・東戸塚とともに26店舗
エイトの創業は1970年。近藤一美氏の母親、近藤真子氏が始めたカウンターだけのスナックがスタート。JR東戸塚駅の開発とともに、路面で焼鳥店を出店し、家族経営で大繁盛。当時、10才の近藤氏も会計を担当しお客に可愛がられた。バブルの時代で、「お前が立つとチップが沢山もらえる」と母親からよく言われたのを覚えているそうだ。
また、カラオケボックスの走りの頃には、高校時代に自分が先輩に連れていってもらったコンテナのカラオケボックスに商機を感じ、その日に早速、両親を連れて行ったという。母親は、即断即決。エイトは、早い時期からカラオケ事業もスタートさせた。
開店したり、業態変更したり、閉鎖したりしながら、2005年に近藤氏が社長を引き継ぐまでに、居酒屋、焼肉、焼鳥、カラオケ、ラーメン、もんじゃ焼きと東戸塚を中心に神奈川県で20店舗を展開する企業になっていた。
そして、近藤氏が引き継いでから3年間で、東京・世田谷の「古無門」など6店舗を新規出店し、現在、26店舗、売上高23億円の企業に育った。母親は現在、会長を務めている。
1994年に開店させた「もんじゃ横丁」。戸塚区品濃町の本店、関内店、戸塚店、藤沢店の4店あり、現在も人気は衰えない。
「もんじゃ横丁」店内
鉄板焼き、もんじゃ焼、お好み焼などのコース1780円からと安い。
・開けたり、閉めたり、柔軟なのは女性経営者
気が着いたらエイトで働いていたという近藤氏だが、疑問を感じて他社に出た時期もある。アルバイトとしてレインズ子会社、アートフードサービスで1年間働いた。
「母の会社には子供のころから手伝い、高校時代はアルバイト、そして、そのまま入社しました。28才の時、スランプに陥ったんです。エイトしか知らないことに、将来の不安を感じました。そしで、レインズという大きな会社に働きに行きました。視野が広がりました。仕組みが凄いんです。片やウチは家庭的。当時はレインズのいい時期でした。西山社長の思いが末端まで伝わっていました。これは何なんだ、ウチにも取り入れたい、と思って帰ってきました」と近藤氏。
「帰って、母のやり方を変えようと、過去を否定しようと、ルールや仕組みを作ったりしましたが、社員が付いてきてくれない。くじけました。そして、否定はダメ、過去があったからこそ今がある。それを進化させていこうと悟ったんです」
「母は決まりの中でやっていってないんです。その場、その場でいいことを皆でやっていこうという姿勢です。決まり事や過去のしがらみが、他社よりずっと少ない。決まりに縛られないという女性経営者のいいところです。そして、柔軟さをベースにしくみを作っていこうとしています」
そして始めたのが、企業理念を作ること。
「会社を作るには、最初の床の部分をまず敷かなければならない。なぜ、飲食をやっているのか、なぜ、お客様に来てもらっているのか、をスタッフ全員で明確にしようと思いました」
2007年12月、名刺サイズのクレドを制作し、全スタッフで共有している。
「12店までは想いが伝わりました。しかし、店舗数が増えた時、会社というより、店長の考え方ありきになってしまっているのに気づきました。そして作ったのがクレドです。浸透のために、店長会議でも数字ばかりではなく、クレドの理念をいかに伝えるかの時間をとっています。地区ごとにアルバイトも全員集まっての飲み会でも、クレドの思いを伝えたり、皆の意見を聞いたりしています」
名刺サイズのクレド。全スタッフが名前を記入し携帯する。
・エイトのクレド全文
<経営理念>
私たちは感謝の床に立ち魂の込もった場創りで、あふれる笑顔を∞(無限)に追及します。
エイトのスタートは「久右衛門」という東戸塚の小さな焼鳥屋でした。
“第2の家庭”−従業員もお客様も笑顔があふれ、みんなが元気になれる、そんなお店です。満員で客待ちができると、「オレ帰るから待ってる人いれてあげて!」とお客様もお店を気づかい、お店もそんな素敵なお客様に満足してもらおうと一生懸命努力する・・・
“一瞬のご縁”を大切に“生涯のご縁”に育てていったのです。
いまエイトはおかげさまで、お店も増え、働くスタッフも、ご来店いただくお客様も増えました。ありがたいことです。
でも、いつまでも、創業のころの“第2の家庭”でありたい気持ちを持ってお客様とともに成長していきたいのです。それこそが、エイトが存在している理由なのです。 感謝
【クレド】
・私たちはありがとうの笑顔でお店をいっぱいにします。
・私たちは家族。エイトは働く仲間を大切にします。
・私たちは安全な食をとおしてお客様を幸せにします。
【アクション】
お客様、働く仲間、業者さん、地域社会、家族・・・にナニができますか
お客様にナニをしてあげられますか
1.お客様とわたしたち、名前で呼び合えるようなあたたかい関係をつくろう!
2.ありがとうは私たちから。そしてお客様からもありがとうを言われるお店を目指そう!
