フードリンクレポート


賞味期限のないレストラン作り。
松澤 俊氏
株式会社メティウスフーズ 代表取締役社長

2008.2.8
「ピッツェリアドォーロ」などイタリアンを8店舗展開するメティウスフーズ、そして2001年に料理長から社長に就任した松澤氏。「気持で料理の味は変わる」と料理をベースにお客との息の長いコミュニケーションを図っている。「洋」業態で多店舗展開する企業が少ない中、着実に店舗数を増やしている。


ピッツァマルゲリータブーファラ(空輸で入荷の水牛フレッシュモッツァレラ)¥2,200

イタリアン4業態、8店舗

 松澤氏はメティスフーズに1997年に入社。同社は当時、新橋でイタリアン「ピッツェリアドォーロ」を1店舗運営していた。2号店の麹町店が出来て、その料理長となる。そして、2001年に代表取締役に就任した。

 現在、「エノテカドォーロ」(平河町、汐留)、「エノテカドォーロオンニジョルノ」(芝浦、「オンニジョルノ」とは日常的なの意味)、「ピッツェリアドォーロ」(新橋、麹町、恵比寿、新宿)、「バール」(神田)の4業態で8店舗を経営している。2008年6月期の売上高は6億円を見込む。全てイタリアン。


「エノテカドォーロ」(平河町)


「エノテカドォーロオンニジョルノ」(芝浦)外観


「エノテカドォーロオンニジョルノ」(芝浦)店内


「ピッツェリアドォーロ」(新橋)


「バール」(神田)外観


「バール」(神田)店内

 最も新しい店舗は、2008年1月に浜松町・汐留ビルディング1Fに開店した「イタリアーナエノテカドーロ」だ。平河町の「エノテカドォーロ」では代議士、弁護士、マスコミ関係者で賑わい、繁華街でないにもかかわらず朝の5時まで営業。30坪で月商1億円をたたき出す。その他、既存店は約10%増で売上が上がっているという。


「イタリアーナエノテカドーロ」(汐留)看板


「イタリアーナエノテカドーロ」(汐留)店内

 イタリアワインの品揃えには自信を持ち、「イタリアワイン最強ガイド」(川頭義之著)で紹介される程だ。良いワインを確かな価格で仕入れるためにインポーター約30社と付き合っている。メニュー価格も仕入れの2倍を切るくらいで設定しており、バイ・ザ・グラスでは良いワインを1千円台で提供している。


10年以上経っても賞味期限のないレストラン

 松澤氏は北海道で飲食業を営んでいる家庭に育った。「小さい頃からおしぼりを巻いて育った」という。中卒の16才で、東京・八重洲のホテル「龍名館」に入社。本格的フレンチを20才まで修行する。

「実家が和食だったので違う料理をやりたかった。自分が親になった時にカッコいい方がよい」とフレンチを選択。しかし、現実は厳しい世界。「寮に住み込み、朝7時から夜中3時まで働きました。最初の3ヶ月間は誰も何も言ってくれなかったので休みなしです。3ヶ月後にようやく休めと言われました」と懸命に働いていた当時を思い出す。

 そして、ルクセンブルグに渡る。オランダとルクセンブルグで和食3店舗の経営者から誘われる。このルクセンブルグ滞在中に、ヨーロッパを回り、イタリアの魅力に取りつかれた。帰国後、イタリアンを10店舗ほど転々とする。そして1997年に不動産会社が経営していたメティウスフーズに出会う。そして、新橋、麹町、銀座(現在はビル立ち退きで閉店)、広尾と4店舗になった2001年に、社長の座を譲られる。不動産会社は今も株主として見守っている。

 松澤氏の目指すのは「10年以上経っても賞味期限のないレストラン」。かつて流行っていたコンセプト・レストランとは異なる、お客とのコミュニケーションが取れる店。常連客を大切に扱い続け、新橋店は11年目。売上は「正直、今年はちょっと落としましたが、高いレベルで保っています」という。また、麹町店は10年目で今も売上高を伸ばし続け、初年度の月商400万円から現在は950万円にまでアップしているそうだ。

 各店舗には正社員5〜6人を配し、店舗スタッフの2人に1人が正社員となる。アルバイトも社員と同等に扱い、調理や発注など重要な部分も任せている。

 人の教育に最も配慮している。東京・八重洲のホテルでの修行の時代から人のマネジメントに興味があったという。現在、松澤氏は、平日は朝、昼、夜と各店舗を巡回している。週に2度は全店に顔を出している計算だ。訪問時は、各店で起きている問題の状況に合わせてアドバイスしている。「怒って何も言わず帰ってしまう店もあれば、毎日会議をしなければならない店もある」と言う。

「気持で料理の味は変わる」と教える。「もう1度フライパンを回して、さらに温かくなって美味しくなった料理をお客様に提供したい」という気持ちがお客に伝わる。


パルマ産24ヶ月熟成の生ハムとサラミの盛合せ(オーダーを受けてからスライス)¥2,200


旬の魚介類のペスカトーレ リングイネ ¥1,800


次は、ロードサイドでイタリアン

 メティウスフーズは自社で魚市場から直接、魚介類を仕入れる権利を獲得した。この安く仕入れられるメリットを生かした業態の展開を考えている。

 和業態の人気を意識した、和テイストのイタリアン。イタリアの漁港の食堂をイメージしたようなものを出店してみたいという。

 さらに、今までビジネス立地で出店してきたが、土曜・日曜のマーケットにも参入するため、ロードサイドでの出店も検討している。あくまでもイタリアンを主軸に、年3店舗のペースで店舗を増やしていきたいそうだ。

 本格イタリアン業態で多店舗展開している外食企業は少ない。「和」業態ばかりが目立つ現在、メティウスフーズのような「洋」業態を展開する企業への評価も高まって欲しいし、さらに大きな企業に育ってもらいたい。



松澤 俊(まつざわ しゅん)
株式会社メティウスフーズ 代表取締役社長。1972年生まれ。北海道出身。東京のフレンチ、ルクセンブルグの和食店で勤務後、1997年にメティウスフーズ入社。2001年9月に代表取締役に就任。

株式会社メティウスフーズ http://www.metius-foods.com/index.html

【取材・執筆】 安田 正明(やすだ まさあき) 2008年1月28日取材