・マイ箸を店にキープすることで顧客の来店頻度が増えた
「愛のマイ箸1億人運動」を提唱し、「マイ箸」を持つことからエコに取り組む実践を行っているのは、「八剣伝」、「酔虎伝」、「居心伝」などの居酒屋を中心とした計719店のチェーンを全国展開するマルシェ(本社・大阪市阿倍野区)だ。
この「マイ箸」への取り組みは環境省の『環境循環型白書』にも掲載されており、高い評価を受けている。
マルシェグループでは、一昨年より使い捨て割り箸を止めて、再利用できるプラスチックの塗り箸に全店で切り替えた。これは、日本で使用されている割り箸の97%が中国産で、森林が国土の17%しかない中国の木を切り倒し、砂漠化に拍車をかけている現実に目を向け、環境保護に寄与しようというものだ。
最近は西日本で、中国内陸部の砂漠地帯から飛来する黄砂の影響が問題になりつつあり、中国の砂漠の拡大は他人事では済まされなくなってきている。
本来、森林が健全に育つには樹木の間引きを行う必要があり、その際の間伐材を割り箸に使うのならば問題ない。そうでなく軒並み森林を切り倒して割り箸にしてしまうから中国の国土が荒廃するのである。
日本国内ではおおよそ毎年250億膳、木造住宅2万軒分の割り箸が使い捨てられている。日本人1人あたりに換算すると約200膳だ。
そして、塗り箸を使いまわすことに抵抗感がある人に向けて、有償で「マイ箸」の利用を推奨したものだ。
「マイ箸」は基本300円で、購入とともにポイントカードをつくる。「マイ箸」を持参するごとに1ポイントを付けていき、10ポイントで500円の割引券として使える。と同時に、ちょうど50円分が、NPO法人ネットワーク『地球村』を通じて森林保護に充てられるという仕組みになっている。
マイ箸ポイントカード
マイ箸キープ棚
このように利用者に具体的なメリットを提示して、消費者参加型でエコに取り組むのが、マルシェの姿勢である。
しかし、来店時に持参し忘れる顧客が多かったことから、東京都江東区のFC店「八剣伝 森下店」では、「地球にやさしい愛のマイ箸キープサービス」を一昨年の7月に始めた。これは、「マイ箸」を店内の棚で預かるというものなのだが、好評を博し、既に1200膳を越えるキープ数となっている。
八剣伝森下店外観
八剣伝森下店 店内
「マイ箸キープを始めてからは、お客さんの名前を覚えるようになりました。お客さんがいらっしゃれば、言われなくてもさっとマイ箸を出せるように、心掛けたのです。今までと親近感が違ってきましたから、身近な接客ができるようになり、来店頻度が確実にアップしています」と、同店を経営する小沼商事・小沼義四郎社長は「マイ箸」キープの効用を語る。
小沼氏は脱サラして「八剣伝」を始めてから20年になるが、従来は常連であっても名前を知らない顧客が数多くいたという。しかし、「マイ箸」キープを始めてからは、常連を名前で呼ぶようになり、ポイントカードから来店頻度も把握できるようになった。必ずグループでやってくる常連は、ファイルの中に一括して「マイ箸」を保管するようにして、さっと出せるように工夫した。
34席あるが1日平均2.5回転ほどする。顧客単価は2350円で、男女比は6:4で男性がやや多い。顧客層は40代が平均で、近所の小さな工場などに勤めている人が多いが、休日は家族連れが多く、営業が始まる夕方5時で満席になる日が大半だそうだ。なので20代から80代、90代まで、顧客の幅は非常に広い。
人気メニューは、石焼ビビンパ、石焼そばめし(共に580円)、ぶっかけキムチそうめん(480円)、ドリンクでは「オロナミンC」の焼酎割りであるパンチサワー(390円)など。
人気メニュー、ぶっかけキムチそうめんとパンチサワー
飲食店の店員に自分の名前を覚えてもらえるのは、顧客にとって嬉しいものだ。「マイ箸」キープサービスは、今では全店規模で実施されており、「八剣伝 森下店」に続く成功例が続々出てきているという。
