2005.6.19
『とりあえず、ビール!』を駆逐せよ!スパークリングワイン快進撃!

 気象庁発表向こう3ヶ月の予報では、東北地方を除いて全国的に気温は平年並みかやや高め。昨年のような猛暑になるのだろうか?暑い夏は地球環境的にはよろしくないが、キリリと爽快感のあるスパークリングワインを取り巻く環境においては願ってもない現象だ。多くの日本人が愛するビールは確かに喉越し爽快にして多様なおつまみにも対応できる万能選手だが、その万能さゆえ、ついついワンパターンかつ保守的になりがちである。
 スパークリングワインとはその名のとおりワインがスパークルしているものだ。従ってワイン同様、様々な料理との組み合わせを見つける楽しみがあるということ。近年需要が増え続けているスパークリングワインをこの夏、食前酒としてはもちろん、食中酒として活用することを提案したい。

アペリティフの日
ワイン生産主要国 スパークリングワイン輸出も概ね好調
2003 2004 前年比(%)
フランス 6,129.498 7,219,683 +17
イタリア 3,867,736 4,383,255 +13
スペイン 1,906,076 2,748,945 +44
アメリカ 807,704 910,829 +12
ドイツ 724,369 649,103 -10
オーストラリア 312,443 387,774 +24

表1(単位L)

 まずは対日本のフランス、イタリア、スペイン、アメリカ合衆国、ドイツ、オーストラリアの2003-2004のスパークリングワインの輸入伸び率を記してみた(表1)。この中で特に目をひくのがスペインのスパークリングワイン「CAVA」。

 このことについては3月27日更新のフードリンクニュースに既に書いてあるので参考にしていただきたい。その他の国も昨年の猛暑の影響からか概ね売上を伸ばしている。
 残念なのはドイツ。
 この国のスパークリングワインを総称してSEKT(ゼクト)というが、そのSEKTの売上が落ち着かない。2004年度は前年比マイナス10%だが、実は毎年500.000~700.000Lを行ったりきたりしているのである。
 その理由として考えられるのは、例えば、フランスのシャンパーニュはシャンパーニュ地方、イタリアのフランチャコルタ(白、ロゼの発泡酒についてDOCG)はロンバルディア地方、スペインのカヴァはぺネデスなど、造られている地域は限定されていて、それぞれに協同組合が存在するのに対し、ドイツのSEKTはドイツ全域で造られており、しかも統括するべく組合がライン・ヘッセンに1つしかない。
 ドイツワイン普及の指揮をとるのは「ドイツワイン基金」だが、そちらとしてもSEKTを売るより先にスティルワインを売るほうが先決なのだろう、「SEKT」だけのプロモーション活動は行っていない。ドイツにはリースリングというすばらしい白ぶどうがあり、その立ち上るフレッシュなハーブの香りと豊かな酸味を活かしたスパークリングは正にドイツでしか造れない。キリリと冷やせば高温多湿な日本の気候にもピッタリだ。これからの季節、鮎の塩焼きやゴーヤを使った料理など少し苦味を感じる食材と合わせてみるのもおもしろいだろう。2005年は「日本に於けるドイツ年」だけにもう少しがんばってほしいところである。

表2(シャンパーニュ委員会(C.I.V.C)提供)

 一方で、表1では見えていない明らかな勝ち組みが存在する。「King of SparkringWine」とも言うべきシャンパーニュである。表1はあくまでスパークリングワイン全体の数字であり、フランスのそこにはヴァン・ムスーやクレマンも含まれる。表2はそれらを除いたシャンパーニュだけの輸出量の変遷である。
 2000年からの4年間で実に86.5%と脅威の伸び率だ。輸出国別では日本はイギリス、アメリカ、ドイツ、ベルギー、イタリアに次ぐ6位(昨年まで上位につけていたスイスを抜いた)。ではなぜ他のスパークリングワインに比べて高価なイメージのシャンパーニュがここにきて注目されるようになったのだろう、その背景は主に3つあると思う。

