・ニューヨークで大人気のイベントが品川へ上陸
ニューヨークにおけるレストランウィークは、20年近く前から夏と冬の年に2回、期間限定で開催されており、参加するレストラン数は200を超えるという。価格は、それぞれランチ24.08ドル、ディナー35ドル。
2009年の参加店リストには、ザガット・サーベイ2009 ニューヨーク版で最も人気のあるレストランで1位、2位、5位を獲得した「Union
Square Cafe(ユニオン・スクエア・カフェ)」、「Gramercy Tavern(グラマシー・タバーン)」、「Gotham
Bar & Grill(ゴサム バー&グリル)」がある。日本人には馴染み深い、「EN
Japanese Brasserie(えん ジャパニーズ ブラッセリー)」、「MEGU NEW YORK・Midtown(メグ
ニューヨーク店・ミッドタウン店)」、「MORIMOTO(モリモト)」、「NOBU(ノブ)」といった日本料理店もリストアップ。
参加店の目玉のひとつには、ミシュラン 2009 ニューヨークで二ツ星を獲得した「Del
Posto Ristorante(デル・ポスト・リストランテ)」が挙げられる。「Del Posto」は、ディナーコース95ドル〜という価格帯のレストランであるが、レストランウィーク開催期間中のコースは、前菜、メイン、デザートをそれぞれ3品から選択できるプリフィクスのランチコースが、24.08ドルと格安で提供される。
こうした通常は手が出ない敷居が高い店の味を手軽に味わえるのが、ニューヨークにおけるレストランウィークの醍醐味だ。グルメに目がないツーリストであれば、すぐにでもニューヨーク行きのエアチケットを取りたくなるほど魅力的なイベントであり、開催期間中は、世界各国から観光客が押し寄せるというのもうなずける。
・宣伝内容、HPのわかりにくさが露見
この人気イベントが、数年前に日本に上陸した。開催地は、ニューヨークの姉妹都市である品川である。東京ウィンターレストランウィーク参加店は、全47店。アトレ品川、ウィング高輪WEST、品川プリンスホテル、グランドプリンスホテル高輪などの11の商業施設とホテルで開催され、全ての参加店が大手チェーン店、もしくはホテル直営店である。
視察のため、開催期間中の1月24日(土)13時頃に品川駅到着。品川駅は、品川プリンスシネマなどの映画館や、ショッピングモールもあり、平日のみならず週末もそれなりに集客力のある駅である。実際、乗客数はかなりのもので、駅周辺の人通りは多い。駅改札近くに到着したが、東京ウィンターレストランウィーク開催のポスター等、何も貼られておらず、HPで調べていなければどこで何をしているのか全くわからない。
駅から最も近いエキナカのエキュート品川では、「Wanofu」など3店舗が参加しているとのことで、足を運んだ。エレベータ付近に、東京ウィンターレストランウィークのメニューを紹介した立て看板があった。ランチタイムは、エスニック料理店の「シターラダイナー」が、1,500円のレストランウィークランチを提供。フィッシュテッカ、チキンビリヤニ、マンゴーアイスといった構成で、あまりそそられなかったため、同店をパスすることにした。
アトレ品川へ到着すると、入口に立て看板とレストランウィークの公式ガイドブックとマップが設置されており、早速手にしてガイドを眺めた。ガイドブックには、参加店の概要と、提供メニューの内容が掲載されている。
アトレ品川のみで手に入る公式ガイドブック(右)と地図(左)。
ガイドブックを手にすると、1,500円のランチ参加店が少ないことに気づいた。オフィシャルHPでは、どの店がランチのみ、ディナーのみ、あるいは両方参加するなどの情報はなかったため、わからなかったのである。数えてみると、ランチのみ参加店11店、ディナーのみ参加店20店、ランチ・ディナー共に参加店16店であった。ランチ参加店は、半数以下の27店舗であり、ディナータイムに来れば良かったかも、と少し後悔した。
ちなみに、ニューヨークのオフィシャルHPは実によくできており、全てのレストランのリストが一覧で提示され、業態や、ランチ、ディナーの参加有無、地図などのほか、ネット予約まで可能である。比較すると、東京版のHPは、正直言ってかなり手を抜いた内容のHPである。
・コストパフォーマンスが感じられない、1,500円均一ランチ
気を取り直して、ガイドブックで各店のランチ内容を確認した。ランチ1,500円という価格はそれほど安くはない。ちなみに、フードリンク社内の男性社員の間では、「K点超えランチ」という言葉が流行っていたようである。1,000円を超えるランチは、普段のランチでは考えられない贅沢な価格という意味で、多くのサラリーマンが賛同する意見であろう。
1,500円をかけるのであれば、有名店の格安ランチであるとか、豪華食材が使用されているなど、何かしらお得感があることがポイントになる。各店のランチ内容を比べてみたが、サラダ、パスタ、デザート、ドリンクで1,500円という構成などが多く、コストパフォーマンスは感じられない。
