フードリンクレポート


食糧自給率アップの切り札「米料理」が、小麦粉値上げで注目集める。

2008.10.3
日本人の主食といえば米だ。しかし、昭和30年代に比べると1人あたりの米の消費量は半減しており、ニーズより米が採れ過ぎて値崩れするので、政府は減反して調整しているほどだ。一方で、小麦粉の値段は急騰、食糧自給率がカロリーベースで39%に落ち込むといったように、明らかに日本の食の事情はいびつになっている。そこで米を見直し、米料理の豊かさを率先して消費者に伝え、需要増につなげるのも外食の役割ではないだろうか。そうした視点で、米料理を特集してみた。


「DONBURI CAFE DINING bowls(ボウルズ)」の「特撰刺身丼」

米料理は奥深く、まだ広大な未開発ゾーンが残されている

 日本の食糧自給率は、農林水産省の統計によれば、カロリーベースで昭和35年度には79%もあったのに、平成18年度には39%まで落ち込んでいる。

 また、米の1人当たり年間消費量は、昭和40年度には111.7キログラムあったのに、平成18年度には61.0キログラムと、ほぼ半減しており、毎年のように減り続けている。

 一方で、現状、日本の小麦粉の使用量は年間約623万トンで、うち87%を輸入に頼っている。小麦の1人当たり消費量は、統計を見ると昭和40年代と実はあまり変わっておらず、肉などのおかずを多く取るようになったから、米の消費が減ったのだが、それにしても減りすぎではないのか。

 ニーズが減っているのに対して、米が採れすぎると、価格が暴落してしまうので、政府は減反政策を取っている。

 それに対して、小麦は大産地であるオーストラリアの干ばつや、アメリカでバイオ燃料用に小麦畑がトウモロコシに転作される状況が相次ぎ、世界的に需要が逼迫している。そうした状況を受けて、政府が製粉業者に売る小麦の価格が、昨年2回、1.3%と10%引き上げられ、さらに今年4月に30%も引き上げられた。しかも、今後改善される見込みもなく、もっと上昇するだろう。

 現状、スーパーでは、米は1キロあたり400円前後で売られているのに対し、小麦は200円前後と推定されるが、見る見るうちに差が縮まって、逆転する可能性すらあるのだ。また、複雑な流通を短縮すれば、米の値段はもっと下げられるはずだ。

 三笠フーズの工業用汚染米を食用に販売した事件は言語道断だが、米の流通ルートが極めて複雑で、その値段が中間業者によっていかにつり上げられているかが、わかってきた。

 ならば、今、米料理を見直して生産者の顔の見える米を使って、米の消費をアップさせ、ひいては減反を解消して、水田を復活させるような努力を、外食もしてみてはどうだろうか。休耕田が増えれば農村の産業基盤が衰退してしまう。そこを見なおす時でもあるのだ。

 新しい傾向として、米粉パンをつくろうという動きもある。パンが膨らむのは小麦に含まれるグルテンというタンパク質が関係しているが、米粉にグルテンを足せばパンになる。ところが、グルテンは小麦の粒の中に10%ほどしか含まれておらず、米粉パンを量産すれば、グルテン製造のためにより多くの小麦粉を消費することにもなりかねない。

 しかし、静岡県にあるグルッペ・石渡食品というメーカーは、静岡文化芸術大学の米屋武文教授と共同で、グルテンの代わりに増粘多糖類を使ってパンを膨らませる、米粉100%パン開発に成功し、三島市などにある4つの自社ショップと通販で、4月より本格的に売り出している。


グルッペ・石渡食品の米粉100%パン。餅のような食感がある。

 まだ、米粉の原材料費が高いので、バンズ1個150円、食パン1斤500円と値段は高いが、小麦アレルギーの人などに好評。米を米粉にする機械に補助金もつく方向なので、今後米粉の生産が増えて安くなると、値段は下がるだろう。

