フードリンクレポート


接近戦接客で大手チェーンに勝つ!
平渡 淳一氏
株式会社インターブレインズ 代表取締役

2008.6.4
コンサルティング会社が飲食店経営に乗り出すと上手くいかない、とよく言われる。しかし、インターブレインズ平渡社長はベンチャーリンク出身ながら、現在は軸足を居酒屋「ねじべえ」「赤ちり亭」の本部・店舗運営に転換して成功。空き物件が増えてきた街場でパートナー達とともに続々出店を計画している。


「ねじべえ」 元祖鶏ちゃん焼 1人前580円

3業態、30パートナー、100店舗

 インターブレインズは平渡氏のベンチャー・リンクなどでの経験を生かし、FC本部の支援コンサルティング会社として2002年10月に設立された。そして、06年7月の「元祖鶏ちゃん焼の店 ねじべえ」渋谷センター街店を営業譲渡により取得してから、コンサルティングに加えてライセンス本部運営も同時に行うようになった。

 5月現在、「元祖鶏ちゃん焼の店 ねじべえ」を直営で7店舗を経営し、FC本部として加盟店8店を束ねる。さらに、「とうがらし料理 赤ちり亭」を直営で5店舗、FC本部として加盟2店舗を展開している。6月以降も物件を押さえ、毎月開店の予定だ。

 平渡氏は直営、FCに拘らない。まず、自分たちで直営して軌道に乗った段階でパートナー企業に譲渡する。フランチャイジーを「パートナー」と呼んで共に繁栄することを目指している。「長い付き合いをしたい。大きくなる手伝いをしたい」と平渡氏。丈とした後、業績が悪化した場合はインターブレインズが買い取って再生させることも予定している。さらには、独立したい社員に運営委託・店舗譲渡を行う。資金調達のノウハウも教えて個店で終わるのではなく多店舗運営できるパートナーに育て上げる計画だ。

 5年後の目標は、パートナー30社で直営・FC合せて100店舗を展開すること。その為には、現在の「ねじべえ」「赤ちり亭」の2業態に加え、もう1業態を加えたいという。


「赤ちり亭」 赤ちり鍋1人前840円


コンサルから直営に転換

 平渡氏はベンチャー・リンクに出身。当時は、サンマルクが上場したばかり。FC支援がマーケットに評価された。レインズが始まって、タスコが始まった。同社は開発部隊としてひたすら店舗開発を行っていた。スーパーバイジングには未だ手をつけてない時代。 FCの立ち上げ方を間接的に学んだという。

 その後、28歳でベンチャー支援企業の雇われ社長に就任。生活密着産業を支援しようと外食に的を絞った。店舗開発や資金調達のサポートを行っていた。当時の外食バブルとも相まってメディアにも取り上げられ時の人となる。そして、2年後の30歳で独立する。

 元来「企業を大きくしたりサポートする仕事をしたい」と思っていた平渡氏は、FC本部支援コンサルティング会社としてインターブレインズを02年10月に自己資本で設立。外食企業には店舗を運営するスタッフはいても本部スタッフはいない所が大半。店舗開発や店舗管理のできるスタッフはいない。その部分を代行していた。

 06年7月に「元祖鶏ちゃん焼の店 ねじべえ」渋谷センター街店をFCオーナーから買収してから直営が始まる。

「リアルコンティングを目指しています。自分たちでまずやって成功したら実績をもって皆に教える。コンサルタント時代はFC本部の社長に教えてもらった方がリアル。実業している人から学んだ方が早いというのが若いころの教訓です」

「しかし、会社を作った時はお金がなかった。店舗以外の収益がないと怖いなと思っていました。店舗以外で1億円位もってこれたら店をやろうと決めていました。そして、4年後の06年7月にようやく店がもてたんです」

 同年8月には「赤ちり亭」大森店を同じくFCオーナーから買収。共に赤字店を繁盛店に変え自信を付けて直営店舗を増やしていった。「ねじべえ」大門本店は6年経つが、昨対比で現在も少しずつ上がり続けているという。

「収益店舗には3つの要素があります。物件や資金調達というハード力が4割、のれんやメニューなどブランド力は3割、店舗運営や販促などソフト力が3割です」と平渡氏。

 ハード力、ブランド力、ソフト力の3つを社内で役割分担。FC本部経営者のエキスパート達が平渡社長の脇を固め、出店スピードアップに貢献している。そして、年内は直営で毎月出店の計画だ。

「ねじべえ」ロゴ


「ねじべえ」大門店 店内


個性の出せる自由裁量付きFC

 インターブレインズは、現在、「ねじべえ」と「赤ちり亭」の本部だ。「ねじべえ」はかぶらやグループから06年12月に営業権を取得。「赤ちり亭」は未知インターナショナルから08年4月に営業権を取得した。同社は本部として直営・FC運営を行っている。

