・慶應日吉キャンパス内に日本初のパブが営業スタート
さる10月31日、横浜市港北区の慶應義塾大学日吉キャンパス内に新設された、綱島街道に面した「協生館」という建物の1階に、英国風パプ「HUB慶應日吉店」がニューオープンした。
これは、パブという酒類提供を主業務とする業態が、日本の大学のキャンパス内に出店する初のケースであり、HUBチェーンにおいても、もちろん初の実験的な試みである。
「HUB慶應日吉店」 外観
「HUB慶應日吉店」 店内
キャッシュオンデリバリーでメニューを提供。
個室風のスペース。
「最初お話をいただいた時は、幹部に慶應出身者もいないので驚きましたが、慶應が世界を見据えた広い視野で考えていらっしゃることに感動しました。パブ発祥の地である、イギリスのオックスフォードやケンブリッジのような有名大学には、スチューデントバーといって、キャンパス内で学生や教授に安くお酒を提供するコミュニティの場が設けられているのですね。それを参考にされていました」とハブの太田剛専務は、出店の経緯を語った。
「協生館」自体が、慶應創立150周年を記念した事業の一環として今年8月に竣工しており、経営管理研究科(ビジネス・スクール)及びシステムデザイン・マネジメント研究科、メディアデザイン研究科という2つの新しい大学院が入居する社会人教育をも視野に入れた施設となっている。また、イベントホール、インキュベーションセンター、一般市民が利用できる民間フィットネスクラブ「セントラルウェルネスクラブ」、コンビニ「ローソン」、クリニックといったものも含んだ、地域住民との交流、連携を実践する場とも位置づけられている。
慶應義塾創立150周年を記念した「協生館」。
「協生館」 エントランス
そうした、大学と社会とのコミュニティをつくっていく場、パブリックハウスとして、確かにパブは任務を担える機能を備えている。
ハブでは、もう一度イギリスの大学と大学町を視察し、企画を煮詰めていったそうだ。
そうした中、イギリスでは法律上18歳より飲酒が可能だが、日本では20歳未満は飲酒できない点を考慮し、未成年者専用「U20」ネックストラップを用意。自己申告で首からかけてもらうとともに、スタッフでも年齢確認を行う。
お酒を飲めないことを示すU20ネックストラップ。
インターネットが無料で使える。
「協生館」は横浜市が環境に優しい建物を認証する制度「CASBEE」の第1号として、最高ランクの「S」認証を受けており、全館禁煙となっている。従って「HUB慶應日吉店」も全館禁煙を日本のパブとして初めて、試みることになる。
席数は144席で、年中無休。キャッシュオンデリバリーで、奥には会合適した個室風のスペースも用意されている。
昼間は、カレー、ハンバーガー、コーヒーなどを提供し、ランチや喫茶の需要にもこたえる。
「スポーツなどの大会の打ち上げやOB会にも活用してもらって、この場に来れば学生時代を思い出してもらえるような店にしていきたい。これをきっかけに社会のパブに対する見方が変わって来ればいい」と太田専務は、期待に胸を膨らませている。
なお、「協生館」2階には11月1日オープンの石鍋裕シェフがプロデュースした、ウェディングにも対応したフレンチ「クイーン・アリス ガーデンテラス日吉」がオープンしており、こちらも注目される。これまで日吉には、本格的なフレンチやレストラン・ウェディングができる店がなかった。
「クイーン・アリス ガーデンテラス日吉」
さらに1階にはもう1店の飲食店、「タリーズコーヒー」が入っている。
・常連からは第2の家というほど愛される早大のカフェ
「Uni.Cafe(ユニカフェ)125」は、早稲田大学創立125周年の周知活動の一環として、2002年4月に、大隈講堂前の大隈通り商店街の入口にあたる場所に位置する、おしゃれな感じのカフェだ。
早稲田大学は07年に125周年を迎えたわけだが、創立者の大隈重信翁は「人間は本来、125歳までの寿命を有している」と、人生125歳説を持論としていたので、創立125周年は一区切りの非常に大事な年なのであった。