 ラーメンの「麺屋武蔵」も、この夏、米粉で打った冷やし麺を季節限定品として提供。好評につき第2弾を検討中とのことだ。


米粉冷やし麺を開発した麺屋武蔵。

 しかし、もっとシンプルに、ご飯のおいしさをアピールできる米料理はたくさんある。

 日本食の寿司、おにぎり、お茶漬け、牛丼、天丼、マグロ丼などの丼もの、インドのカレー、韓国のビビンパ、中国のチャーハン、お粥、シンガポールのチキンライス、ハワイのロコモコ等々。

 ヨーロッパでも、イタリアのリゾット、ピラフ、スペインのパエリアなどは典型的な米料理だ。洋食では、オムライスやハヤシライスも忘れてはならない。

 また、米からつくった麺も中国のビーフン、ベトナムのフォーなどがある。

 この多くはファーストフードとして業態開発が可能である。八十八楽(こめらく)のように従来、専門店として成り立ちにくかったお茶漬けで、新しくダイニングを構築した例もある。


東京駅キッチンストリートにある茶らく。八十八楽によるお茶漬けダイニング。

 まだまだ、奥深く未開発ゾーンが数多く残る、米料理の魅力を探っていこう。


鎌倉の素材を生かした、多彩な丼を創作する和風カフェ

 鎌倉の鶴岡八幡宮近くの若宮大路にある「DONBURI CAFE DINING bowls(ボウルズ)」は、“どんぶりカフェ・ダイニング”を標榜する、新しいタイプの創作丼の店だ。

 丼の店というと、従来は牛丼、まぐろ丼、天丼のような品目を絞ったファーストフードの店が主流だが、「bowls」ではカフェというなごみ空間で、常時13〜14種類のさまざまな種類の丼が食べられるのが売りだ。

 どうしてこのような店が生まれたのか。


「ボウルズ」 外観


「ボウルズ」 店内

「誰でも気軽に食べられる店がいいと思ったのです。それで丼カフェをやってみたらどうかなと。海の食材のものも、山の食材のものも、何でもできますから」と、広報の松原佳代さん。

 母体となっているのは、鎌倉のインターネット関連の会社であるカヤックで、同じビルの2階にありこの店が外食初進出。プロデュースはカフェ・カンパニーである。

 オープンは昨年の12月12日。席数は59席となっている。

 近くの三崎漁港から仕入れた魚介類、鎌倉野菜など、地元の旬の食材を取り入れたメニューもあるのが特徴で、おおむね1000円前後で提供されている。サイズはS、M、Lと3種類あり、丼が大きくなれば値段が上がる。    

 特に、ネギトロ丼など週替わりで提供する旬の丼は人気がある。また、湘南名物のシラスと野沢菜を合わせた「シャキシャキ釜揚げしらす丼」(Mサイズ950円)や「野菜としらすのかき揚げ丼」(Mサイズ950円)、アメリカ西海岸のカフェの人気メニューを再現した精進料理のテイストを持った「ごろごろ野菜のBUDDA丼」(Mサイズ980円)は、店の看板とも言えるメニューだ。


「シャキシャキ釜揚げしらす丼」

 また、150円をプラスすればライスを十五穀米に変えることができ、健康に気を使う女性を中心にオーダーがある。

 丼以外にも、サラダ、カルパッチョなどのアラカルトメニューがあり、ドリンクはカプチーノ(550円)のほか、ビール、ワインなどのアルコール類も楽しめる。

 デザートではSサイズの丼に、黒胡麻アイスなどが入ったスイーツ「大仏パフェ」(730円)が名物だ。


「大仏パフェ」

 顧客単価はランチ1000円、ディナー3500円。ランチは、丼におしんこ、味噌汁、ドリンクが付いて同価格なので、お得な設定だ。

 顧客層は、ランチは観光客や地元の奥さん、ディナーは地元の男女、夏は海から帰る人が多い。ラストオーダーが23時と遅くまで開いており、周辺の商店が夜の8時ともなればシャッターを下ろしてしまうところが多い中で、貴重な存在である。