・マイカップを持参すると割引に、コーヒー産地支援も
スターバックスコーヒージャパンでは、全国に約800店ある「スターバックス」チェーンで、マグカップ、タンブラーなどの「マイカップ」を持参すると、資源節約のお礼として、ドリンク代を20円割引するサービスを行っている。
これはどんな器でもよく、店頭で申し出れば、陶器、紙コップ、木製、プラスチック製、金属製にかかわらず、形状もどのようなものでも、ドリンクが適量入れることができるものなら構わない。
「特に宣伝しているわけではないのですが、スターバックスを利用していただいているお客様が参加して、ゴミを減量し、限りある地球の資源を守っていくエコへの取り組みです。アメリカのスターバックスで90年代初頭に、従業員のアイデアによって生まれました。ディスカウントとは違います」と同社マーケティング本部コンシューマーコミュニケーションチームの坂佳果さんは説明する。
実際に活用する顧客は全体の3%程度だが、同社では「マイカップ」持参を支援する目的で、トールサイズのステンレス製タンブラー(2800円)、季節ごとに3種類ほどの絵柄を発売するプラスチック製タンブラー(1100円〜)も店頭販売しており、毎日持参してコーヒーを楽しむヘビーユーザーもいるという。
保温・保冷に優れたステンレス製は男性に、デザイン重視のプラスチック製は女性に人気だが、特にプラスチック製はかわいらしい柄が受けて、発売するとすぐに売切れてしまう商品も多いという。タンブラーの底はゴム製で、すべりにくくコースター不要である。
同社では世界最高級のコーヒーを消費者に提供するため、「環境方針」を設けており、社員の行動指針となっている。その「環境方針」とは、①パートナーの自覚と責任、②環境への負荷軽減の取り組み、③法規制・自主基準の遵守、④環境活動と経営のバランス、⑤取り組みの継続的な改善、となっており、持続可能な社会の実現を目指すことが明記されている。
これは、世界展開する各国のスターバックスに共通した目標でもある。
1991年スターバックス取締役のデイブ・オルセンは、国際協力NGO団体CAREの役員ピーター・ブロンキストと多くのコーヒー生産地を訪ね歩き、生産者農家がいかに貧しく厳しい生活を強いられているのかを目の当たりにした。そこで、高品質のコーヒー栽培農家を援助し、生産者とともに歩むことこそ地域経済に寄与し、将来的にも安定したコーヒー豆の供給を受けられる体制づくりにつながるという思いを深くした。
スターバックスは、ファーマーサポートセンターを設けて、アフリカのエチオピア、中米のコスタリカなど産地の農園と直接契約してコーヒー豆を仕入れている。技術面のサポートも行って、農園とともに品質向上に取り組んでいる。
地域社会への貢献という点では、企業の社会的責任(CSR)として店舗周辺のクリーンアップ活動、難病と闘う子供たちへのクリスマスプレゼントなども行っており、エコ活動もそれらと同様、従業員全体で取り組む方針を打ち出している。
環境への負荷を軽減する資材の開発と使用は、各店舗で日々行われているエコ活動の実践である。
まず、従来ホットドリンクは熱いので紙コップを2枚重ねて提供していたが、新たにリサイクルペーパーを活用した紙コップに巻く補助具「スリーブ」を開発し、2枚重ねを控えるようにしている。
また、ペーパーナプキンは古紙70%・非木材の竹パルプ30%を原料とした環境配慮型で、森林の伐採とは無縁である。
ドリンクをかき混ぜるマドラーは、顧客からのリクエストにより、プラスチックではなく、間伐材を利用したものを導入した。
ペーパーナプキン、マドラー、スリーブはスターバックスからのエコの提案
このようにスターバックスのエコへの取り組みは多彩であり、飲食業では非常に進んでいる。ファッショナブルなだけでなく、地球環境の保護、地域社会への貢献に熱心な企業文化は参考にすべき点が多い。
・食器・包装を非石油製品に転換、生ゴミの減量化も徹底
