フードリンクレポート


リッチな外国人観光客が集まる飲食店はここが違う!

2008.10.31
景気悪化と物価上昇のダブルパンチで、日本の消費者の可処分所得は減少。生活防衛策として、外食を控える傾向が強まっているようだ。それに対して、日本に旅行、商用などで来る外国人は、2007年には過去最高の年間835万人に達し、1000万人も目前。特に、銀座や新宿でブランド品を買い漁り、秋葉原の家電店に群がるリッチな中国人が増えている。では、リッチな外国人はどういうレストランを選んでいるのだろうか。リサーチしてみた。


外国人向け東京の飲食店と東京ツアーのパンフレット

訪日外国人は1000万人目前。際立つ中国人の消費意欲

 日本政府では2003年より、国土交通省が中心となって官民協同で海外旅行客を増やす、「ビジット・ジャパン・キャンペーン」を行っている。実施本部事務局は、日本政府観光局。

 これは03年当時、日本人の観光・商用を含めた海外旅行者の総数が、約1600万人であるのに対して、外国人の訪日者数が約500万人と、3分の1にも満たないことを受けて、2010年までに訪日者数1000万人を達成するという数値目標を掲げて、行われているものだ。


有楽町交通会館10階にある日本政府観光局

 たとえば「トラベルマート」という旅の見本市開催、海外メディアの取材支援、海外でのTVCMの放映、海外の旅行博への日本ブース出展といった活動を行い、成果は着々と表れている。

07年の訪日外国人は前年比13.8%増となって、過去最高の年間835万人。1000万人達成も目前となってきた。

「ビジット・ジャパン・キャンペーン」では、重点市場として次の12カ国を選んでいる。韓国、台湾、中国、香港、タイ、シンガポール、アメリカ、カナダ、イギリス、フランス、ドイツ、オーストラリア。また、有望新興市場として力を入れ始めているのは、インド、ロシア、マレーシアの3カ国だ。

 日本政府観光局(JNTO)の調べによると、国別の訪日数は、韓国(31.2%)、台湾(16.6%)、中国(11.3%)、アメリカ(9.8%)、香港(5.2%)、オーストラリア(2.7%)、イギリス(2.7%)、タイ(2.0%)、カナダ(2.0%)、シンガポール(1.8%)、フランス(1.6%)、ドイツ(1.5%)の順。

 国別では約3割を占める韓国が圧倒しているが、言語別では、台湾・中国・香港・シンガポールを合わせてみると、中国語圏が34.9%で最大になる。恐るべし、チャイナパワーだ。

 これらの国々で注目されるのは、上海、広州、北京などといった沿岸部の発展が目覚しい中国。中国人の訪日目的の第一は買物であり、銀座や新宿の百貨店、秋葉原の家電量販で、気前よく商品を買っていくのは、リッチな中国人が目立つという。

 それは何も高級ブランドの洋服や貴金属ばかりでなく、粉ミルクのような食品にまで及んでいる。食の安全が疑われる中国の商品より、品質が高くて信頼できる日本の商品がほしいというのが、中国人富裕層の本音なのだ。成田空港に近い「イオンモール成田」では、日本出国直前に日用品を買いあさる中国人が上得意になっているらしい。

 さて、海外からの旅行者が訪問する2大都市は東京、大阪だ。外国人はいったいどういうレストランを訪問しているのか。調査結果からは、日本人とは異なる好みが明らかになってきた。


欧米人にとって居酒屋は飲食版ディズニーランドだ

 六本木・芋洗坂にどこからともなく外国人が集まってくる居酒屋がある。六本木というと、元々外国人の多い土地だが、それにしても店の外や入口付近に設けてある、ちょっとした立ち飲みスペースで、立ち飲みをしている黒山の人だかりが、ほぼ全員外国人といった日もあるというから、人気振りがうかがえる。