 ガラス張りの外観、丼のタワーが建つ内装も個性的だが、丼には遊び心のある仕掛けが施されてある。

 SサイズとMサイズに関しては、丼7〜8個につき1個、底に「アタリ」の文字が入っており、当たりの丼を引き当てた顧客は、“どんぶり勘定”で下2桁を切り捨てた割引料金になる。つまり、980円なら900円になるわけだ。


丼の底にアタリが出れば丼勘定で下2桁をまけてくれる。

 また、丼を店内またはインターネットで購入した場合は、アタリの文字が入った丼を入手できる。そして、その“マイどんぶり”を持参すれば、“どんぶり勘定”になる。

 米を使った料理も工夫次第では、もっと楽しく提供できるということを、この店の実践が物語っている。


老舗の米屋が厳選した米を、無添加スープで炊くお粥

 お粥の専門店は中国では普通にどこの町にも見られるだが、日本ではまだあまり見かけない。

 青山キラー通りにある「喜々(キキ)」は、日本では病人食のイメージが強いお粥を、カフェ風のおしゃれな店舗で、消化の良い健康的な食事へと変革すべくチャレンジしている店だ。

 オープンは2004年で、その前は移動販売で品川、天王洲、田町、浜松町辺りで3年ほど移動販売を行っていた。


「喜々」 外観


「喜々」 店内

「喜々」で提供されるお粥は中華粥がベースの創作料理だが、中国のお粥との違いは、化学調味料を使わず、無添加を貫いていること。鶏と野菜と干し貝柱でスープストックをつくり、これで米を炊いてお粥にする。

 調理時の米とスープとの比率は1:10で、五分粥と言われる炊き方だ。また、米は白米と玄米と押麦が5:1:1の割合で配合されている。

 米の仕入れは武蔵小山の創業100年を越える「清水屋」が厳選し精米した、採れて1年以内の減農薬・減化学肥料の「ふさおとめ」新米を使っている。「清水屋」は生産者農家に自ら足を運び、田植えから指導し、収穫した米を試食して、良いものだけをセレクトして販売している稀有の米屋である。

 人気メニューは、スタンダードな「鶏粥」(800円)や、トムヤンクン味の「トムヤンクン粥」(900円)、季節によって日々具材が変わる「日替わり粥」(900円)といったところ。ある週の「日替わり粥」は、月〜土の具材のラインナップが、山菜とオクラ、たらこ、トマトとタマネギとベーコン、鰹、高菜しらす、三鮮(エビ、イカ、アサリ)であった。なお、日曜は休みとなっている。


「鶏粥」とトッピングのチーズ、調味黒酢

 夏季は、同じスープストックでできる、ビーフンまたは中華そばの麺が、お粥と同じくらい出る。麺では、「トムヤムつけそば」(900円)と「冷やしごまだれそば」(900円)が人気だ。

 トッピングにも特徴があり、チーズ、青チリ、腐乳、温玉、生卵、パクチー、青葱が各100円。全部乗せが500円だ。パクチーを一面に敷きたい向きは200円となっている。

 お店のおすすめは、チーズと卓上に置いてある調味黒酢(無料)で、味を調整する食べ方だ。

 夜は、点心も売りで、手作りの餃子(10個850円)、水餃子(750円)、鶏しゅうまい(550円)の評判が良い。無添加の蒸饅(プレーン、ココア 各130円)も人気があり、こちらは昼夜を問わずオーダーできる。


「蒸饅」

 ディナーではお得なセットもあり、お粥か麺と、3種のおかず盛り合わせに、アイスウーロン茶などのソフトドリンク1つと蒸饅または、ビールなどアルコール1つを付けて1500円となっている。

 ドリンクでは、凍頂ウーロン茶、工芸茶など中国茶のポットサービス(800円)が売り。アルコールは、各種焼酎、ハートランドの生ビール、ワイン、日本酒、紹興酒などをそろえている。