「Uni.Cafe 125」 外観
「Uni.Cafe 125」 店内
目の前が大隈庭園なので、窓に近い席からは緑がよく見える。
「Uni.Cafe 125」は、創立125周年を記念して新しくつくられたキャラクターグッズを売る「Uni.Cafe
125」に併設されたカフェとなっており、公道に面しているので、地域住民の顧客も多い。最初から、学生、教職員だけでなく、OBや地域の人も集まれて、早稲田大学の情報を発信する場所を提供する目的で計画された。
「Uni.Cafe 125」はセルフ式のカフェで、席数は店内40席、テラス60席の計100席。テラス席はペットもOKだ。お盆と年末年始の数日を除けば、毎日営業している。
客単価は420円ほどだが、一般人の多い休日や大隈講堂でイベントのある日は、600〜700円ほどになる。1日の来店数は平均で400人くらいだが、忙しい日は1500人を超えることもある。
顧客は、学生、教職員、徒歩1時間以内の住民で、特に休日や大学の休みの期間中は、学生は少なく一般の顧客ばかりになる。散歩コースとして、毎日のように立ち寄る人もいるという。
人気メニューは、オリジナルの少し苦味のある「早稲田ブレンド」(220円)、若い人に好評な「クリームキャラメルラテ」(380円)。フードでは、7種類ほどあるベーグルサンド(400円)、店内で手づくりのスウィーツ。運がよければ、焼きたてのスウィーツを食べることができる。
ランチは日替わりで数種類のランチボールを提供。
手づくりのスウィーツ、パンプキンプリン(300円)とスウィートポテト(350円)。
ランチは日替わりで、肉料理と魚料理、数種類のランチボールを提供(500円)。サラダ、スープ、ドリンクの付いたセットにもできる(880円)。
夕方4時半からは、早稲田の地ビール「地ビール早稲田」(610円)と、早稲田大学と京都大学が共同開発した古代エジプトのビールに着想を得たNILE物語3種(WHITE NILE、BLUE NILE、RUBY NILE)も飲める。
地ビール早稲田は夕方4時半以降に飲める。
「自分の家で勉強するのもきついからと、ここに来て朝から晩まで、目的を持って勉強されている人もいます。朝8時半のオープン前から並んでいる、フランスやイタリアからの留学生からは、朝ちょっとコーヒーを飲んで授業に行くという向こうの習慣どおりにできるので喜ばれています。常連さんは居心地がいいのか、第2の自分の部屋みたいになっています」と、小川幸子店長。
卒業してから、ゴールデンウィークなどに両親や友達を連れて来店する人、学園祭の期間中に久々に来る人、故郷・故国に戻ったが東京に出張してきた際に立ち寄る人など、元常連のこの店を愛する気持ちはたいへんなもので、小川店長は大きなやりがいを感じているそうだ。
・国士舘はファッション界の大御所、山本寛斎を監修者に
日本のファッションデザインの大御所である、山本寛斎氏を空間プロデュースに迎えた学食が、国士舘大学世田谷キャンパスに誕生した。
これは創立100周年記念事業の中核として、今年2月に竣工した、梅ヶ丘校舎に設置された地下1階学食450席と、最上階10階スカイラウンジ330席のデザインを山本氏が監修したもので、学食を世界的デザイナーが担当したのは日本初のケースであろう。
山本寛斎氏が空間プロデュースをした、梅ヶ丘校舎地下1階食堂。
地下1階食堂カウンター。
「最近の学食の傾向として、雰囲気と味の重視、健康と安全性、個性化と選択化が顕著ですが、山本氏を国士館に呼んで講演してもらったところ、そのダイナミックな考え方に打たれて、食の時間や空間を楽しむデザインを氏に依頼したのです」と、国士舘大学学生・厚生課主任の屋田敏弘氏は事の経緯について語った。山本氏は現在、国士舘大学客員教授でもある。