全国に約1400店の「モスバーガー」チェーンを展開するモスフードサービスも、エコへの取り組みに熱心な企業である。
2004年3月に、環境マネジメントシステムの国際規格ISO14001の認証を取得。それ以来、次世代に素晴らしい地球環境を残すために、循環型社会の実現と社会の持続的発展に向け、真剣に取り組んでいる。
「モスグループ環境方針」の基本理念には、「食を通じて人を幸せにすること」という目標のもと、「おいしさ」「安全」「安心」「健康」という考えを経営の中心に据え、「人間貢献」・「社会貢献」のため、環境保全活動に積極的に取り組むことが記されている。
緑を多く配したモスバガーの店舗
06年9月12日には環境省と「環境保全に向けた取組に関する協定」を締結。これは外食産業では始めての「国と事業者による自主協定」で有効期限は1年。モスフードサービスはプラスチック製容器包装類の非石油系製品転換、食品リサイクルの数値目標を掲げ、環境省は広報活動や視察で支援するというものだった。
プラスチック製容器包装類の非石油系製品転換については重量比で05年度使用量の50%、食品リサイクルについては06年度食品廃棄物発生量の20%に目標を設定。前者に関しては50.7%、後者に関しては20.0%という結果で、数値目標を達成した。
プラスチック製容器包装類について、さらに詳しく見ると、持ち帰り用ポリ袋を06年7月より紙バッグに変更。食器、グラスについては創業当時より店内で飲食する場合には、陶器など使い捨てでないもので提供。プラスチックを使う場合には、トウモロコシのデンプンを原料としたバイオマスプラスチック製カップへと切り換えを推進し、石油資源の節約と、化石燃料を燃やすと発生する二酸化炭素排出の削減に、取り組んでいる。
また、食品リサイクルについては、ファーストフードのメリットとして、元々が計画的に適量の食品を小ロットで店舗に供給するシステムを取っており、つくり置きもしないので、残飯の排出量が少ない。1店あたり1日3〜5キロの野菜くずが出る程度である。ちなみに日本では国民1人あたりの生ゴミ排出量は約1キロとされており、「モスバーガー」の排出量の少なさは特筆される。
そうした中で野菜を店舗でカットしたあとに残るレタスやキャベツの外葉、トマトの芯などの野菜くずを配送時に回収して堆肥化し、再利用する完全循環型の食品リサイクル実証実験を、仙台と名古屋の一部の店を対象に行っている。
できた堆肥は3月12日の創業記念日にあたる「モスの日」に顧客へプレゼントとして配布する、花の「栽培セット」の培養土に使われている。
野菜くずをリサイクルした堆肥入りのモス栽培セット
そのほか、2000年より店舗から出る廃食油を飼料、肥料にリサイクルすることも進めており06年度は457店舗にまで拡大した。回収した廃食油の一部から「モスのせっけん」をつくり、新規オープン店舗で顧客に配るなどの利用も行っている。
廃食油からつくったモスのせっけん
「モスバーガー」といえば、可能な限り農薬や化学肥料に頼らない農家と契約し、生産者の顔の見える野菜を提供しているが、これも産地支援の側面がある。
同社では「コストとの兼ね合いは難しいが、考えながらエコに取り組んでいる」とのこと。
モスフードサービスは今のように輸入食品の安全性が問題になり、国産が見直される以前から、安全・安心な野菜の供給のために顔が見える国産農家を開拓してきた歴史がある。
企業の社会的責任(CSR)を果たしているかどうかで、外食も顧客に選ばれる時代が近づいているとしたら、同社はその流れに先んじていると言えるだろう。
・古いユニフォームをエコバッグに、夏休みイベントで配布
シダックスでは、レストランカラオケ店舗で着用する店舗スタッフ用ユニフォームを刷新するに際して、古いユニフォームをリサイクル。エコバックとして再利用している。
