フードリンクレポート


「ハマサイトグルメ」オープンで活気づく、浜松町・大門のダイニング。

2008.3.5
東京都心部ではどうしたわけか発展が遅れていた、浜松町・大門エリアの飲食がにわかに注目を集めている。駅至近の山手線外側の再開発ビル内に1月、レストランコンプレックス「ハマサイトグルメ」がオープン。山手線内側の路地にも新しい飲食ビル、個店が次々にオープンしている。真に繁盛するのは、どのエリアのどのような業態か、探ってみた。


ハマサイトグルメ

おしゃれすぎない庶民性を持つ「ハマサイトグルメ」

「汐留シオサイト」の最後の大開発である、24階建の「汐留ビルディング」が、昨年12月14日にJR山手線・京浜東北線及び東京モノレールの浜松町駅北口より徒歩2、3分、都営地下鉄浅草線・大江戸線の大門駅東口からも徒歩3、4分という交通至便な場所に竣工。

 都内各地のみならず、羽田・成田両空港へのアクセスの良い浜松町・大門エリアのオフィス立地としての優位性が再び注目を集めている。

 そして、今年1月15日、「汐留ビルディング」1、2階を占める商業施設「ハマサイトグルメ」がオープンした。企画、開発、リーシングは三菱地所と東急不動産が共同であたり、約20店が入居している。1階のコンビニ、ビジネスコンビニ、2階のクリニック以外は全て飲食店で、レストランコンプレックスとして構成されている。


汐留ビルディング


ハマサイトグルメ吹き抜け

 1階が韓国料理「ハンマリ家」、ドイツレストラン「フランツクラブ」、イタリアン「イタリアーナ・エノテカ・ドォーロ」、焼鳥・地鶏料理「宮崎地鶏炭火焼 車」、串焼料理・串揚料理「雲仙」、大衆肉割烹「ハラホロヒレハレ」、四季の旬菜料理「AEN」というラインナップ。


ドイツレストラン「フランツクラブ」


大衆肉割烹「ハラホロヒレハレ」

 2階は、海鮮炉端「山陰海鮮 炉端かば」、そば&和風居酒屋「藪へゑ」、豆腐・かに料理「玄品 以蟹茂」、九州・沖縄料理「薫風」、台湾屋台料理「新台北 別館」、カレーショップ「チャオカリー」、セルフ式カフェ「エクセシオールカフェ」といった店が並んでいる。


海鮮炉端「山陰海鮮 炉端かば」


豆腐・かに料理「玄品 以蟹茂」

 全般に渋谷、恵比寿、六本木などにありがちなスタイリッシュなダイニングや、銀座、丸の内、青山などにありそうなハイソな店ではなく、庶民的でありながらも専門性の高い、普段使いできそうな肩の凝らない店が並んでいる印象だ。

 オープン当初、「汐留ビルディング」のオフィス部分に関しては、契約者の入居がまだ半分も済んでいないこともあり、苦戦するのではないかとの懸念もあった。しかし、実際にはランチ、ディナーともに好調にスタートしており、行列のできる店も「山陰海鮮 炉端かば」をはじめ、幾つかあるほどだ。

 浜松町・大門エリアは、山手線の内側の飲食店は繁盛するが、海よりの外側の飲食店は難しいという定説があるが、現在のところその常識を覆す勢いである。

 しかも、今後オフィスの入居が進むと、少なくともランチに関してはさらに有利になるだろう。ディナーに関しては自分の働くビルの中にある店に果たして行く人がそんなにいるのかという疑問は残るが、現状のリピーターを着実に取っていけば問題ないだろう。

 また、オフィス街にある浜松町・大門の飲食店は、日曜、祝日を休む店が多いのに対して、無休で営業したり、終電までには人が引けてしまう土地柄の中で深夜営業に一部取り組んだりといったように、「ハマサイトグルメ」は攻めの姿勢で地域の新しい飲食ニーズを掘り起こそうと、さまざまにチャレンジしている。


地域に密着して賑わい創出を目指す販促戦略の数々

 浜松町・大門に関しては、丸の内のような観光目的の顧客が主になる場所ではない。特に平日は、近くに勤めるサラリーマン、OLが中心である。

 そこで、「ハマサイトグルメ」は販売促進にも一工夫している。

 オープンにあたっては、テレビCMのようなマス宣伝を行うのではなしに、チラシを作成。駅前で手配りにて2〜3万枚を配布した。駅前に大きなビルが建つので、地元では中に何ができるのか、そもそも話題になっていたのだろう。そこに具体的な情報が与えられて、好奇心を刺激された人も多かったに違いない。     