 1つは「シャンパーニュ委員会(C.I.V.C)」の存在。世界一のワイン王国フランスには、ボルドーワイン委員会、ボージョレ−ワイン委員会など、その地方ごとの組織があるが、そのほとんどがSOPEXA(フランス食品振興会)にプロモーション活動をゆだねているのに対し、シャンパーニュ委員会は日本事務局を設け、その伝統や格式を崩すことなく独自にプロモーションを展開していること。

 次に、外資系高級ホテルが相次いでオープンし、それらが IT企業などのパーティに利用されていること。乾杯には政治家は「水割り」だが彼らは「シャンパーニュ」を好む。来月には汐留に「コンラッド東京」が、来年早々には日本橋に「マンダリン・オリエンタル東京」がオープン予定、これらホテルの宴会事業もしばらく拡大を続けるだろう。

 そして「女性へのアプローチの上手さ」。イギリスでは「ブリジッド・ジョーンズの日記」が大ヒットした結果、30代(以上)独身女性、つまりお金と時間に少々の余裕ある女性にスポットが当たるようになり、そして彼女らが好んでシャンパーニュを飲んでいるという図を作り上げた。
 日本に於いても高級女性誌にのみ広告を掲載し、いわゆる「負け犬様」に積極的にアピールしたことが功を奏しているようだ。この4月に公開された、観客がほとんど女性の映画「Shall we dance?」でも「シカゴ テタンジェ競技会」なるシャンパーニュ(テタンジェ)が冠の社交ダンスコンテストを開催するなど巧みな演出がなされていた。

 いずれにせよ高級感を漂わせながら、しかしハレの日だけに飲まれるものではなくなってきているのは景気が少しずつ戻ってきている証であろうか。バブルはグラスの中に留めておきたいものである。

銀座にシャンパーニュだけのバー

 今年2月28日、その勝ち組、シャンパーニュだけのお店「サロン・ド・シャンパーニュ・ヴィオニス」をオープンさせたのは、2002年度全日本最優秀ソムリエの阿部誠氏である。
 先日6月9日に行われたシャンパーニュ騎士団の叙任式が日本で初めて行われ(通常はシャンパーニュ地方のランスで行われるが、ランス以外で行われるのは今回がはじめてのケースである)今回阿部氏も叙任された。

 銀座にあるその店内に入るとまず巨大なセラーが目に飛び込んでくる。聞けばセラーは特注で、中には450本のシャンパーニュが収まっているという。ここにはなんと200種類のシャンパーニュ、デザートワインはラタフィア・ド・シャンパーニュ(甘口のスティルワイン)が2種、マールもシャンパーニュのもののみと、徹底的にシャンパーニュにこだわったお店なのである。
 だから外国産のスパークリングワインはもちろん、クレマンやヴァン・ムスーも置かない。それでもどうしても赤や白のスティルワインが飲みたいお客様もいるので50種類ほどのフランス産ワインは用意している。

阿部誠

今年のシャンパーニュ騎士団叙任式に於いて、
ランソン社より叙任されたオーナーソムリエ 阿部誠氏

Vionys

200種類のシャンパーニュが並ぶセラーは圧巻

週刊女性

「ゴールデンポークのコンフィ甘酸っぱいソース」(¥1890)とロゼのグラスシャンパーニュ(¥1300)のマリアージュ。付け合せの野菜はジャガイモ、たけのこ、スナップえんどうのロースト。

 客層は阿部氏のファンや無類のシャンパーニュ好きはもちろんのこと、ワインにはあまり詳しくない人まで様々であるが、大半は食中にもシャンパーニュだけで通すという。
 「シャンパーニュは食事に合うのか?」ふとこんな疑問がよぎるが阿部氏曰く「ただ世間にはまだ知られていないだけ、基本的なマリアージュ(相性)はある。」そうだ。

その基本的なマリアージュとは、
・ムース
・野菜
・シャンパーニュを使ったソース

 どちらかというと軽やかで淡白なものと相性がいいようで、肉も仔牛、豚、鶏なら(調理法にもよるが)合うという。逆に羊、鴨、牛には合わない、と教えてくれた。
ここ「ヴィオニス」の料理は恵比寿のフレンチ「イレ−ヌ」の島田シェフがプロデュースしており、シャンパーニュとのマリアージュを考慮したものばかりがメニューに並ぶ。

