フードリンクレポート


NYに学べ!
キーワードはNINJA?SAKE?レストラン激戦区で人を集める秘策公開!

2007.12.7
無数のレストランが存在するレストラン最激戦区ニューヨーク、マンハッタン。毎年120件以上のレストランがオープンし、その一方で100件以上がクローズすると言われる程、入れ替わりが激しいこの土地で、新しいレストランはいかに街に溶け込み、顧客を獲得するためにどんな戦略を打ち出しているのだろうか?より厳しい環境下でのプロモーション施策には学ぶところも多い。日本からNYに上陸したレストラン「CHANTO NEW YORK」、「NINJA NEW YORK」を通して、レストラン最激戦区での集客施策を追った。


毎日イベントを開催。企業とのタイアップも積極的に

「CHANTO NEW YORK」では、盛んにイベントを開催している。月曜と木曜はJazz Live、金曜と土曜はDJ Night、その他週ごとにスペシャルイベントを企画し、開店している週6日のうちほぼ毎日イベントが開催されている。この週のスペシャルイベントは、「Sake Tasting」と銘打ち、利き酒とそれに合わせたエグゼクティブシェフ篠木清高氏考案の特別メニューが楽しめるというもの。

 他の企業や団体とタイアップしたイベントも積極的に行っている。DJ Nightでは、宝酒造とタイアップして同社がアメリカで売り出しているウォッカ「KISSUI」を使ったカクテルを提供し、広告でも「KISSUI」のデザインロゴを全面に打ち出している。11月中旬には、オペラの興行をしている団体と組み、特別ディナーとオペラが楽しめるイベントも開催した。


Jazz Live Tuesdayでは、三味線を使った沖縄ミュージックとメロディカとの組み合わせによる一風変わったJazzを楽しめる。マンハッタンを拠点に活躍しているアーティスト、Gaku Takanashi(左)&Richard Bennett


この夏からアメリカで発売している宝酒造オリジナルのウォッカ、「KISSUI」とのコラボレーション企画のフライヤーデザイン。

 イベントの大きなメリットして、篠木氏は「人が実際にお店来て、(気に入れば)また戻ってきてくれる。これが一般的な広告宣伝の、“イメージを伝える”だけのプロモーションとの大きな違い。」と語る。「お客さんを待っていても仕方ないので、たくさんイベントをやってとにかくお店に来てもらう。」とも。


11月28日に開催された「Sake Tasting」ディナー。30名余りが集まった。


目玉は、ディナー会場でさばかれるマグロ。この日はスペイン近海産の生の本マグロが仕入れられ、目の前で篠木氏自らさばく。


そのマグロを刺身、その場で握られる握り寿司、鉄火寿司で存分に楽しめる趣向。


日本でもなかなかお目にかかれないような、生の、脂ののった素晴らしいマグロにアメリカ人も感動しきりだった。




会場の一角のBarコーナーでは、宝酒造の協賛により、日本酒5種、焼酎4種が楽しめる。

 このようにプロモーション施策として様々なイベントを開催するようになった背景にはどんな理由があったのだろうか?


日本流のプロモーションの限界

「CHANTO NEW YORK」がオープンしたのは約1年半前の2006年4月。盛んにイベントを開催するようになったのは半年ほど前からで、それまでは店自体の広報を中心にプロモーションを行っていた。日本では「美食酒家 ちゃんと。」「橙々家」など、幅広い業態と多くの店舗展開知られる同レストラン。もちろん宣伝のノウハウも経験もあった。しかし、アメリカでは思うように集客効果が上がらず限界を感じることになる。

 同様に、宣伝広報に限界を感じたのは「NINJA NEW YORK」。赤坂にある忍者をテーマにした人気レストラン、「NINJA AKASAKA」の海外FC店で、2005年秋にオープンした。こちらも同じく当初は新聞などを中心に宣伝広報を行っていたが、効果が上がらず、来客数が落ち込んでいった。

 アメリカは日本以上に、人脈やコネがビジネスのカギを握る社会。いくら費用があっても、簡単にメジャーな媒体でプロモーションできるものではない。特に知名度の低い新しいレストランが入り込む余地は少ない。1年という時間を経て、日本とアメリカ、特にニューヨークとのマーケットの違いを痛感し、それぞれ独自の路線を打ち出すことになったのである。