27店舗のメニューをじっくり検討し、品川プリンスホテル ノースタワーにある「焼肉 雫」という店のランチが気になった。内容は、キムチ・胡瓜の浅漬け、グリーンサラダ、焼肉盛り合わせ(豚カルビ、トントロ、いわいどり、カルビ、ロース、中落ちカルビ)、ライス、ワカメスープ、デザート、コーヒーという内容で、ホテル内のレストランということで、サービスにも期待がかかる。
品川プリンスホテル内「焼肉 雫」の店頭 東京ウィンターレストランウィークのPRは特になし。
「焼肉 雫」の東京ウィンターレストランウィークの差込みメニュー。
店の前に到着すると、通常のランチメニューの立て看板があったが、レストランウィークのメニュー掲載はなし。入店の際に、「レストランウィークのメニューはありますか」と聞くと、「やっております」との答えであった。確かに、テーブル上には、レストランウィークの差込みメニューがあった。メニューの内容は、ガイドブックの通りである。
「焼肉 雫」のレストランウィーク特別ランチメニュー 1,500円。食後にシャーベットとセルフサービスのコーヒーがつく。
しかし、提供された料理は写真を見るとわかる通り、器やトレーがなんとも安っぽい。肝心の焼肉の味についても推して知るべし。常日頃、焼肉・ステーキに関しては面積より厚みが重要だと考えている私にとって、見た目はそこそこボリュームがあるものの、残念な焼肉である。薄すぎるために、あっという間に焼けてしまい、肉汁が全て流れてしまうのだ。
しかも、ホテル内のレストランということで、それなりのサービスを期待していたが、水やおしぼり、食後のコーヒーはセルフサービスであり、ホールスタッフは、テーブル上の呼び鈴で呼ぶというファミレスタイプの店であった。1,500円の価値があると思える内容ではなかったものの、同店は案内時に笑顔もあり、バックにカバーをかけてくれるなどスタッフは概ね感じがよかったのを付け加えておこう。
生ビール2杯と共に、焼肉雫のレストランウィークランチを食べた後、ウィング高輪WESTを視察。参加店では、立て看板があるなどの宣伝があった。レストランウィーク特別メニューの掲載はあるが、その他の通常ランチメニューの方がずっと魅力的に見える店が多く、どの店もあまり混んではいないようである。
ウイング高輪WEST 「オーバカナル高輪」では店頭にステッカーが貼られていた。
ウイング高輪WEST 「ワイアードカフェ」では店頭にPOPや差込みメニューを店頭に設置してPR。
一方で、14時40分、マクドナルドの前を通ると、ほぼ満席で大変賑わっていた。その後、ホテルパシフィック東京まで足を伸ばしたが、ピコロモンド
アット ザ ガーデンでは、ディナータイムのみの参加で、店の前のみ立て看板があるものの、ホテル全体として全く宣伝していない。
ホテルパシフィック東京「ピコロモンド」店頭では立て看板を設置。
・人気店の参加が東京ウィンターレストランウィーク存続の鍵
再びアトレ品川へ到着。11店舗の参加は、東京ウィンターレストランウィーク参加商業施設の中で、最多数を誇る。アトレ品川は、どの店舗の入口で、レストランウィーク特別メニューを、写真付きで紹介していた。焼酎バーであるZENの店頭では、特別メニューがSold
Outの札が貼られていたため、それなりに人気があったことが伺われる。
アトレ品川では、1階入口や、レストランフロアのエスカレーター出口、フリースペースを使用して特設ブースの設置など、施設全体として東京ウィンターレストランウィークのPRを行っており、それなりにお客への宣伝効果は高いと伺われる。
アトレ品川 入口付近ではガイドブックを置き、大々的に宣伝。
アトレ品川 4階レストラン街のエスカレータ降り場に大きなポスターが貼られる。
アトレ品川「マンハッタングリル」では店頭でディナーメニューを紹介。
アトレ品川4階 フリースペースにて特設テントが設置。
アトレ品川「ZEN」のレストランウィーク特別メニューは売り切れ。
品川イーストワンタワーと品川インターシティに関しては、時折ポスターを見かけたものの、メニューの提示がないなど、店側からの参加意欲はあまり感じられなかった。
品川イーストワンタワー「旬香庭 麟」の立て看板。この他に目立つ宣伝はなし。
品川インターシティ内に貼られたポスター。どの店で開催しているのか不明。
上述したように、東京ウィンターレストランウィークは、全く盛り上がりを見せていないが、唯一、アトレ品川が商業施設全体で、このイベントを盛り上げようという意志が感じられ、ディナーコースにはコストパフォーマンスが良い魅力的なメニューもあったと思われる。
また、ザ・プリンス さくらタワー東京の「高輪 七軒茶屋」では、「おしゃれな“くし揚げ”コース」が、通常4,500円の内容を4,000円で提供するなど、お得感のあるコースを提供している。同イベントをより盛り上げるためには、こうしたコストパフォーマンスが感じられるコースを、多くの店が提供することが必要になるだろう。
今後、イベント存続のためには、PRの強化と共に、参加店の強い強力が必須である。更にいえば、チェーン店のみの参加だけでなく、ニューヨークのように、ザガットのランキング上位店やミシュランの星付き店舗など、目玉となる人気店の参加があれば、その店が呼び水となり、参加店のランクもあがるだろう。いずれにしても、まだまだ課題を残した東京ウィンターレストランウィークであった。