メイン食堂である地下1階は、赤、白、黒の3色で、若者が高揚感を覚える、開放感のある、明るく元気あふれる空間をイメージ。また、喫茶を中心とするスカイラウンジは、モノトーンでシックかつスタイリッシュな空間を目指しており、周囲に高い建物もないので窓際の席から眺める夕日は特に素晴らしく、リゾート的な雰囲気にも浸れる場所だ。
なお、両方の食堂で使っている器も、山本氏のデザインである。
地下1階食堂のチキンツナマヨグリル、カレー、豚丼。器も山本寛斎氏デザイン。
世田谷キャンパスでは、政経、法、文、理工といった各学部の1〜4年までの一貫教育を目指して、梅ヶ丘校舎が新築されており、全学生の大半である約1万3000人が学ぶ。梅ヶ丘校舎には約3000人が在館すると想定されており、学食には3.7人ほどで1つの椅子をシェアする計算になっている。
1日の利用者数は、地下1階が約540人、10階が約350人。売店も合わせた顧客単価の平均は約330円となっている。
男女比は6:4で男子がやや多いが、従来女学生が集まるイメージではなかった国士舘としては、非常に健闘しており、女性に対するイメージ向上を狙った一面もある、今回の学食改革の成果が表れている。
食という字は「人」に「良」と書くが、地下1階学食は学生の良好な生活習慣づくりに寄与するという考え方のもと、定食についてはワンコインの500円以内で毎日メニューを変えて提供。また、月に何回かイベントを組み、たとえば11月26日はゲストシェフとしてカレーの達人を招いて、本格的スリランカカレーを500円で提供するといったような、集客につながる企画を行っている。
また、メニューに含まれている栄養素をわかりやすく表示した「カラダプラス」という展示コーナーを設けており、同時に摂取すると効果的な食べあわせを目で見てわかるように提案している。
栄養バランスを図示したコーナーを設置。
10階スカイラウンジでは、カフェラテ、カプチーノ(各150円)、ホットコーヒー、エスプレッソ(各100円)など、クオリティに対して格安価格でドリンクを提供。焼きたてパン、手づくりデザート、パスタ、カレー、サラダなどの軽食を提供している。
一般の利用も多いスカイラウンジのデザインも山本寛斎氏。
カフェモカ(150円)。街場の店にも負けない味だ。
スカイラウンジのパスタ2種とサーモンの漬け柚子味噌サラダボウル。
焼き立てのプレミアムバタークロワッサン(140円)。
夕方6時からはパブ営業となり、ビール(小瓶480円など)、サワー、梅酒、日本酒などが飲める。
「学食は近所の会社に勤めている人も、よく利用されています。スカイラウンジは、生涯学習の授業を終えた後に休んで帰られる社会人、土曜日はご家族やご夫婦でお茶やお酒を楽しまれる、近所にお住まいの人も多いです。自由に学食を使ってもらうことで、地域に愛される大学になっていきたいです」(屋田氏)。
国士舘の思い切った学食改革は、着々と成果を上げているようだ。
・パン、スウィーツに注力し女学生の満足度高い神奈川大
横浜市神奈川区にある、神奈川大学横浜キャンパスにあるレストラン群は、充実振りがテレビや雑誌でたびたび取り上げられるなど、高く評価されている。
今年3月に改装オープンした、10号館3階の「シフォン」は手づくりのサンドウィッチ、パン、おにぎり、スウィーツを中心とした、イートイン感覚の店。店内に飲食スペースも設けられているが、テイクアウトして、同じ階にあるラウンジで座って食べる学生も多い。
シフォンはサンドイッチとスウィーツが中心。店員が多いのは手づくりのため。
スウィーツが充実したシフォンは女性客が大半を占める。
女性の利用が9割を占め、学生ばかりでなく、安くておいしいとの評判を聞きつけた近所の住民の利用も目立つ。運営は、神奈川大学生活協同組合である。
香ばしい焼き立てパンが常時10数種類そろうほか、サンドイッチは肉・ハムを中心にしたもの、シーフードを中心にしたもの、野菜フルーツを中心にしたものなど20種類ほどを300円前後で提供し、ランチはプラス200円でドリンクとフライドポテトとデザートのセットになる。