全国302のレストランカラオケ店舗を対象に、2008年4月24日より順次旧ユニフォームを回収。スタッフ約9000名のユニフォームをすべて再利用すると、約8万個のエコバックを作ることが可能となる。協力メーカーは、帝人ファイバー、オンワード商事。
エコバッグイラスト
シダックスグループは01年10月に環境方針を制定。「母なる地球が育んだ豊かな大地と海の恵みを、すべてのお客様に母親のように真心をこめてお届けする」という“マザーフード”の考え方を提唱し、02年2月より本社と一部の店舗施設で、環境マネジメントシステムの国際規格ISO14001を取得している。
今回の古いユニフォームをエコバックに再利用する活動も、“マザーフード”の根幹である「母なる地球」を真摯に捉え、その経営理念である「食を通して健康を創る」に基づき事業活動、すなわち食材の調達と販売・調理加工・食事の提供サービスを通し、地球環境への影響に配慮し社会的使命を果たすものだとしている。
エコバックの活用方法の一例としては、08年8月18日〜31日まで開催される、8月31日の「野菜の日」にちなんだ「食育」イベントにて、1組につき1つ、オリジナル・エコバッグ付きで、生産者の顔が見える産地直送野菜を無償で提供している。
これは“マザーフード”の理念のもと実施する「野菜」「感謝」をテーマとした食育活動の一環で、NHKの人気キャラクター「おじゃ丸」ときよこおねえさんを迎え、親子で食について学んでもらう夏休み恒例の無償のイベントで、従来は「渋谷シダックスホール」で行ってきたセミナーを、好評につき全国14店舗のレストランカラオケパーティールームにも、拡大して行うものである。
また、グループ内で不要となったパソコンを特定非営利活動法人イー・エルダーが展開する社会貢献事業「リユースPC寄贈プログラム」に提供し、リユースパソコン約100台を14の施設・団体に寄贈した。障害者が働く作業所等で再生作業等を行うとともに、社会福祉団体へパソコンを寄贈することで、高齢者・障害者などの社会参加も支援している。
なお、リユースパソコンとは、使用済みパソコンのデータの消去やクリーニングなどの再生作業をしたもの。長寿命化によって廃棄物の発生を抑制し、資源循環型社会に対応した地球環境への負荷低減に貢献すると言われている。
さらに、08年6月20日大阪市内にオープンした新店舗「レストランカラオケ・シダックス 梅田茶屋町クラブ」では店舗照明器具の70%にLEDを導入。従来の白熱灯利用時と比較し、約60%もの二酸化炭素排出量と消費電力量を削減する、省電力モデル店である。
梅田茶屋町クラブのパーティルーム
LED(発光ダイオード)使用の省電力モデル店、梅田茶屋町クラブのフロント
このように多岐にわたるエコ活動を行っているシダックスグループではあるが、新しい取り組みとしてはペットボトルのキャップを外して集め再資源化することで地球環境を改善する「エコキャップ推進協会」に参加している。これはキャップの再資源化で得た売却益をもって 発展途上国の子どもたちにワクチンを贈るボランティア活動でもある。
その他シダックスグループの物流を担うエスロジックスでは、一元化によるスケールメリットで、包装の軽減や物流時の排ガス低減などの環境問題への寄与も同時に試みているといったように、あらゆる企業行動に環境方針に基づいたエコ活動を盛り込んでいく方向性を打ち出している。
・フードマイレージの考え方でガソリン節約、保存剤不要
市民運動の側からビジネスにアプローチし、エコ活動に取り組む店もある。
東京都目黒区にある「アサンテサーナカフェ」は、無農薬・無化学肥料でつくられた国産の玄米、旬の野菜、雑穀と、保存料を使わない調味料を使用したメニューを味わう店だ。
オープンして6年目になり、WWBジャパンという女性の起業を支援する組織が経営している。WWBというのは、Women’s
World Bank(女性のための世界銀行)の略で、世界約40ヶ国以上で活動を行っておりWWBジャパンは日本支部となる。
「アサンテサーナカフェ」外観