 好調なスタートを切れた要因として、この効果がストレートに出たことが挙げられる。1月25日には大道芸人たちを招いての「オープニング祭り」を実施した。


「浜松男」さんとともに大道芸人が盛り上げたオープニング祭

 また、イメージキャラクターとして、中年サラリーマンで「ハマサイトグルメ」の隅々にまで通じた達人「浜松男」さんを設定。地元の「文化放送」のラジオ番組にも“出演”し、親しみやすい施設であることをアピールした。

 リーシングにあたった三菱地所SC営業部主事・桑久保達也氏は、「元は何もない寂しい場所だったので、浜松町という街全体を意識して、海岸の竹芝ふ頭、劇団四季の四季劇場、浜離宮恩賜公園から、増上寺、芝公園、東京タワーにいたるルートを思い描きました。確かにJRガードから海側は難しいという声は聞こえてきましたが、何とか変えたい、変えよう、賑わいをつくりたいとの思いですね」と、この新商業施設が地域に密着したものであり、浜松町・大門の駅の西側と東側が人の歩く動線としてつながる切っ掛けになることを願っている。


「賑わいを創出したい」と述べた三菱地所・桑久保達也氏

 それは浜松町・大門の観光資源開拓にもつながるが、既に少しずつ効果は現れている。すぐ裏手にある「四季劇場」や、歩行者デッキでつながった隣のビル「汐留芝離宮ビルディング」にあるポケモンショップ「ポケモンセンタートウキョー」とセットで来街する顧客もかなりの数になっており、オフィスが休みの週末、祝日でも、平日の6〜7割ほどの集客は確保している模様だ。

 最近少しずつ増えている近隣のマンションなどの住民や、モノレールで1駅の天王洲の住民も以外に多い。

 オフィスに勤務するリピーターをつかむために、各店では常連にプラスチック製の「浜松男」特製名刺を渡している。1月10日には、街頭配布会が行われ、「浜松男」特製名刺のほか、メモパッド、マウスパッドが配られた。


「浜松男」名刺を見せるとさまざまな特典が

 この名刺は提示すると、店によって異なるが、期間限定でビール1杯サービス(3月31日まで「山陰海鮮 炉端かば」で実施中)、などの特典がある。数店で聞いたところ、「1日に3、4組ほどが利用され、効果があった」との声が多かった。

 こうして見ていくと、地域の特性を見据えた販促効果、潜在的な飲食ニーズの掘り起こしも、「ハマサイトグルメ」の好調なスタートの背景にあることがわかる。


濃口関東風のそばとおでんで差別化はかる和食居酒屋

 では「ハマサイトグルメ」から、若干ではあるが特徴のある店舗の状況をレポートしたい。

 2階には、そば、おでん、地酒をテーマにした「蕎麦酒房 藪へゑ」がオープンしている。経営は飲食店のプロデュース、プロモーション、コンサルティングを行っている松風堂で、直営としては上野の「海鮮問屋 磯べゑ」に続く2店目である。


「藪へゑ」外観


「藪へゑ」店内


「藪へゑ」 カウンター


「藪へゑ」奥のテーブル席

 昼・夜ともに、土曜、日曜、祝日を除けば連日ほぼ満席になり、時に行列ができる盛況ぶりで、好調なスタートを切っている。席数は60席。

 ディナーはおでんとそばが中心だが、おでんは醤油ベースの味の濃い“関東炊き”で、最近主流となっている関西風の薄味ではなく、昔ながらの東京の庶民の味を目指している。種は16種類と豊富にあり、味の染みた「大根」(210円)、「豆腐」(180円)、「じゃがいも」(180円)、さらには「鴨団子」(280円)といったあたりに人気がある。

「1人で3つ、4つと、たくさん注文する人が多いですよ。4人くらいでいらっしゃるとテーブルの上が賑やかになりますね」と松風堂取締役営業部長の前田敏臣氏は、上々の手ごたえを実感している。

 アルコールのメニューは100種類ほどと豊富に揃っており、枡とグラスで提供する日本酒(430〜750円)中心に、ビール、焼酎、梅酒、ウィスキー、ワイン、サワーなど、カクテルを除いてポピュラーなお酒はだいたい置いてある。

 締めにぴったりのそばは、水車式の石臼でひいた北海道・音威子府産の北あわせそばと、フランスパンに使う杵つきの小麦粉より打ったこだわりの二八そばで、せいろ、かけともに650円である。

 つゆの今の主流は薄味であるが、あえて辛い関東風の江戸切りそばで提供している。せいろは本わさびが添えられ、顧客が適量をすってつゆに入れる。


「藪へゑ」 せいろ(夜のメニュー)

