フードリンクレポート


<第63回フードリンクセミナー・レポート>
女性実力経営者のパワーを知れ!

2008.10.24
9/29に東京・丸ビルコンファレンススクエアにて開催された第63回フードリンクセミナー。福政惠子氏(株式会社アクアプランネット代表取締役)、近藤一美氏(株式会社エイト代表取締役)、横山貴子氏(有限会社イイコ代表取締役)という3名の女性実力経営者をパネラーに招いて、店作りや組織作り、さらに女性ならではメリットなどについて、弊社安田正明が聞いた。


72名の方々が参加。

女性経営者の傾向について

<安田>
 外食の中では女性経営者が少ないのかなと思います。数多く女性実力経営者を存じ上げている訳ではないですが、どうも、男性経営者と違うように思います。男性だと理詰めだったり、意外とお金に関しても細かい。でも、女性は自分の感性を信じて、億という金をポンと突っ込んじゃう大胆さは、ひょっとすると男性にはないのかなと思います。また、男性は外食と言うフィールドにこだわる。女性は枠がなにもない。物販、学習塾、エステなど外食のフィールドを離れて、自分の理想が実現できるならフィールドにこだわらないという柔軟さが素晴らしいと感じています。


まず、なぜ飲食業に興味を持って始められたのですか?

福政惠子氏(株式会社アクアプランネット)

<福政>
 基本的に飲食が好きです。弊社は、「リビングウェル」、よりよく生きることをテーマに事業展開をしています。生きてく場面を見ていくと、ハレの場での楽しい場所を提供しようと考えた時に、どうしても飲食は切り離せない。どこかのタイミングで必ず飲食をやろうと考えていました。ただ、何からやろうというノウハウはありませんでした。

 中島さん(際コーポレーション)に相談したら、やらない方がいいよと最初は言われたんですが、コラボでまず何かやろうかというのが元々のスタートです。飲食にはいろんなステージがあります。日々のお腹を満たす場、ハレの場など。私のコンセプトに合うのは、そこで賑わい感があって楽しいことを持ち帰っていくような、ただ食べるだけじゃなくて、そこで楽しいこと。そういう飲食業に絞っています。

近藤一美氏(株式会社エイト)

<近藤>
 母が飲食店を経営していまして、もの心ついたときから手伝っており、お店が大好きでした。飲食店以外は自分には考えられませんでした。小学生からお店を手伝っていました。景気がいい時代だったので、私がお会計をやると必ずチップがもらえるんです。母が必ず私にレジをさせました。(笑)

横山貴子氏(有限会社イイコ)

<横山>
 10年ほどOL生活をしました。このままでいいのかな、独立したいと思ってました。飲食は全く考えていませんでした。独立するためには資金が必要なので、まず3年間で500万を貯めることを目標にしました。でも、貯まった時に、これだというのが見つからなくて、たまたま周りに飲食をしている人が多くて、趣味が飲むことと食べることしかなかったんです。じゃやってみるか、とノリで始めました。1号店は恵比寿。今の「中村玄」です。




最初の頃のご苦労は?

<近藤>
 エイトしか知らなくて、28歳の時スランプに陥りました。このままでは私はできない、飲食は止めよう、と実は思いました。でも、何をやろうと思っても飲食以外に考えられなかった。その時に外に出で、アートフードさんで働きました。本当に衝撃を受けました。西山社長がカリスマの時代で、店舗のアルバイトまでが会社を愛し、社長を愛していた。宗教のように皆がそれを信じる仕組みが出来上がっていました。

 うちの会社にはまったくない、帰ってこれを作ろうと思いました。今までの母のやりかたを完全否定したんです。こんなやり方をしていたから、うちの会社はだめなんだ。仕組み、組織、理念を作ろうと思いました。すると、自分一人であまりにも否定してしまったため、社員や周りの人が付いて来てくれなかったんです。母が作ってきた時代があったから、今作れるんだということが分かるまでは一人で空回りをずっとしていました。そして、初めて母への感謝という思いがめばえて分かったんです。

<福政>
 23才の時には、基本3原則とか、付加価値を与える仕事とか、こんなことには手を出さないとか、独立するためのコンセプトを考えていました。サービスをお金にしたいと思いました。昔はサービスがお金にならなかったので、当時、コンピューターソフトを販売していましたが、インストラクターはソフトとセットでないと売れないんです。1万円が100万円になるような仕事をしたい。モチベーションとか想いとか、その人の人生にとって輝けるものを提供しよう。でも、それが何か分からなかった。よりよく幸せに生きるをテーマにしても、情報も過多で、考え方も様々ある時代です。大量生産型じゃなくなっている。飲食もターゲットをどこにしていいのか難しくなっています。