アサンテサーナカフェ店内
また、WWBジャパンは、世界の南北間の経済格差の解決をテーマとするフェアトレードをベースとした商品を販売する「第3世界ショップ」、社会に役立つ事業に融資する「市民バンク」、地域密着型起業支援センター「レッツ」などを展開する、プレス・オールタナティブ(本社・東京都目黒区)が母体となっている。
ちなみに“アサンテサーナ”とは、東アフリカのケニア、タンザニアの公用語であるスワヒリ語で「どうもありがとう」を意味する。
同店では完全無農薬・無化学肥料で栽培する契約農家を開拓し、作物の端境期に信頼する自然食品店から仕入れる以外は、そこから調達した野菜、穀物を使っている。
「ヨーロッパでは当たり前となっているフードマイレージの考え方を採り入れて、輸送コストも少なくて済む、いつでも会いに行ける距離にある近郊の農家から仕入れています。今は千葉、神奈川、群馬が主になっていますね」と佐山陽子店長。
近い場所から仕入れれば、ガソリンは少量で十分だし、鮮度保存剤も不要という考え方だ。また、その土地の食物は、その土地の気候に合うようにできており、健康維持には地産地消が一番だ。たとえば暑い夏に採れる夏野菜のキュウリやトマトは、体を冷やす機能がある。食糧自給率が低い日本はフードマイレージの総量が世界的にも際立って高く、地産地消とはほど遠いが、そうした構造を改革する第一歩にもなるものだ。
店長を任されて3年になるが、有機農家での農業実習経験もあり、無農薬・無化学肥料に関しては、3年間でより厳密になったという。
同店では、メニューに出している野菜を食べて、顔の見える生産者から安全・安心な野菜を買いたいと思った消費者には、生産者を紹介するサービスも行っている。また、レストランへの卸も行っており、利用者が増えているという。
無農薬無化学肥料を実践するには、土も空気も水もきれいな環境で、多品種少量の輪作を行わなければならず、現状取り組む農家はとても少ない。それでも夏野菜の旬の時期などには採れ過ぎて使い切れないことも多々あり、生産者はもっと売りたいと考えている。「持続可能な農業を盛んにするためにも、つくる人と食べる人をつなぐ中継地点でありたい」と佐山店長は語る。
席数は22席ある。顧客層は、平日は近くにある恵比寿ガーデンプレイスなどのオフィスに勤めるビジネスマン、OLが中心で、男女比では女性がやや多い。しかし最近は、20代〜30代の独身の男性が増えており、周辺におしゃれなレストランは多いが、普通の食事が取れる店が少ないことやメタボを気にする人が増えていることが追い風になっている。日曜と祝日は休みだが、土曜日はオーガニックに興味を持つ人が、遠くから来店するケースが目立つ。
客単価は1000円ほどで、平均で2回転ほどする。
人気メニューは「日替リ雑穀プレート」(840円)。雑穀ご飯に3品の野菜、海藻、乾物のおかず、味噌汁、ミニスイーツが付く。10〜14種類の野菜がバランス良く食べられるのが特徴で、動物性食材、白砂糖は使っていない。なので、卵アレルギーを持っている人も安心して食べられる。
フードマイレージを考えた日替り雑穀プレート(840円)
併設されている「第3世界ショップ」のカレーを使った「旬の野菜と豆のカレー」、「チキンカレー」(共に735円)も出数は多い。
また、コーヒーは中米・グァテマラや南米・ペルーから、紅茶は南インドから、海外のオーガニック認証を受けたものを出している。我々はコーヒーや紅茶の農薬まではあまり気にかけないが、特に紅茶は葉を浸して飲むものなので、もっと気をつけるべきだろう。
顔の見えるコーヒー、紅茶はカフェのメニューでも出している
そのほかにも、同店ではサトイモ以外は皮を向かないので、ゴミはほとんど出ない。有機野菜は火の通りが早いので、ガスも節約できる。キッチンでは、廃食油からつくった洗剤で食器も洗い場も床も洗浄している。天ぷらの廃食油はリサイクルして、農機具を動かすディーゼル油にする。