 夜の客単価は約3800円で、男女比では6割以上が男性となっている。

 ランチは平日2回転ほどするが、せいろとかけそばの「炊き込みご飯セット」(850円)に人気が集中している。ランチのほうがそばの量は多くしてあるが、その代わりわさびは練りわさびだ。顧客の男女比は、ランチに関しては半々である。

 内装は店の外から見える、酒樽をディスプレイしたカウンターにインパクトがあり、ノスタルジックな仕上がりになっている。

 平日の顧客層は近隣のサラリーマン、OLが大半だが、土曜、日曜、祝日はカップル、ファミリーが多くなる。同店では昼休みを取っていない。休日は平日のように込むことは少ないが、平日が12時から1時に集中するのに対して、分散して来店する傾向があり、客数を見るとそれほど変わらないそうだ。劇団四季を観劇した帰りに寄っていく顧客が多いという。


大盛りで現地調達のメニューが好評なイタリアン

「ハマサイトグルメ」1階にオープンしたのは、「イタリアーナ・エノテカ・ドォーロ」。450種類のイタリアワインと、パスタ、ピザをはじめとするイタリア各地の伝統的な料理を提供する店である。


「イタリアーナ・エノテカ・ドォーロ」外観


「イタリアーナ・エノテカ・ドォーロ」店内

 山岳地帯の料理ではウサギ、イノシシなどのジビエ、豚肉、牛肉、乳製品、海沿いのほうの料理では海産物、トマト、オリーブ油をそれぞれ活用したものを、季節感を織り交ぜて出している。

 ハムやチーズを現地から輸入しているだけでなく、500℃の石釜で焼くナポリ風の肉厚ピザに関しては、小麦粉、水、イーストを空輸して店内で焼いている。

 経営はメティウスフーズで、同様のコンセプトでは半蔵門「エノテカ・ドォーロ」、浜松町駅の南西側「東芝本社ビル」にある「エノテカ・ドォーロ・オンニジョルノ」に次ぐ3店目となる。席数は約50席。

 ランチに強く、「汐留ビルディング」のオフィス棟が埋まりきっていない現状でも、平日は2回転くらいする。ただし、16時までがランチタイムなのに対して、13時を過ぎると入らない傾向があるという。

 1000〜1200円で、パスタ、リゾット、肉料理、魚料理、3種類のピザなどのメニューが提供されるが、一品のボリュームが多く、割安感がある。最初に自家製の2種類のパンが出てくるのもうれしい。

「2人で来られて、パスタとピザを注文して取り分けるお客さんも目立ちます。5、6人で来られたらちょっとしたコースになっていますね」とメティウスフーズ取締役営業本部長・大村佳史氏。テーブルに並んだ大きめの皿の料理を取り分けて食すのが、同店のスタイルだ

 ディナーの顧客単価は4000円台後半であるが、注文の仕方によって大きく異なってくる。

 前菜、パスタ、メインディッシュと注文する本格的な食事が目的の人は、当然単価が高くなる。一方で、パスタだけを食べる人や、前菜を頼んでワインを飲んでいく人もいる。一人で来る人もいれば、団体で来る人もいる。そうした幅広いニーズにこたえるメニュー構成が、この店の強みである。

 人気メニューは「前菜盛合せ」(1800円)で、1品ずつ6皿が提供されるのでボリュームがあり、6〜7割の人がオーダーする。また、チーズ5〜6種が楽しめる「イタリア産チーズ盛合せ」(1600円)や、パルマ産の24カ月熟成ハムと“生ハムの王様”とされる豚肉の尻の部分を使った「クラテッロ」及び、パルマと並ぶ有名産地・サンダニエーレという3つの生ハムの名品を集めた「イタリア産三大生ハムの盛合せ」(2400円)は、同店が力を入れているメニューだ。


「イタリアーナ・エノテカ・ドォーロ」 イタリア産チーズ盛り合わせと生ハム盛り合わせ


「イタリアーナ・エノテカ・ドォーロ」  ボロネーゼ


「イタリアーナ・エノテカ・ドォーロ」 石釜で焼くナポリ風ピザ

 ディナーの来店状況は平均すれば、平日で1回転弱であるが、金曜日が通常の倍ほど込み合うのに対して週初めの月曜日は弱い。

 木曜と金曜は深夜4時まで営業しているが、ビル自体が12時で閉まってしまい、ビルの外側の出入口から入店する形になることもあって、システムを知らない人は店に到達できない。なので、今のところ深夜は空いており、同業のレストラン店員の来店が目立つそうだ。

