・日南市に養鶏場と加工センターを設置
「みやざき地頭鶏(じとっこ)」は、古くから宮崎や鹿児島の旧島津藩で飼育されていた天然記念物である「地頭鶏」がルーツ。柔らかさの中に適度な噛みごたえがあり、「幻の地鶏」と呼ばれていた。宮崎県が特産品として改良を重ね、2004年に完成させた。
APカンパニーは、翌2005年12月に「みやざき地頭鶏」を使った「宮崎日南 幻の地鶏焼 じとっこ」1号店を東京・八丁堀オープンさせた。さらに、まだ「じとっこ」が1店舗しかない2006年2月には、宮崎県日南市に自社養鶏場を作った。非常に早い段階で自家農場に挑んだ。
2007年11月、「じとっこ」直営4店・FC1店、そして宮崎郷土料理「塚田農場」直営1店の段階で、同じく日南市に「じとっこ加工センター」を作った。ここから各店舗に直送する体制を整えた。現在は、さらに「みやざき地頭鶏」の消費量を増やすために、「じとっこ」ライセンス店、「塚田農場」直営店を次々とオープンさせている。
地頭鶏ランド雛センターから供給されたヒナは、日南市の山奥にあるAPファームにて飼育基準に沿って育てられる。28日齢以降平飼、飼育密度は2羽以下/平米、
飼育期間は雄120日、雌150日、出荷体重は雄4.0キロ、雌3.1キロなどの基準がある。出荷は、専用の地頭鶏処理加工センターに持ち込み、解体。再度、APファームの「じとっこ加工センター」が引き取り、東京の各店舗に直接配送される仕組みだ。
「みやざき地頭鶏(じとっこ)」のヒナ。
養鶏場同士は、鳥インフルエンザの感染を予防するため、5キロ以上の間隔を置いて設置されている。APファームで飼育を手掛けるのは、現地で雇用した田上さん親子(息子さんはもともと宮崎で牛の飼育会社に勤めていた)。加工センターも地元の方々を雇用している。
田上さん親子
APファーム外観
APファームで飼育された鶏は、専用の地頭鶏処理加工センター(第3セクター)で処理される。
口の中の頸動脈をカッターで切って処理される。養鶏場毎に処理され、他の養鶏場と混ざることはない。
巨大な洗濯機のような釜でしばらく茹でると、毛がきれいに取れる。それを氷水に漬けて締める。そして、部位に解体していく。
APカンパニーのじとっこ加工センター。元牛乳販売店跡。地頭鶏処理加工センターで解体された部位毎の鶏肉を引き取り、各店舗に直送する。
・自社農場と契約農場の違い
野菜の仕入れなどで契約農場を持つ飲食店が増えている。農家から一定の数量を必ず引き取るので、指定の農法で農作物を栽培して欲しい、ついては、この金額を支払うという契約。飲食店側からは、有機栽培や減農薬栽培が求められる。
店舗では、契約農場や農場主の写真を店内に掲載したり、店のスタッフが種まきや収穫の際に農業実習を行いその体験を交えて接客したり、お客に店のこだわりを示すことができる。お客も店を選ぶ際に、食材へのこだわりは重要な選択基準となっている。
農家側のメリットは、市場に出すと相場により売価が上下するが、契約栽培であれば売価も安定。デメリットは、相場が上がっているのに予め決められた売価でなければ売れないこと。
飲食店側のメリットは、前述の通り、集客手段の1つとなること。デメリットは、店の業績が思わしくない場合や、相場が下がっている場合でも、予め決めた数量と売価で仕入れなければならないこと。
お客側のメリットは、同店だけのこだわり食材を食べられる。デメリットは、果たして、飲食店に農業のノウハウがあるのか、すなわち、こだわり食材だが安全で美味しい食材なのかという疑問が残る点。
すなわち、契約農場はリスクが少なく、こだわりを演出できる。他方、自社農場は、外食企業がリスクを取って経営するということ。
・自社農場でリスクを取るから、質が高まる
自社農場をノウハウのない外食企業が始める場合は、地元の農業に精通した人材を使おうとする。実際に、使わざるをえない。また、地方では孤立してはやっていけないので、近隣の農家や地方自治体とも仲良くしようと努力する。
最近の地方は、かつてとは異なり、宮崎県を筆頭に、活性化ムードにわき、観光や特産物で都会から金を呼び込もうとする機運が強い。東京など大都市資本を毛嫌いするよりも、歓迎する傾向が強い。
APカンパニーが自家養鶏場を経営する日南市でも、谷口義幸市長の公約が東京資本の企業を地元に誘致することであり、APカンパニーはその実績となっている。市役所を挙げての応援態勢が整っている。実際に、同社が日南市内に本年10月にオープンさせた「日南館 本館」のレセプションには谷口市長も列席した。東京からAPカンパニーが招いたお客のテーブルを市長自ら巡回し、APカンパニーへのサポートを熱くPRしていた。
「日南館 本館」のレセプションに参加した、谷口義幸・日南市長(中央)。
日南市油津にある民家を改装した「日南館 本館」。
農場の経営者として、その地に別会社を設立し、地方自治体に税金も払うし、指導も受けるという関係が出来上がる。そこで補助金支給や好条件での融資も可能となる。
また、その地方も東京からの情報がダイレクトに入ってくることとなり、他の農産物に関しても東京マーケットに通用するものを開発する可能性が高くなる。
外食企業自身も、東京の消費者の好みを生産過程にダイレクトに反映させることができる。常に質の向上を図れる体制ができる訳だ。しかも、量を消費することができれば、中間流通が省け、消費者に安く提供できる。
確かに、好循環できればメリットは大きいが、鳥インフルエンザなど疫病の恐れも含め、大きなリスクを抱えることにもなる。しかも、株式公開を考えると、自家農場を持つことは不利なようだ。APカンパニーなど、自社農場を持つことは大きなチャレンジとなるが、食への安全、信頼、質向上に大きな自信となり、他店との決定的な差別化となることは間違いない。