
・エイチワイとの出会いは、一生の幸運
本間氏は2008年2月にエイチワイシステムに入社したばかり。セラヴィ傘下から08年2月にヴィア・ホールディングスに営業譲渡が決まった「北の家族」に20年間勤務。東京・銀座のセラヴィ「遊邑楽座」物件を、エイチワイに造作譲渡したのが出会い。今の北海道郷土料理「函館」だ。
「エイチワイシステムは、『47都道府県47ブランド47地方活性化』という飲食業界のどこもやったことのない試みにチャレンジし、実現しようとしています。こんな経験は一生の中でできないことと思いました」と入社動機を語る。
「入社して3ヶ月間は、現状把握に努めました。正しい数字が出せる社内インフラを、まず整備したい。それを基にお客様にさらに喜んでいただける具体策を実行していこうと考えています。3ヶ月が終わる5月下旬から、改善のための施策を実施していきます」と本間氏。
北の家族で3代の社長に仕えた経験から「営業本部長という立場は、自分にとってこれ以上ないステージ。社長(オーナー)に比べてリスクが少ないにもかかわらず、社長と共にチャレンジしたことがノウハウになっていく。飲食店運営のプロ中のプロが営業本部長です」と本間氏は胸を張る。

出会いのきっかけとなった「函館」の名物、活け蟹しゃぶ
・「北の家族」入社
山形県酒田市で生まれた本間氏の飲食との出会いは、地元の有名フレンチ「ル・ポット・フー」。日本海の魚介をフレンチで調理し、地酒「初孫」と一緒に楽しませるユニークな店。岩牡蠣にレモンを搾ったり、平目をカルパッチョにして、日本酒に合わせる。前都知事の青島 幸男氏がわざわざ食べに来たという。親に手に職をつけることを勧められ、彼はその厨房で修行。
1年後、東京に夢を見て上京。そしてアルバイトを始めたのが「北の家族」。その創業者、神彰(じんあきら)氏は、有名な興行師。ボリショイバレー団の招聘など共産圏に強い呼び屋で、作家の有吉佐和子と結婚。晩年に始めたのが、居酒屋「北の家族」の経営。
当時、まだ20店の規模だが、どんどん出店を続けていた。バブルが弾けて居酒屋ブームが到来した時代。「村さ来」や「庄屋」が元気だった頃。「アルバイト店長をやってみろ」と言われ、本間氏は20才で店長を任される。55坪の町田店は、月商2千万円も売った。そして、「北の家族」を経営するアートライフの社員となる。
その後、アートライフは店頭公開を果たし、店舗数は40店を超え、本間氏は27才で担当エリアを任され営業部長となる。
・KB、セラヴィ、ヴィアに転売
創業者の神氏には有吉佐和子との間に娘がいたが、後継者はいなかった。財産を娘に残したいと「北の家族」を九州の冷凍食品メーカーを中心とするKBグループに売却。本間氏はここでイトーヨーカ堂出身の社長、役員のもと、仕組みづくりや計数管理を叩き込まれた。
メニューを絞り込んだり、原価率下げるために冷凍食品を使ったり、グループ間で食材を共有したり…KBグループが行った、外食を冷凍食品の流通の型にはめようとした居酒屋経営の仕組み、システムは先進的だった。例えば、今はジャスダックに上場するジャストプランニングの情報管理システム「まかせてネット」は、この頃の「北の家族」がベースとなり生まれたものだ。またある商社と組んで産直が全店に配送される仕組みを作ったりと、当時としては業界最先端のノウハウが導入された。
しかし次々と行った施策がことごとく裏目に出た結果、KBグループは倒産。子会社の「北の家族」も民事再生法を申請することになり、本間氏は店頭公開と倒産の両方を経験することになった。
そして、セラヴィリゾートがスポンサーとなる。池袋の300坪の食べ放題店「フォーシーズン」をセラヴィの「ロックアップ」に売却したのが契機。ここで「北の家族」社長として、大和実業で20数年役員を務めた林俊二氏が登場。本間氏は、取締役営業部長として、ナンバー2を務める。
林社長はスパルタで商売に妥協しない。できていないことは徹底的にリーダーを叩いたそうだ。「バカな大将、敵よりこわい!」が持論。誰よりも商売熱心で、休みの日でもよく本間氏に電話を掛け「今、テレビをつけろ。この料理面白い。これ店でできるか?」と聞いてきたという。そんな林社長のもと、本間氏は飲食店の原点を学んだ。
林社長の時代に全店個室に変え、出店を増やし、業績が改善した「北の家族」だったが、しかし他事業の業績の影響もあり、外食と印刷事業を展開するヴィア・ホールディングスに2008年2月に売却されることに。これを期に本間氏は「北の家族」を退社し、エイチワイシステムに転職した。
・PLはお客様の声
「PLはお客様の声」が本間氏の口癖。「お客様の声は全てPLに反映される。お客様の反応は必ず売上、経費、原価率といった数字に現れる。数字の変化はお客様の声。数字が悪化するということはお客様に相手にされていないということ。数字の変化の裏側を深く考えることが大切なのです」。
「でも、細かい数字を追いかけるつもりはないんですよ。どれだけ儲かったかがわかればいいのですから。そのプロセスとしてあるのが数字なのです。例えば売上が減ったら、まずは来客数が減ったのか、商品の買取点数が減ったのかなど数字を調べる。それからなぜそうなったのかを仮説を立て、その仮説が正しいかを現場に行って確認します。数字をもとに問題点を正しく把握し、改善することが大事なのです」という本間氏自身を動かす根幹になっているのが、以前、林社長から叩き込まれた『異常値がすぐに発見できなければ、経営はできないぞ』という言葉だという。そこから数字を基に理論的に分析し、対策を立てるという現在の本間スタイルが確立されたのだ。

