動きが出てきました。モノの権利を紙に書けばいいのですから、どんなものでも証券化しようと思えばできるのですよ。ただそれに、投資する人がいるかどうかは、別ですけど」と、証券界の広報機関、社団法人・証券広報センター。


 グラビアアイドルを証券化して売り出し、DVDや写真集の売り上げに応じて配当を出す「アイドルファンド」なる商品まで企画されている。もし、投資したアイドルに人気が出なければ、元本割れも当然ある。ゲーム制作費をファンドにして資金を集めた「ゲームファンド」というのもあった。

 そして、飲食業界もそうしたユニークファンドの台頭と無縁ではない。個人投資家を対象に、ワインに投資する「ワインファンド」、ラーメン・コンプレックスに投資する「ラーメンファンド」などが相次いで企画されているのだ。

 
 
投資が集まるのは
希少性の高い銘醸ワイン
フランス・ボルドーのワインに投資するファンド

 2001年春より「ワインファンド」を企画して売り出しているのは、ヴァンネット。

 毎年春に募集するファンドは1口300万円(初年度のみは100万円)。初年度より8000万円を調達し、次年度以降はコンスタントに2億円程度を集めている。


 また、少数の投資家が出資するプライベート・ファンドもあり、現在運用している5本のファンドの総額は、約7億4000万円である。

 ヴァンネットではファンドで調達した資金で、世界最高のワイン産地フランス・ボルドーの5大シャトー、5大シャトーに次ぐ権威のあるスーパーセカンド、供給量の少ないシンデレラワインなど約1200銘柄から約80銘柄に絞り、リスク軽減のために分散投資して、利益が出るように努めている。

自宅の地下で保管するのが
ヨーロッパ流
 実は、ワインファンドはヨーロッパでは古くから蓄財形態として知られ、フランス・ボルドーなどの有名産地の銘醸ワインには、株式と同じような“マーケット”が存在し、価格が常に変動している。こうしたファンドが普及する背景には、ヨーロッパでは日本のように酒類が免許制でなく、誰でも自由に売買できる点も大きく、一般家庭でも当たり年のワインを数ケース購入しておいて地下のカーヴに保管し、何年か保管したのちに、ヴァカンスの費用捻出のために換金したりといったような、ワインを一種の金融商品として考える習慣が根づいている。

 ワインファンドの基本は、ファンドで募った資金で銘醸ワインを瓶詰前の樽の中の若いうち(プリムールと呼ぶ)に買い付け、数年間熟成させるうちに、希少性が高まり、値段が上がった時点で売却して、利益を生み出すというものである。

 ワインは瓶詰されて出荷されるまでには、通常、樽で3年間ほど熟成させるが、同社の場合は、そのプリムールの樽に寝かせたワインに投資し、3年後から徐々に消費されていく4年間の期間を見て、7年後に利益を確定させることになっている。

 その7年の間にマーケットでのワイン価格は刻々と変化しており、ワインが値上がりする将来性を判断するには、その年のワインの出来だけでなく、シャトーの経営状態、ヨーロッパの景気動向などさまざまな要素がからんでくるので、一筋縄では判断できない。そこがワインファンドの面白さでもある。

 同社ではリスクヘッジのために、プリムールだけではなく、一部瓶詰めされた古いワインにも、投資している。  

 
 
自分で買い付けたワインは
格別の味
利益が出なくても、
銘醸ワイン現物支給の楽しみが


 ワインファンドの楽しみは、最悪、ファンドで利益が出なくても、投資家には現物支給で同社が投資していた本場フランスの銘醸ワインが、小売価格の約3分の1程度で手に入るしくみになっていることだ。

 ワイン好きにとって、損はしない、たまらない企画であろう。

 
 もちろん、ワイン価格が上昇した場合には、20%の成功報酬を差し引いた額が投資家に還元される。しかし、ここで為替レートが発生するので、日本円とユーロの間の為替動向によっては、大きく儲かることもあれば、逆に損をしていまうこともある。為替リスクは考慮すべきであろう。


