フードリンクレポート


前菜からデザートまで!一食材特化型の“づくしレストラン”が盛況!

2008.9.17
 丼ぶり、焼酎、餃子など、1つの料理や酒を中心に展開する“専門店”は多い。最近、こういった専門店とは少し異なる、1つの食材に特化した店が人気だ。前菜からデザートまですべてにその食材が使われた料理が並ぶ。こんな一食材特化型の“づくしレストラン”の人気の秘密を探る。


Celeb de TOMATO(セレブ・デ・トマト)」のトマトのギフト(2,500円)。

健康ブームの中、女性の心を奪った“麻の実づくし”のレストラン

「麻」というと繊維が衣服に使われているイメージがあり、食べ物という認識はない人が多いのではないだろうか。ところが、麻の実は、驚くほどバランスのとれた栄養値の高い食品なのだ。そんな麻の実の魅力を伝えようと下北沢にオープンした「ヘンプ・レストラン 麻」は、今年で10周年を迎えた。


下北沢にあるヘンプ・レストランその名も「麻」。


クッションを置くなど、女性が寛ぎやすい店内。

 経営するのは、カナダ産の麻の実食材の輸入・加工・販売、麻の実食品・化粧品・日用品の製造販売する、㈱ニュー・エイジ・トレーデイング。

「オープン当初は、麻の実がめずらしい食材である、という部分を全面に押し出していました。でも、ここ数年の健康ブーム・ロハスブームの中で、経営スタイルを少し変えたんです。めずらしさより、栄養価が高く非常にバランスのとれた食材であることや、化粧品としても大変素晴らしく体の中からも外からも綺麗になれる可能性があること、をアピールするように、店内も3年ほど前に女性が入りやすい、優しい雰囲気に改装しました」と、麻スタッフの和田真理子さんは話す。

 「美容」「健康」のキーワードで、連日多くの女性客で賑わっているという。


写真奥が麻の実。手前からオイル・ナッツ・オイルを搾った残り部分を粉にしたもの。

 また、麻という素材については、麻の実の皮をとった麻の実ナッツを食べ、その皮を搾ればオイルになり、その搾った残り部分も粉にして食べることができる。また、茎の部分は繊維として生まれかわる。つまり、捨てるところのない“究極のエコ素材”として、最近のエコ志向の中でも注目されている。


麻の実豆腐 750円


麻の実おから春巻き 800円

 「なかなかメインの食材として取り上げられることはありませんでしたが、七味唐辛子に使われたりと、日本でも昔から馴染みのあるものなんです。店のメニューの多くには、香ばしさのある麻の実ナッツの部分を使っています。加熱すると栄養が半減してしまうオイルについては、ドレッシングやマヨネーズとして。また、実の皮の部分を粉にして、こちらは主にデザートの生地に練りこむなどしています。オープンして10年経つものの、麻の実はまだまだ新しい素材。レシピ開発も積極的に行っており、年に3回季節の食材を使ったメニューや新メニューを加えながら変更しています。」

 日本の地ビールとして新潟で作られている「麻物語」をはじめ、世界の麻を使用したビールや、お茶まで用意されている。まさに、麻づくしだ。


麻のオイルを使った化粧品の販売も。


お土産にするお客さまも多い、麻の食品。

 店内では麻の実ナッツや、オイル、麻の実そばなどの商品も実際に販売している。

 「帰りに買ってかえられるお客さまも多いですね。その際にはちょっとしたレシピをお伝えしたり、ホームページでも一部のレシピを公開しています。また、再訪いただいたお客さまから、ここで食事をした翌日体がすっきりするから、体のメンテナンスのために通っているわ、という嬉しい声も」

「レストランでももちろんですが、ご家庭でももっと食べていただけるよう、まず麻の実を知ってもらいたい。そのために、“世界で1つ”の麻の実レストランとして下北沢から、多くの魅力を、多くの皆様に発信していければと思っています」


