2004.6.13  
 IT革命の第2波として、経済誌誌上を賑わせているICタグ(ICカードと合わせてRFIDとも呼ぶ)。その導入の経済波及効果は総務省の試算によれば、2010年に最大31兆円にもなると予想されている。爆発的な市場拡大への期待感が高まる中、飲食業界、食品流通でも、ICタグを実際に活用して、業務効率化、トレーサビリティなどに効果を上げる、先進的な事例が登場している。
実験店としてオープンした
池袋の「海幸の街(うみのまち)」
小泉首相が“感動した
”回転寿司自動精算システム


 東京・池袋の回転寿司店「海幸の街(うみのまち)」。この店の会計では、初めて来た人には不思議に映る光景を目にすることになる。

 ホール店員が、バーコードを読むようなハンディー・リーダーで、積み上げられたお皿を、横からスッーと近づける。すると、ネタによって120円、560円等々、全部で10数種類ある、複雑な価格体系によって色分けされたお皿を、何枚づつ食べたのか、直ちにチェック。四角い精算カードをハンディー・リーダーから取り出し、テーブルに置く。

 顧客は退店時、精算カードをレジ係に渡すと、レジ係はテーブル状のデータ読み取り機の上に置く。そうすると、POSレジに精算金額が即座に表示され、その金額に従って支払いを済ませればよい。

 このシステムは、回転寿司コンベア機のトップメーカー、日本クレセント(本社・石川県松任市)が開発した「皿勘定」を活用。実は「海幸の街」は同社直営による、回転寿司の最新システムと業態を提案する、ショールームを兼ねた実験店なのである。

 さて、この「皿勘定」は、ICタグの技術を応用したものだ。

 ICタグとは、ICチップにアンテナを取り付けたもので、半導体であるがゆえに情報を記録することができ、コンピュータシステムにつながったリーダーと無線・非接触で通信することができる。ICタグを日本語に直すと、“電子荷札”となる。

 つまり、お皿にはICタグが埋め込まれており、そのお皿が何円であるのか、情報が記録されている。ホール店員は、ハンディー・リーダーにより、お皿の値段情報を無線で読み取る。

 ハンディー・リーダーの精算カード内には、書き換え可能な別のICタグが内蔵されており、ハンディー・リーダーを通して、非接触で情報の同時読み取り、同時書き換えが可能なので、瞬時に会計が済まされたわけだ。

 そして、POSレジには、精算カード内ICタグの精算情報を瞬時に読む、もう1つのテーブル型リーダーが設置されている。

 同店には、小泉純一郎首相が視察にも訪れ、直後にすぐ隣にある東京芸術劇場で開催されたタウンミーティングで、ICタグシステムの斬新さを熱く賞賛したというエピソードもある。
 
 
瞬時に会計が出来る新システム
会計時間が10分の1に! 
すでに全国200店以上に納入


 回転寿司自動精算システム「皿勘定」は、2001年に発表。開発の動機は、数え間違いをゼロにする、レジによる打ち込みを不要にして瞬時に会計できる、一部の店であった不正を防止する、といった趣旨であった。

 「回転寿司は、昼の2時間と、夜の2時間半の時間帯に、いかに売るかが勝負。会計を早く、正確にすることで、1組でも多くのお客さんを入れられれば、それだけ売り上げ増になる」(日本クレセント東京支社・田尻さん)という発想で、徳野信雄社長自らが陣頭指揮を取ったという。

 とは言え、ICタグは電波を使う性質上、水分に弱く、水分の塊であるシャリがお皿に残っていた場合には読み取れないとか、ICタグに使われる幾つかの周波数帯のうちには、電波が干渉しあってお皿1つ1つを識別できず、値段を一括して読み取れないところもあり、開発には困難を極めた。