 席数は22席で、顧客単価はランチ約1000円、ディナー1800〜1900円。顧客層はアパレル系など近所で勤めている人が多いが、土曜日は地元の住民が多い。青山といってもビジネス街に入っているので、休日の集客は難しいようだ。

 男女比は、ランチは3:7で女性が多いが、夜は飲む人も多いので5:5になるという。

 脱サラしてお粥屋を始めた佐々木洋介マネージャーは、「移動販売を始めた頃は、最初はカレーを売ろうと思って準備していたのですが、カレーだと家でつくっていると、臭いが取れなくなってしまうんです。その点、お粥は無臭ですし、競合者もいないです。男3人で企画を練ったのですが、ふと思いついたという感じでしたね。それまで、お粥は好きでなかったですが、やってみると夏でもビルの中は冷房が効いているので、コンスタントに売れました」と語る。

 お粥は消化がいいので、朝食や飲んだ後のシメにもいい。まだまだ新しいニーズが見込める古くて新しい商材なのだろう。


ふんだんな野菜と十穀米で提供するヘルシー・ビビンパ

 今年4月23日、リニューアルなった東急五反田ビルのJR・東急の五反田駅直結ショッピングセンター、「レミィ五反田」8階レストラン街にオープンしたのが、ビビンパ専門店「韓の旬 菜彩(ハンノシュン サイサイ)」。


「韓の旬 菜彩」 外観


「韓の旬 菜彩」 店内

 経営は7業態計38店を展開するフード・フェスタ(本社・大阪市中央区)。元々は吉本興業が設立した外食企業であったが、06年にモック・ファイナンシャル・パートナーズが買収、さらに昨年11月に韓国資本のCJジャパンが買収して子会社としている。

 CJはチェイル・ジェダン(第一製糖)の略である。現在は分離しているが元々はサムスンの親会社で、食品工業、バイオテクノロジー、製薬、外食、エンターテイメント、インターネットなど多彩な事業を展開する韓国有数の大企業。

 昨年日本支社を設立して外食の展開を始め、1号店の成田空港ビル内「Welly&石焼ビビンパ」が好評を博し、順調なスタートを切っていた。買収後は、北千住にスンドゥブチゲと石焼ビビンパ「韓菜(ハンチェ)」を出店。そして、CJジャパンとしては3店目として「韓の旬 菜彩」ができた。

「韓の旬 菜彩」は、現在5店あり韓国料理のトップチェーンを目指す「韓菜」とは異なり、「レミィ五反田」のコンセプトである「働く女性のお助け所」に合わせて開発された店だ。

 実際に顧客の95%以上は女性で、30代を中心に20代から70代まで幅広い年齢層を集客している。近隣に住む買物客、近隣に勤めるOLのほか、ナイトビジネスで働く人の来店も多い。1人で来る人も結構いるという。

 席数は38席。平日で平均6回転、土曜・日曜・祝日で平均7回転する人気ぶり。ディナーはやや弱いが、それでも木曜・金曜・土曜は予約を取ったほうが無難なほどだ。

 顧客単価はランチ約1100〜1200円、ディナー約1500円といったところである。

 メニューの特徴は何と言っても野菜の種類が多いことで、同店のナムルは12種類ほどの季節の野菜を使っており、ご飯にかき混ぜて食べる。コチジャンは本場韓国のものを使い、ご飯は十穀米を採用してよりヘルシーに仕上げている。

 ビビンパの“ビビン”は韓国語でかき混ぜる、“パ”はご飯を意味し、おかずの余り物にごま油とコチジャンを入れて、ご飯とかき混ぜて食べる料理であって、本来はどんな具材をいれてもいい、自由度の高い料理である。

 石焼ビビンパは、ビビンパをチャーハンのように食べたいということで、十数年前に考案された創作料理。だが、既存焼肉店などで提供される、具材もゼンマイ、豆もやし、ホウレンソウ、大根と人参のナマス、挽肉そぼろ、生卵または錦糸卵あたりに限定されたビビンバと差別化するために、あえて同社では石焼を前面に出したそうだ。