 付加価値を与える、在庫はかかえない、値決めは自分でできるの3原則を決め、それを皆さんに提案していきたいと思いました。では、どう提案するか。口だけでは信憑性がないので、まず自分でやってみよう。働いているスタッフがよりよく生きてないのに、お客様によりよく生きることを提案できるか? と悩みました。

 働いたのは、立ち上げの会社で社長は29歳。私は、クルーザーに乗って遊んでいました。友人から、こういう面白い会社があるから行ってみないと言われ、社長に会う前から面白そうだから行ってみようと決めました。就職したら、営業から何から何でもやらなければいけない小さな会社です。そこで、自分はできると若気の至りで思ってしまい、よりよく生きるネットワークを作ろうと独立しました。

 ゆりかごから墓場までじゃないですけど、その人の人生をずっとサポートしていく。人間は1人で生まれてきて1人で死んでいく。子供たちに幸せになって当然なんだよと伝えていきたい。お金がなくて、学習塾を始めました。実は、OLの他に夜、家庭教師をやっていました。OLより家庭教師のアルバイトの方がお金を稼いでいました。そして、一番経費がかからずにやれるもの、学習塾を始めたんです。でも、そんなに甘くなかったですが。

<横山>
 ノリで飲食を始めてしまいました。店を作る時、内装業者を使うとか全く分かりませんでした。物件を決めれば飲食店はできるだろうと思っていました。入り口を開けたら、長い真っ赤なカウンターがある店をイメージしていました。それだけを決めて、まわりの人に大工さん知らない、で始めました。図面も書かなかった。手作りでペンキを塗ったりしないと気が済まない方です。物件を契約してから、オープンまで半年くらいかかりました。

 しかし、オープンできたはいいが、経験が全くありませんでした。半年間、飲食でアルバイトし、ちょっと勉強しましたが、いざ自分でやってみると料理人を使う難しさにぶち当たったんです。最初は言うこと聞いてくれましたが、店が流行るに従って、自分の料理が美味しいからお客さんが来てくれるんだと思われてしまった。自分には料理ができないことを反省しました。


皆さんのお店を紹介いただいて、流行ってる理由を教えて下さい?

<横山>
 11年前に始めた最初の「中村玄」についてお話しします。40席です。お店が流行っているポイントはお客様の気持ちになるのがまず一番。全てをお客様の立場で考えることが基本です。11年前に「201号室」という名前で始めました。その当時は看板のない店はなくて、普通は多くのお客様に来て欲しいから看板を出した方が良いに決まってますよね。


「中村玄」

 ただ、お客様の気持ちになったときに、看板がなければ受動的ではなく能動的に興味を持ってくれると考えました。こっちから来てくれというアピールではなく、自分から行きたいとお客様に思ってもらえる第一歩が看板のない店だと考えました。看板がないことで興味を持ち自分から行ってみる。行ってみた時に、お料理が美味しくて、サービスが良かったら、人に自慢したくなる。友達を誘う。友達も驚いてくれる。友達を喜ばせることにより優越感にひたれる。

 この店に来た時、お客さんはどういう心理状況になるんだろうと、シミュレーションしていく。普通のことでは友達に自慢したくなる要素も減ってくるし、店側が失敗してもかまわないので、お客様が喜んでくれる要素をどんどん取り入れていけば、何となく面白い店はできるかな。

<安田>
 横山さんは今年5月に「鴨丸」をオープン。女性客に気に入られるお店作りをしてこられましたが、女性客は良いところもあるが離れていくのも早い。男性客をターゲットに変えようと、ずっと鍋を研究されてきて、できたのが鴨丸。昔の分校のような築40年の建物です。


「鴨丸」工事前の写真

<横山>
 ホームページに写真は出しません。ホームページを見ただけで行ったつもりになることがあるので、取りあえずいらしてくださいということです。「鴨丸」は最初から長い目でみています。まだ停滞していますが、大丈夫です。「鴨シュウマイ」が美味しいと評判が良くて、通販を検討しています。