 その店の名は、「ジョウモン」。博多串焼の専門店である。店名の“ジョウモン”とは博多弁で“べっぴん”、“いい女”など上質を意味する。


「ジョウモン」 外観


「ジョウモン」 とても控えめな看板。


「ジョウモン」 外に設けられた立ち飲みスペース。


「ジョウモン」 奥のテーブル席。

 そもそもが、平日の夕方でもオープンしてほどなく顧客で埋まってしまうほどの人気店。日本人の顧客のほうが比率的には断然多い。しかし、店で飲んでいると、欧米系からアジア系まで、2、3人の小グループで同店を訪れる外国人がかなり多いことが確認できた。

 彼らは言葉が少々通じなくても平気で、女性同士でも飲みに来る。

「アメリカ人、イギリス人のようなブルーの目の人たちは相当来ます。チャイニーズや東南アジアの人も来ますが、あまり多くはないです。グランド・ハイアットやザ・リッツ・カールトンから直接、予約の電話が入ることもありますよ。ブラックカードよりもさらに上級の透明のカードを出されたお客さんもいらっしゃいました。透明のカードというものがあると噂には聞いていましたが、まさか私どものような店でお目にかかるとは、思いもよりませんでした」(経営するベイシックス社長・岩澤博氏)。


欧米人宿泊客が多いグランドハイアット東京。

「ジョウモン」は、昨年6月のオープンで、昭和を感じさせながらも、現代的なセンスを感じるデザインの店だ。客単価は4000円ほどと、焼鳥、串焼の店としては高いほうではあるが、高級とはほど遠い庶民的な飲み屋である。

 そこに、六本木の名だたる高級ホテルの外国人VIPの宿泊客が来るというのだから、驚きである。彼らはお金に困ることは一生ない億万長者ばかり。お金では得られない何かを求めてやってきているに相違ない。

「彼らは座敷や個室より、カウンターに座りたがります。で、ウチの店員が『いらっしゃいませ』と言うと、それを口まねして楽しんでいます。普段は靴を履いたまま生活し、ナイフとフォークを持って食べている人が、靴脱がされて、箸持たされて、しかも目の前で威勢のよい居酒屋の接客をするものですから、ディズニーランドに行ったような気分になるんでしょうね。

 彼らは食事の楽しみ方を知っているというか、『ワンダフル』を連発して店員を乗せてくれますし、知らない人と隣り合わせになっても、片言の会話ですぐに仲良くなってしまいます」(岩澤氏)。

 この店では英語のメニューを作っているわけでなく、店員は英語をほとんど話せないが、それでもインターナショナルな店としてある。最初、外国人が来るようになったきっかけは、ホテルの従業員が来てみて良かったので、コンシェルジュを通して外国人に推薦したため、広まったということらしい。


「ジョウモン」 外国人が占拠する日もあるカウンター。

 クチコミ効果で、海外のクリエーター、パフォーマーの来店も多い。団体で来ても外国人はカウンターに座ろうとするので、カウンターが全席外国人で埋まる日もあったという。

 また、1階路面のオープンな感じの店なので、単なる通りがかりで入ってくる外国人も多い。彼らのセンスにどこかフィットするのだろう。

 外国人はオーダーするメニューにも特徴がある。この店では串焼きは、焼トン、焼鳥、牛串、野菜串とあるが、彼らが頼むのは圧倒的に“牛”だ。佐賀牛の肩ロース霜降り「ざぶとん」(400円)が大人気。8人で20本以上を食べつくしてしまった、外国人グループもあったそうだ。大判の「大ざぶとん」(1200円)も人気があり、ステーキの感覚で食べている。

 次いで人気があるのは、豚のアスパラ巻き、シソ巻き、トマト巻き、おくら巻き(各200円)などの“豚巻き”である。基本の「鹿児島産黒豚バラ」(200円)も、人気がある。