 人気メニューは「プルコギ石焼ビビンパ」(1300円)、石焼でない普通のビビンパでは「たっぷり野菜と純豆腐のビビンパ」(1100円)。スープと小鉢のおかずが付く。このほか、4種類のビビンパと2種類のスンドゥブチゲを提供している。


「プルコギ石焼ビビンパ」


「たっぷり野菜と純豆腐のビビンパ」

 ディナーでは、ビビンパのほか、チヂミ、サラダ、ポッサムと呼ばれる大和豚のせいろ蒸し、トッポッキをグラタン風に煮込んだものなどのおつまみ、おかずが1000円前後で提供される。

 ドリンクはビール、マッコリが出るが、それほどニーズは高くない。これから単価アップのために、サムゲタンのコースや野菜のジュース・カクテルを投入していくという。

「五反田は駅の乗降客が1日48万人もいて、恵比寿よりも多いのです。そのわりにはレストランが少ないので、期待が大きいです。女性のお客さんが多いのは、野菜がたっぷり入っているのと、ダイエットに良いという唐辛子のカプサイシン効果でしょうか」と、CJジャパン事業開発チームの田口浩氏。

 田口氏は、日本人が食べておいしいだけでなく、韓国人が食べてもおいしくて本物と言えるものを出していきたいのだと強調する。日本の韓国料理は、日本流にアレンジされているので、韓国人から見ると首をかしげるものも多い。そこは差別化していくということだ。

 内装はモダンで一見韓国ぽくないが、柱や窓の装飾でさりげなく民族色を出している。


大使館員も愛用するシンガポール名物・海南鶏飯専門店

「シンガポール 海南鶏飯(ハイナンチーファン)」は、シンガポール名物の「海南鶏飯」が食せる専門店で、3年前にオープンした本店の水道橋が評判となって、去年12月に汐留シティセンター、今年3月に赤坂サカスに支店ができた。


「海南鶏飯」 シンガポールの象徴マーライオンに迎えられる外観。


「海南鶏飯」 店内のテーブルは大理石製。

「海南鶏飯」は中国南部の海南島出身者によって広められたチキンライス料理で、同店の場合はタイ米でも最高級のジャスミンライスをチキンスープで炊き、葱と生姜、チリソース、カラメルに醤油を混ぜた甘いダークソーヤソース、といった3種類のタレを、混ぜ合わせて食べる。トッピングは蒸し鶏と、キュウリ、トマトで、鶏のスープを添えて提供される。

 丸鶏を茹で上げる時に染み出たスープに、ニンニク、生姜、レモングラス、鶏油のチー油、香り付けにタコヤシの葉(パンダンリーフ)を入れて、ジャスミンライスを炊く。香ばしくてなかなか旨く、ヘルシーな感じがするメニューだ。ランチタイムは、ライス、スープのおかわり自由で850円と値段も手頃なのがうれしい。ディナーでは950円だ。

 また、唐揚げが好きな日本人向けに、揚げた鶏をトッピングしたものも提供している。


「海南鶏飯」

 代表は、台湾の屋台料理「台南担仔麺」、韓国料理の「炭火焼居酒屋 ホルモン市場」を、水道橋を中心に経営してきた台湾出身の帰化人。弟が輸入商社を経営する中で、華僑ネットワークによってシンガポールの食品会社のソースにおける総代理店となったが、シンガポール料理はまだ日本では普及していないので、まず手始めにお店をつくることとなったという。

「シンガポール料理は、日本人には苦手な人も多いパクチーも控えめな表現ですし、日本人の口に合います。チキンライスが、タイ料理のトムヤンクン、ベトナム料理のフォーや生春巻きと同じような、インパクトのあるシンガポール料理の代名詞になり得ると考えました」と、?原(とちはら)周右専務。