<近藤>
「古無門」は、コンセプトが土地にありました。いい意味でお客様の期待を覆すことができました。1400坪で庭園がある、門がある それを見た時に高級なお店かなと想像します。そのまま作ると敷居が高くなり、本当にお金を持っている人だけで、皆さんに来ていただける店はできない。緑がある桜新町、緑を沢山の方に味わっていただきたいと思い、庭にログハウスを建ててお好み焼き店にしました。するとどなたでも気軽にきてくれる店ができたんです。席数は200席以上。


「古無門」

 9月に同じ敷地内に「虎幻庭(こげんてい)」という鉄板焼き店を作りました。客単価は1万円。お好み焼き店は地元の方が家族連れで来ていただいてます。お客様から「家族連れは「古無門」でよいが、せっかく広い庭があるので法事やハレの日に使えるような、お好み焼きではいい服を来てこられないので、もう少しいい店を作ってくれ」という声をいただきまして、それで9/9にオープンしました。客層は「古無門」と変わりません。「古無門」に子供連れできたお客様が、「虎幻庭」には夫婦できたり、お忍びや接待で使っていただいています。


「虎幻庭」

 実は、最初に安易にしゃぶしゃぶ店として3月にオープンさせました。しかし、お客様の反響を見ても上がっていきそうになかったので、もう止めよう、これだけの庭があるので有名店を作ろう、しゃぶしゃぶでは有名店になれないと思い、7月に閉めました。その後、2ヶ月準備を経て、同じ鉄板つながりの鉄板焼きにしました。

 出店を決める際、最初は懇意にしている不動産屋さんからお話をいただきました。所有者からお庭を生かしたい、手入れをして欲しいというのが条件です。実際に行ったら本当に荒れ果てていました。無理かなと思ったとき、虎の石像があったんです。虎を見た瞬間、ここでやろうと決めました。虎に誘われました。(笑)

 桜新町駅から離れているのが気になり、2ヶ月半悩みました。周りからも反対され、だんだん不安になってきました。しかし、母は頑なに「絶対やる、絶対繁盛するから」と自信満々でした。母の力強い後押しで決めました。

<福政>
「アントワープ・セントラル」、丸の内・東京ビルにあるベルギービールの店です。元々、ベルギービールは喉ごしのビールだけではなくて、フランスがワインとともに料理が育ったのと同じく、ベルギーはワインが緯度が高くて取れないので、料理と共にビールが育ったんです。「ベルジアンビアカフェ」はベルギーではレストランです。


「アントワープ・セントラル」

 縁があって「ベルジアンビアカフェ」を展開する世界最大のビール会社、インベブから日本でのパートナーシップをいただきました。本物志向で家具をベルギーから輸入。どうせやるなら本物がいいと、シェフもベルギーのオーベルジュ、ベルギー王室御用達の店で働いていた人です。

 様々なベルギービールの店があります。料理と共に、普通の人がベルギービールを楽しんで欲しいので、2大禁止事項を決めました。マニアは来ない店、不良外人が来ない店です。安いワンコインの店だと、不良外人が女性客にからむ。女の人が1人でも入れる店を作りたかった。

 1号店は大阪です。東京初が丸の内、他に銀座、赤坂にも出店しました。丸の内店は、すぐに爆発しました。銀座店は半年近くかかりました。今は繁盛しています。

 お料理が美味しいことが基本です。最初にシェフを決めてから店を出すぐらいです。シェフは守りに入ってない人が前提。お店のコンセプトと、シェフのコンセプトと、サービスのコンセプトがちぐはぐだとお客様は気持ち悪い。お客様に合わせて自分はどんな料理を提供しなければならないのか、自分の料理はこうだではなく、お客様が喜んでくれるのは何か、そのためには勉強しなければいけないこともあります。それを楽しんでやれる店展開をしています。


人材教育について教えて下さい?

<福政>
 シェフとの関係は、女性なのでよけいに大変なんじゃないですかと言われますが、ぶつかったことがありません。

 任せますが、成果ははっきり言います。お客様はそれで喜んでくれるの? それであなたが楽しければ何もいわない。言い合いしてシェフが勝ったらOKです。お客様の方をどっちが見ているかが大事でしょう。そんな話を徹底してやります。私と話がうまく向き合わないことはありません。もし、そうなったら「ちょっと話しません」と、お互いが納得するまでずっと話をします。

 ホールとキッチンがうまくいってないとお客様に迷惑がかかる。優先順位はお客様が喜んでくれることです。それは徹底しています。

<安田>
 学習塾を経営しているから教え方がわかっているんですか?

