・「中華の頑固職人のオヤジを見返してやる」
鈴木氏の実家は東京都町田市で30年近く続いた中華料理店。大学卒業後、伊勢丹に就職し花形の婦人服売り場に配属される。しかし、そのまま組織の中で上がっていくのを迷い始める。5年目に父親が病気になったのを機に実家に戻り、自分で商売する道を選んだ。
周囲にチェーンが出店し改革しなければ老舗だけでは勝てないと鈴木氏は思い、店数を増やして新しいことをやりたいと考えるようになる。しかし、店を守っていこうとする頑固職人の父親と合わず、5年後には実家を飛び出した。
「自分で店を作ってオヤジを見返してやろう」として出会ったのが、田代社長。当時は、田代コーポレーションとして不動産業がメイン。副業としてラーメン・中華店「無邪気」を5店舗展開しており、そこで働きながら独立を目指そうと考える。
しかし、ラーメン店で働いたのは1ヶ月のみ。田代社長が立ち上げた、スーパーの店頭で中華総菜を販売する、催事という仕事を1人で任される。朝、車に屋台を積んで東急ストアやいなげやの店頭で屋台をおろして惣菜を並べる。売上は1日に1〜2万円、最高でも10万円で人件費も出ない。工場を建て大量生産し、スタッフを大量に雇わないと採算に乗らないビジネスと分かり撤退。ラーメン店に戻った。
・トラスト方式誕生
1997年に不動産業からラーメンチェーンを切り離して分社化し、ムジャキフーズが誕生した。当時8店舗あった「無邪気」をラーメン店チェーンとして展開するのが目的。鈴木氏は現在の内海常務とともにラーメン店経営、店舗拡大に奮起した。
「無邪気」は自店で仕込む。レシピもあり同じ食材を使っていたが、水が違うだけでも味が異なりお客からクレームが出始めた。解決策を考えているとある店長が俺に任してくれと言いだした。そこでひらめいた。
「人が作るから違って当たり前。屋号を1店1店変えてやっていこう!」1店舗1オーナー主義が誕生する。
「セントラルキッチンにする考えはあったが、これからはチェーンの時代ではなく個の時代になると田代社長が判断しました。店をやりたい人を集めてその人にしかできない店を作っていく。うちの強みになるのでは」と鈴木氏は胸が高鳴ったという。
「自分の店だと思い入れが違う。自分で味を会社に提案してそれが通って店長になれる。店に愛着もわくし、売れないと自分の味がおかしいと言われるので必死でがんばる」はずだった。
しかし、当初は1店舗1オーナー主義と言えども、店長はムジャキフーズに勤めるサラリーマンだった。歩合制ではないため、売上が悪くても良くても給料がもらえる。また、売上を伸ばしている店長は不満を持つ。
そこで誕生したのが、トラスト方式。社員ではなくオーナーにしようと、2006年1月からスタート。「雇われではなく、個人事業主として業務委託で店をやれと20店の店長に言いました。結局18人がオーナーになってくれました」
・チャレンジャー、大将選挙
独立希望者「チャレンジャー」はまず、ムジャキフーズの社員となり、直営店舗で板長(店長)やスタッフとして働く。そして月に1度開催される大将選挙で自分の企画を提案する。審査するのは先輩オーナー達。合格すると、自分の企画で自己資金なしで自分の店が持てることになる。その際には退社して社員からオーナーに変わる。
物件はムジャキフーズが所有し、運営はオーナー。2ヶ月連続で目標売上や前年売上を割るとイエローカードの改善命令が出される。3ヶ月目で改善されないと今度はレッドカードの通告となり、契約解除だ。オーナーのいなくなった店は次のオーナーが決まるまでムジャキフーズの直営店となり、新しいチャレンジャー達の修行の場となる。
その道で10年以上極めている人は社員を飛ばして、取締役に企画書を提案するチャンスもある。最初からトラスト契約を結ぶ店も増えている。
現在60店舗。内7割がオーナー店。3割がオーナー待ちの直営店。オーナー待ち店は本部のルールやマニュアルを守って前年をキープすることだけを念頭に社員に運営させている。