 シンガポール料理の面白さは、中華のダシに、マレー半島のジンジャー、レモングラス、ライム、ココナッツミルクなどの食材、インドのカレースパイスが融合した食文化にあり、たとえば海南鶏飯にしても屋台やフードコートごとに味が違っていたりする。そういったシンガポールの食文化の面白さばかりでなく、現地を食べ歩く楽しさも、スタッフが顧客にさりげなくレクチャーして、伝えていきたいのだという。

 その他のメニューには、パスタっぽいビーフンの丸麺の「カレーヌードル」、エビの辛味噌とココナッツミルクが効いた「ラクサヌードル」、「カレーチキン飯」、塩焼きそば「フライドホッケンミー」、卵と一緒に焼いたオムレツ風の「大根餅」、観光ガイドによく掲載されている魚の頭が入った「フィッシュヘッドカレー」等々があり、シンガポールの味が満載である。

 ドリンクは、シンガポールの「タイガービール」(550円)、カクテル「シンガポールスリング」(500円)などの人気が高い。

 味はシンガポール大使館、観光局からはケータリングの注文を受けるほどのレベルの高さだ。店内の内外装も、たとえば汐留店ではテーブルに現地から輸入した大理石を使い、入口ではマーライオンが迎えるなど、シンガポール色を出している。

 席数は50席。顧客単価はディナー2500円ほどで、ランチは女性、ディナーは現地に駐在経験のある人なども多く男女比は拮抗しているという。

 日本企業ではバブル崩壊まで、東南アジアに年間4万人の駐在員を送り込んでいた。特に水道橋本店では、現地の味を恋しく思っている元駐在員に信認されて、リピート客も多いとのことだ。


ベトナム・ハノイの麺料理フォーの味覚を東京で再現

 米を使った麺料理も、アジアでは広く食されている。

 東京メトロ・虎ノ門駅近くにオープンした「mot mot(モット モット)」は、ベトナムの米を使った麺料理、フォーの専門店だ。

 オープンは2006年7月。同店のオーナーは商社を経営し、ベトナムで事業を行っていく中でフォーに出合い、おいしくて健康的で、前日商談で深酒した翌朝も心地よく腹に収まっていくやさしい食後感に魅せられた。

 米からつくった白く平たい麺で消化がよく、スープがあっさりしているベトナムのフォーであるが、日本ではこれという味の店が見つからなかったので、本場のフォーの良さを伝える店を自らオープンしたという。

 店名はベトナム語の1を意味する「モット」と、日本語の「もっともっと」を掛け合わせて名付けた。


「モット モット」 外観


「モット モット」 店内

 フォーも地域によって味付けが違うが、同店では北部にある首都・ハノイの味を提供している。ハノイのフォーは、あっさりとした透明に近い黄色みがかった鶏がらスープが基本で、軽い塩味なのでくせがなく誰もが食べやすい。

 ベトナムでも南部になると、スープが甘く濃くなって、香辛料が入ってくるなど、くせも強くなるのだそうだ。

 こだわりとしては、ベトナムでは化学調味料が多用されているが、同店ではじっくりと煮込んだ無添加のスープを使っており、より健康に配慮したフォー専門店となっている。

 カウンター14席の小さな店で、自動販売機で食券を買って注文する。

 単品のフォー(800円)は、具として鶏肉、モヤシ、赤タマネギのスライス、刻みネギが入り、半切れのレモンが添えてある。

 お好みで、卓上に置いてある、ルッコラなど約5種類をミックスしたハーブとパクチーを好きなだけ入れることができる。これらの野菜は山梨のハーブ園より取り寄せているものだ。