 ドリンクは、日本酒とビールに人気がある。外国では日本酒の人気が高まっており、ワインで串焼、焼鳥というニーズはほとんどない。


「ジョウモン」 外国人に人気のメニュー、ざぶとんと黒豚バラ、そして日本酒。


一軒家の看板もない居酒屋なのに欧米人が詰めかける

 同じベイシックスの「てやん亭゛(てやんでい)」西麻布店も外国人に人気というから、この店にも訪問してみた。

 細い住宅街の道沿いにある、一軒家の表に看板も出ていない店で、どうしてこんなわかりにくいまさに隠れ家のような場所が、外国人に知られているのか、不思議なほどだ。


「てやん亭゛」 一軒屋の店なので外国人は家に招待された気分になる。

 実は、「てやん亭゛」西麻布店は、イギリスの有名な高級紙「ガーディアン」の選ぶ「東京の居酒屋ベスト10」(08年2月26日付)で1位に輝いた。

 記者は店には食べに来たが、正式に申し込んで取材したわけでなく、写真が掲載されたわけでもない。単に順位表と記者の解説文が載っただけだが、それでも効果は抜群で、ユーロ圏を中心にその名が知られわたった。

 ちなみに以下の順位は、2位恵比寿「buri」、3位青山「炙家」、4位渋谷「ビストロ三十五段屋」、5位西新宿・新宿住友ビル「結庵」、6位赤坂「いっこん」、7位銀座・インズ「月の雫」、8位神楽坂「てしごとや霽月(せいげつ)」、9位西麻布「権八」、10位表参道「GALALI(がらり)」となっている。

 外国人に受ける店の共通の雰囲気が、感じ取れただろうか。

 これらの多くはやはりホテル従業員が実際に来て、泊まっている人に勧めるようなところから、外国人に知られるようになった店が多いようだ。「まずホテルマンを口説け」、これが外国人、特に欧米系を呼び込む鉄則だ。

 訪日した外国人が食べたいと思う食事は、やはり和食である。世界的な和食ブームということもあるが、彼らはお金持ちといえどもミシュランが対象とするような、高級店ばかりを好むわけではない。もっと、日本人の生活感に踏み込んで、居酒屋に行きたいと思っているのだ。

「てやん亭゛」の場合は一軒家であり、玄関で靴を脱いで上がるスタイルなど、実際の日本人の家を訪問したような雰囲気がある。そこが外国人旅行者に受ける、大きな要素になっている。


「てやん亭゛」 個室もなかなかいい感じだが外国人はカウンターのほうが好みらしい。

 同店は個室も充実しているが、外国人が座りたがるのは、日本人と違って、やはりカウンターであるという。彼らは中で仕事をしている従業員の動きを一種の舞台でのパフォーマンスととらえており、その非日常空間を楽しんでいる。

「ハリウッドのスターも訪れますよ。ロスに行くとウエストハリウッドに『カタナ』というセレブがよく来る日本食レストランがありますが、『カタナ』に来るような客層の外国人が集まってきます。味がどうかというより、B級の雰囲気が彼らにとっては入りやすいのじゃないですかね」と岩澤氏は分析する。

 そこで、外国人に人気のメニューをつくってもらった。畝原大樹店長によれば、「胡麻豆富」(580円)、「山芋の竜田揚げ」(580円)、「えびマヨ」(780円)が人気のベスト3で、「黒豚の角煮」、「う巻き」(各680円)も人気があるそうだ。

 オープンして10年ほどになるが、以前から外国人の常連も多く、外国人ばかり20人ほどのパーティーが入ることもあるとのこと。メニューになくても、焼鳥、天ぷらのような和食の定番メニューのオーダーがあるとつくってあげたり、ベジタリアン向けには肉を含まないメニューを提供したりするなど、顧客のリクエストを聞いてあげるのも、外国人に人気が高い秘訣のようだ。

 ローマ字でメニュー名をメモしてやって来る人も多く、一度足を運んだ人が、クチコミで同店を推奨していることがうかがえる。

 さて、「胡麻豆富」はユーロ圏の人は2杯、3杯注文するのが当たり前と、非常に人気があり、もちっとした食感がデザート感覚で旨い。「山芋の竜田揚げ」はジャガイモのようであって微妙に違うのが新鮮で、タルタルソースが合う。「えびマヨ」は練乳をソースの隠し味に使っていて、甘めの味付けだ。


