フードリンクレポート


猫と遊べる癒しスポット「猫カフェ」が人気急上昇!

2008.6.27
喫茶店の中で猫を飼い、顧客が猫と遊べる「猫カフェ」なる業態が今年に入って出店ラッシュとなっている。かわいい猫と遊んでいると心がなごむということで、軽いアニマルセラピー効果を持つ癒しスポットとして人気になっている。そこで、猫カフェの魅力と今後の可能性について取材してみた。


「カールアップカフェ」 かわいい猫を見ていると心がなごんでくる

ルーツは台湾、日本の1号店は2004年大阪で誕生した

 猫カフェの源流は台湾にあり、喫茶店でお茶を飲みながら、猫を見たり触ったりしてくつろぐというコンセプトでオープンし、日本人の猫好きの間で話題になっていた。

 特に1998年にオープンした台北市内の「猫花園」は十数匹の猫を飼い、顧客が自分の好きな猫を選べるので反響を呼び、日本からも観光客が訪れる名物店となった。現在、台北とその近郊に猫カフェは10軒ほどある。

 また、日本では95年にオープンした世田谷・二子玉川の「ねこたま」が、2006年再開発のため閉園するまで、併設の「いぬたま」とともに、ペットと触れ合える猫専門動物園として人気を博した。現在は台場にある猫のテーマパーク「ねこたまキャッツリビン」が、後継となって盛業中である。

 そうした前史を踏まえて、日本で最初にオープンした猫カフェが、04年大阪に誕生した「猫の時間」。当初はコンセプトが理解されず苦戦したが、天神橋筋の関西テレビのすぐ前にある立地が功を奏し、テレビの取材が入ったことで一躍、人気店となった。

「猫の時間」は家のリビングのようなくつろげる環境、1時間単位の時間料金制の導入によって、基本的に通常の喫茶店に猫がいるだけの台湾の猫カフェとは異なる、日本の猫カフェのスタイルをつくりだした。

 翌05年には、関東初の猫カフェ、町田の「ねこのみせ」もほぼ同じ考え方で店づくりを行ったため、このスタイルが以降、定着することになる。

 周知のように、喫茶店は単価の低い業態であり、ワンドリンクで長時間粘られると顧客が入って賑わっていても採算的に厳しい。実際、台湾では02〜03年頃、一時猫カフェがブームとなったが、採算が取れないので撤退した店も多いという。

 そこで「猫の時間」や「ねこのみせ」は、顧客にとって第二の自分の家のような付加価値の高い店内環境を整えて、時間単位で料金を取る、ビジネスとして持続可能なシステムを考案した。

 そして、07年3月にオープンした吉祥寺「きゃりこ」が、東京の住みたい街1位とされる吉祥寺にあったことでメディアへの露出が多く、この店が火付け役となって、猫カフェの知名度がアップ。08年1月オープンの秋葉原「ねこ・JaLaLa」オープンは、東京都心部初の店であり、秋葉原で活動するブロガーを通じて、猫カフェ流行の決定打になった。

 では、具体的に猫カフェを訪問して、どのように営業しているのか、見ていくことにしよう。


託児所のような雰囲気を持った、猫カフェのパイオニア

 JR町田駅の裏手にある「ねこのみせ」は、05年6月にオープンした東日本初、全国でも最も早く開店した部類にあたる、斯界のパイオニアの1つである。

 店主の花田憲昌氏によれば、「奥さんが重度の猫好きでして、台湾に旅行に行ったときに猫カフェの猫花園に寄ったのがきっかけですね。私は最初、ペットに興味がありませんでした。マンションに住むと許可されないこともありますし、だったらお店をつくってみたらとアドバイスしたんです。実際に飼い始めてみると、なかなか猫ってかわいいもので、私自身がハマっています」とのこと。


JR町田駅から見える「ねこのみせ」の看板


「ねこのみせ」店内

 店づくりにおいては、靴で猫のしっぽを踏むといけないので、靴を脱いで上がってもらうスタイルとし、採算面を考えて時間料金制を導入した。かつては1時間単位の料金設定だったが、現在は10分150円となっている。このあたりが、普通の喫茶に猫がいるだけの台湾のスタイルとの大きな違いである。

 当時、花田氏は大阪の「猫の時間」の存在を知らなかったが、しばらくしてこの店を訪問してみて、偶然にも同じようなスタイルの店であったので、自分たちのやり方に確信を持ったそうだ。