 また、卓上の調味料、ヌクマム(魚醤)、ザンムアット(酢)、チリソース、生唐辛子を入れて、味を引き締めるのも自由だ。

 テーブルの上に置いてあるハーブや調味料で、自分の好きな味にアレンジするのがベトナム流の食べ方で、同店ではそのやり方を踏襲している。

 このほか、牛肉のフォー、グリーンカレーのフォーなどもある。

 一番人気のメニューは、フォーと生春巻きのセット(1000円)で、夜はベトナムビールやベトナム焼酎とのセットもある。


フォーと生春巻きのセット。お好みでハーブ、パクチー、調味料を加える。

 顧客層は30〜40代の近隣のビジネスパーソンが中心で、男女比は半々くらい。女性でもぶらっと1人で立ち寄れる雰囲気がある。

 回転数は4〜5回転で、オフィス街なので人通りのない土曜、日曜、祝日は休んでいる。

 今後の出店予定は未定とのことだが、すでに固定客も多く付いており、多店舗出店できるだけのビジネスモデルは固まってきたのではないだろうか。


大粒プリプリのエビ入りがうれしい新感覚オムライス

 米を使った料理は、和食やアジアの料理ばかりではない。洋食の分野にも、幾つものビジネスチャンスの大きな食材がある。

「バンズキッチン」は、JR総武線・新小岩駅南口から徒歩5分ほどの路地にある、隠れ家的なオムライス・ダイニングバーだ。オープンは2002年で、飲食店の新陳代謝が激しい新小岩地区にあって、個人のオープンした店としては健闘している。


「バンズキッチン」 外観


「バンズキッチン」 店内

 オーナーシェフでもある伴野修一店長は、生まれも育ちも新小岩の地元っ子。元々中華の出身だが、新小岩が中華の激戦区であり、特に深夜はラーメン屋くらいしか営業している店がないので、多少かじったことのある洋食の店を起業したとのこと。そうした中で、店に特徴を持たせるために、洋食の代表メニューであるオムライスを前面に出した。

 ランチは営業せず、夕方6時より朝方4時まで営業しており、昼夜が逆転した生活を送っている人に、夜、気楽に使ってもらえるレストラン居酒屋を目指している。席数は20席。なお、日曜と月曜はパーティー需要に対応して、貸切のみの営業となっている。

 オムライスは6種類あり、ケチャップバターライスの「昔ながらのオムライス」(780円)のほかは、すべて大粒のエビがオムライスの上に乗り、ケチャップバターライスの中にも3粒入った、エビオムライスを提供している。中でも人気なのは、デミグラスソースが掛かった「エビデミオム」(850円)。

 変わったところでは、卵にイカスミを入れて、ライスをインドネシアの辛い調味料サンバルが入ったケチャップで炒めた「エビ小悪魔オム」(850円)は、インパクトのある黒いオムライスだ。これは女性に人気が高い。サラダ、スープ、ドリンク付きのセットで1250円。


「エビ小悪魔オム」

 あとは、カレークリームソース、トマトクリームソース、中華風塩味あんかけの黄金ソースのエビオムライスがある。

「中華出身ですから、エビチリのプリプリした食感を洋食に生かしたかったのです。卵は見た目は硬そうだが中は半熟に固まるようにしていますが、イカスミが入ったものは調理が難しいんですよ」と伴野氏。

 米にはこだわりがあり、奥さんの実家がある茨城県稲敷市の農家が自家精米した減農薬・減化学肥料のコシヒカリ新米を、100%使っている。そのおいしさが評判となって、米の卸売りもスタートしている。

 このほかにも週替りメニューとして、旬の野菜、魚や肉を使った料理、スイーツが用意されている。

 ドリンクは、夜中でもコーヒーが400円で飲めるのが売り。アルコールは、地元のコマツナ焼酎のほか、本格焼酎、ビール、サワー、梅酒などがそろっている。

 顧客層は30代、40代の男女が中心で、早い時間はお子様連れのファミリー、遅い時間は近所の居酒屋や寿司屋など、飲食業に勤めている人が多い。

 新小岩の飲食に常連が付きにくいのは、地方出身者向けの会社の寮が多く、数年で転勤してしまうからだというが、最近は分譲住宅が増えて定住する人口が増えつつある。そうした新住民にアピールして、長く愛される店となっていってほしい。