<福政>
 子供たちは、納得しないと勉強を頑張れません。予備校では1年もかけてモチベーションを挙げていたら遅いんです。その瞬間にモチベーションが上がらないといけない。自分が何の為に勉強するのか、何でここにいるのか納得しないとだめで、納得するまで話します。最初に何のためにこの仕事をやって、この店をやって、あなたはここにいるのか、ということをものすごく話します。納得して欲しいし、私も納得したい。あなたはなぜここにいるのか、私があなたとここで仕事をしているのはなぜか、これが必然だということを分かってもらいたい。

 2人集まれば組織です。ご飯を食べに行くのでも、組織には必ず目的とルールがあって、楽しもう、映画みようよ、好きな人といこうとか必ずある。会社は世の中の何かに貢献しようとしています。こういうことをやりたい、こういうことで人を幸せにしたい。同じようなことで一緒に成果を出したい人集まれというのが求人活動。

 応募してくる人は必ず同じベクトルを向いてないとだめ。違うベクトルを向くとおかしくなる。会社の悪口を言うような人が会社にいることがありえない。お互い不幸なので、はっきり辞めて下さいと言います。そういう人は会社に就職しないでください。最初は、自分に合っているかどうかわからないですよね。お見合いじゃないけど、何かこの会社いってみたいな、給与がどうのではなくて、何か一緒にやってみたい、何か好き、という気持ちがあれば我慢できるじゃないですか。そういう気持ちがある人は来て欲しい。

 だから第一志望の人しか来て欲しくない。第二志望の人とか、内定出した後で、「もう一つ会社があるんで、待ってもらえませんか」と言われたら辞退して下さいと言います。温度差があるのでしんどいと思いますよ。

 チームってすごく大事なんで、皆で一丸とならないといいお店作りはできないし、何を提案してもお客様が不幸になっちゃうのでそこは徹底してやります。

 子供の成績を上げる時、「騙されたと思って1週間やってごらん」でもいいんですけど、納得して働くかがすごく大事。小さい成功体験を積ませてあげるとか、とにかく納得して働くことが大切。給与システムとか変更しないとダメですけど。

<近藤>
 クレドカードを作りました。気がついたら店舗が広がり、まとまりがなくなっていました。組織を作ろう、ベクトルを一つにしよう、という思いはありながらも、それをするのにもぐらたたき状態です。こっちの店が良くなったら、あっちの店がダメ。そんなことをずっとしていました。このままではいけないと、去年、アルバイトさんを上に持ってくる逆ピラミッド型組織を作ろう、お客様と接するアルバイトさんが自信を持って接客できる店づくりをしようと、去年12月にクレドカードを作りました。

 経営理念と行動指針が書いてあります。うちのカリスマは会長でも社長でもなくて、このクレドがカリスマ。クレドに書いてることであれば、私が間違えていても、「違いますよ。私はクレドカードにのっとってやったんです」と堂々と言えるようにしようと挑戦中です。

 6年間アルバイトリーダーをやっている男の子がいたんですけど、そこの店はアルバイト同士はうまくまとまっていたが、業績はあまり良くなかったんです。クレドができてから、自信をもってやっていこうと、アルバイトだけのミーティングが始まりました。店長も参加しますが、あくまでも最後に「店長、何か一言ありますか」ぐらいで、あとはアルバイトさんが中心にこの店どうしようという話をするようになったんです。非常に沢山の意見が出て、どんどん自分たちで色んなことをやり始めて、私たちもできないようなことを始めて、業績が良くなりました。

 クレドは全員が毎日身につけていて、朝礼の時に、「アクション・クレド1番。お客様と私たちが名前で呼び合える環境を作ろう」とか、毎月1日だったら1番を読み、今日はとにかくこれを大事にしていこう、そのことについて自分がどんなことをしたのか発表したりして活用しています。

 アクション・クレド(行動指針)はスタッフ全員から、半年かけて「皆がどんな店だったら自信をもって働けるか、どいう店を作っていきたいか、お客様にどうしたら喜んでいただけるか」についてアンケートを取って、それをまとめて作りました。

