・青学をさぼって貯めた1千万円で屋台開業
花光氏の実家は和歌山県の南紀白浜で不動産業を営んでいる。そんな環境で、高校時代から自分で商売をすることを夢見ていた。青山学院大学に進学したが、大学には行かず、居酒屋でアルバイトを重ねる日々を続け、4年間で事業資金1千万円を貯めた。
「青学の厚木キャンパス近くの居酒屋でバイトしました。お金を貯めるために1日18〜20時間働きました。大学には行った覚えがないくらい。中退したかったんですが、学費を自分で払っていなかったので、一応卒業しました。」と花光氏。
卒業後は、南紀白浜に帰って、夏場に8席の屋台バーを海辺でオープン。7〜8月の間、1人で営業し100万円の利益を稼いだ。
また東京へ戻り、レインズ・インターナショナルに入社。始める事業は飲食業に的を絞った。
「最初から1年限定のつもりで入りました。『土間土間』吉祥寺店の店長になりました。現場しか任せてくれませんでした。SVとか、もう少し活躍する場を与えて欲しかった。完全に自分の実力不足ですが・・・最後は、自分は店に入らず、アルバイトだけで回す仕組みを作って、僕は独立のための物件探しに走りまわっていました。」
2005年11月、1号店「sublime吉祥寺本町店」を屋台でオープンさせる。吉祥寺第一ホテルの裏の空き地を借り、業態は南紀白浜と同じ泡盛バー。100万円をかけて改装したトラックの周りに椅子を15席並べた。今も繁盛しており月商150万円だが、1人で働いて純利益で50〜60%も残る。2号店の「sublime中野野方店」で初めて固定店舗を持った。
店名であり社名の「sublime」とは、英語で「崇高な」という意味。花光氏はその神秘的な意味に惹かれたという。
・厨房込み坪40万円、回収1年
花光氏の出店ポリシーは「金をかけない」。デザインは自分で考え、内外装も内製化、厨房機器は全て中古品を使う。全部含めて坪40万円で作り上げることができる。その初期投資を1年以内に回収していく。そのキャッシュフローで次の出店を行う。
インタビューした「ととしぐれ」下北沢店は、2008年8月にオープン。約40坪で初期投資は1800万円。物件は元スペインバルで、スケルトンから作っての費用だ。
「ファサードに撒いた砂利は、ホームセンターで買いました。車に積んで運んだのですが、重くて車が沈んで大変でした。敷石もホームセンターで買いました。店の周りの縁台もホームセンターで売っている外材ですよ。ととしぐれのクオリティなら一般的には、デザイン込みで90万円以上はかかる。40万円で作られた店とは絶対に思わない。コストパフォーマンスの最大値化です。」と、徹底して金をかけない。リースは使わす、全て現金で支払う。
「ととしぐれ」下北沢店 外観。長い暖簾が印象的。
「ととしぐれ」下北沢店 店内。靴を脱いで上がる。
「ととしぐれ」下北沢店の迫力あるオープンキッチン。
ファサードの敷石。ホームセンターで購入。
「自分自身では結構センスあると思います。壁には波と魚。店の周りを魚が回遊している感じです。デザイナーは誰?とかよく聞かれます。僕です(笑)。昨年暮れにはデザイン会社、サブライムデザインを立ち上げ、「坪単価40万円の店舗施工理論の確立」を目指すと言い、飲食店とシナジー効果が生まれる事業も次々に手がけようとしている。」
「ととしぐれ」下北沢店は12月に1200万円を売上げ、原価償却前利益で350万円。初期投資の回収には1年もかからないだろう。
・屋台サテライト構想
「ととしぐれ」下北沢店では、11月から店の前の歩道に黒おでん屋台「くろ寅」を設置した。
「屋台、いいですよ。この店の前にもおでん屋台を置きました。スタッフを1人付けて、月商80万円は売ります。投資は15万円で、回収は2週間〜1ヶ月でOKです。夏はもっと売れると思います」という。店舗にはないおでんを出し、酒類もビール、日本酒のみという別業態。お客は店舗の周りの縁台に腰掛けて屋台を楽しんでいる。
「ととしぐれ」下北沢店前に設置された屋台「くろ寅」。
さらには、固定店舗の前にスペースを設け、店舗のサテライトのように屋台を設置する構想を持っている。店舗のインフラと人材を使い、人件費ゼロの屋台を作ろうとしている。