 土曜、日曜、祝日は夕方くらいまでは、平日とはそれほど遜色ないほどの集客がある。劇団四季の観劇や、ポケモンショップでの買物の帰りに立ち寄る人が多いという。

 顧客の男女比は女性がやや多い程度で、イタリアンにしては男性客が多い。

 内装は半蔵門の店をベースにしており、ワイン好きな人のワインで囲まれた部屋をイメージしている。


焼はまぐりをわんこスタイルで提供する専門店登場

 一方で山手線の内側のレストラン事情は、どう変わってきているだろうか。

 浜松町駅北口の山手線の線路をはさんで西側、大門駅の北側という、「ハマサイトグルメ」に対峙するような場所に、1月22日にオープンしたのが、「七食の塔 ムーンストリート大門」なる7つの飲食店が集積したビルである。


ムーンストリート大門


ムーンストリート大門のラインナップ

 開発したのは香港を拠点とする不動産投資会社アジア・パシフィック・ランド・グループで、ショッピングモールの「サンストリート亀戸」(江東区)などの実績があるが、日本における飲食専門施設には初進出である。

 ラインナップには「ハマサイトグルメ」と比較すると、全般に高級食材をメインに打ち出した少しおしゃれな店が並んでいる。

 地下1階が焼はまぐり専門店「焼はまぐりる」、1階がカフェ&ビアホール「バリーズ」、2階が渡邉明シェフのプロデュースによる「やさい家DAICHI」、3階がすり身専門居酒屋・おでん「ゑーもん」、4階が比内地鶏の焼鳥「浜松町 今井屋本店」、5階が鹿児黒毛和牛と焼酎「薩摩 牛の蔵」、6階と7階が3種の銘柄豚(大和豚、イベリコ豚、東総麦豚)と金沢直送の鮮魚「豚・地魚 伊蔵」といった具合だ。

 そのうちの「焼はまぐりる」は炭火焼きのジューシーなはまぐりを、「わんこそば」のようなスタイルで提供し、テーブルに貝殻を積み重ねて貝塚を築いていくという、遊び心のある斬新なスタイルの店だ。席数は37席。


「焼はまぐりる」 エントランス


「焼はまぐりる」 カウンター


「焼はまぐりる」 テーブル席

 経営はナイツ・アンド・カンパニーで、同様の業態の「焼はまぐり 青山八番」を5年前に開発し青山1丁目に出店。同じ町内に2号店をオープンした次の3店目が、浜松町の「焼はまぐりる」ということになる。

 メインの「焼きはまぐり」は1個160円で鰹ダシをかけて提供される。素材の持つ塩分などの味を、そのまま生かした調理法だ。一度に8個くらいずつ焼くので、2人で来店すれば1人につき3、4個ずつ出てくることになる。顧客がストップをかけるまで無限に提供するスタイルであり、味もあっさりしているのでついつい食が進む。平均で1人15個くらいを食べていくが、最高で120個もの貝の山を築いた猛者もいるのだそうだ。


「焼はまぐりる」 炭火で焼くはまぐり

 はまぐり以外も、ダシ巻き、四万十川の青ノリを混ぜ込んださつま揚げ、北海道の水ダコを使ったタコのしゃぶしゃぶなどの料理も自慢で、居酒屋としても活用できる。

 お酒は食事の味を妨げない辛口を重視し、ワイン中心に、ビール、焼酎、日本酒などが揃っている。

 顧客単価は5000〜6000円で、20代後半〜60代までの幅広いサラリーマン、OLが顧客層となっている。現在のところ集客は1〜1.4回転といったところで、好調なスタートだ。木曜、金曜は予約で埋まるほどだが、認知がまだ進んでいないので月曜はあまり入っていない。

 男女比は4:6で、女性のほうが多い。これは貝の成分タウリンが、肝機能を高めて美容と健康に良いことが知られていることも影響していると推定される。

 土曜日のみは顧客層が変わり、遠方からはまぐりを目当てに来る人が半数を占める、スーツ姿の人をまず見かけないという。日曜と祝日は休みとなっている。

 ランチは、千葉の漁師料理「なめろうごはん」(1000円)をはじめ、日替わりの焼魚と魚の煮付の定食、天然エビを使ったエビフライの定食、刺身のおつくりご膳が1000〜1800円の価格帯で提供され、すべてのメニューに「焼はまぐり」が1個付いている。ランチの単価は1150円ほどで、0.8回転くらいの需要がある。土曜、日曜、祝日はランチを営業していない。

「青山1丁目と同じくオフィス街立地なので、一度来てシステムを知ってもらえればリピーターになってもらえる自信があります。軽い接待にもデートにも使えるエンタテイメント性の高い店ですよ」と同店大将・平川貴之氏は自信をのぞかせている。