植竹隆政シェフ監修、東京駅エキナカでリゾットを

 イタリアを代表する米料理、リゾットの専門店も登場している。

 JR東京駅構内「グランスタ」の八重洲地下中央口改札前にある「リーゾ・カノビエッタ」は、料理のプロデュースに代官山「カノビアーノ」の植竹隆政シェフを迎えてオープンし、ランチ時には行列ができる人気店となっている。

 オープンはエキナカ・ショッピングセンター「グランスタ」のオープン日である、昨年10月25日。席数は15席で、カウンターのみのショップである。


「リーゾ・カノビエッタ」 外観


「リーゾ・カノビエッタ」 店内

 経営はJR東日本の外食部門の関連会社、デリシャスリンクで、「グランスタ」から今までの駅にない業態を開発してほしいとのお題をもらい、話し合いの中でリゾット専門店というプランが浮上したとのこと。

 既にデリシャスリンクでは、新宿タカシマヤ「レストランズパーク」にある「カノビエッタ タケマサ・ウエタケ」で植竹シェフとのコラボレーションが実現しており、リゾット専門店について植竹シェフに相談を持ちかけたところ、「僕にもアイデアがあるから」という話になった。

「リーゾ・カノビエッタ」で駆使している植竹シェフのアイデアは、メニュー開発もさることながら、調理法に特徴がある。

 通常、リゾットは注文を受けてから提供するまでに、1人前で12〜13分の時間が掛かる。それでは、忙しい人のニーズにこたえるエキナカでは難しいので、2分にまで短縮している。満席状態の込んでいる時でも、5分で出てくるそうだから、牛丼屋とまではいかないものの、それに限りなく近いスピーディーなクイック調理を実現している。

 調理時間を劇的に短縮できる秘訣は、オリーブ油を使ってあらかじめご飯を半炊きにし、オーダーがあるとブイヨンでご飯を煮立ててつくる製法にあるが、常に芯をしっかり残したアルデンテの状態で提供している。
 また、バター、生クリームなどの動物性油脂やニンニク、唐辛子を一切使わないのも、大きなこだわりだ。食素材が本来持っている豊かな味わいを生かしている。顧客単価は約1200円。

 メニューは、定番のリゾットが10種類、季節メニューが2種類あり、トマトベース、アサリでダシを取った魚介系、チキン系のブイヨンを使ったもの、ラグーソース(ミートソース)あたりがベースだが、それ以外のメニューもある。

 人気なのは、「トマトとモッツアレラチーズのリゾット」(1300円)、「京野菜のリゾット」(1050円)、魚介とカラスミのリゾット(1400円)といったところ。


「トマトとモッツアレラチーズのリゾット」


モーニングのスープリゾット。京野菜とトマト。

 モーニングサービスとして、8時〜10時まで、580円と630円のスープリゾットを提供。ティータイムは手作りのドルチェ、ディナーはワイン好きの植竹シェフがセレクトした赤、白、スパークリングのイタリアワインを楽しむのもいい。副菜では2種類のサラダ(300円)、ジャガイモだけを具に使ったコロッケ(280円)に人気がある。

 野菜の使い方では定評のある植竹シェフのプロデュース店だけに、女性の顧客が圧倒的に多く、8割が女性。年齢層は幅広く、OLから旅行客まで集客している。また、1人で来る顧客が主流で、女性が集まる“お一人様レストラン” の典型的な店となっている。

 こうして見ていくと、米料理は、寿司、おにぎり、牛丼、カレーのような誰もが思いつくものばかりでなく、さまざまな具材、調理法によって、多彩な展開が可能なことがわかってくる。

 日本人である以上、やはり旨い米を食べたい。

 三笠フーズのおかげで、米の安全・安心までもが消費者に疑われている昨今である。外食が繁栄していくためには、生産者が信頼できる安全・安心なおいしいご飯を提供し、ご飯を調理すればこんなにも食生活が豊かになるのだということを、しっかり伝えていくことが重要ではないだろうか。


【取材・執筆】 長浜 淳之介(ながはま じゅんのすけ) 2008年10月1日執筆