「てやん亭゛」 人気メニューの胡麻豆富、山芋の竜田揚げ、えびマヨ

 こうやって見ると、同店は和風居酒屋といってもメニューに洋風の要素を取り入れた創作料理が多く、そこが外国人の舌にフィットしている可能性がある。

 ドリンクは日本酒のオーダーが多いが、最近はたまに焼酎をロックで頼む人もいて、ようやく焼酎の認知度が海外で上がってきた模様だ。

 日本人には人気のプリン、シャーベットなどのデザートを注文する人はまずいないのも、外国人客の特徴という。また、1人で来る人も多く、お酒を飲まないで食事をして帰る人も多いのも外国人客の傾向として挙げられるそうだ。 


中国人の個人旅行者向けの「銀聯カード」が急拡大

 ベイシックスの2店で、欧米系の訪日外国人が集まる店の特徴はある程度見えてきた。それでは、羽振りの良さが目立つ中国人はどうなのだろうか。

 中国人が日本を観光するには条件があり、この春までは中国の旅行社が募集する5〜40人の団体ツアーに参加しなければビザが発給されなかった。滞在期間は15日まで。

 しかし、今年の3月より観光ガイドの付き添いは必要だが、2〜3人の家族旅行もできるようになり、条件が緩和されている。
つまり、他の国との違いは個人旅行が許可されておらず、団体旅行が主流ということにある。

 とはいうものの、抜け道はあって、日本に家族・親族がいる場合や、日本への商用などの場合は、日本で身元保証する人がいれば訪日できる。日本政府観光局によれば、中国からの2007年の訪日外客総数は約94万3400人であるが、実はこちらのほうが全体の6割近くを占めていて団体旅行者より多い。


中国系の宿泊が多い新宿プリンスホテル。京王プラザホテル、新宿ワシントンホテルも多い。

 それにしても、中国が海外への団体旅行を許可したのは1997年であり、その年の訪日者数が約26万人であることを思えば、10年間で約3.6倍の急増ぶりである。06年と07年の比較では、16.2%も伸びている。

 そして注目すべきは、中国人富裕層は海外旅行で世界一お金を使っているという点だ。アメリカの大手調査会社ニールセンによれば、2007年の上海、広州、北京の住民が海外旅行で1人当たり消費する金額は3000ドル(約30万円)で、世界一とされている。

 中国人の日本への団体旅行には、ゴールデンコースというものが存在する。これは、1週間ほどの旅程の中で、まず大阪の関空に入り、大阪、京都、名古屋と観光して、富士山と箱根を巡って東京に入り、ディズニーランドを観光して、成田から出国するというものだ。

 東京では銀座、新宿、秋葉原、浅草、台場、東京タワー、皇居などを駆け足で観光するが、自由行動の時間も設けてあり、その間に、彼らの第一の目的であったショッピングを済ますというわけだ。

 食事は団体行動なので、ツアーで予約した店に行くのが主流になる。つまり、旅行社との密接な関係を築いた店が、継続的に利用してもらえるのだ。中国系の人たちは新宿に宿泊していることが多いので、新宿は有利だ。新宿界隈の「叙々苑」、「かに道楽」、「無門」などは、中国人団体客が多いらしい。

 また、各種ツアーで台場にて食事を取る場合は、「デックス東京ビーチ」にある和洋中バイキングの「太陽楼」がよく活用されている模様だ。家族や個人などで日本に来た人向けの、「はとバス」中国語東京ツアーでは、浅草の「雷5656(ゴロゴロ)茶屋」で天ぷらなどの和食の昼食を取る。

 中国人のお金持ちのショッピングを促進するために、中国の国民カードと言われる「銀聯(ぎんれん)カード」の導入を、05年12月より推進しているのが、三井住友カードだ。今年1月の時点で、東京、大阪を中心に1万1600店に達している。銀座や新宿の百貨店やブランドショップ、秋葉原の家電量販や免税店はほぼどこでも使えるという。浅草の「仲見世商店街」、台場の「デックス東京ビーチ」や「ヴィーナスフォート」にも導入されている。


銀聯カードが使える家電免税店。


中国人団体客が多いデックス東京ビーチ。

 中国各銀行で発行した「銀聯カード」の発行枚数は、今年5月で16億5000枚に達しており、取引金額は約1654兆円となっている。

「中国はビザ、マスター、JTBのような国際的なクレジットは普及していなくて、政策的にデビットカードの銀聯を普及させてきたのです。中国人は国外に持ち出せる外貨が50〜60万円に制限されていますから、ショッピングで足りなくなったら、預金から落ちる銀聯で決済してもらおうというわけです」と、三井住友カード広報室。