廃食油からつくったせっけんで洗い物は行っている
といったように、エコを意識した数々の取り組みを行っており、エコとビジネスの両立が実現されている。
・風力・太陽光発電を照明に活用する省資源提案型カフェ
1つの店舗としてエコに対する取り組みが随所に見られるのが、裏原宿にある「ピアザ・エコファームカフェ」。
同店では無農薬野菜を使ったメニューを提供するだけでなく、風力や太陽光を使った発電を行って店舗で使う電力の一部に充てる、売電を行うなど、環境型の店舗として設計されているのが大きな特徴だ。
「ピアザエコファームカフェ」外観
「ピアザエコファームカフェ」店内
経営は、表参道の「ベーカリーカフェ426」などの飲食店、ガソリンスタンド、不動産といった事業を展開する隅田商事(本社・東京都渋谷区)。
オープンは2006年で、席数は約55席。1階は自家製パンを販売するベーカリーとなっており、2階がカフェである。
隅田商事は千葉県富津市に「ピアザ・エコファーム」という無農薬野菜を栽培する農場を持っており、「ピアザ・エコファームカフェ」においても、この自社農場を中心に、有機JAS認証を受けた野菜を軸にしたメニューを出している。
人気メニューはベジタリアンでも安心という「田舎野菜のカレー」(900円、サラダ・セットドリンク付き)と、五穀米のご飯と日替り惣菜5種がセットになった「エコファームプレート」(1200円、セットドリンク付き)。
エコファームプレート(1200円、セットドリンク付き)
顧客層は平日は学生、OL、主婦と年齢を問わず女性が多く8割を占める。それに対して休日は、家族連れが増えるという。顧客単価は1000円ほどである。
環境型の店舗であることは、表向きはわからないが、屋上に上ってみれば、風速7メートルから稼動する小型の風力発電機の風車が回り、出力3.5キロワットの太陽光発電を行うパネルが見える。こうして得た電気は店内の照明の一部に使われている。
風力発電の風車と太陽光発電パネルが設置された屋上
また、屋上には耐熱塗装が施されており、太陽熱を遮断し消費電力を抑えて、空調効率を向上させることなどに寄与している。
エアコンは灯油を燃焼させて発電する灯油ヒートポンプを設置し、電気代を10分の1に抑えている。
さらに、水道管にはトルマリンという鉱物を使用した水処理システム「エコジェム」を導入。給水設備内の赤錆防止、カルキ臭の除去などを行うとともに、マイナスイオン水を生成している。
キッチンの床には強力コーティング材による加工が施してあり、汚れを防ぎ、容易な清掃を実現している。
このような実験店である「ピアザ・エコファームカフェ」は、隅田商事の支社がアメリカのサンフランシスコにある関係で、山本正旺社長がアメリカの環境運動に触発されてつくったものだという。ここで使用している小型の風力発電機は40万〜50万円で買えるから、個人の住宅でも設置可能であり、将来の石油の枯渇に備える意味で、10年、20年先を見越した提案と言えるかもしれない。
同社は環境保護方針として、「人々の幸せの創造」のために、「地球環境の保全と改善」と「人間の健康問題」を2大事業テーマとして掲げており、エコノミーとエコロジーを両立させた環境経営を今後も実践していくという。
・屋上緑化、IH調理、有機食品とエコ満載の海の家も登場
今夏はエコを意識したニュータイプの海の家も登場した。逗子海岸の「エコハウス℃」がそれだ。
これは逗子の海の家の組合である逗子海岸営業共同組合が主催する「逗子海岸エコキャンペーン」(6月27日〜8月31日)の拠点となるもので、日本テレビ放送網の100%子会社、日本テレビサービスが企画・構成を行っている。
逗子海岸にはエコ海の家も出現した
学校の教室の机、椅子を配した店内
屋根には屋上緑化システム