 最初は自宅から猫たちを店に出勤させていたが、猫たちが移動を嫌がるので店に常駐させるようにした。今度は自分たちが店に泊まるようにしたが、夜行性の動物である猫たちが夜中に運動会をするので、睡眠不足に陥り2カ月で断念するなど試行錯誤を繰り返した。

 しかし、ほとんど誰も見たことがない新しい業態なので、当初顧客の入りは悪く、1日に3人くらいしか来ない日が続いたという。半年ほどして、日経MJ新聞の取材記事が掲載されてから顧客が増え、最近は1日に平日で40〜50人の集客がある。土日は80人ほどに及ぶ。席数は20席あり、猫は12匹ほどが店で飼われている。全席、禁煙である。

 顧客の年齢層は20〜30代が中心。男女比は4対6で女性のほうがやや多く、さまざまな事情により家で猫が飼えない人が多く、リピート率も高いという。


「ねこのみせ」 猫のおやつに喜ぶ猫たち


「ねこのみせ」 猫は店内でリラックスし切っている

 店は全体に託児所のような雰囲気があり、猫の住んでいる場所に行くような感覚。カウンターで入店時間を記したプレートを受け取り、スリッパに履き替えて店内に入る。店内では、猫をなぜたり、眺めたり、猫じゃらしで遊んだり、猫のおやつ(300円)を与えたり、猫の写真を撮ったり(フラッシュ使用不可)、本を読んだり、気ままに過ごして帰る。なお、入店する時と帰る時に石けんで手洗いを義務付けている。

 また、猫に乱暴をする可能性があるという理由で、小学生以下の子供の入場を基本的に禁じている。

 ドリンクのオーダーはしなくても良く、ディスペンサーでウーロン茶、コーラ、ジンジャエールなどをセルフサービスで飲む人は200円。店のキッチンでいれたコーヒー、紅茶を飲む人は350円平均となっている。


「みこのみせ」店内、ドリンクのディスペンサーと手洗い場が見える

 1人の平均的な滞在時間は1時間20分ほどで、顧客単価としては1300円ほどになる。なお、火曜は定休日となっている。


猫と過ごせるリビング風の休憩所を目指した2号店

 このようにカフェといっても、猫と遊べることが主眼で飲食に重きを置いていない「ねこのみせ」だが、毎週金曜日は猫のいる紅茶専門店「みどりのにじ」となり、1時間1500円(ポット紅茶付)〜と料金体系も変わる。

 お菓子やハーブティーなども楽しむことができるので、スペースは同じでももう少しリッチな雰囲気で、本格的な紅茶を味わいながら猫と過ごせる。こうした二毛作店の形態を取っているのもユニークだ。

 今年の3月からは平日の夕方も、「みどりのにじ」店主が店番に入るようになったため、紅茶サービスが可能となっており、飲食店としても面白い方向性が出てきたように思われる。

 また、タロットや西洋占星術の占い師を招いてイベントを定期的に実施するといったことも行っている。

 同店はJR町田駅の真裏にあり、徒歩1分の近さだが、このような好条件の物件がどうして個人で借りられたのか聞いてみた。

 すると花田氏によれば、JR町田駅の裏側は相模原市との市境が迫っており、町田市、相模原市ともに再開発するメリットがないので、風俗店やラブホテルが建ち並ぶ風俗街になっていた。しかし、駅至近の立地が見直され、近年マンションがどんどん建つようになり、風俗店が人目を気にして撤退し出して、借り手のいない物件が界隈に増えていた。なので、非常に安く店舗を借りることができたそうだ。そうした、立地に対する研究も成功できた要因に挙げられる。

 そして今年4月、池袋のサンシャインの手前、東急ハンズ裏手に2号店「猫のいる休憩所299(にくきゅう)」をオープンした。


「猫のいる休憩所299」看板


「猫のいる休憩所299」 エントランス


「猫の居る休憩所299」 広々とした店内


「猫の居る休憩所299」 チェアー席ではLANが引いてありパソコンが使える

 こちらは町田の1号店に比べて、スペースは5倍あり猫カフェでは最大規模、60人を収容する。高級感あるチェアーやふかふかのソファーを置くなど、より居心地の良さが追求されている。「池袋店では目的客の多い町田店と違って、会社の昼休みや買物のついでに休憩に立ち寄る人も多いと思っています。なので、リラクゼーションスペースに猫もいるという感じにしてみました」と花田氏。