 実際に「ゴールデンポークのコンフィ 甘酸っぱいソース」とロゼのグラスシャンパーニュ(Charlier et Fils Prestige Rose)を合わせてみた。もともと肉質ががっしりとしていて噛み応えがあり、そして噛めば噛むほど肉の脂の旨みが口に溶け出してくるのだがそれを繊細な泡でうまく相殺し、なおかつ甘酸っぱいソース(赤ワインヴィネガーのソース)とフランボワーズを髣髴とさせるロゼの持つ酸味のハーモニーがすばらしかった。

 メインの前にもう少し気軽にマリアージュを楽しみたいならば「デギュスタージュ」を頼んでみたらどうだろうか。デギュスタージュとは「デギュスタシオン(味見)」と「マリアージュ」の掛けあわせで阿部氏が作った造語だ。3種類のグラスシャンパーニュとそれぞれに合う3種類のオードブルとで構成されている人気のメニューである(¥3780税込)。その日開いたグラスシャンパーニュによってそれに合うオードブルを選んでくれるのでいつ頼んでも新鮮な発見が出来るのも魅力だ。

 平日の営業時間は18:00~26:00までなので、食事の前のアペリティフに使ってもよいし、食後のデザートワインを楽しむだけでもいい。また、女性のソムリエがいるので、女性が一人でふらりと立ち寄っても居心地のよい空間になっている。
 シャンパーニュの日本での消費が著しくなるにつけ、大きなメゾンだけでなく中規模、小規模のメゾンが続々と、恐らく、我々消費者がとても認識できるものではない数のシャンパーニュが日本に入ってくるようになった。小さなメゾンの良質なシャンパーニュを教えてもらえる、そんな情報発信の場でもあってほしいと思う。

>>「Salon de Champagne Vionys」
東京都中央区銀座8-8-18 銀座8818ビル3F
03-5537-0700

中田効果あるか?イタリアの赤い泡

 さて、スパークリングワインと一口に言ってもいろいろとあるわけで、ぶどうの品種、製法などで見た目や味わい、もちろん価格もまちまちである。
 生ハムやパルメザンチーズで有名なイタリア、エミリア・ロマーニャ州に「ランブルスコ」という黒ぶどうで作ったスパークリングワインがある。昨年まで中田英寿選手が活躍していた「パルマ」がある州である。そしてパルマ在籍当時中田選手に「旨い」と言わしめたのがCeci社のランブルスコであり、このたび中田選手自らが携ったエチケット(ラベル)に一新、ネーミングも「Bacio(kissの意)」としてnakata.netで販売を始めた。

nakata.net

nakata.netでは、現在品切れ中

中田選手自らが携ったエチケット、ネーミングも「Bacio(kissの意)」も一新。

 この際、エチケットのデザイン、ネーミングのことには触れまい。肝心の中身であるが、なるほど、これまで日本に輸入されていたランブルスコの大半は、乱暴な表現をするならファンタグレープにアルコールを加えた感じの甘口だったのに対し、このランブルスコは辛口でなおかつ20日ほどの醸し(*1)をかけているので、色は重厚なもののイチゴやラズベリーのフレッシュな香りと適度な発泡(*2)が軽やかさを出している。
 通常スパークリングワインの適温は8℃前後といわれているが、12〜14℃まで温度を上げて、軽い赤感覚で食事とのマリアージュも幅広く対応できる。
 生ハムはもちろんゴルゴンゾーラのピザや、鳥のから揚げやトンカツなどの白身肉の揚げ物は、その泡で油を洗い流してくれるので、むしろ重厚な白ワインより好相性だ。

 だが、やはり問題になってくるのがその価格、である。¥2927。今まで多数のランブルスコをイタリアでも日本でも飲んできたが、こんなに高いランブルスコは初めてである。これでは、平行もののNVのシャンパーニュが買えてしまうではないか。少なくとも日本にもこの「Bacio」と同品質かつ製法もさして違いはないランブルスコは輸入されているし価格は¥2000前後、なはずである。