 なお、ナイツ・アンド・カンパニーは元々、飲食店のデザインからコンサルティングに進出し、さらには直営で店を経営するようになったという歩みを持つ会社。「七食の塔 ムーンストリート大門」全体のビルのデザインと、1階の「バリー」及び「焼はまぐりる」の内装も同社で手がけている。

 カウンターをメインとした落ち着いた中にもスタイリッシュなセンスも融合させたこの店の設計、ジャズを流す演出なども熟練した技術を感じるものだ。


芝大門地区の路地裏長屋に自由な発想の居酒屋オープン

 さらに、浜松町駅・大門駅の西側、国道15号線を越えた向こう側の増上寺門前町の芝大門地区には、東京の都心の駅至近とは思えないような古くからある商店街や静かな路地が残っている。

 このあたりの町場にもポツポツと、今後の浜松町・大門の発展を見越して、新しい飲食店のオープンが見られるようになってきた。

 芝大神宮の近くにある、築60年以上の3軒連なる、元々は住居として使われていた長屋の2階に、2006年12月オープンした「艶酒健菜 よござんす」は、和洋折衷の混沌とした幾つかの空間の複合で構成され、昭和のどこか懐かしいにおいがする、独特な感性の異空間的な居酒屋だ。料理はジャンルにとらわれない創作和食を出している。席数は68席である。


「よござんす」がある芝大門の3連長屋は、3軒とも飲食店となっている


「よござんす」 外観


「よござんす」 カウンター


「よござんす」 店内


「よござんす」 吹き抜け

 芝大門地区の飲食店では珍しく土曜、日曜も営業しており、平日は夜中の3時まで開いている。また、平日の昼間はランチ営業を行っている。

「お客様からは不思議と心地よい店だとよく言われます。個人経営の店らしいバイタリティある店ができたと思っています」と語るのは、オーナーのザンス社長・水谷大輔氏。

 水谷氏は3年ほど渋谷などにある飲食店のマネジメントやバイヤーの仕事を経験したのちに起業。京都出身ということもあるのか、東京でも伝統的な文化が残る芝大門地区が好きになり、1号店をこの地に出店した。すぐ近くの徒歩5分圏内には港区役所、再開発のかなり大規模なビルもあり、潜在的な飲食需要が多いにもかかわらず、競合店も渋谷などに比べれば断然少ないところも、ポイントであったという。

 内装は大工の経験もある水谷氏自身が、友人たちの協力を得て手作りでデザインしていったそうだ。出入り口の1階の道に面したガラス戸は小さくて目立たないので、隠れ家的な雰囲気を醸し出しているのだが、一歩中に入って2階に上がる階段は吹き抜けになっていて、意外に高い天井からきらびやかな特大シャンデリアが釣り下がっているのにまず驚かされる。

 客席のある2階は壁で間仕切りしていないので広々としており、高度成長期頃の場末のスナックを思わせるカウンター周り、演芸場のような雰囲気を持った宴会にも対応できるお座敷、さらには個室もある。カウンター席壁側の後ろにある梯子を上った3階にも秘密基地のような個室があり、座る場所によって雰囲気が異なるのでなかなか面白い。

 お座敷では年に4、5日、落語演劇や朗読演劇といった新しいジャンルの催し物が行われる。

 食事はメニュー数が豊富で、フードで50〜60、ドリンクで300ほどある。フードは「バイヤーの経験を生かしておいしいもの、食べたいものを集めた。将来的には日本中のうまいものを集めたい」(水谷氏)とのことで、20種類ほどある旬のメニューが売り。

 大阪の名品である「旭ポンズ」を取り寄せて湯豆腐を提供したり、北海道の知人から鹿の肉を取り寄せたり、北海道や広島、京都などから取り寄せた魚介類、神奈川の味噌のブレンダーから取り寄せた味噌を使うといったように、1つ1つの料理にアレンジする視点、ストーリー性を持たせる視点を持ち込んでいる。


「よござんす」 いわしレンコンはさみ揚げ


「よござんす」 金柑ホッパー

 コース料理は、和のコース、洋のコースなど3000円より各種がある。

 ドリンクは焼酎60種の充実が目立つが、ビール、ワイン、カクテル、日本酒、梅酒、ウィスキーなど一通り主なものは揃っている。

 顧客単価は4000円ほどで、男女比は半々くらい。年齢層は20代から60代までと幅広く、平日は近隣のサラリーマン、OLが主流だが、休日は増上寺などへの観光帰りに立ち寄る人が多いが、現状客数は平日の7割くらいそうだ。平均的な回転数は1〜1.2ほどで、合コン、深夜のデートの需要も伸びているという。