 システムは10分200円が基本で、60分900円などのパック料金が幾つか設定されている。そのほか、靴を脱いで入場し、まず手を洗うことなどは1号店と同じである。

 猫は12匹いるが、確かにあまり目立つ感じではない。人生ゲーム、各種雑誌、マンガなども置いてあって、LANを引いているのでパソコンもつなげれば見れる。

「猫のいる休憩所299」では、池袋ではコンビニで買ったペットボトルを持って歩く人も多いことから、飲食物の持込を許可している。

 また、ディスペンサーは置かず、飲み物はオーダー制になっている。値段は200円からあり、バンホーテンココア、蜂蜜スペインティー(ともに350円)などが人気だという。


「猫の居る休憩所299」 猫は店内で気ままに過ごす


オタク文化を味方につけて秋葉原から猫カフェ発信

 秋葉原の「ねこ・JaLaLa」は今年1月にオープンして以来、休日はほぼ満席、平日も時間帯によっては満席になる、行列ができる人気店である。

 12人が定員と空間はあまり広くない。そこに1日あたり50〜70人が来店する。土曜、日曜、祝日に関しては滞在時間を2時間までと、制限を設けている。


「ねこ・JaLaLa」外観


「ねこ・JaLaLa」 エントランス


「ねこ・JaLaLa」 店内

 オーナーの前田修氏は生まれも育ちも秋葉原で、建築・設計事務所を経営しているが、行き場のないペットを保護するペットシェルターが経営破たんしている現状から、何とか路頭に迷うペットを救える方法はないかと考えていた。それには、まずペットを大切にする気持ちを育むことから始めるのが良いのではないかということで、手始めに猫カフェをオープンしたそうだ。

 元々、前田氏は猫を飼っており、事業パートナーの中村氏も猫を飼っていることから、猫カフェの企画はとんとん拍子に進んだという。

「一種の勘ですが、今年の1月中にオープンしないとタイミングを逃すと思いました。以前から猫カフェはありましたが、まだ浸透していなくて、山手線の中ではウチが最初の店です。秋葉原は情報発信力がある街ですし、地元なのでどの通りにつくればいいかは見えていました」と前田氏。

 店は東京メトロ銀座線・末広町駅寄りにあって、人通りは少ない静かな通りだが、近くには人気メイド喫茶の「ミアカフェ」や「カフェメイリッシュ」があり、アキバ通の人なら注目するような場所だ。狙いどおりオープンしてすぐに、秋葉原を拠点とする各種タウンメディア、メイド喫茶ファンのブログなどに多数取り上げられて、瞬く間に人気が沸騰した。

 インターネットの世界では「猫鍋」のブームもあり、猫の話題がインターネットメディアと合っていることにも着目した。

 猫は8匹いて、店の中で暮らしている。


「ねこ・JaLaLa」 置物のように静かな性格の猫もいる


「ねこ・JaLaLa」 店内営業中に熟睡する猫

 料金は30分500円が基本で、延長は10分毎150円。ドリンクは平日は注文しなくて良いが、土曜、日曜、祝日は必ずオーダーする。持ち込みは認めていない。

 無線LANも引いているが、電気街に来るオタクといえども猫に夢中になって、パソコンをする人はまずいないそうだ。

 メニューは、コーヒー4種各300円、紅茶300円、100%ジュース4種各350円など。猫のおやつも200円で販売している。ディスペンサーは置いておらず、厨房でドリンクをつくって提供している。食事は出していない。 

 年齢層は30代が中心で、男女比では男性がやや多いのも秋葉原ならではか。近くに勤めるサラリーマンやOLが顧客層のコアになっているが、メイド喫茶ファンの男性や、メイド喫茶やメイドリフレに勤めるメイドの来店も多いという。

「皆さんやさしい人が多くて、トラブルはほとんどありません。凶暴な猫を飼ってはいけないので、猫の面接は難しいですが、目つき、雰囲気で、性格が穏やかで好奇心が強く人間好きな猫を選ぶようにしています」とのこと。

 同店のユニークなサービスとして、8匹の猫それぞれがメールアドレスを持っており、同店ホームページから会員登録し、お気に入りの猫にメールを送ると、来店した際にその猫と一緒に写真を撮って会員証をつくるなどのサービスを行っている。