真ん中・和田真理子さんとスタッフの皆さん。

 使いやすい食材であることを知ってもらうこと、知ってもらうためには実際に食べてもらうこと。この2つを大きな目標に、ヘンプ・レストラン麻はアンテナショップとして今日も情報を発信し続けている。


パクチーが世界を繋ぐ?!“パクチーづくし”に狂喜乱舞

「パクチーと言う食材ほど、大好き!大嫌い!を人が声を大にして言う食材はないと思うんです。そこが面白いなと思ったのがきっかけでした」

 そう話すのは、小田急線経堂駅にある、“paxi house tokyo(パクチーハウス 東京)”オーナーの佐谷恭さん。2007年11月にオープンし、まだ1年も経たないものの多くのメディアに取り上げられ、連日満席の日が続く。


パクチーの看板が目印


オーナーの佐谷 恭さん


4人掛けテーブル。奥には本棚もあり、子供の絵本も。

 店名のpaxiは、佐谷さんが創った造語。「タイ語であるパクチーのスペルは‘phakchi’とやや難しい。そこで、pax ”(ラテン語で平和という意味)と“ i ”(人の象形文字)を組み合わせ、より親しみを持ってもらえるような“paxi”という言葉を創りました。」

 ここには、大学生の頃から世界中を旅し、その中での沢山の人との出会いがこの店を開くきっかけとなったと話す、熱い想いがある。


8人掛けのテーブル席。パーティータイムにぴったり。

 その想いは、店の通常のディナータイムにあたる時間は“パーティータイム”と表記され、店内は、4名掛けのテーブルが4つと、8人掛けのテーブルが1つで、2名用テーブルが用意されていないスタイルにも現れている。

「僕自身、もちろんパクチーは好きで(笑)、パクチーをそのものも広めたいですが、それ以上にパクチーという食材を通して新しい出会いがあるなど、交流のツールになればと思っています。だから、あえて2名席は作らない。2名のお客さまにはご相席をお願いしています。多くの方はパクチー大好き派の方々なので、パクチーの話で盛り上がるなど、そんな交流をもってくれればと思っています。以前に、別々にいらっしゃって同じテーブルに座っていただいた2名様の2グループが、最後に4名でワリカンされていたときには、嬉しくなりましたね」

 目標は365日パーティーをすること、というほど、paxi house tokyoを交流の場にしていきたいのだという。


こんなイベントも

「月に1回は、何かしらのイベントを行っています。もちろん、初来店の方も大歓迎のパーティースタイル。また、ビール42.195?を完走ならぬ完飲されたお客さまにはpaxi house tokyoらしいプレゼントをする、という‘世界ビールマラソン’も最近始めました」。来ることが楽しくなる、来ることで何かの得になる、そんな店といえるのではないだろうか。


店の看板メニュー、「ヤンパク」(890円)。佐谷さんが旅先で出会った味をアレンジ。


パクチーの天ぷら、「パク天」(700円)。苦手な人も食べやすい一品。

 食材としても、デトックス効果なども高く、パクチーのほかにコリアンダーや香菜という呼び名で世界中で親しまれているパクチーをもっと食べてもらいたいとと考え、店のメニューのレシピを掲載する、料理本を9月下旬に発行する。

「店のレシピを公開することで、これまでのお客さまが自分で作れるからと店を訪れなくなるのだとしたら、それは仕方のないことだと思います。この店の価値は食べることにしかなかった、ということですから」と、きっぱりと話す、佐谷さんが印象的だ。

 “パクチー”という食材そのものの魅力だけでなく、その話題性も含め、ツールとして考える新しいスタイルのレストランだ。


トマトという日常の野菜の新しい食べ方を伝えるレストラン

 表参道・青山学院大学脇にある“ Celeb de TOMATO(セレブ・デ・トマト)”。道を歩く人が不思議そうに店内に目をむける。それも無理はない、ガラス張りの店内には天井からずらりとトマトが並んでいるのだ。こちらを手がけるのは、㈱ブランドジャパン。レストランの経営に加え、トマトに関する商品の通信販売も行う。