 5月1日からは一般発売もされているので、まずは「Bacio」で地固めをして、そこから間口が広がってほしい、食中酒としても使える注目のスパークリングワインである。

*1 Maceration 発酵が始まって3〜4日すると果皮からアントシアニン(赤い色素)、 種子から渋味の主成分であるタンニンが出てくる過程のこと。
*2 一般にスパークリングワインとは3気圧以上のガス圧を持ったワインを指すがこのランブルスコは2.5気圧しかない イタリアではFrizzante(フリッツァンテ)といわれる微発泡酒。


高品質な日本のスパークリングワイン

 フランスのシャンパーニュ、イタリアのランブルスコに続いて、まだまだ世界にはたくさんのスパークリングがあるが、この辺でやはり日本のスパークリングワインもご紹介しておかなければいけないだろう。
 ただし、日本ではスパークリングを造っているワイナリーが少なく、なおかつ、そのあまりにも少ない生産量から市場に出回ることがほとんどないため、ここは日本産スパークリングワインの存在とそれを造る人の背景を追うのみとした。なぜなら彼らはただ情熱と探究心だけで造っているだけで、スパークリングワインだけでビジネスを考えているわけではないからだ。もちろん、その他のスティルワインである程度のバランスはとらなくてはいけないが。

 栃木県足利市 知的障害者厚生施設「こころみ学園」。
ここの生徒たちこそが2000年沖縄サミットでの乾杯の際に供されたスパークリングワイン‘のぼ’96ドゥミセック’のワインメーカーなのである。そしてその指揮をとるのがアメリカ人、ブルース・ガットラヴ氏である。
 1961年NYに生まれたブルースは地元の大学で植物生理学を学んだ後、西海岸に渡りカリフォルニア大学デイヴィス校で醸造学を学ぶ。その後ワインコンサルティングとしてナパやソノマで活躍していた彼を「こころみ学園」園長の川田昇氏が招聘したのは‘89のこと。以来16年、ブルースは栃木のワイナリー「ココファーム」になくてはならない存在となった。

ブルース・ガットラヴ

ブルース・ガットラヴ氏
ロシア系の父とイタリア系の母の間にNYで生まれ、西海岸を経由して、

現在は栃木の人である

ココ・ファーム・ワイナリー

これらの道具を使い、ほとんどを手作業でこなす

NOVO

「陽はのぼる 美しき泡、たちのぼる」の意をこめた名前、のぼ(NOVO)。
(写真は2001ヴィンテージ)

 ココファームのスパークリングワイン「NOVO」はリースリングリオン(リースリング×甲州三尺)というサントリーが交配した品種100%で造られている。この品種はスパークリングにはかかせない酸が際立つのが特徴で、特に土壌が浅く水はけがよい、このワイナリーの目の前の畑にはピッタリだそうだ。
 だが最初からこのリースリングリオンで「NOVO」を造っていたわけではない。そもそもスパークリングワインを造るきっかけは、来日したばかりのブルースが、そこに植えられていた「甲州種」に手を焼いていたことから始まる。それを見かねた専務の池上氏が「そんなに困ってるんだったら泡(スパークリングワイン)にでもしてみる?」のひと言で、1992年、甲州100%の「NOVO」が誕生したのである。
 以来試行錯誤を繰り返し、結局甲州種ではブルースの望む酸がきれいに出ないしフェノール(えぐみ)がでてしまうなどの理由から現在のリースリングリオン100%に落ち着いた。もちろんこの間甲州種とリースリングリオンのブレンドも造られていたが。

 醸造方法は瓶内2次発酵(シャンパーニュ方式)。こころみ学園の生徒たちが手摘みで収穫したぶどうを除硬・破砕しないで搾りティラージュ(*1)は約3年、そこからルミュアージュ(*2)、デゴルジュマン(*3)、ドサージュ(*4)、ブーシャージュ(*5)に至るまでほとんどが手作業になるため、どうがんばっても年間2000本しか造れない。同作業を(ルミュアージュ以外)シャンパーニュの大きなメゾンでは2000本なら(全自動で)1時間で完了するそうだ。