 飲食店では、「かに道楽」、「白木屋」などの居酒屋を展開するモンテローザ、赤坂の「板前寿司」などが導入している。「板前寿司」は香港の寿司ブームの火付け役となった店の日本初上陸店だ。

 こうした「銀聯カード」急拡大の動きが出てきているのは、日本に来ている個人のビジネス客や、家族旅行者をターゲットに見据えたものであり、将来的に解禁されるであろう中国人の個人の観光旅行者を取り込む仕掛けである。


中国人に一番人気の日本食はラーメンとかに料理だ

 中国人観光客に店の認知度を高めるには、メディアの力も大きい。

 ドリームキューブ(本社・東京都中央区日本橋人形町)という会社は、05年から台湾と香港向けに、中国語の無料東京ガイドマップを配布。効果があったので今年10月に、中国本土の大陸向けも創刊した。また、大阪版も発行を始めている。

 台湾・香港は、「繁体」と呼ばれる昔からの文字が使われているのに対して、中国本土は共産党政権が決めた「簡体」を使う。文字が違うだけでなく、広告のニーズもやや異なっていることから、2種類の中国語マップを作成している。

 東京都心部と東京ディズニーランドのある浦安・舞浜の地図、地下鉄路線図、空港からのアクセスマップ、新宿、池袋、上野、浅草、台場、渋谷・原宿、六本木・赤坂、銀座、秋葉原、横浜の街の地図が載っていて、なかなか便利だ。

 中国の旅行社で出発する前に配ってもらっているほか、全日空の台北と香港の支店、東京のホテルなど230カ所で配布している。


上段は香港の東京ガイドブックと上海の日本旅行雑誌。下段は台湾の東京ムック。


中国人の東京の街歩きに便利な情報が満載。


中国人向け東京案内地図。左は大陸向け、右は香港・台湾向け。

 同社担当者に、中国人観光客の食事の好みについて聞いてみた。

「日本に来てまで中華料理や洋食を食べたいとは、思っていないでしょう。やはりおいしい日本食を食べたいのですよ。それで、日本人は外国人なら寿司が好きだろうと考えるかもしれませんが、中国人が日本で一番に食べたいのはラーメンなのです。彼らから見れば、ラーメンは日本食以外の何者でもありません」(ドリームキューブ営業企画部 営業企画グループマネージャー・大場剛氏)。

 なんと、中国人の人気日本食のトップは、ラーメンなのである。

 逆に寿司や刺身は、特に中国人の年配者では箸を付けない人もいる。これは中国人が伝統的に火を通した食材しか食べず、生ものを食べない習慣があるからである。

 大場氏によれば、香港、台北、上海などの雑誌社は、頻繁に東京や大阪に来ていて、最新の街の情報を仕入れている。なので、意外なほどトレンドに通じている。彼らの情報発信の効果は絶大で、紹介された店に観光客が集まる。

 同社では、中国語圏の雑誌やTVの取材をコーディネートするような仕事も行っている。中国語や英語のメニュー作成、ホームページ作成も請け負っており、日本と中国語圏の間を取り持つ、さまざまなサービスを行っていくとのことだ。

 また、財団法人大阪観光コンベンション協会は、大阪の観光情報を発信すると共に、各種メディアの取材窓口ともなっている。

「中国の方はかにが好きですね。上海がには小さくて味噌を楽しむものですが、日本のかには脚の身を食べますから、そのあたりが面白がられているようです。ふぐも人気がありますが、好き嫌いが分かれます。かに道楽さんやづぼらやさんは、大阪の観光名所ということでも、ご案内していますよ。海外の女性誌には、ハービスエントのような商業施設を、おしゃれなスポットとして紹介することもあります」とのこと。食道楽の大阪では、有名飲食店が観光の名所の1つとしてピックアップされているのが面白い。それと、中国人がかに料理を好んでいるというのも一つの発見だ。