 ランチメニューは800〜900円で10種類揃っていて、サラダと自家製豆腐の小鉢が付いている。ご飯のお代わりも自由だ。値段が手頃で定食屋並にメニューが選べるため人気は上々で、1日に70人ほどを集客している。


飲食の潜在ニーズを掘り起こした金杉橋口の「もつ福」

 浜松町駅の南西側の出口である金杉橋口周辺部は、路地裏風情の残るひなびた佇まいで、“裏浜松町”といった感じがするうら寂しい一角であるが、芝方面のオフィスビルに通うビジネスパースンたちの通り道になっており、朝夕の通行量は多い。そうしたいわば盲点となっていた立地に着目し、繁盛店として勃興する町場の店が現れている。

 第2次もつ鍋ブームの立役者の1つである「博多もつ鍋焼酎酒場 もつ福」は、そのような先見性のある典型的な成功例であろう。

「もつ福」は浜松町店のほかに、西新橋、赤坂6丁目、丸ビル、川崎と計5店あるが、2004年10月にオープンした1号店の西新橋店に次ぐ2号店が浜松町店となる。オープンは05年5月。


「もつ福」 外観


「もつ福」 店内

 西新橋の1号店がブレイクしたきっかけは、05年2月に情報バラエティ番組「王様のブランチ」で放送されたことだが、浜松町店は行列店となった勢いをそのまま伝える、西新橋店より18席多い98席というかなりの大箱だ。

 浜松町店もオープンと同時に行列店となり、いまだに満席で入れないほど込み合う日もあるほどの人気ぶりだ。平日は1.2〜1.3回転、金曜日に関しては2回転くらいする。日曜日は休んでいる。

 顧客はサラリーマン中年層が中心だが、30歳前後の女性も増えており、多い時は半分くらいが女性客だ。客単価は4200円ほど。

 神社かと見間違いそうなインパクトのある店構えもさることながら、もつ鍋ともつ焼を融合した斬新な業態であったこと、塩味のもつ鍋を出した初の店であったことなどが、「もつ福」が繁盛店に君臨し続けている要因と考えられる。

「もつ福」をはじめ第2次もつ鍋ブームで台頭した店の勢いが全般に衰えていないのは、以前と比べてもおいしい店が増えただけでなく、「豚骨ラーメン」、「水炊き」などといった、九州、特に福岡あたりの食文化の東京での浸透もあるのだろう。同店では今も昨対を上回る売り上げを計上する月もあるほどで、1月はそうだったという。

 看板のもつ鍋は、「海の神(塩)」、「山の神(味噌)」、「火の神(チゲ風)」、「風の神(しゃぶしゃぶ)」と4種類あり、いずれも一人前990円ともつ鍋屋にしては価格もリーズナブルだ。福岡で主流である醤油味は、競合店が多いのであえて出していない。また、「もつ福」では、福岡のもつ鍋が小腸のみを使ってこってりした味わいになるのに対して、ハツ、センマイをも使ってあっさりながらもコクのある味に仕上げている。こうした工夫もリピート率が高い理由となっている。


「もつ福」 もつ鍋「海の神」


「もつ福」 酢もつ(451円)

 もつは新鮮な和牛の朝採りを特別に契約した仕入れ先から調達しており、「もつ刺し」をメニューとして出しているほどだ。また、「牛すじどて焼き」、「ればかつ」など単品メニューも充実しており、顧客を飽きさせない工夫がなされている。お酒は焼酎を中心に推している。

 内装は昔の庄屋がイメージされており、天井が高く桟敷のような大広間にテーブル席が並んでいて壮観だ。まず、骨董屋から建具を購入してきて、その寸法に合わせて内装を起こしたというこだわりの空間である。

 今年は集客が落ちる5〜10月の夏場対策として、去年は7月から投入した醤油ベースの牛のアキレス腱、豚足、鶏ガラなど数種の材料から丸一日かけてコラーゲンを抽出した醤油味の「コラーゲン鍋」を1月の終わりより投入。女性に好評という。

 5月よりおすすめメニュー10品ほどをさらに投入、8月はビール飲み放題を予定しているが、1年を乗り切るノウハウが蓄積されてきており、店としての成熟度が高まっている。このまま、金杉橋口の老舗として語り継がれる店になっていってほしいものだ。


飛騨牛、地魚、名古屋めしと名古屋ムード満点の店

 浜松町駅金杉橋口近くで昨年3月にオープンした「井門浜松町ビル」は6層の飲食ビルになっていて、地下1階が炙り焼とそば「夢やぐら」、1階が沖縄料理とホルモン「琉球ホルモン」、2階が地鶏の鉄板焼・鍋「元祖なにわ 繁盛どり」、3階が「元祖もつ鍋 博多屋」、4階が「飛騨牛と豊浜港直送鮮魚 心月」、5階がシミュレーションゴルフバー「Golf&Bar LINKS」と、なかなか面白い店が集積している。