外からも目を惹く、ディスプレイ。


自社工場で作る加工品もずらりと並ぶ。

「トマト好きが開いたお店、という印象を持たれることが多いのですが、そういうわけではないんです。もちろんトマトは好きですが、それよりも身近な食材でありながら、作り手よって大きく味の異なるということは、あまり知られていない。だから、作り手を限定した厳選されたトマトだけを楽しむ、そんな店をつくりたかったんです」。そう話すのは、同店マネージャーの吉本さん。


ケーキと同じようにディスプレイされた、1個400円〜600円のトマト。


トマトを使ったケーキ。

 最近の食品の安全性が叫ばれる中、スーパーに並ぶ野菜にも多くは生産者名が明記されているものが多い。しかし、このように作り手を大事にするセレブ・デ・トマトだが、店頭ディスプレイに飾られたお土産として購入可能な1個400円値札がついたトマトに、生産者名などの表記はない。

 不思議に思い尋ねると、「作り手は大事にしているけれど、それはお客さまにとっては舞台裏の話。そういった部分をみせるよりも、セレブ・デ・トマトが選んだトマトだから味はもちろんのこと、農薬などの安全性の面も間違いない、そういうふうに考えていただければと。また、最近は○○産という産地がブランド化されてきているが、産地ではなく作り手が重要なのです。だから産地表記もしていません」という。


徹底的に管理されるトマト

「1個400円や500円のトマトは何が違うのかと言われれば、品質を徹底的に管理していること。生産者のもとの足を運び土などを確認することはもちろん、届いたトマトはどんなに小さなものでも1つ1つ手で拭き、温度管理も慎重に行います。トマトは追熟させることで旨みも香りも全然かわってくるんですよ。素晴らしい作り手のトマトを、より素晴らしい状態でお客さまに提供するのが私たちの仕事ですから」

 入り口にディスプレイされていたようにみえたトマト、実は追熟中のものなのだという。確かによくみると棚には湿度計と温度計が。また、棚が下になるにつれ、トマトの赤色が濃くグラデーションになっており、その追熟具合がよくわかる。


落ち着いた雰囲気の店内。


オープン当初からの人気メニュー、トマトサラダ(800円)。中には蟹肉のサラダが。


トマトそのものがソースという、インパクトある厳選銘柄豚のフレッシュトマトソース


トマトづくしのデザート、トマトのティラミス(600円)。

 店内でいただけるのは、トマトを使ったフレンチをベースにした料理の数々。

 「トマト、というとイタリアンというイメージがありますが、なじみ深いトマトという食材の新しい食べ方も提案したいと考え、フレンチをベースに。そして、新しい提案という意味もっと難易度が高かったのが、デザートでした。今では、トマトジャムをつかったロールケーキや、赤い色が綺麗に層をなすティラミスを食事の後にお土産にされる方も」。


彩りが美しく、好評なトマトのギフト(2,500円)。

 また、トマトの新しい提案という意味で面白いのが、その時期の色とりどりのトマトを詰め合わせた、トマトのギフト。箱を開けたときの相手の驚く顔がみたいと、手みやげとして人気。また1本15,000円という日本で唯一の黒トマトを使った限定生産のトマトジュースも、すでに50本も予約が入っているというから驚きだ。

 3〜4個入って300円という日常のトマトとは全く違うと言い切る、1個500円のセレブなトマト。値段だけでなく、その味でも、料理でもサプライズを提供している。


づくしレストランの可能性

 今回紹介した“づくしレストラン”は、食材の知名度をあげるため、ツールとして、新しい発見をしてもらうため、とその目的は三者三様。共通するのは、世界で一つ、日本初というオンリーワンである、ということ。
 
 1つの食材に特化することで、話題性もある。また、その食材を愛するリピーターもつかみやすい。これらが、づくしレストランの魅力と言えるだろう。

 消費者の食へのこだわりが強くなっている、今の時代。これからは、何でもあるレストランより、強く特徴のあるレストランに注目が集まりそうだ。


【取材・執筆】 鈴木 明日香(すずき あすか) 2008年9月12日執筆