3.お客様の要望にたいして「できないこと」もあります。その時は違う方法を調べて、ご提案しましょう。
4.わたしたちのお店を選んでいただいたお客様を大切にしましょう。
5.わたしたちのお給料はそんな大切なお客様からいただいているのです。
6.子供さん、赤ちゃんをお連れのお客様に、わたしたちは何が出来るか考えよう。親にとって自分の子供への気遣いはとってもうれしいものです。
7.いま自分の目の前にいるお客様に、わたしたちがして欲しいことをしましょう。お年寄りやお子様に接するように。
8.わたしたちのお店は、お客様がお食事、買い物をするだけの場所じゃないよね・・・!?お客様の心を満たすような場所にしよう!
9.クレームをいただけるのはありがたいことです。次回には改善を期待しているのです。そうでなければ何も言わずに、2度と来店されないお客様になってしまうでしょう。
10.クレーム対応とは、そのお客様が再度エイトをご利用していただいた時に終わります。
11.満席の時や提供に時間がかかる時に、お客様が不快に感じるのは、「実際に待たされた時間」ではなく、「待たされたと感じる時間」の長さなのです。
12.“ちょっと先”を考えて行動することを常に考えよう!
13.お客様の声を聞いてしっかりと対応することでお店は成長し、良くなっていきます。
14.お店を開ければ自然にお客様が来てくれる!?・・・それは大きな間違いです。
働く仲間にナニをしてあげられますか
15.仲間どうし「ありがとう」「助かりました」というコミュニケーションをとり、楽しく働こう!
16.お店の中はもちろん、お客様から見えない場所もキレイにしましょう。
17.わたしたちは料理や接客サービス凄くてもダメなのです・・・
18.お店は舞台、わたしたちは役者、お客様は観客です。みんなわたしたちを見ています。
19.「笑顔」「身だしなみ」・・・今日のあなたは大丈夫?
20.食器、制服・・・から鉛筆1本までお店の備品すべてはお客様からお預かりしているものです。
21.わたしたちは自然の恵みで商売させていただいています。食材には感謝の気持ちを持ちましょう。
22.無口、かげ口ではなく堂々と言おう・・・!
23.トイレを奇麗にしましょう。トイレを見ればお店のすべてがわかると言われます。
24.わたしたちには学ぶ場があります。十分にそれを活かしましょう。
業者さん、地域社会、家族にナニができますか
25.業者さんは仕事の大切なパートナーです。
26.わたしたちのお店は地域に根ざしています。近隣との良好な関係づくりを大事にしましょう。
27.休日で制服を着ていない日でも、エイトの一員として誇りをもって行動しよう!
28.自分の家族や子供から「感謝」されるように振る舞いましょう。
29.わたしたちは勉強します! 食品情報や流行や地域でのイベントなどに敏感でありましょう。
・世田谷「古無門」で東京進出
東京・世田谷で雑木林の庭を持つ大家を紹介され、周囲の反対の中、出店した。1200坪の敷地にログハウスを建て、お好み焼き「古無門」と、スイーツ「パティスリー雪乃下」を、2007年11月にオープンさせた。自信のあった粉モン業態で勝負に出た。また、「雪乃下」はエイトが鎌倉で出店している人気のスイーツ店のブランド。
「古無門」の外観。お好み焼きとは想像できない入口。
「パティスリー雪乃下」のテラス席から見た、「古無門」の外観。
「古無門」 店内。2フロア、200席
「最初に見に行った時に全員から反対を受けましたが、母だけが絶対やると言い張ったんです。都内のあの場所の中で自然に触れられる場所はない、だから多少離れていても人が来てくれると思ったそうです。それなら、時間がかかったとしても来てもらえる場所を作ろう、と始めました」
「ログハウスを作っているうちに、チラシ下さい、いつオープンですか と近隣の方々から聞かれました。でも、不安でスタッフも採用せず少ない人数でオープンしたんです。ところが開店と同時にいっぱいの人であふれました。当初の予定の3倍もお客様がいらっしゃいました。採用してなかったんで、東戸塚の本部スタッフが世田谷に通って切り抜けました。1ヶ月目から黒字です。店のホームページもないのに、お客様がブログに書いてくれて、インターネットで見たよとお客がきてくれました。こんな反響は初めてです」
世田谷のお客は価格にこだわらず、ユニークなメニューを求めている。
タルタルソースを使う「プリップリッエビのボンジュール焼」1200円
「子供のころから店が好き、お客様に喜ばれるのが好きです。これが私の原点です。3年後、5年後100店というより、今の1店1店が生き生きとお客様によりよくて、安心して食べていただけ、お客様が喜んでくださる。そんな店が1店ずつ増えていけばいい。次また、ご縁があったら、人が育ったら出店します」
皆と一緒にオープンはやりたいと考え、新店では必ず現場で働いている近藤氏。母親から引き継いで丸3年、少しずつ自分のスタイルを確立し始めた。今の、近藤氏の夢は、「古無門」の敷地の中に、「虎幻庭」というしゃぶしゃぶとすき焼きの店を作ったが、満足いかずクローズ。大ヒットの「古無門」に負けない業態にブラッシュアップさせ、9月に再出発させることだ。
世田谷で掴んだ成功を糧に、今後、神奈川県から東京都に活動フィールドを広げていくことは間違いない。今後、注目の女性経営者だ。