デザートも手づくりのプリン、シフォンケーキなどが、100円台、200円台で販売されており、こちらは格安といっていいほどの値段設定だ。
キャラメルフレンチ(100円)は人気メニューの1つ。
焼き立てのサクサク フランクドック(150円)。
シフォン自慢のデザート、シュークリームとプリン各2種及び中央はフルーツヨーグルト。
また、コーヒーも有機栽培のレインフォレストコーヒー、水出しアイスコーヒー(各140円)と、値段のわりにはこだわったメニューを出しているので、頑張っている印象がある。
学内のパーティー、ゼミや研究室での誕生パーティーでのケーキ需要にも、注文で対応する。
19号館地下1階にある新しい学食「ラックス」は、10年前の開学70周年を記念した学内再開発の一環としてつくられたもの。
開設70周年記念事業でつくられた第2食堂のラックス。
神奈川大学横浜キャンパスは最寄り駅の東急東横線白楽駅、東白楽駅の両駅から徒歩15分ほどと離れた住宅街の中にあり、ランチ時に食事を取るにも、近くにあまり食堂もない環境にある。法・経済・外国語・工・人間科学と5学部の学生約1万3000人が学ぶのに対して、従来の学食だけでは需要にこたえ切れない面があったので、改善策として打ち出された。
ランチのみの営業で1日に600人ほどが利用する。日替わりで魚料理や肉料理の定食、定番の丼、カレーなどを提供しており、快適な環境でワンコイン500円以内で、バラエティ豊かでバランスの良い食事ができるように工夫されている。特に魚を食べたい人には好評という。
同じ階にはパスタ専門の「ミネストラ」もあり、380円〜420円で本格的なパスタが味わえる。こちらもランチのみの営業だ。
さらに、一般の住民の利用が特に目立つのは、6年ほど前に建てられた1号館最上階8階にある、展望レストラン「ストップオーバー」だ。周囲に高い建物がないので横浜市街が一望でき、カフェ風の内装もなかなかおしゃれだ。1日15食限定の「松花堂弁当」(580円)は、早々に売切れてしまうほどの人気メニュー。日替わりで内容が変わるので、飽きも来ない。「ストップオーバー」もランチのみの営業で、テイクアウトもある。
1号館8階ストップオーバーは、一般客にも人気の展望レストラン。
ストップオーバー15食限定、松花堂弁当(580円)のおかず。
全国の大学に先駆けて学食改革を行ってきた神奈川大学であるが、「食の安全の問題がよく取りざたされていますが、本当に安心して食事ができるように、農薬を使用しない地元神奈川の野菜を取り入れるなど食材にこだわりを持ち、栄養バランスを考えて、500円前後で提供できるように考えてきました。今の若者は大学選びの基準として学食もチェックしていますし、良い学生を集めるには学食の満足度をアップさせる努力は欠かせないのです」と、学校法人神奈川大学広報部広報課長補佐・高橋厚氏は語る。
神奈川大学は学食の満足度で差別化をはかるのを戦略としている。
マクドナルドも出店していた。
それと、70周年を期に、学校の敷地に張り巡らされていた高い壁を撤去した。今では犬の散歩で、毎日キャンパスを通る近隣住民もいるほどだ。そうした地域との交流の場として、学食を活用している面もある。
さて、今回取り上げた、慶応義塾、早稲田、国士舘、神奈川の各大学はいずれも伝統があり、知名度からいっても少子化の中でも生き延びそうな大学ばかりであるが、それぞれ危機感を持って、チャレンジ精神を発揮し、キャンパスレストランの理想像を追いかけている。
どの大学も何十周年という記念事業の一環として、食環境の改革に務めており、オープンキャンパスや学園祭で学校を訪れた受験希望者や保護者にアピールしたり、社会人教育のサポート、地域住民あるいは卒業生との交流の場といった社会に開かれたスペースとしたりしているのが、共通している。
もはや大学は象牙の塔では脱落してしまう。安いけれども汚くてまずい学食では、学生にも、キャリアアップのための学習や生涯学習を求める社会人にも、その大学自体が選ばれない時代になったということだ。