 実験を繰り返した結果、水分の問題は、お皿の縁の方までコイル状に電極を巻くことで解決。周波数帯は低周波125kHzを採用した。

 特に、お皿にコイル状に電極を巻くノウハウは特許を取得しており、ハンディ・リーダーをお皿の横からかざすだけで読めるのも、近くに電極がある、この技術があるからだ。

 他社の自動精算システムでは、お皿の上から、4〜5枚重ねてしか読めないことがあるが、同社の特許で電極をお皿に巻けないので、遮蔽物があっても無線で読み取れる範囲の枚数でしか、一括で認識できないためだ。10数枚のお皿がある時は、4〜5枚ずつ何回かに分けて読むことになる。もちろん、シャリがお皿に残っていれば、情報が読めないし、効率的なシステムとは言いがたい。「皿勘定」システムは、すでに全国200店以上で稼働しており、均一料金でない回転寿司店では、精算にかかる時間が10分の1に短縮されたと喜ばれている。お酒や一品料理などの場合は、料金を勘定するためのお皿を一緒に持ってきて、寿司のお皿と同じく重ねてもらえればよい。

 ただし、お皿のコストは1枚約1200円と高く、電子レンジに入れるとICタグが壊れてしまう。ウナギ、アナゴのようなネタは、一般のお皿に乗せて温めないといけないので、注意を要する。

 同社はほかにも、座敷でタッチパネルで注文できるシステムを開発するなど、業務を効率化するITシステムを次々と考案。多様化する回転寿司ニーズに対応し、オーナーと協力し合って、地域一番店をつくる意気込みで、繁盛店づくりの支援に取り組んでいる。
 
 
いち早くトレーサビリティの現状を取り上げた『図解 食品トレーサビリティのすべて』
「ミューチップ」を活用した
食品トレーサビリティが稼働


 回転寿司の自動精算システムに次いで、「食」の分野で期待が大きい、ICタグのソリューションは、食品トレーサビリティの分野である。

 トレーサビリティとはトレース(追跡)とアビリティ(可能性)の合成語で、BSE問題、輸入食品の無許可農薬・薬品使用問題、産地偽装問題など、「食」の安全性がかつてないほど疑問視されている現状において、誰が、どのような方法で食品をつくって、どういった経路で流しているのか。ガラス張りにして、消費者から生産者・製造者の“顔が見える”安心できる状況をつくり出すために、官民あげて取り組みが進んでいる。


「ミューチップ」を
リーダーで読んでいる
 なお、その詳細については、昨年8月に刊行された『図解 食品トレーサビリティのすべて』(フードリンクニュース編著/発行・日本能率協会マネジメントセンター)が、参考になるだろう。

 日本農業IT化協会(本社・東京都千代田区)では、2003年1月より、独立行政法人・農業技術研究機構と、日立製作所の0.4ミリ角という、世界最小サイズの読み取り専用ICチップ「ミューチップ」を活用したICタグを使った、食品トレーサビリティシステム構築に取り組んでいる。

 これは00年に農事組合法人・米沢郷牧場が組み上げたWebベースのシステムがもとになっており、01年には携帯電話を端末にして使えるように改良。同協会設立後の03年11月より、誰もが、いつでも、どこでも栽培履歴を携帯電話で確認できる、「AFAMA(農産物生産記録システム)」というシステムを、取引先の流通などとの間で実用化を始めている。品目は、当初、青果物と米からスタートした。


箱に1枚ずつICタグが
付けられている
 同協会は、循環型・環境保全型農業を実践する米沢郷牧場、伊藤幸吉代表の呼びかけで、産直5団体が結集。米沢郷牧場はBSE感染牛を出したわけではないが、食品の安全は生産現場にしかないことと、安心は消費者の心理にしかないことを学んだのが、「AFAMA」現実化を後押しする切っ掛けだったという。

 携帯電話を使うのは、アウトドアで農作業の合間に、作物、農地、天候、肥料、農薬の種類・使用量といった栽培履歴を指1本で入力できるから。農家の人たちにコンピュータを操作する感覚を持たせないように、インターフェイスも文字を極力打たない選択式が中心になっている。また、音声入力の検証も終えている。

 個々の商品は生産者が出荷する時点で、ロットごと(たとえば1箱に1個)のICタグを付ける。「ミューチップ」は、非接触で読み取りが可能で、128ビットの固有のID識別番号が書き込まれている。

 これを活用し、流通を経るごとに、リーダーでIDを読ませ、履歴情報と関連データが随時、更新されていくことになる。そうして、店頭、消費者までの一気通貫を目指した。

 ID情報を小分け・集合する技術も開発。たとえば、原料から製品になる過程(野菜から冷凍野菜を製造するなど)で、変化するロットごとにICタグを貼り、システムと連携させることで、ロット変化前と後の生産・流通履歴データの継承を行う。さらには、どのロットから、別のどのロットに分割・統合されたか、すべてをとらえることができるという。