 全国に猫好き、動物好きを増やすために、2号店、3号店の計画もある。


全国に猫好きを増やすのを目標にFCチェーンを目指す

 名古屋を拠点とする「猫のまほう」は、FCによって猫カフェを多店舗展開しようというビジネスモデルを持った店だ。

 昨年2月、名古屋都心部錦の長者町繊維街に、直営1号店をオープン。これを軌道に乗せて、今年2月に横浜中華街に近い石川町にFC1号店をオープンした。

 そして今年6月1日、直営2号店として、東急池上線大崎広小路駅前に西五反田店をオープンした。JR・東急・都営地下鉄の五反田駅からも徒歩4、5分と近く、山手線沿線にある猫カフェとして、期待されるところである。

 新しくできた西五反田店を訪問してみると、ビルの上階7階と8階のメゾネットタイプの物件になっている。靴を脱いで上がるのは他の店と同じだが、飲食できるカフェスペースが7階にあり、ここには猫がいなくて、階段を上がった8階で猫とふれあえるようなシステムになっている。


「猫のまほう」 看板


「猫のまほう」 猫と遊べるスペース


「猫のまほう」 カフェスペース

 飲食ゾーンと猫と遊ぶゾーンの2ルーム制とする方式は全国初で、「猫のまほう」が考案した方式であり、猫の毛の混入する可能性がある飲食しながら同時に猫と遊ぶやり方が、一般的にニーズの拡大とならないと判断したための対応策だという。このあたりの衛生面の解釈は、保健所ごと、担当官によっても異なり、猫カフェのような新業態を展開する者にとって、悩みの種であるだろう。

 料金は15分300円が基本だが、お得な各種パック料金を設けている。「平日ランチタイム50分パック」なら、パスタまたはピタサンドまたはフォカッチャサンドに、サラダ、ソフトドリンク、猫のおやつが付いて1200円。

 またこの店は、基本的に日曜を除いて翌朝5時半まで深夜営業を行っており、22時以降は10%の深夜料金が加算される。23時から翌朝3時までにミッドナイトの「まったりフリープラン」で入ると、2ドリンク付き(アルコール可)で3300円というサービスもある。インターネットカフェと同じく終電を逃した人の始発待ちのニーズ取り込みも狙っている。定休日は毎週水曜と、第3木曜。

 喫茶店文化を持つ名古屋からの進出店らしく、飲食メニューが豊富なのも、従来の東京の猫カフェの主流とは異なる点で、6種類のパスタ、3種類のピタサンド及びフォカッチャサンド、3種類のアイスをトッピングした厚切りトースト、焼きおにぎり茶漬け(以上、600円)、お絵描き用ケチャップ付き「にゃんコロ〜♪」という猫の顔の形をしたコロッケ(500円)などの食事ができる。ボリュームたっぷりのパフェ(600円)、ホットケーキ(500円)のようなスイーツもある。


「猫のまほう」 にゃんコロ〜♪(500円)、顧客がケチャップでお絵描きができる


「猫のまほう」 冷製アラビアータ(600円)、猫皿もオリジナル


「猫のまほう」 ホットケーキ(500円)


「猫のまほう」 厚切りトースト チョコバージョン(600円)


「猫のまほう」 小倉抹茶アイスパフェ(600円)はビッグサイズ

 ドリンクはコーヒー、紅茶などが400円からあるだけでなく、ビール、焼酎、梅酒、カクテルが500円で楽しめる。

 物販にも力を入れていく方針で、作家オリジナルの猫皿をはじめ各種猫グッズを開発中である。

「猫のまほう」チェーンを展開する、株式会社舞歩(ぶぶ)の中村一也社長は「友達の友達の家に遊びに行くと猫がたくさんいて楽しかったです。というのがコンセプトです。予定していた集客のターゲットはカップルだったのですが、お年を召して猫を飼いたくても寿命を考えれば飼えないおじいちゃん、おばあちゃんがお孫さんといらっしゃったり、キャバクラの同伴で使われたり、インターネットの猫関係のオフ会が行われたりと、幅広いお客さんがご来店されています」と語る。

 平均的な滞在時間は60〜120分で、名古屋店では1日の来客数は50〜100人だという。BGMは昼にはボサノバ、夜はジャズを流している。店舗と猫を清潔に保つため、2時間毎にまめに掃除をするなどISO9001基準並みの清掃を心がけている。

 元々は広告代理店や飲食店の経営コンサルティングの仕事をしていて、スタッフの提案から猫カフェを始めることになった中村社長は、「最初は猫に対しては好きでも嫌いでもなく普通でしたが、ビジネスモデルの考案のために猫カフェをまわっているうちに、猫の可愛らしい仕草が大好きになったので猫カフェを始めようと決心した」という。