飲食店を集積した金杉橋口の井門浜松町ビル


飲食店を集積した金杉橋口の井門浜松町ビルのテナント

 そのうちの4階にある「飛騨牛と豊浜港直送鮮魚 心月」と5階のシミュレーションゴルフバー「Golf&Bar LINKS」は、名古屋の飲食企業KRCコーポレーションが経営している。

 KRCコーポレーションは、「炭焼ぶた丼 豚郎」7店、和風居酒屋「心月」3店、「SOY DINING 豆々」3店、「Golf&Bar LINKS」3店と、計16店を、名古屋、東京、大阪、浜松、横浜で展開しており、東京での店舗数は名古屋と並んで5店舗と最多となっている。最近東京では名古屋の飲食企業に勢いがあるが、同社もそうした企業群の1つである。

「飛騨牛と豊浜港直送鮮魚 心月」は、岐阜県飛騨地方の黒毛和牛「飛騨牛」を産地と提携して仕入れており、最上級A5クラスのリブロースを使った「飛騨牛しゃぶしゃぶ」(2人前より、3000円〜)が売りの1つ。そのほか、飛騨牛のサーロインステーキ、カルパッチョ、カレーライスなど、多彩なメニューが楽しめる。


「心月」 カウンター


「心月」 座敷

 また、愛知県産を中心とした新鮮な魚介類もメニューの柱で、日替わりの「お刺身盛り合わせ」(1200円〜)をはじめ、焼き魚、あさりの酒蒸し、サザエの壷焼きなど旬の味覚が味わえる。

 3つ目の柱は、いわゆる“名古屋めし”で、「手羽先の唐揚げ」(500円)、「味噌串カツ」(3本580円)、「石焼ひつまぶし」(980円)、「天むす」(2個480円)、「海老フライ」(2本1200円)などといった、東京でもおなじみの名古屋の郷土料理が一堂に集められている。


「心月」 飛騨牛ほうば味噌焼き


「心月」 大あさり浜焼き


「心月」 ひつまぶし


「心月」 天むす

「飛騨牛と魚介類、または名古屋めしと魚介類といった組み合わせで注文されるお客様が多いですね。本場の味を出していますので、中京地域出身の人もたくさんいらっしゃっていまして、スタッフと地元の話で盛り上がることもあります」と、同社第三営業部・藤井篤部長。

 ドリンクは50銘柄ほどをそろえた焼酎(500円〜)がメインで、愛知、岐阜、三重の地酒、ウィスキー、酎ハイ、カクテル、各種ソフトドリンクと揃っている。

 席数は72席あるが、カウンター、半個室、掘りごたつの座敷と、シーンによって使い分けられる。BGMはジャズを流す。

 顧客層は30代後半から40代のサラリーマンが中心で、男性が8割を占める。隠れ家的な雰囲気が全般にあることと、ボリュームのある食事が男性に受けている模様で、リピート率も高いのだという。

 平日は平均で1.5回転ほどと集客は好調。客単価は4000〜5000円である。日曜日は休みとなっている。


浜松町を基点に全国チェーンを目指すゴルフバーも

 一方で、5階の「Golf&Bar LINKS」は、KRCコーポレーションとしては初のシミュレーションゴルフバーであり、この浜松町店出店後、昨年6月名古屋の名駅に、さらに昨年11月には六本木に、出店を行っている。

「近辺に居酒屋はたくさんありますが、2軒目、3軒目に行く店がなかなかなかったというのが浜松町に注目した理由ですね。確実にプレーしたいと望まれる人は、予約をして来られます」(同社ゴルフバーリンクス統括マネージャー・波岡氏)。


ゴルフ&バー「 LINKS」 シミュレーションゴルフのブース

 店内には網で区分した3つのブースがあり、コンピュータで操作されたプロジェクターより白い布状のスクリーンに写し出された、バーチャルなゴルフ場のグリーンに向けて、実際のゴルフボールをクラブで打って、スコアを競う。料金は1時間6000円で、15分延長するごとに1500円が加算されていく。

 クラブ、ボール、シューズといった道具は、すべてレンタル無料だ。

 1日の来店数は40人ほどで、水曜、木曜、金曜は19時頃から終電くらいの時間まで賑わっている。土曜日は練習場で打ちっ放しをしてきた人が立ち寄って、ラウンドをして帰るケースも見受けられるという。

 バーの飲食エリアはカウンターとテーブル席に分かれており、全部で35席ある。全般にリゾートをイメージしたテーブル席にはスクリーンが設置されており、ゴルフやサッカーの映像が流される。席数は35席。