「かに道楽」を展開するJRIかに道楽では、「銀聯カード」を大阪では本店、道頓堀中店、道頓堀東店の3店、東京では新宿本店、新宿駅前店、銀座八丁目店、渋谷公園通り店、上野店、吾妻橋店、横浜店など12店に導入している。大阪の3店、新宿の2店などは、特に中国系の顧客を含め、外国人も多く来店する店だが、“銀聯効果”は今後に期待とのこと。現状はまだまだ、団体客が中心なので利用者は少なく、「かに道楽」で使えるとの宣伝もこれから本格化してくる模様だ。


多言語メニュー作成で外国人の利便を図るのも必要

 というわけで、中国人がラーメンを好むということがわかったので、特に中国人に人気があるという、「光麺」を訪ねた。

 運営会社のマリフィックによれば、「歌舞伎町の2店(新宿歌舞伎町店、光麺食堂)、池袋本店に外国人、特にアジア圏の人が多いですね。新宿南口店にも最近は増えてきました。最初は旅行会社の添乗員の方がよく来られていて、そこからクチコミで広がっていったようです。7、8年前のラーメンブームだった頃に、寿司、天ぷら、日本そばだけでなく、ラーメンも日本の食文化だという紹介のされ方で、中国のテレビで光麺が東京で一番の店といった報道をされたのが、きっかけでしょうね。ウチの店では留学生も働いていますが、その親御さんがテレビを見ていたわけです」と語るのは、取締役・瀬川尚弘氏。


中国人にも人気が高い光麺池袋本店


光麺池袋本店の店内。

 以来、中国をはじめ、香港や韓国など向こうで発行されている東京のガイドブックのライターが取材に来て、「光麺」がよく掲載されているというのだ。「光麺」は東アジアで有名な、インターナショナルなラーメン屋なのである。池袋本店でも1日を通して、観光客、日本在住のビジネスマン、留学生を含めて約1割はアジア圏の顧客だそうだ。

 どの店でも留学生が働いているので、コミュニケーションが取りやすいということもあるが、言語にかかわらず目で見てどんな料理かわかるように、1年半ほど前からメニューを写真入りにしてみたり、日本語がわからない人向けに、ハングル、北京語、英語に翻訳したメニューを作成してみたりといった、工夫をしている効果も出ている。


英語、中国語、韓国語に対応した光麺のメニュー。


左は欧米人に人気の坦々麺、右は中国人に人気の熟成光麺。

 中国人に人気なのは、「元祖光麺」(680円)、「熟成光麺」(730円)といった基本メニューだそうだ。

「光麺」の味のベースは豚骨と鶏がらを8:2で配合したスープだが、じっくり煮込んでいるものの、煮込みすぎない時点でスープから豚骨と鶏がらを出しているので、九州ラーメンとは違ってあっさりしている。また、麺の中太ちぢれ麺は、どこか懐かしい中国から日本にラーメンが伝わった頃の東京ラーメンの雰囲気を残している。商売としては当然、日本人がベースなので、特に中国人に受けることをしているわけではないが、中国人からみて一番おいしいラーメンの味付けになっているのかもしれない。

「坦々麺」、「焦がし坦々麺」(各880円)は、口に合わないのか、ほとんど注文がないそうだ。デザートの「魔法のプリン」(280円)も、中国人はオーダーしても途中で残してしまうことが多いという。

 一方、六本木店などでは、欧米の人もたまに来るが、彼らの好みははっきりしていて、「坦々麺」と「焦がし坦々麺」、ほぼオンリーだそうだ。中国系の人たちとはラーメンの好みが全く正反対なのが面白い。


居酒屋に寿司やお好み焼を食べに来る中国人観光客

 中国人がよく訪れる居酒屋として挙げられるのは、モンテローザの「白木屋」、「笑笑」、「魚民」がある。韓国人も含め、東アジア系の人の来店が、観光客、日本に住んでいる人を通じてかなり多く、特に地域的に歌舞伎町と大久保の店に集中しているそうだ。


笑笑歌舞伎町店


白木屋入口(イメージ)