 7年を待たずして解約し、利益を確定することもできるが、他人に転売することは規約によって禁じられている。

  ところでヴァンネットのスタッフたちは、どの程度のワイン通なのだろうか。

 同社を企画して立ち上げた専務の高橋淳さんは、宇都宮を代表する酒類卸・小売・輸入販売業者で、百貨店にも出店している越後屋の専務でもあり、5年間、フランスにワインと語学の研修のため留学していた。そして、留学先の経済誌でワイン投資ファンドという、日本では存在しないワインビジネスがあることを知ったという。


 帰国後にワイン仲間であった、現在の共同経営者の1人である税理士の松井由和氏に事業化できないか相談。松井氏の紹介で投資の世界に精通した著名な税理士、北田朝雪氏を交えて企画を練り、2000年7月に、日本初にして唯一の金融庁と農林水産省に許可されたワインファンド運営会社、ヴァンネットを立ち上げている。社長には北田氏が就任した。

 このように、ワインと投資に造詣の深いスタッフが運営しているので、信頼性は高いと言えるのではないだろうか。そもそも、同社のワイン投資自体が、生産量が決まっていて、消費されるごとに希少性が高まる銘醸ワインに投資しているので、値下がりする可能性が低い性質がある。

 ちなみに、過去の実績では、2000年物のファンドが01年5月運用開始で、2年9カ月を経過して、190%の利回りを計上。01物のファンドが02年5月運用開始で、1年9カ月を経過して、125%の利回りを達成している。これは買い付け時の平均レート換算による利回りで、為替レートによる換算を行っていない。

 00年物ファンドでは、配当も出すなど好調だ。

 高橋専務によれば「投資家は、純粋に投資目的の人から、ワイン愛好家までさまざまで、年齢層は30代後半から60代まで、比較的高年齢層が多い」そうだ。

 特に2003年のボージョレ・ヌーボーが過去最高に近い品質であったことから、03年に仕込んだプリムールを中心に投資する、今年のファンドには期待が集まるところ。5月14日まで、現在、募集中である。詳しくは同社ホームページ、http://www.vin-net.co.jp/ に載っている。

 
 
麺喰王国は昼過ぎが狙い時
ラーメン・コンプレックスに
投資するファンド


 一方、「ラーメンファンド」は渋谷・ちとせ会館2階に、昨年12月25日にオープンしたラーメン・コンプレックス「麺喰王国」の設立にあたって企画された。

 募集期間は昨年12月2日〜今年1月31日で、1口50万円で募集し、6000万円が集まったという。上限として設定した2億円には届かなかったが、たった2カ月の企画ファンドでこれだけの資金を集めれば上出来だろう。

 集まった6000万円ですべての資金を調達したのではなく、総事業費4億5000万円は銀行からの借り入れなども行っており、営業が始まってからは、入居店舗の売り上げに対する歩合からも施設の運転資金にあてられている。


 これは、トレンダーズ証券をパートナーとして、「麺喰王国」の運営会社である不動産業者イコールが、共同企画として売り出したもので、飲食店の立ち上げにファンドを活用する新しいやり方としても注目されている。

 投資家は30代から40代の男性が多く、「麺喰王国」広報のベクトルによれば、「ラーメンマニアの多い年齢層と重なることがファンドを組んだ理由の1つだった」という。「麺喰王国」には265坪の敷地内に全国8店の行列のできる店を集積しており、渋谷駅から5分程度の井ノ頭通り沿いと交通至便の繁華街にあって、期待も高かったのがファンドがウケた理由だろう。

 ファンドは個々の店に投資するのでなく、あくまで「麺喰王国」という施設全体に投資するものである。

 利回りは1店あたり1日400杯、つまり8店合わせて1日に3200杯が損益分岐点となる。401杯から500杯までは収支ゼロ、501杯から600杯までが5%、601杯からは100杯上がるごとに1%ずつが上乗せされる。つまり、全店合計で1日に4008杯以上が消費されないと、投資家は儲からない仕組みになっている。