 ICタグは小売段階で再利用を目的に回収する場合もあるが、その際は店頭の商品には、特殊な光学コードを印刷した紙のラベルを貼り、消費者がカメラ付き携帯電話で、光学コードを撮影して読み込むと、栽培履歴や流通履歴が携帯電話に表示されるといったシステムも組める。「AFAMA」は今年中に、2000人の生産者が参加する体制となる予定。

AFAMAシステム全容
 
 
実用より実験? 
T−Engineフォーラム実証実験


 同じく、日立製作所の「ミューチップ」を活用したICタグを使った食品トレーサビリティでは、携帯電話などに組み込まれたオペレーション・システム「トロン」開発者で知られる、坂村健・東京大学教授が代表務める、T−Engineフォーラムが、昨年から今年にかけて、農林水産省の支援により、実証実験を行っている。

  ITシステムは、坂村教授が所長である、横須賀テレコムリサーチパーク・ユビキタスネットワーキング研究所が担当。生産と流通は、よこすか葉山農協が担当し、長井地区8農家と同農協長井支店集荷場が参加。販売は京急ストアが担当し、平和島、能見台、久里浜各店で実施した。

 実証実験期間は、昨年9月〜今年2月。生産から販売までを通して行ったのは、今年1月8日〜2月6日。

 実施品目は、三浦半島の名産品である、キャベツと大根。

 生産履歴などはPDAサイズの独自開発した、ユビキタスコミュニケータなる端末で、アウトドアからでも入力。ICタグに生産履歴などをコード化した、独自の「uコード」というIDを読み込んで、箱(キャベツは8個入り、大根は6本入り)に貼って出荷。店頭では、キャベツや大根の1つ1つを、ビニールの袋に入れて、そのビニールの袋にICタグを付けた。これはICタグは水分に弱く、野菜に直接付けるとリーダーで情報を読めないための措置である。

 もちろん、出荷時の箱の生産・流通履歴情報と、キャベツ1個、大根1本の生産・流通履歴情報は、システムによってサーバで一元管理され、ひも付けされている。

 また、店頭ではキャベツや大根をリーダーの付いたモニターに近づけると、ICタグの情報を読んで、生産・流通履歴が表示される。あるいは、消費者モニターにリーダーの付いたユビキタスコミュニケータを貸し出して、自宅などで生産・流通履歴を見られるようにした。

 このように、こちらは実用を目指すというより、ユビキタスコミュニケータや、現在のJANコードなどあらゆるコードを統括的に管理する目的で考案された、「uコード」という新コード体系の実験といった感が強い。

 ちなみに、坂村教授はユビキタスIDセンターという、標準ICタグを認定する機関も運営しており、「ミューチップ」はその認定タグ第1号でもある。
 
 
配送段階の情報の受け渡しに着目したシステムも

 さらに、横浜中央卸売市場本場の横浜丸中青果では、日本の卸売業者として初めて食品トレーサビリティに取り組み、2001年に「青果物EDI協議会」を設立。JA、農業資材、市場、物流、加工メーカー、ITシステム、小売と、食品流通の川上、川中、川下のメンバー44社を集めて、毎年、農林水産省の実証実験に参加している。

 きっかけは、00年に中国野菜の急増と好天による供給過多で野菜の価格が暴落したことで、青果市場も選別される時代を履歴開示という付加価値により、勝ち残りを図ろうと考えた。


青果物1個1個にICタグが付く日が来る?
 生産から中間流通までは、カード状のICタグを発行し、店頭はバーコードと使い分けを行っている。シイタケ、小松菜、水菜、クレソンといった4品目については、すでに通年化しており、東急ストアのあざみ野店など4店で販売している。

 消費者は店頭にある表示システムに、青果物に付いているバーコードを読ませることで、画面で生産・流通履歴が確認できる。また、家庭では店舗のバックヤードシステムに接続し、バーコードナンバーを入力すれば、同様のことができる。

 最新の実証実験は、今年、2月〜3月にかけて、前年に引き続いての選果場におけるトレーサビリティ開発・実験で、前年が個選共販を対象にしたのに対し、今年は共選共販を対象とした。