 同社によれば、外国人がよく来る理由として挙げられるのは、「知名度(安心感)」、「日本の居酒屋文化を体験できる品揃え及び清潔感ある内装」、「サービスに対して価格がお手頃であること」ではないかと考えている。

 知名度については国内のモンテローザの規模もさることながら、「白木屋」、「笑笑」を上海で3店、香港で2店展開していることも関係している模様だ。それと、競合他社の店に比べて全般的に安いというのもポイントのようである。

 外国人顧客向けの対応として、同社のメニューには日本語に加えて英語を付記している。これとは別に中国人の顧客が多い店では、中国語で説明したメニューを作成するなどといった対応を行っている。

 また、居酒屋でよく使用する言葉・文言を一覧にした中国語の説明文を作成。従業員が中国語を話せなくても、その説明文を指で示しながら、案内するのも可能になっている。座席への誘導、注文、会計など一連の居酒屋のやりとりがあらかじめ中国語で書かれた文書があるので、中国人顧客にとって安心して飲食を楽しむことができるのだ。

「銀聯カード」に関しては、昨年2月より中国人ビジネスマンを取り込むために試験的に導入しており、現在39店で使えるようになっている。効果については検証中とのことだ。

 中国人に人気のメニューは、寿司、お好み焼、豆腐、鶏のから揚げ、焼魚などの和風メニューで、日本人が好みそうな洋風の創作料理などはほとんどオーダーしない。「白木屋」、「笑笑」、「魚民」で、寿司やお好み焼は、日本人顧客では一番の売れ筋とは言えないだろうが、中国人には大人気なのである。


お好み焼も中国人に人気が高いメニュー


とりの唐揚は中国人のオーダーも目立つ。


ほっけ。中国人は焼魚が好きだ。


中国人に人気のにぎり。こちらは魚民のメニュー。

 逆に不人気なメニューは、宗教上の理由などで、豚肉あるいは肉全般を食べない人がいるほか、全般に漬物が苦手との傾向はあるそうだ。

 食事だけをしに来る人も多く、必ずしもお酒を目的としていないケースも多い。

 前出・ドリームキューブによれば、居酒屋で外国人にいきなり「お飲み物は何になさいますか?」と聞くと、びっくりされることもあるという。そこは商習慣であり、飲まない人は水やお茶でいいのだと、きちんと説明したほうがいい。その際に、言葉ができなくても説明できるように、文言一覧をつくっておくのも一つの方法だろう。

 また、「お通し」が理解できずにトラブルになるケースもあるそうだから、一種の日本流のチャージだと、最初に説明しておけば問題ない。

 以上、外国人観光客が来る店について研究してきたが、日本食、メディアに露出している、ホテルの従業員や旅行会社の添乗員に評判がいい、価格が手頃で庶民的といった共通点があった。

 そして、欧米人はカウンターに座って従業員のパフォーマンスを楽しむと共に、多少洋風にアレンジされた和食の味を好み、中国人は中国語のメニューがあるなどサービス面の良さや、ラーメン、かに料理など日本と共通する文化性の微妙な違いを楽しんでいるように思われる。


月の雫銀座インズ店は外国人に人気の店の1つ。


権八西麻布店は外国人客が多く、ブッシュ大統領と小泉元首相が会談した店。

 この秋になって、世界同時不況の影響でさすがに訪日外国人数の増加傾向にもブレーキが掛かっているが、日本政府も観光庁を立ち上げるなど、観光立国へ向けて懸命のアピールを続けている。

 長期的にはもっと訪日外国人数は伸びるし、特に沿岸部から内陸部へと経済発展の規模が拡大している中国では、富裕層の数ももっともっと増えて、日本にどんどん観光に来るようになるだろう。

 少子高齢化の進展で、日本人の人口は減っていく。しかし、日本にやってくる外国人、特に世界一海外旅行で消費する中国人観光客が増える見通しなのは、日本の飲食業にとって大きなチャンス。ある意味で、人口減を補って余りあると考えるのだが、いかがだろうか。


【取材・執筆】 長浜 淳之介(ながはま じゅんのすけ) 2008年10月23日執筆