<横山>
 教育関係は大の苦手です。(笑) 同じ目標を持つ人と仕事をしていきたいという気持ちはもちろんですが、向いてない人を向けたりとかすることができないんです。今後はやっていかなきゃいけない課題なんですけど。それよりも自分の得意とするところを伸ばしていこうと今考えていますので、教育関係はゆっくり勉強します

 今のスタッフはベストなメンバーです。人探しに苦労はしていません。知り合いやスタッフの紹介とかで求人しています。今が限界と思ったら、それ以上は店舗数を増やさないし、人でダメだなと思ったら業態を変えます。料理人と意見が合わなくなると、人が変わってもできる業態とか、料理人がいなくてもできる業態とか、アルバイトだけでもできる業態とかそっちの方に頭がいっちゃいます。人の教育よりも。

 以前、女性が中華鍋を振るという、全員女性の中華料理店を作りました。流行ったんですが、女性だけと最初から意識していた訳ではなくて、友達の友達とかつてをたどっていくと、たまたま女性だけのスタッフになってしまったんです。なぜか同じメニューでやっていても、スタッフが女性だけになった途端、たちまち売上が上がるようになってしまいました。お客様は7:3くらいで男性が多かった。はっきり言って、計画性がないってことですね。人が集まったらそれに合わせて業態を考えたり、物件があったらそれに合わせて考えたり、全てはその時のノリです。

<安田>
 景気が思わしくなくなって、人が集まりやすくなっているような気がします。でもそれは一部の有名な店だけで、大半は変わってないような気もしますけど、人は問題なく集まってきますか?

<近藤>
 うまくいってる店は紹介でどんどん人が集まります。うまくいってない店が悪循環になります。

<福政>
 今後の展開を考えて求人はするんですが、現実的に今いる人たちは全員紹介かスカウトです。店長やる子や、飲食が本当に好きでという子は求人では来ません。すごくいい子は、もしそこを辞めたいと思っていても、次を自分で見つけています。誰かに声かけられています。そうじゃなくて、誰の頼りにもならずに行きたいという子もまれにいます。キッチンは100%紹介です。ただレギュラーから入って上に上がった人もいますし、最初アルバイトでレギュラーになって上に上がっていく人もいます。それは求人ですけど、基本的に社員はスカウトが多いです。

「とりあえず連れてきて」とスタッフにお願いしています。皆も、どういう子がうちの会社に合うか分かっています。「とりあえず私の前に連れて来てくれさえすれば、あと私が落とすから」と言います。今回の青山の「イルデジデリオ」も大阪で3人スカウトしました。

 社員になって定着すると連れてきた人に1人につき10万円がもらえます。うちの会社に興味があって来ることが前提ですけど、そろそろ外に出した方がいいかといって出て行った人はいますが、キッチンはだれも辞めません。その子たちが、次に誰かを連れてきたりとか、お客様の紹介もあります。ありがたいです。

 移籍料みたいなものは出しません。「あなたの成果次第です」と言います。お金で釣ることはしたくない。飲食は独立しやすいので、会社にステージがあるかどうかが大事。ステージを与えていくのが経営者の仕事です。独立するよりも、ここにいる方が自分にとってステージがある。ステージを常に与えていく。場所だけではなく、自分の成長だったり、収入も。


店作りに自分の感性は重視していますか?

<横山>
 お店にいらした方は、人の意見を聞かないとかよく言われます。が、実はそうではなくて、常にお客様目線で客観的に考えます。例えば、今はないですが、「村上製作所」。もともと製作所だったところを飲食店にして、そのまま「村上製作所」という名前を付けたんです。これはもちろんひらめきはあるんですけれども、ひとつひとつの細かい照明の明るさだったり、テーブルの清潔なんだけど汚さ、お客様がそれを冗談としてどこまで受け入れられるか、をすごく考えます。一歩間違えると、ただふざけて作った自分の趣味の店と思われがちなんですけれども、お客様あっての商売ですから。

 工事は図面を書きません。イメージが自分でもわかないんですよ。例えば床を作ってからじゃないと、壁の色をどうしようとか、壁を作ってからじゃないと、テーブルをこうしようという想像力がないんですね。空間の中に入ってお客様が座った場合に、この壁の色だったら落ち着くかなあとか、考えないとだめなんで、工事中でもスタッフや友達を呼んで、いい意見をどんどん取り入れます。変更、変更ばっかりです。外部のデザイナーは使わない。一回使いましたが、最終的にはやり直しやり直しで、結局自分たちで決めました。