 鹿児島県のさつま農協を舞台に、トマト農家30人が参加した。市場は鹿児島中央青果、小売は鹿児島市の山形屋ショッピングプラザ皇徳寺店が参加した。

 最初の生産者の生産履歴は、機械が苦手な多くの生産者が対応できるように、フォーマットを決めて手書きで紙に記帳してもらい、OCRでスキャンしてデータベースに保管。

 ロットは当日に選果機に投入した生産者群を1ロットとし、午前・午後・夕方の3つの時間帯に細分化した。何か、問題が生じた場合は、個人を特定しなくても、誰と誰が投入したのかがわかっていれば、まとめて廃棄すればいいといった、考え方である。

 そして、ロットごとの生産履歴情報と選果履歴情報は、サーバで一元管理され、市場に配送する運転手がICタグを持参して、リーダーで情報を読み込む。市場に着くと運転手がICタグの情報をリーダーで流通履歴管理システムに移し、ICタグは持ち帰る。

 この場合のICタグは繰り返し使用するので、何度でも書き換え可能なものを使う。

 市場から小売に出荷するときは、各店向けに小分けされた商品情報を付加して、運転手がICタグにリーダーで情報を読み込む。その運転手は小売に向かい、入荷時にリーダーで流通履歴管理システムに移して情報をリレーし、やはりICタグは持ち帰る。

 そして、小売である山形屋は、商品をさらに小分けして、バーコードを貼り、店頭の表示システムで消費者が履歴の確認をできるようにしたのである。
 
 
1つ1つの商品に固有のIDは本当に必要なのか

 「青果物EDI協議会」の実証実験では、前回、新しく加工食品にもチャレンジ。カット野菜と漬物の工場での工程管理を含んだ、トレーサビリティにも取り組んだ。実験拠点はカット野菜がベジテックと東急ストア、漬物が馬場食品。

 カット野菜では、加工された原料が1日で消費されるので、1日を1ロットと考え、異なった原料が混ぜ合わさって商品となる変化の前後を、端末に入力して、システムでひも付けする作業を行っている。また、温度センサーを設置して、温度管理を行った。

 漬物は、商品によって加工工程が異なることから、商品ごとのロットを設定。しかも、漬け込み、漬け直しといった何段階かの工程を経るので、その工程ごとにナベトロ(大きな漬ける容器)単位でロット管理し、管理番号が載った水に強いプラスチックペーパーのラベルを貼って、ひも付けしていった。

 いずれも、商品完成後の配送の段階で、ロットごとにICタグに履歴情報を入れて出荷する方式は、青果物の場合と同じである。

 こうしてみると、食品トレーサビリティの場合、三者三様のやり方があり、ICタグの使い方にはまだまだ、研究の余地があることが見て取れる。

 T−Engineフォーラムのように、本当に1つ1つの商品に固有のIDを持たせる意義があるのか、現実的なのかというのが、青果物EDI協議会の問いでもある。青果物EDI協議会では、ICタグは配送情報をリレーすることに絞られている。これは、川上から川下までIDを通す集中方式では、中間流通で小分け・集合されるので、かえって混乱をまねくので、各流通段階でいったん回収して新たにICタグを発行する分散方式に変更したのである。

 分散方式にすることで、たとえば仲卸から小売に配送する際には、1枚のICタグを運転手が持って各店を回ればいいことになり、情報リレーが簡素化されるメリットも出た。ただし、情報が重くなると、読み込み、書き換えに時間がかかり過ぎる問題点もある。

 一方、日本農業IT化協会は集中方式でありながら、うまくシステムを動かしているようにも見える。有機栽培のようなこだわった商品を、小売に直販するビジネスモデルとして、よく練られているが、中央卸売市場のような大規模流通に向くのかどうかは検証される必要があるだろう。

 キャベツや大根をビニールの袋に入れるT−Engineフォーラム方式は、野菜のみずみずしさを表現できず、安心は伝えられても、おいしさは伝えられない面がある。しかも、ビニールの袋が野菜に密着した場合、水分の関係で、ICタグ情報が読めないといったエラーも続出したようである。

 したがって、店頭では、バーコードなどに貼り替える、日本農業IT化協会や青果物EDI協議会の方法のほうが、現実的ですぐれている。何も、すべてにICタグを貼らなくても、状況に応じて、バーコードと併存させて、使い分ければいいのである。
 
 
ウォルマート、
「愛知万博」が起爆剤となるか?