「ねじべえ」は酒類、「赤ちり亭」は食事のウェイトが高い。「ねじべえ」はサラリーマンに元気になってもらう店。「赤ちり亭」は深夜営業を行わず、週末には家族連れも来る。

 共にライセンス販売でFC店を開拓してきた。しかし、「ライセンス販売は本部が楽をしたいのが実態。ある程度のサポートをしないと繁盛店にはならない。放っておくとダメになる」と一時流行したライセンス販売を批判する。

 しかし、ライセンス販売にも良い点があると、平渡氏は語る。

「投資の高いFCを経験したのでもうFCはやりたくない、かといって自社業態は怖い。自社業態に行く前にFCよりも縛りがゆるくて、成功要因があるものをやりたい。自分のカラーも出したいというオーナーはいる。外食に思い入れのある方々です」

「ライセンスは自由裁量できるから楽しい。個店感がありスタッフも愛着を持つ。また、同じ業態でも立地によって客層が異なる。客層が違うのに同じメニューでよいのか。センター街は美容師さんとか女性が多いので梅酒、デザート、トッピングにチーズなどを用意。新橋は毎日安く飲みたいサラリーマンが多いので、濃い目のサワーや安い焼酎を品揃えし、それに合うおつまみを用意。市谷は可処分所得の高い方が多いので銘柄焼酎を用意した方がいいでしょう」

 ブランドとデザインは統一し、ロイヤルティは3%として日々支援していくが、指定メニュー以外はある程度自由にメニューを決めても良いという、言わば自由裁量付きFCの展開を始めようとしている。

「赤ちり亭」ロゴ


「赤ちり亭」大森店 店内


販促不要の「接近戦接客」

 平渡氏は08年2月に「顧客接近型サービスを提供する居酒屋の事業化」というテーマで論文を書き、東京都知事から「経営革新計画」の承認を受けた。金利が低くなったり、保証枠が増えたりする恩恵が受けられる。

「チェーン居酒屋は効率を求めてコックレス。お客様は面白くない。食材での勝負も飽和感がでてきた。お客さんとのふれあいを求めないと小さい居酒屋は生き残れない」

「『ねじべえ』業態を作るとき、お客様の目の前で焼いてお客様と2〜3分話をする仕組みを考えた。チェーンではご法度の手法です。普通なら厨房で焼いて出すか、オープンキッチンで焼く。人件費が高くなると言われた。しかし、逆張りしてディープにお客さんに近づいた方が強いだろうと判断。1年間、大門店でやって成功しました。確かに、人件費は高くつくが、販促費がかからなくなります。リピーターが増えて、割引が不要になる」

 最初はスタッフのためにお客とのトークを考えた。鶏ちゃん焼には塩、タレ、味噌の3種の味があり、平均3種の内2種を食べる。2回目の来店時には「前回何を食べましたか?」と話しかけ、3種食べてもらってその人の好みを聞いて深く落としていく。

 大手居酒屋チェーンの中に、ぼっと出店しても勝てる自信があるという。

 大門店のFL比率は56%。人件費率は28%もかけているが、10年以上続く息の長い店を目指している。


低価格専門居酒屋を追及

「長い商売したい。短命のチェーンではなく、ベタな店で10年続けたい。とうがらし、鶏ちゃん焼きなどブームではない専門料理を追いかける。それを、直営店で検証して長く続けられるようなら皆さんに紹介したい」

「直営店を沢山つくりたいとういう気持ちはありません。加盟店は物件を取れないので、本部で契約してあげる。但し、将来加盟店さんに譲る場合もありますよと特約事項を付けることを大家さんに納得いただいて出店している」

 できるだけ低投資で出せる物件を探している。FC本部全盛期には出店数を稼ぐため家賃の高い物件にも手を出していた。いくら繁盛しても赤字になる店を増やしていたのだ。

「内装にこだわる必要がないのが専門料理。内装に高い金をかければ、回収しなければいけないという店側の都合が前面に出てしまう。専門店の方が強い」

 平渡氏のところに加盟店開発代行会社からの売り込みが数多くあるという。「まずは自分で1店繁盛させてみろ」と追い返す。コンサルタント会社が飲食店の直営に乗り出すケースがあるが、なかなか上手くいってない。コンサルティングがメインで飲食店経営が副業となってしまっていることが一因だ。インターブレインズは軸足を完全に飲食店経営に移し、成功した実績をもってFCオーナー(パートナー)を支援するという「リアル・コンサルティング」を実践している。



平渡 淳一(ひらわたり じゅんいち)
株式会社インターブレインズ 代表取締役。埼玉県出身。1971年生まれ。株式会社ベンチャー・リンクなどでFC本部のノウハウを学ぶ。2002年10月にFCコンサルティング会社としてインターブレインズを設立。06年7月に直営1号店をスタートさせ飲食店経営を軸足とした「リアル・コンサルティング」にシフト。

株式会社インターブレインズ http://www.interbrains.co.jp/

【取材・執筆】 安田 正明(やすだ まさあき) 2008年5月15日取材