 

保守的で、なかなか動かないニューヨーカーたち

 不思議に聞こえるかもしれないが、ニューヨークは世界のトレンドをリードする最先端の街であるにも関わらず、レストラン選びに関しては驚くほど保守的な人が多い。昔からの馴染みを大切にする人が多く、通いなれた店を贔屓にする。新しい店や商業施設ができれば、マスコミが一同に大々的に取り上げ、我先にと詰めかける日本人とは対照的だ。加えて、「料理の内容・妥当な価格・味の良さ三つが揃っていなけば足を運んでくれない。特に価格が料理に対して適当かどうかという点に関しては、日本以上に、非常にシビア。」と話すのは、「NINJA NEW YORK」を経営する「SHINOBI NY」社長矢崎治夫氏。

“新しい”ということは価値ではなく、“美味しい”だけでは話題にならず、なかなか新しい店に足を運んでくれない人々なのである。

 また、レストランの宣伝広告にかけるお金も日本とは大きく違う。「宣伝広告費が予算に占める割合を比べたら、一般的な日本のレストランの数倍〜10倍はかけているでしょうね。」(CHANTO篠木氏)という話もあるくらい、それだけのお金をかけて振り向かせなければいけない人々なのだ。

 新しいレストランが定着するには、日本とは比べ様がないほど時間とお金ががかかるマーケットである。


 

プロモーションのポイントは“コンセプトのわかりやすさ”

 持っている文化も言葉も違う人が世界中から人が集まって来るニューヨークでは、一目瞭然でどんな料理でどんな雰囲気の店かをイメージさせることが重要である。「NINJA NEW YORK」においては、“NINJA(忍者)”という店名自体がコンセプトを明確に体言している。そのため、店でNINJAが料理をサーブし、技を見せ、驚かせるというコンセプト通りの演出も情報として伝わりやすく、インターナショナルな街を代表するレストランの一つとしてニューヨーク市が発行するガイドに掲載された。その結果、今ではアメリカ国内を始めヨーロッパなど世界中から予約が入るという。

 一方、「CHANTO」の場合、日本人でも店名だけでは店の内容をイメージするのは難しく、ニューヨーカーならなおさらだ。そこで、途中から店の1階と2階でコンセプトを明確に分け、1階はLive演奏を聴きながらスシと神戸ビーフのバーガーが手軽に楽しめる「CHANTO BAR」、2階はエレガントな雰囲気の中、洗練された料理が楽しめる「CHANTO UPSTAIRS」と名前も変えた。その結果、来客層にも変化が見られるようになり、特に週末は、白人のお客さんが8割を超え、Liveのある1階のBarスペースをあえて指定する予約も増えたそうで、以前は無かったことだと言う。


 

顧客リストは1500件!費用対効果が最も高い口コミを活用する

 前述のように、新しいレストランに対して非常にシビアでなかなか動かないニューヨーカーであるが、店のレビュー(批評)や知人の薦めには敏感に反応する。新聞のレストランレビューはもちろん、何十ものメジャーなレストランレビューサイトがあり、店によっては一つのサイトで毎日何件もレビューが書き込まれたりもする程だ。両店共に、この口コミの力を重要視している。

 コンセプトのわかりやすさを武器に、来店時の様々な演出で口コミの評判を高めていったのが「NINJA NEW YORK」。忍者の家が集まった忍者ビレッジをイメージさせる個室をメインとした店内では、NINJAに扮したスタッフによるサービスの他、プロのマジシャンによるマジック、刀を模して盛りつけた料理、ファミリーには子供用にゴム風船を用意するなど、アイデアを出し合い、たくさんの仕掛けを作った。エンターテイメントを素直に喜び楽しむアメリカ人気質も功を奏し、評判が評判を呼んで徐々に客数は増え、今では毎週末予約が取れない程の人気店に。その95%はニューヨーカーというから、すっかり定着したと言っても過言ではない。