 このように、問題を抱えつつも、実用化へと踏み出しているICタグ活用であるが、現在のところ、1個が100円ほどする高価なものであるため、日常的な食品に付けるには、コスト的に合わないところがある。

 商品であるキャベツや大根より、ICタグのほうが高いのでは話にならない。1個が1円を切らなければ、実用化は難しいだろう。


期待感高まるICタグ
 だから、小売段階で回収してリユーズしようといった動きもあるが、その手間とコストは誰が負担するのかという問題がある。そもそも、生産者をはじめ流通各段階で情報を入力しないといけないので、その手間とコストもある。

 システムを納入すれば、明らかにコストダウンする理由がなければ、誰もシステムを採用しないだろう。バーコードで十分という論議になるからだ。

 しかし、世界最大の小売業者、アメリカのウォルマートでは、来年初頭より納入業者にICタグを付けて商品を納入するように指示を出しており、ドイツのメトロ、イギリスのテスコ、フランスのカルフールなどの大手小売業も追随する動きがある。これは、欧米では配送、倉庫といった物流の過程で、盗難、紛失が思ったよりも多く、ロットの取り方によっては、ICタグを付けたほうがコストに見合うからだと言われている。

 メーカーでも、コーラのペプシなどが熱意を持って取り組んでいるようだ。

 日本でも、来年3月25日〜9月25日、名古屋近郊で開催される「2005年日本国際博覧会」(「愛知万博」、「愛・地球博」に「ミューチップ」をはさんだ入場券を採用し、パビリオン・催事予約、会場での懸賞・抽選サービス、来場者への混雑情報などのメールサービス、ビューポイントで入場券をかざすだけで写真を撮影して携帯電話にメール送信するe−photoサービスなど、いろいろな場面で活用されようとしている。また、主催者の日本国際博覧会協会のほかにも、各パビリオンやレストラン、物販店でどう活用するか、企画が練られている模様だ。
 
 
さまざまなICタグ(右下に
「愛知万博」の入場券が見える)
標準化の基準をどう決めるのか、
課題は山積


 また、新設の規模の大きな工場などでは、ランチタイムの社員食堂の大行列を避けるために、お皿1枚1枚にICタグを埋め込んで、お盆にお皿を乗せていって、レジの前の台に置くと、台がリーダーになっていて、即座に金額が表示され、レジの打ち込み不要で精算できるシステムを入れるところもある。また、お皿にカロリー情報も乗せて、レジでは総カロリーをも表示できるシステムもある。

 こうした動きが本格化してくると、ICタグの価格も徐々に下がってくるだろう。

 しかし、普及のためにはICタグやリーダーの品質と互換性をどう持たせるか、標準化の問題が生じてくる。これには、前述したユビキタスIDセンターのほか、ISO(国際標準化機構)、アメリカを本拠とするバーコード団体を背景とするEPCグローバルといった団体が取り組んでいる。

 これらが補完関係にあるのか、対立軸になるのかは不明だが、混乱のない状態で進めてもらいたい。

 ICタグには、水に比較的強いか、電波が隠れたところに回り込みやすいか、ノイズの影響を受けやすいか、通信可能距離の長さといった要素で、いくつかの周波数の使い分けがある。日本では13.56MHzと2.45GHzが主流であるが、欧米ではその中間にあるUHF帯が主流。

 UHF帯使用は日本では携帯電話の周波数が割り当てられているので、今のところ許可されていない。このUHF帯をどのように開放していくかも課題だろう。

 セキュリティ関係では、プライバシー保護をどうするかが欧米では盛んに論議されている。しかし、顧客が自分の情報を入力するシステムは「食」に関する分野では、皆無に等しく、そう神経質になるほどでもないように思われるが、レストラン予約などに活用する場合は個人情報保護に注力すべきことは、言うまでもない。

 ICタグ大爆発となるかどうか。すでに前哨戦は始まっているが、これから来年にかけての動きには、注目していいのではないだろうか。
 
 
 
2004年6月13日 取材・執筆 長浜淳之介