「猫のまほう」 オープンしたばかりなので子猫も多い


「猫のまほう」 人懐っこい猫が多い

 猫カフェは、動物取扱責任者の資格保持者を常勤で置かなければ開業できないが、この資格はショップに半年以上勤務するか、専門学校及び通信教育で1〜2年間学ばないと取れない。そこで、中村社長は自社スタッフで動物取扱責任者資格者を育成し派遣して、その資格がないオーナーでも猫カフェが経営できるようにFCを考案したそうだ。

 今後、都内数カ所と、全国主要都市にFCを含めて店舗網を広げ、「猫のまほう」を猫カフェのトップブランドに育てたい構想を抱いている。


キャットショー上位入賞の優美な猫とふれあえる店

 東急目黒線西小山駅前にある「カールアップカフェ」は、キャットショーで世界2位、8位といったような入賞記録を持つ優美な猫が多数在籍している店だ。

 猫は全部で15匹いるが、すべてオーナーの増田明美さんの飼い猫で、平日20時、土曜・日曜・祝日19時までの営業が終わると増田さんと一緒に自宅に帰る。キャットショーへは元々趣味で飼っていた猫を出していたもので、猫カフェを始める前から行っていた。


「カールアップカフェ」外観


「カールアップカフェ」 エントランス 壁には数多くのキャットショー受賞歴が。ガチャポンもある


「カールアップカフェ」 店内

「猫がいる喫茶店をイメージしていますね。猫には人を癒すものがありますし、アットホームな雰囲気で無駄な時間を過ごしてもらいたいです。あくまで喫茶店ですから喫茶メニューを重視しています」と増田さん。

 とはいっても、靴を脱いで上がる形式、自宅のリビングのような雰囲気、時間制の料金は他店と変わらない。喫茶重視のやり方は「猫のまほう」と同様だが、「猫のまほう」がチェーン系でマニュアルをきっちり決めていく方向であるのに対して、こちらはあくまで個人経営のカフェのような手づくり感の良さを追求している違いがあるといった感じだ。

 オープンは昨年の4月。8人で満席と決めており、1日の入場者は20人くらいだという。平均的な滞在時間は90分で、小学生以下の子供と、保護者がいない中学生の入場は基本的に認めていない。

 珍しい種類のショーキャットがいるので、北海道、沖縄のような遠隔地からの研究熱心な人の来店も多いという。土地柄か顧客は年齢層の高い落ち着いた人が多く、キャリアウーマンや60代の年金生活の夫婦で、家で猫を飼えないような人が目立つそうだ。


「カールアップカフェ」 その名も、しろくま君。ショーキャットとしても優秀

 また、猫の飼い方がわからない人に対して、一番大事なシャンプーの仕方、食べ物などのアドバイスを行ったりもしている。

 セット料金になっており、1時間1ドリンク付きで1200円が基本。延長料金は30分500円、1時間800円となっている。

 ドリンクは、カフェオレ、カプチーノ、紅茶6種類、ハーブティー3種類、スムージー風ジュース、ヘルシーヨーグルトジュース、いちごみるくなどがあり、単品で注文すると500〜600円の価格帯。また、名物のポットサービスの工芸茶のセットは1時間半2000円となっており、10種類の味と香りが楽しめる。

 フードは、高菜ピラフ、豚キムチチャーハン、メキシカンジャンバラヤ、点心セットが、600〜800円である。


「カールアップカフェ」 メキシカンジャンバラヤ(700円)


「カールアップカフェ」 スムージー風フレッシュパイナップルジュース(600円)


「カールアップカフェ」 工芸茶(800円)はお勧めメニュー

 ショーのための猫の訓練では、よくできたご褒美にササミを与えるため、店内では顧客が猫のおやつを与える、餌付けにつながるサービスは行っていない。

「趣味で身内でやってるようなものですから、儲かるとも思っていませんが、猫の癒しをぜひ体験してもらえたら」と増田さんは語っている。


猫を愛する気持ちがなければ、やってはいけない業態

 以上見てきたように、猫カフェという業態は日本に誕生して4年しか経っておらず、全国に30店ほどあるが、その過半数が昨年以降にできた若い店ばかりで確立した業態ではない。