 「NOVO」のプレステージ的位置付けで「GRAND NOVO」があるが、こちらはココファームがカリフォルニアに持つ畑からできるシャルドネとピノ・ノワールからなり、ティラージュは約9年、生産は約700本、それもよいぶどうが収穫できた年だけという希少なものだ。
 現在1999年のものまでがティラージュされており、どうやらこれがカリフォルニア産ぶどうからできる最後のヴィンテージとなりそうだ。というのもブルースのたっての願いは「100%国産のぶどうでワインを造る」ことだからだ。また試行錯誤を重ね「国産ぶどうを使ったGRAND NOVO」が完成するのをゆっくりと待ってみようと思う。

 味わいは「NOVO」は色が黄金色で繊細な泡、軽いトースト、グレープフルーツの爽やかな酸味と熟した林檎の甘さを併せ持つ。シェ−ブル(山羊)のチーズや炒めた野菜などに相性がよさそうである。「GRAND NOVO」はオレンジ、薄いサーモンピンク色でやはり繊細な泡、こちらはしっかり焼いたトースト香、完熟した桃、へーゼルナッツなどの木の実、まったりとしたオイル感が口の中にまとわりつくのも印象的だ。脂の乗ったトロや甘エビの刺身などにもよいが単体でじっくりと味わうのもよい。

 「NOVO」「GRAND NOVO」はココファームのホームページで購入できるが(「NOVO」は¥6500、「GRAND NOVO」は¥9500)このワイナリーとブルースへの理解者、そしてワインラヴァ−たちによりあっという間に完売してしまう。

「なにもモエ・エ・シャンドンの規模にしようとは思わないけど、このままでは販売担当者に迷惑がかかりっぱなしだからせめてあと倍くらいの規模にはしたいなあ」と小さく囁くブルースの笑顔はビジネスマンではなく、ファーマーであった。

1 le Tirage 瓶内2次発酵
2 le Remuage(動瓶) 木の棚に瓶を頭から差し1/8ずつ回転させる
3 le Degorgement(口抜き) 氷点下25℃くらいの塩化カルシウム水溶液に瓶の口の部分をつけて凍らせ、溜まっている澱を除く。
4 le Dosage(リキュール混合) リキュール・デクスペディシオン添加
5 Bouchage(栓打ち) コルクで栓をする

>>ココ・ファーム・ワイナリー
栃木県足利市田島町611
0284-42-1194

「アペリティフの日」とイタリア式「HAPPY HOUR」の活用術

最後にスパークリングワインをより身近な飲み物にするにはどうしたらよいだろうか。
日本人が「とりあえずビール」と店に入るなり発する合言葉。サーバーから注がれるそれはキンキンに冷えていて仕事終わりの乾いたのどを潤し、炭酸が適度に胃を刺激して食への誘いとなる。それならば、スパークリングワインも同じ役目を果たせるのではないか。

 去る6月2日木曜日、六本木ヒルズアリーナに於いてSOPEXA(フランス食品振興会)主催「Happy Aperitif in Tokyo」が開催された。これは昨年よりフランス農務省推奨により毎年6月の第一木曜日が「アペリティフの日」と定められ、食事の前に味わうアルコールやおつまみである、「アペリティフ」の習慣普及のための運動で、今年は21カ国29都市で同時開催された。
 昼の部(¥3000、前売り¥2800)夜の部(¥3500、前売り¥3300)の2部制、会場でアミューズ10品分、ドリンク5杯分のクーポンをチケットと引き換える。昼の部は女性客が多く、お目当てはオテル・ド・ミクニの三國清三氏やクイーン・アリスの石鍋裕氏ら人気シェフによるアミューズ・ブーシェ(おつまみ)であったが、夜の部は仕事帰りのサラリーマンやOLなどがシャンパーニュやカクテルなどで「お疲れさまー」と乾杯する姿も見られた。

 イヴェント会場内では「バーテンダー創作アペリティフコンクール公開決勝」も行われ、6作品中見事優勝を飾ったのが、レシピに唯一スパークリングワインを取り入れたカクテル‘Hommage Bouquet’(*1)だった。審査は味わいや色合い、パフォーマンスなど総合して決められるが、この日は小雨がぱらつきじめっと蒸し暑かった半オープンエリアの会場での審査だっただけに、審査員たちの喉元を爽やかな泡が通り抜けていった結果ではないかと思ってしまう。