<福政>
 デザイナーと話して、まずイメージの共有をして、デザイナーから上がってきたものが、ちょっとイメージと違うとか、自分はここにはこだわりたいとか 行ったり来たりを繰り返します。所詮、素人なので、それよりもいいなと思えるようなものを期待したいです。

<近藤>
 たくさんいろんな方に意見を聞きます。その中でだんだん自分のイメージがわいてきて最終的に決める感じです。デザイナーの方にはその意見をまとめて図面に落していただきます。変更は申し訳ないくらいやりますね。

<安田>
 男性は任せちゃって、もういいやこれで、となっちゃう人が多いような気がします。女性は細部にまですごくこだわって自分が納得できるまで突き返す感じがします。


女性経営者であることに対してのメリット、デメリットを教えて下さい?

<横山>
 女性、女性と普段から感じてはいないんですけれども、良く考えたら女性という立場を利用してますね。経営者だから男性と対等に頑張ろうという気はなくて、弱いところとかどんどん見せちゃいます。頼ったりグチをこぼしたりすることにより自分を女性ということに甘えてさらけ出すことが長続きできるコツかな。甘いですかね。周りはいやがっているかも知れませんが、メリットかなと感じてます。

 デメリットとしては、これから独立したいと思っている方もいらっしゃると思いますが、最初に銀行から借り入れをする時に、女性で独身ということで苦労した部分はありました。最終的には貸してもらいましたが、すごく根掘り葉掘りプライベートなことまで突っ込まれました。

<近藤>
 女性であることが全部メリットじゃないかな、というくらいに感じています。私が女性ゆえに周りのスタッフが心配して下さりすごく助けられている。私が男性だったら違うんだろうなと思います。

 デメリットは私の場合、子育てをしながら仕事をしていることです。もちろん、子供がいることで生き甲斐にもなるし、いいこともいっぱいありますが、飲食の場合はどうしても仕事が夜になってしまうので、時間の作り方に苦労しています。それもあって周りに支えられているんで、それもプラスなのかなと感じます。

<福政>
 スタッフは私のことを女性だと思ってないと思います。よく「男前ですね」と言われます。自分でも嫌になるんですが、「任しとき!」と言って、何かトラブルがあると飛んでいくという特性があります。

 女性の視点では、女性はいろんなことを同時に考えられます。全ての人にとってベストな判断は何なんだろう、拡散的に物事を考えられるというのは、とっても大きいと思います。

 私個人の特性として言えば、OLの後に塾・予備校の時間が長かったので、どの子も大学に通してあげたいとか、大学の後にあなたの人生をどうやっていくのとか、大丈夫そんな決め方でなど、どうでもいいようなことで悩んでいるのを何とかしてあげたいがずっとありました。スタッフを見てても、成長させてあげたいとか、ステージでポジションを作ってあげたいと思います。「会社は超えられない壁をあなたに超えろと言うことはない。あなたの言われたことは絶対やれることなんだ。必ず乗り超えなければいけない」と言って、ステージを作って乗り越えさせて、何かあったときは私に泣きついてきたらいいから、どんな失敗でもいいから、尻拭きは私がやる、というようなやり方でやっています。スタッフは一番頼りになると思ってくれていると思いますが。(笑)


今後の戦略は?

<近藤>
 去年、1400坪のお好み焼き「古無門」を開店させ、付加価値のあるお店をやってお客様に好評いただきました。ただビルの中に飲食店を作るということではなくて、何か付加価値のある店を作っていきたいと思っています。

<横山>
 店舗を増やしていくより、鴨という食材に特化して鴨丸をブランド化するという目標があります。鴨はスーパーでも通常売ってないですし、日本人では鴨南蛮とか鴨せいろとかくらいです、日常的に食べるのは。新しいスタイルで日本人の食卓にも自然な形で広めていける食材だと思っています。鴨に関する調味料ですとか、食材の物販のほかに、鴨をテーマとしたグッズなどの開発。新しいスタイルで鴨を広めて「鴨丸」をブランド化したい。

<福政>
 来年、池袋にカフェをやります。スイーツも8〜9月に伊勢丹のフェアにパティシエの名前で出店。物販の方に力を入れていきたいので、どっかのタイミングでスイーツの物販をやっていきたい。うちのスタッフが何でここにいるのか、ステージをその子たちに作っていかないといけないので、プレッシャーがかかります。

 会社ってやりだすと続けるしかない、大きくしていくしかない。その人を雇用してその人のステージを用意して、その子たちの人生が全部肩にかかっています。ステージ作りに力を注いでいきたい。


神奈川の分煙条例が話題になっていますが、どんな分煙をしているのか、お客からどんな声がありますか?