 なので、インターネットカフェのようにディスペンサーを置いてセルフサービスにする店もあれば、喫茶としてドリンクのみを厨房でつくって提供する店もある。ドリンクのみならず、食事も提供する店もある。一方で、ドリンク、弁当持ち込み可にして猫のいる休憩所となっている店もある。どのサービスが猫カフェに最も適しているかは、もう少し時間が経過しないとよくわからない。

 また、猫のいる部屋で飲食する店と、猫と遊ぶ部屋と飲食する部屋を分けている店がある。猫と遊ぶ部屋と飲食する部屋を分けてしまえば、顧客から見れば移動が面倒だが、これは猫が飲み物のカップを倒してしまったり、コーヒーフレッシュなどの人間の食べ物を食べてしまうリスクを考えれば、どちらが優れているとは一概に言い切れない問題である。

 猫におやつを与えてもいい店、悪い店の区別もある。これも、要領がいい猫がおやつにいつもありついているのを見ると不平等だし、一部の猫が太り過ぎないように、おやつの数量に上限を設けるなどする必要があるようにも思えてくる。キャットショーに出す猫なら、訓練の時、餌のご褒美が効かなくなるので、おやつを与えるべきでない。

 しかしながら、猫が10〜15匹前後いる、家のリビングのように靴を脱いでスリッパに履きかえる方式、時間料金制、入場する時と帰る時に石けんで手を洗う、小学生以下の子供は入場不可、猫と人間の食べ物をしっかり分ける、室内禁煙(店によっては喫煙コーナーあり)などといった方法はどの店も行っていて、猫カフェの1つの決まった形になってきている。

 店では顧客は、くつろいだり、猫じゃらしなどで猫と遊んだり、フラッシュをたかないで猫の写真を撮ったりして過ごすが、寝ている猫を無理に起こして抱いたり、尻尾や毛を引っ張るような乱暴な人はめったにいないが、ペット愛護の観点から店側が厳しく注意して良い。

 今回訪問した5店で感心したのは、どの店も清掃や猫のブラッシングをちきんと行っていて獣くさい臭いがしないこと、性質がやさしくて人懐っこい猫を飼っているので嫌なことをしなければ猫が引っかいたりもしないということだ。

 しかし、猫カフェが儲かるとなると、安易な参入も増えてくる可能性もある。

 秋葉原・中央通り沿いに今年5月にオープンした「グリーディーキャッツ」は、受付を済ませると、上階にある猫のいるスペースに行く方式だったが、飲み物を運ぶ時以外は店の様子を見る者もいないし、空調の悪さと猫のブラッシングを怠っていることから、臭いはするし毛も飛んでいるひどい店だった。当然、アイスコーヒーの味もとてもまずかった。筆者が訪れた時は、猫が下痢をしてしまい、そのことを顧客が店員に報告に行くと「毛玉を吐いたのかしら」とか言って、あわてて上の階に上がっていく始末。会計のときに領収書を要求しても、書き方がわからないと拒絶された。こんなお粗末な店だから、6月11日に早くも営業を停止してしまった。

 猫カフェはオープンしてしまえば、人件費は1人か2人で店をまわせるのでさほどかからず、猫の餌代も1カ月に1万円もあれば十分で、ランニングコストが低く、顧客さえ来れば儲かる業態である。訪問した店に好きな猫ができて、何度も通う人もいる。リピート率も高く、昨今のペットブームからもまだまだ拡大が可能だろう。

 しかし、獣医、保健所の指導の下、猫の健康には気を配り、猫の毛が飲食物に混入しないよう厨房は仕切る必要がある。そして通常の飲食店の許可だけでなく、動物取扱業の認可も受けなければならないことには注意したい。猫は生き物であり15〜20年くらい生きる。だから、一生面倒を見るつもりでないと、安易に出店できないし、動物愛護の観点からも猫カフェがつぶれたから猫を捨てるでは許されない。

 その意味で、今回取材した店は猫の養老院を将来的につくって死ぬまで世話したいと語るオーナーばかりだったので、好感が持てた。

 ドッグカフェが犬とふれあうというよりも、散歩の延長線上で楽しむ場所なのに対して、猫カフェは自分の猫を連れて行くのではなく、猫の住んでいる家を訪問して愛らしい仕草を見て楽しむ場所だ。

 猫カフェによって人々の心が癒され、ペットを愛する人が増えるならたいへん良いことである。これからどのような進化を遂げるのか、見守っていきたい。



【取材・執筆】 長浜 淳之介(ながはま じゅんのすけ) 2008年6月27日執筆