「函館」店内。奥の水槽には活け蟹。

「函館」 テーブル席
・プライドはうぬぼれ、自信は過信、親切は甘やかし
今までナンバー2として様々な名社長と働いてきた経験を基に本間氏に社長との付き合い方を語ってもらった。
「社長の発っした言葉を深く深く考えます。例えばメニューをいつまでに変えろという指示が出たら、なぜこの時期にそんな指示をだしたのか?自分なりの解釈をします。そして『メニュー改定の目的について自分の考えでこう読みましたが、合ってますか?』、『よし、合ってるよ。よくここまで分かったな』となるとモチベーションも上がります。反対に『そうではなくて、実はこういう考え方なんだよ』と言われると、こんな考え方もあったのかと視野が広がりますし、新たな引き出しが増えるから仕事もレベルアップする。結果、自分自身のスキルアップになるわけです」
「先日テレビを見て『プライドはうぬぼれ、自信は過信、親切は甘やかし』という言葉をきいてなるほどと思いました。まさに営業トップとしての大切な心構えだと思います。ヘタなプライドは足かせになりますし、自信も、ともすれば過去の成功体験が過信になってしまう。やさしい上司と思われるだけで部下に言うべき事をきっちり言えないと、それは甘やかしになる。これでは部下にとっても、会社にとっても成長要素ゼロですからね」
・相手をよく知れば部下は動く
部下の動かし方も心得ている。「店長を中心に巻き込みます。自分のプランの落としどころをつくった後、その考え方を納得するまで説明して周りを巻き込みながら進めていきます。巻き込む一番は店長と料理長。実は自分の中で既に絵を描いているけれど、それを彼らにリードさせる形で自発的にやりたいと思わせることが大切です。」
しかし、皆が理解してくれる訳ではない。「まずは理解できるスタッフと実績を作り、それを周りに見せるんです。あっちでなんだか楽しいことをやってるぞと思わせ、段々こっちに引き入れていくんですね」
本間氏は、職人気質の人材が集まる調理部門スタッフの巻き込みもうまい。そのコツは、最低限の調理の知識とその料理ができあがるプロセスをよく知っていること。「例えば以前エイチワイシステムに入る前に、イカの丸焼きとゲソ揚げのメニューがありながら、ゲソが捨ててある店があったんです。そのくせ、粉まで付いたゲソのパックを発注して使っている。最低限の調理知識があれば『仕込みが大変なのはわかる!でも、そんなものを仕入れていれば材料費は高くなるよ、もっと工夫しようよ』といえるわけです。」
「料理人にとって一番の苦労は、食材から商品に仕上げるプロセスなんですね。そこをきちんとわかったうえで評価すれば、相手も胸襟を開いてくれます。逆に知らないことは素直に料理長に聞けばいい。信頼関係とコミュニケーションを大切にしたうえで、商売の基本である給料はお客様からもらっているんだということを説明すれば、どんな頑固な料理人も必ずわかってくれますよ。大切なのは、相手を同じ目線で評価できること。これができて初めて指導ができるのです。」

「函館」 せいろ蒸し

「函館」 函館名産活烏賊刺(4900円)

「函館」 羅臼産きんきの湯煮(3800円〜)

「函館」 羅臼産鮭児(3800円)
・営業本部長は店舗運営のプロ中のプロ
「営業本部長とは、飲食店運営のプロ中のプロ」というのが本間氏の持論である。それには、飲食店経営のすべてを把握しなければ務まらない。「何事も興味があると見え、興味がないと見えない。例えば僕は看板に興味を持つと、駅から店まで何個看板があるのかな?と数えたりするんですよ。そんなことするヤツも珍しいでしょ。とにかく興味がつきないんです。あれも知りたいこれも知りたい。それが結果的に私のノウハウになっているんでしょうね」
トップとの関係性も明確だ。「営業本部長は、社員にトップの考えをそのまま伝える伝言板ではダメです。トップの考えを自分なりに理解し納得したうえで部下に伝える。理解できなければできるまでトップに聞く。納得できなければ自分の考えを提案し、お互いが納得し合えるまで話します。」
エイチワイシステムの安田社長とも、休日でも1日に何度もメールや電話でやりとりをしていると言う。「安田社長とは、今までのトップとの関係のなかでいちばん距離が近いですよ。私の考えや意見を忌憚なく言えますし、社長もよく聞いてくれます。何より、それに対する答えが早いですね。信頼してもらっているからこそ、私も全力を発揮できるのだと思っています。」
「47都道府県47ブランド47地方活性化」に向けて、エイチワイシステムをさらに強い組織に進化させる凄腕の営業本部長が現れた。