「FLのF(フード)を上げて、L(人件費)とR(家賃)をゼロにすることを考えています。屋台を店舗のサテライト的に扱う。店舗はあけっぱなしで前に屋台がある。例えば、釜揚げのうどん屋台。店舗と出すメニューが異なる。単価も住み分ける。インフラは店舗のものを使う。ホールの人間が屋台もやっちゃう。」
「フリーキャッシュフローで考えると、会社の財務に響かないラインで、年間20店以上の屋台が出せます」という、「屋台」「初期投資の1年以内回収」が花光氏の発想のコアになっている。ニッチなマーケットで、お客が入らなくても儲かる仕組みを作り上げようとしている。
・FL値60%、食材には金をかける
サブライムで扱う食材の大半は農家や漁港からの直送だ。野菜はオーガニックや特別栽培。魚は沼津漁港。卸から買うより、ずっと安い価格で手に入るという。産地まで足を運んで生産者と会っている。
「ととしぐれ」下北沢店では名物として宮城三陸の牡蠣を1個150円で販売している。多いときには、1日に200個も売れる人気メニュー。実は仕入れも1個150円で儲けなし。いわゆる「オトリ商品」として集客に繋げている。
食材には金をかけ、FL値60%が指標。これでも営業利益で10%以上稼ぐ体質の企業だ。落とし所は、本部経費をかけない、人材募集費をかけない。本部には経理を担当する社員がひとりだけ。しかもその社員は、別事業のリーダーをやっている。
「人材募集広告をやったことがありません。店の前に『船団員募集! サブライム号といっしょに青春しませんか!』と書いた紙を貼ると、面白がってアルバイトが集まります。知恵を使えば金はかからない。」
前出の屋台サテライト構想では、人件費をゼロにして食材費を上げようと目論んでいる。そこには別の目的もある。
「subLime」吉祥寺井の頭公園店の店内。井の頭公園内にある。花見ができる。
「subLime」吉祥寺北町店の店内。
・日本の第1次産業を活性させたい
「第1次産業を活性させることで日本の外食は変わると思っています。生産者が一番お金をもらってしかるべきだと思います。農産物や魚介類の価値を向上させたい。そうすれば日本の食糧自給率も上がります。その為には、飲食店をいっぱい作って、スケールメリットを出したい。僕は農業や漁業をやるつもりは毛頭なく、流通をカットする方法を考えています。ただし、流通だけ変えてもだめで、流通、第一次産業人、エンドユーザー、三位一体で変えていかなければ、日本の第一次産業は変わらないと思う。」
「僕の夢は、サブランドという国を作ること。2031年、僕が50歳になった時に誕生させる。これが、サブライムという会社で叶える夢のひとつです。5万坪の敷地に、ビーチ、コテージ、ライブハウス、カジノなどがある。ワクワクしたいんです。」
「1年前までは、どうやって利益を残そうかということばかりを考えていました。今は、神様に選ばれた才能は頑張らないと失礼だと考えています。神様に与えられた才能を持っている者は、人に影響を与えるために生まれた。その事を授与しないとダメだと思うようになりました。僕が神様に選ばれた才能を持っているということではなく、神様に選ばれた才能を持っているやつが近くにいたから、僕もそれに近づくようにならないとな〜という意味です。」
「実は、ある年下の従業員に影響されたんです。僕が今までの人生の中で、唯一負けたな〜と思う男です。心の底から尊敬しています。彼は、今年1月1日に退社して世界一周旅行に旅立ちました。彼は、人の心の中に土足で入ってくるような奴なんですが、才能が凄いんです。彼に負けてられない、彼にはない違うところで大多数に影響を与えようと思っています。」と、本音を漏らした。
未だ27歳の花光氏。昼間は、事務所にこもって読書をしている時間が多いという。勉強家だ。店舗デザインや、求人キャッチコピーなどソフト面の強さだけでなく、インタビュー中に数字がすらすら出てきた。計数面でも強い。屋台という忘れられた業態にスポットを当て、低投資でしっかりと収益を残していこうとしている。不景気にも強い外食企業だ。