今年の逗子海岸は、ライブハウス型海の家「音霊シースタジオ」を主催する地元のミュージシャン「キマグレン」がブレイクするなど注目度が増しており、海の家も海水浴客も増えて活気がある。しかしその一方で、地球温暖化の影響と言われる近年の砂浜の後退は非常に大きく、将来的には海水浴場が存続できるかが危ぶまれているほどだ。
そこで、2005年より「日テレ海の家 @SEAZOO」を毎年出店している日本テレビサービスに組合長より依頼があり、ともにキャンペーンを進めることになったという。
「エコハウス℃」は海岸では珍しいIHクッキングヒーターや、低コスト・ローメンテナンスの大和リースが開発した屋上緑化システム「エコ屋根」を導入し、地球温暖化防止、CO?削減に寄与するエコ海の家を実現。
通常の海の家では大量に発生する生ゴミも、高木産業の協力のもと、生ゴミ処理機を設置。生ゴミをリサイクルし肥料化して生産農家で活用する、資源循環型の事業となっている。
リブロの選書による、エコのミニライブラリーもあり、エコへの消費者の興味を促進する情報を提供している。
期間中には、日本初となる本格的なビーチランのセミナー、ビーチヨガのセミナー、ビーチ・フリーマーケット、小学生向けにピクシーシュリンプという小さな海老を育てるミニ水槽を製作して、命の大切さを教えるワークショップなどのイベントが開催され、逗子の海からのエコへの取り組みを発信した。
食材は、有機・低農薬野菜や無添加食品の会員制宅配サービス、らでぃしゅぼーやから調達。国産の安全・安心な食品なので環境負荷は少ない。また、食器もリサイクルして一度砕いた陶器くずから焼き直した、Re-食器を使用。調理の際に使う電気は、日本自然エネルギーの水力発電によるクリーンエネルギーを購入している。
メニューは根菜を使ったものが好評で、野菜のせいろ蒸しと玄米ご飯がセットになった「温野菜プレートセット」(1200円)は人気メニュー。野菜スティックや、臭みがない放牧豚を使った料理もオーダーが多い。ドリンクもコーヒーなど各種ソフトドリンク、ビール、酎ハイ、カクテル類を揃えている。
温野菜プレートセット(1200円)
放牧豚のみそづけホルモン(700円)
なお、脱衣場はなく、飲食とキャンペーンのキャラクターグッズを売るレストラン兼ショップである。
席数は36席で、平日が40〜50人、休日で約200人といった利用状況。顧客は若い女性や、地元の40代、50代の年齢が高めな男女が中心となっている。
「明るい清潔感のある白を基調とした施工ですし、自然に入ってきたらエコの発信基地だったと気づく人が多いです。潮風で痛まないので持続して使えるという理由で採用したのですが、学校の教室にある机と椅子に興味を持たれる人も多いですね」と、日本テレビサービス・ビジネス開発部の坂本圭氏。
夏季限定の海の家ではあるが、エコに対する数々のアイデアが盛り込まれており、さまざまなレストランで活用できる企画だと考える。
・エコノミーとエコロジーの両立を目指す真剣な取り組み
以上見てきたように、飲食業界でも石油燃料を大量消費する火力発電から自然エネルギーへの転化、森林伐採の抑制と緑化推進による温室効果ガスのCO?削減、ゴミの総量削減と再資源化、有機・無農薬・減農薬の食品提供等々のエコロジーに関する試みが「マイ箸」、「マイカップ」のような身近なところから本格化してきつつある。
企業の社会的責任(CSR)が問われるようになってきた昨今では当然の流れではあるが、個人営業や中小企業が多い外食では、従来はあまり厳しく問われてこなかった。しかし、食糧自給率が先進国では最低水準に低下し、安全面でのリスクの高い輸入食品に頼り切っている日本の現状に対する危機感は、今年に入ってかつてないほど高まっている。
エコノミーとエコロジーはどう両立するかという問題はあるが、ガソリン不況が広がる昨今、安売り以外で利益を確保しようと思えば、企業イメージが良くなるエコに取り組むのも一つの方法だろう。
北海道洞爺湖サミットもきっかけとなっているが、この秋は“エコ”が、飲食業界のキーワードになるのではないだろうか。