アペリティフの日

食べておいしく見ても美しいアミューズ・ブーシェの数々

鎌田真理

バーテンダー創作アペリティフコンクール」で見事優勝した東京全日空ホテル、マンハッタンラウンジの鎌田真理さん

シャンパン・サーベル

「シャンパン・サーベル」
こうしたパフォーマンスやシャンパーニュを開ける軽快な音は祝祭の象徴

 今回使用したスパークリングワインは、規定が「フランス産飲料を使用した創作アペリティフ」だったためシャンパーニュ(ヴ−ヴ・フルニ ブラン・ド・ブラン)だったが、これをもう少しカジュアルなカヴァやプロセッコなどで代用すればビールの苦手な女性にも手軽な食前酒になるはずだ。また第2部のオープニングでは若手ソムリエたちによるシャンパン・サーベルやシャンパンタワーも披露され、スパークリングワインのパフォーマンス性の高さにも改めて気づかされた。

 この春、イタリアのミラノを訪れた際、夕食時にそこここのバールやビアホールで「Happy Hour」と大きく掲げられているのが目についた。地元の人に聞いてみると「今はHappy Hourをやってないバールのほうが少ないんじゃないの」という。
 ここでいうHappy Hourとはアメリカやイギリスのパブなどで昔からやっているドリンクが割引になるそれとは異なり、そのバールなりビアホールでドリンクを注文すると定められた時間、イタリアでは主に19:00~21:00頃は、おつまみ食べ放題というシステムだ。
 これにはイタリア全体の景気の悪化に伴い外食産業が落ち込んでいることもあるが、なんといっても今年1月10日から執行された禁煙法に因るところが大きい。

 屋内で人が集まるところ(自宅は除く)では全面禁煙、あるいは特別な喫煙者用スペース設備(独立した部屋)を作らなければいけない。レストランやバール、ディスコに至るまですべて、だ。喫煙大国イタリアの飲食業界にはかなり厳しく、どの店もあの手この手を使い集客に必死である。
 だからおつまみ、といってもオリーブや乾物は当たり前、今やピッツァやパニーニ、ショートパスタまでがずらりと並ぶ。若者たちはここで飲んで、ひとしきりお腹を満たして次なる場所に移動(あるいは帰宅)するパターンが定着しつつある。

 そんな、イタリアにとっては皮肉の産物であるが、日本でも「これから始まる食事」へのアプローチとして活用できないだろうか?
 なにもパスタやパニーニを作らなければいけないわけではなく、例えばランチのバケットを揚げて塩コショウしたものをカウンターの傍らに置いておくだけでもスパークリングワインのお供になる。
 繰り返すが適度な発泡は空腹時の胃を刺激するし、コショウのスパイシーさがさらなる食欲を呼ぶ。旬の野菜を使った自家製のピクルスなどもスパークリングの酸味と相性がいい。
 できるなら1杯注文を受けるごとに提供できるビールサーバーのようなシステムがスパークリングワインにもあればよいのだが、残念ながら日本には今のところ存在しない。生ビールのように気軽に注文できるようにするには思い切って、手頃な価格の数種類のスパークリングワインをグラスで提供してみることだ。
 そうすることにより同じスパークリングワインでもさまざまなタイプがあることが発見できるし、その後へと続く様々な料理とのマリアージュにも対応できる。

 前出の阿部氏の店や、夏限定で六本木ヒルズにオープンする、ジョエル・ロブション氏のシャンパン・バーなどが「呼び泡」となってくれれば、このスタイルは確実に定着するはずである。

取材・執筆  小山田貴子 2005年06月19日

小山田貴子(おやまだたかこ)
フリーライター
地上波テレビ局に番組スタッフとして勤務の後イタリアに遊学。現地でワインに開眼し帰国後ソムリエ資格を取得する。2003年までCS現「グルメ旅FoodiesTV」番組スタッフとして、ワイナリー取材、三ツ星シェフへのインタビューなどをこなし現在に至る。得意分野はイタリアワイン、最近興味を抱いているものは和食とワインのマリアージュと、国産ワイン。声楽を勉強していた学生時代、口は「歌うためにある」と思っていたのだが今では専ら「飲食専門の道具」と化している。