「NINJA NEW YORK」の忍者ビレッジをイメージした店内


薄暗い店内に個室が迷路のように配置されており、突然忍者が飛び出す演出などがあり、エンターテイメント好きのアメリカ人を楽しませている。

「CHANTO NEW YORK」ではイベントに来てくれたお客さんと名刺交換をしたり、フォームに記入してもらうなどしてリストを作り、E-mailを使って定期的に新しいイベントの広報をするなど地道な宣伝広報も怠らない。今ではそのリストはなんと1500件を超えるという。そして、リストにただメールを送るだけでなく、一部の顧客には前回来店した際に話したことの続きや個人的な話題もコメントととして入れて送っている。例え案内したイベントに参加できないという内容でも、返事がくることも多く、顧客との大切なコミュニケーションツールとなっているそうだ。そんなお得意顧客が友人を連れてイベントに来店するのである。


CHANTOのイベントでは、会場でプレゼンテーションをすることでお客さんとシェフとのコミュニケーションが生まれる。


自らお客さんの皿へ料理を盛る篠木氏。


料理はブッフェスタイル。お客さん同士の交流も生まれ、異文化&異業種交流会のよう。


 

1点でもいいから強力な話題性を

「口コミを最大限に活用するためには、一点でいいので強力な話題性が必要。」とNINJA矢崎氏が語るように、行ってみたいと思わせるには強力なコンテンツは欠かせない。「CHANTO NEW YORK」ではイベントがそれに当たるだろう。

 どうしたらお客様が喜んでくれるか、また来てみたいと思えるかを常に考え、社長の筒井氏、マネージャー寺本氏と共に日々知恵を絞りイベントを考える。ここでは、元銀行マンという畑違いの経歴を持つ社長の、いわば素人的“お客さん”発想が貴重だと言う。その結果、マグロの半身を丸ごと目の前でさばきサーブする「マグロパーティー」や「焼酎ペアリングディナー」、「ワインのテイスティングディナー」など様々なイベントを開催してきた。

 企画にインパクトがあれば、口コミだけでなく、新聞などのメディアに取り上げられることも多くなる。逆に店側からメディアにアプローチもしやすくなるのである。


 

「やってみなければわからない!」の精神で挑み続ける

「CHANTO NEW YORK」でのイベントは全てが全て集客できているわけではないし、期待外れの人数しか集まらないこともある。でも、目先の利益にとらわれるのでははく、辛抱強くアピールを続けて浸透させていくことが大切だと分かったというCHANTO篠木氏は、「やれることは、全てやってみるしかない。やってみなければわからないから。新しい店が定着するには、3〜4年かかって当たり前では。」と話す。

 店が短期的な利益や集客効果にとらわれることなく、長期的な視野に立って顧客を増やし大切にするからこそ、そして、一時的な宣伝広告に振り回されることなく店の本質を理解して足を運ぶ人が多いからこそ、ニューヨークには馴染みの店を長い間贔屓にする人が多いのかもしれない。

「店舗数を増やせるまでに成長させたい。」(CHANTO篠木氏)、「もっともっと繁盛する店、わざわざ行きたいと思ってもらえる店にしていきたい。」(NINJA矢崎氏)。これから両レストランがニューヨークにさらに根付き、ニューヨーカーに支持されていくことを期待したい。


「CHANTO NEW YORK」エグゼクティブシェフ篠木清高氏


「NINJA NEW YORK」を経営する「SHINOBI NY」社長矢崎治夫氏



店舗情報
【CHANTO NEW YORK】
133 7th Avenue South (Between 10th Ave. & Charles st.)
New York, NY 10014
HP:http://www.chantonyc.com/

【NINJA NEW YORK】
25 Hudson Street (Between Duane St. & Reade st.)
New York, NY 10013
HP:http://www.ninjanewyork.com/


取材】 村田麻未(むらたあさみ)  2007年11月29日
株式会社リクルートにて人材ビジネス領域で商品企画を担当。2006年7月から夫の転勤に伴い、NY在住。趣味は、レストラン巡りと料理。日本人、ユーザーの目線を大切にニューヨークのレストラン事情をレポート中。

【撮影】 桑原かおり、村田麻未