 深夜3時まで営業しており、金曜のみ5時までの営業となる。日曜は休みだ。

 顧客は30代のサラリーマン、OLが中心で、男女比は7:3で男性が多い。

 客単価は4500円ほど。ドリンクはやはりビールが中心だが、40代以上ではスコッチウィスキーの人気が高く、カクテルではジントニックのようなスタンダードなものがよく出る。

 現状ではまだ、シミュレーションゴルフバーの存在自体が珍しがられているような状況だが、「将来はFCで全国展開を考えていますし、海外にも進出したいです。ダーツバーのように、どこにでもあるものにしたい。六本木店は浜松町の倍の6ブースありますが、まだ左打席で打つ人には3店とも対応できていないので、それも解消していきたい。昼間にはレッスンプロを入れてゴルフ教室を開くことも検討しています」(波岡氏)と、同社のこの業態にかける思いは大きい。


同時多発的に勃興する浜松町・大門のレストラン群

 以上、ざっと浜松町・大門の新しい飲食を、目ぼしい店の店舗取材を通じて見てきたが、山手線より浜側の「ハマサイトグルメ」に限らず、山手線内側の駅北エリア、金杉橋口エリア、国道15号線を渡った向こうの芝大門町エリアと、同時多発的に新しい感性の飲食が勃興している図式が見えてきた。


「オレたちの地鶏家」 芝大門の元祖路地裏グルメと言われる

 しかし、土曜、日曜、祝日の集客では、すぐ近くに「四季劇場」と「ポケモンセンタートウキョウ」を擁する「ハマサイトグルメ」が有利な状況にあり、平日の集客までは届かないものの、スタート時に予測した以上の来店数を確保している。

 また、芝大門地区も増上寺、芝公園、東京タワーに近く、店のアピールの仕方によっては観光ニーズを掘り起こすのは可能のような感がある。この地区は港区役所が近くにあるほか、ところどころ再開発のビル建設も見られ、門前町の古さと高層ビルが共存する面白い地域で、今後の発展性も十分だろう。

 一方で、駅北エリアでは「七食の塔 ムーンストリート大門」が日曜、祝日を休んでいる店が多いように、全般に休日の集客に苦慮している。この飲食ビルは少し浜松町にしてはおしゃれ過ぎる面があり、店による格差はあるのだが、全店を通して見ると「ハマサイトグルメ」各店に比べれば顧客の入り方は7〜8割といった様子のようだ。

 すぐ裏に昨年12月にオープンした「ちりとり鍋 はまじろう」などのほうが、もつ焼老舗「秋田屋」の連日、道に顧客があふれかえる繁盛ぶりを見ると、地域に合っているような気がする。


「ちりとり鍋 はまじろう」

 ただし、5月には「汐留ビルディング」に、「バーバリー」などの高級ブランドを販売する大手アパレル、三陽商会の本社ビルが移転してくる。もちろん、海外のデザイナー、バイヤーなども出入りするようになるだろう。

 これまで浜松町に少なかったおしゃれなビジネスパースンが、大量にやってくる。その時に「七食の塔 ムーンストリート大門」のラインナップが生きてくる可能性があるので、まだこの施設の成功が難しいと判断するのは早計に思われる。5月以降の動向を注視したい。

 金杉橋口エリアは一見寂しく見える地域だが、芝方面に通勤する人たちの朝、夕の通行量が多い。そこを見抜いて低い家賃で繁盛店を築いた「もつ福」の慧眼は、賞賛に値する。

 しかも、「もつ福」の店員は連日のように夕刻に街頭でビラ配りを行い、集客に非常な努力をしていることは、近隣の店舗の店員の証言からも明らかである。メニューやコンセプトの良さもあるが、それだけで繁盛しているわけではないのだ。

 もっとも、駅の目の前に一昨年5月に恵比寿や丸ビルにも系列店がある、和食居酒屋「青柚子」ができたあたりから変化の兆しは見えていた。「井門浜松町ビル」も、改装される前は「第八飯場丸」というかなり繁盛していた、いけすのある居酒屋だった。


金杉橋口にある「青柚子」

 だが、休日に関してはゴーストタウンのようになってしまうので、かなり集客は難しいと思われる。

 こうして見ていくと、全般に勢いのある浜松町・大門の飲食であるが、個々の繁盛店レベルではなくエリアで見ると、週末、休日の集客が意外に良いことから、「ハマサイトグルメ」が他地区を一歩リードといったところだろうか。


【取材・執筆】 長浜 淳之介(ながはま じゅんのすけ) 2008年3月5日