しかし、社員全員がオーナーになりたいと思っている訳ではないという。実際にオーナーを見て そのレベルの高さに挫折する人も多い。同社の従業員は約400人だが、チャレンジャーは約半分だ。
・A契約オーナー、B契約オーナー
トラスト方式には現在、A契約とB契約の2種がある。
A契約は、オーナーのもとへスタッフとしてムジャキフーズの社員やアルバイトが配属される。B契約ではスタッフはオーナーが自分で求人し、雇用し給料を払う。B契約の方が自由度が高く、本部の許可を受ければ仕入れ業者も一部自由に使っても良い。共に、売上は全額ムジャキフーズに計上され、経費の支払いも代行する。
オーナーの報酬面ではA契約は最低保証がある。B契約にはない。A契約ではオーナーが管理する経費を予め独自で決めており、売上と経費のコントロールにより、歩合が更につく。B契約では本部利益は定額で残りが全てオーナーの取り分となる。
当初はA契約だけだったが、オーナーの成長とともにB契約が生まれてきた。現在、A契約は29店、B契約は9店。A契約を経て、自信をつけてB契約に移っていく。
「AからBに変わったある店。以前は日曜定休で、オーナーに日曜は売れるから開けたらと言っても、皆で休んで休養しなきゃと言われました。夜は11時までの営業で、売れるかもしれないからもっと開ければと言っても、皆の事を考えると良くないですと言われました。ところが、Bに変わるととたんに日曜も営業、朝まで営業です。売上がドカーンと上がって、オーナーはとんでもない収入を稼ぐようになりました」と言う。やればやるほど報われることを知れば、人間は変わる。
複数店舗をもつオーナーもいる。但し、「スープが冷めない距離」であることがルール。 オーナーの個性を出した店づくりが信条なので、オーナーの目が行き届く範囲に限定されている。現在は最高で3店舗持つオーナーがいる。
また、ラーメン店以外の業態も約10店ある。同社にとっては未知の世界のため、その道で10年以上の実績がないとオーナーにしないという。
スカウトも行う。「たまたま食事に行った時に独立したくないの?と聞きます。特に和食や洋食は内外装に金がかかり、職人が独立しようとしてもデザインや企画を起こすのは難しい。その際にうちの本部スタッフのノウハウを使えるよ、と口説いたりしています」と、ラーメン店以外はスカウトが大半だ。
「俺のハンバーグ山本」
「久留米ラーメン 鐵釜」
「鮨 伊佐野」
「佐賀牛 金ノ箸」
「女流鉄板Takako」
・独立したい人の夢をどんどん実現させたい
鈴木氏が実家の中華店を出てから弟が父親と店を運営していた。しかし、店を閉めてしまう。「閉める話を聞いたのは3日前です。すぐに駆け付けましたがオヤジとまた喧嘩しました。僕が今あるのはオヤジがいて店があったから。そんな店の看板を守りたいと思っていたので残念でなりませんでした」
「店は人がやるもの。思い入れが強いのが本来の姿。頑固オヤジのやっていた店を企業としてサポートできるトラスト方式に共感しています」と、喧嘩しつつも愛する実家が鈴木氏のルーツだ。
「独立したくても金がない。一人じゃ自信無い人はトラスト方式を利用してチャレンジして欲しい。今、私は会社を大きくするポジションにいます。トラスト方式を企業として広げて、独立したい人の夢を沢山叶えてあげたい」と、自分の天職を見つけた。
ムジャキフーズは恵比寿ガーデンプレイスタワー16階にあり、大企業のような豪華な会議室を構える。「普通の飲食企業は1階が店舗で2階事務所というイメージです。うちは投資会社のオフィスを意識しています。独立したい人が面接に来た時にオッと思わせる。この会社一味違うな。怖いとビビる人もいます。でも、どんな会社なんだろうとますます興味を持つくらいの人でないとダメです」
鈴木氏は好奇心旺盛なチャレンジャーを待っている。