 逆に、301杯から400杯までは−5%となり、それより下は100杯落ちるごとに−1%ずつ落ちていく。しかし、ゼロ以下になることはないし、いくらなんでも全施設で9杯未満はありえないから、−8%以下になることはないのである。その意味では良心的とも言える。

 この1日何杯というのは、ファンドの期限である今年12月までの1日の平均売り上げで決まるというから、投資家はドキドキの毎日だろう。
 
 
超行列店が
待たずにゆったり食べられる穴場


 「麺喰王国」は営業成績によって投資家の配当が決まるので、現状どうなっているかは知りたいところである。前出・ベクトルによれば、「400杯台で推移している」ということで、このまま行けばトントンといった具合である。

ずらりと並ぶ名店の看板
 投資家はデイリーでインターネット上でいま何杯か確認できるが、一般には公開していない。

 しかし、実情は400杯に届いていないとの声もチラホラと聞く。


 ラーメン評論家で人気サイト「東京のラーメン屋さん」、「Ramen bank」を主宰する大崎裕史さんは警告する。

 「このままでは400杯は難しいんじゃないですかね。目標が高すぎますし、昼の2時頃にでも行くとスカスカですから。行列ができている店も『竈(かまど)』くらいです。年末にオープンするタイミングが最悪ですし、メディアに露出していないので、ラーメンマニアはともかく、一般の人は『麺喰王国』の存在自体を知らないのではないでしょうか。せっかく、個々の店は頑張っているのに、かわいそうです。運営者は店の営業努力が足りないと、新作メニューを作らせたりしていますが、そんな問題じゃない。宣伝不足の一語につきます」。

 店のラインナップを見ると、新大久保から移転してきた「竈」本店、人気ラーメンコンサルタント・渡辺樹庵さんの「keiz」、実力派博多とんこつ「秀」、熊本から東京初進出の「黒ラーメン好来」、東京ラーメンの代表格「勝丸」、池袋・東武百貨店でも評判となった札幌のえびそば「縁(えにし)や」、ベトナムの高級ホテル「マジェスティックホテル」から一流シェフを招いた「ngon!」、倉敷の元祖ぶっかけうどんで東京初進出の「ふるいち」と、なかなかに素晴らしい。

 カフェのようなジャズの流れるモダンな空間で、ラーメンにうどんなどを融合させた新しいヌードルスタイルを発信する「ヌードルカフェ」なるコンセプトも、そう悪いものではない。ソフトクリームバーも、北海道の乳牛から絞った牛乳を使った本格的なものだ。

 モダンなカフェというデザインコンセプトは、いまやちょっと古い感もあるが、現状、集客力が最高レベルの超行列店が、東京都心の一等地でゆったりと待たずに食べられる、“渋谷の穴場中の穴場”と化している。

 巷のウワサが集まる、インターネット掲示板「2ちゃんねる」では、「(行く末が)心配になりました」、「今日も店員さんがひまそうにしてました」といった書き込みが相次いでいる。投資家を“凍死家”と揶揄したものもあった。

 筆者は「2ちゃんねる」で特にすいてるとされる、「keiz」と「ふるいち」に平日の夕方6時頃、入ったが、どちらもおいしく、どうして人気が出ないのか、不思議なほどだった。来店している顧客から「何でこんなにすいてるの?」と、驚きの声も聞こえてきたほどである。

 運営者はきちんと施設を宣伝して、自らの価値をアピールすべきだろう。そうでないと、12月の利回り確定時には、本当に懐寒い年末年始を迎える“凍死家”が出かねない。

 それとも、ラーメンコンプレックスも消費者にとってはもはや食傷気味で、ラーメンブームにかげりが出てきたのだろうか。

 いずれにしてもファンド企画者は、お金を集めるだけでなく、投資対象の商品の魅力をいかに見極め、高めていくかが重要だ。結局は商品力、アピール力が、その成否を決めるからである。
 
 
 
2004年4月25日 取材・執筆 長浜淳之介