<横山>
「鴨丸」は全席禁煙にしています。目的が美味しい鴨を食べていただくことですので、喫煙は必要ないと思いました。でも、全席禁煙にするにはとても勇気がいったんですね。色んな方にアンケートを取らせていただいて、きちんと食事をする際に他人のタバコの煙が気になって、どんなに美味しいお店でも料理の味が半減したりとか、雰囲気が台無しになったりとかいう意見がとても多かった。それはお店には直接クレームとして言えないので、結局はそのお店に2度と行かないという悲しい結果になることが分かりました。

 ただ全てのお店において全席禁煙にするということは考えていません。他の店舗に関しては、美味しいお酒を飲んでもらったりとか、雰囲気を楽しんでもらうという目的もありますので、ケースバイケースだと思います。

<安田> 
「鴨丸」では、お客様は窮屈に感じていませんか?

<横山>
 ありますね。入口に禁煙というマークを付けていますが、それを見て予約を入れたお客様が帰ったりしたこともあります。もったいないと思いますが、店側が目的とかお客様のターゲットとかはっきりしていかないと、全ての人に受け入れられることはとても難しいことだと思います。お客様が店を選ぶのは当たり前のことなんですが、その前にお店がやろうとしていることを明確にしていかないと難しいかな。禁煙は間違った選択ではないと思っています。

<近藤>
 22店が神奈川県にあります。2年前の禁煙ブームの時、とにかく禁煙にしていこうということで、ラーメン全店とカフェを禁煙、レストランを分煙にしました。そこはスムーズにいったんですけど、お好み焼きも一度禁煙にしてみようということで挑戦しました。凄い反響です。宴会がことごとくキャンセルになってしまって、断念してしまいました。

 今は、居酒屋、お好み焼きは一部分煙ですが、ほとんど喫煙です。そんなに深刻に考えていなかったんですけど、私が考えていた分煙はエリアを分ければいいのかなと思っていましたが、かなり厳しいということを先ほど知りまして、のんきだったなと思います。私自身もどうしていけばいいのか考えているところです。

<安田>
 禁煙席から喫煙席に向かい秒速0.2m以上の風が吹いてないとダメなんです。禁煙席側に煙が出ない漏れない仕組みを作るそのためには喫煙席の上にダクトを設けて強制排気をしないとその基準に当てはまらないというのが、今の条例案です。

<近藤>
 お金がかかりうそうですよね。古い建物だともっとかかりそうですね。

<福政>
 基本的は分煙が中心になっています。お店の種類によって喫煙にするのか、分煙にするのか、禁煙にするのか変わってくると思います。青山のイタリアン「イルデジデリオ」はカウンター席だけ喫煙、名古屋の「カンカル」もカウンター席だけ喫煙という分煙です。 「アントワープ・セントラル」とか夜アルコールを飲んで楽しむ場所でタバコの煙が体に悪いというならお酒も体に良くないんですよね。きっちり決めるのではなく自堕落な感じが夜はいいような気がします。(笑)

 今回の神奈川県の条例案は公共施設なら分かりますが、お店をどうしたい、どの店に行きたいはお店やお客が決めること。決めつけられることではなくて、1つの店の中で吸う人と吸わない人の両方を満足させようとすると、分煙しかないかなと思います。でもそれは強制されて、こうでなければとか、流行りだからとかではなくて、もっと皆で意見を交換した後に、選択する自由があることがとても大切です。 そういう意味では人から自由を奪っていく施策だなと思います。

<安田>
 今の案が通れば、全席喫煙はありえません。他所の地方自治体も同様の条例を作る可能性もあります。建前論でくると分煙になりそうです。その勢いが怖い、飲食業はタバコと切れない関係にあると思います。もう少し議論できる風潮がでればと思います。
本日は、ありがとうございました。


株式会社アクアプランネット http://www.aquaplan.net/
株式会社エイト http://www.eight-8.co.jp/index.html
有限会社イイコ http://www.e-e-co.com/index.html

【開催】 東京・丸ビルコンファレンススクエアにて、2008年9月29日開催。