フードリンクレポート


小林敬、復活!
「タパス・タパス」の再生を託された。
小林 敬氏
株式会社ジャパンフードシステムズ 代表取締役社長

2009.2.18
小林事務所社長として和風創作料理のリード店「庵」を展開、日本テレビ「マネーの虎」出演、その後、長崎オランダ村跡地にて食のテーマパークや料理学校を展開したが半年あまりで破綻。シダックスの執行役員を経て、再度、外食経営の最前線に戻ってきた。


ジャパンフードシステムズ本社にて、小林敬氏。

●外食にITを持ち込んだ男

 小林氏は、1957年生まれ。北海道函館市出身。大阪の調理師学校卒業後、フランス料理店勤務。79年、函館でレストラン「らんぷ亭」開業。82年、大阪の食肉卸でシステムエンジニアとしてオフィスコンピュータの システム開発に携わる。この経験が、外食経営にITを活用することの契機となった。

 88年、大阪にて「食べて得する料理家 庵」創業。91年、株式会社小林事務所設立。「庵」、「本日開店」など和風創作料理を直営・FC合わせてピーク時には約80店を展開。ITを駆使した独自開発のオペレーションシステムが強み。この「KUROKOシステム」の外販も行っていた。当時、日本テレビ「マネーの虎」に出演し、怖い社長としてメディアでも人気があった。

 2005年3月、破綻した長崎オランダ村の再生事業に手を挙げ、「食」のテーマパーク「キャスビレッジ」を開業。外食店舗や結婚式場、食器・調理器具の販売店などをそろえ、地元食材を調理し地元で食べさせる「地産地消」を前面に掲げた。06年には料理学校も開校する計画だった。しかし、集客が伸びず、小林氏が経営していた運営会社、CASジャパンが開業半年後の、05年10月に破綻。

 小林事務所も、06年に経営悪化に伴い解散。シダックスが小林事務所の業務を引き継ぎ、「庵」などの運営を行った。小林氏もシダックスのアドバイザー、顧問として働き、08年6月には同社執行役員に就任。

 そして、09年2月、シダックスを辞め、22年続くイタリアレストラン「タパス・タパス」を展開する、ジャパンフードシステムズの代表取締役社長に就任した。


「タパス・タパス」を陽気な居酒屋風イタリアレストランに変える

「タパス・タパス」は22年前に東京・北千住で創業し、現在、東京・千葉・神奈川・愛知で35店を展開している。経営するのが、株式会社ジャパンフードシステムズ。オーナーは機械メーカーだが、資本と経営を役割分担がされている会社で、社長は代々雇われ社長。

 小林氏はヘッドハンティング会社を通して知り合い、オーナーと意気投合し、09年2月に4代目の社長に就任した。「タパス・タパス」の売上は下降を続けており、この再生を託された。

「かつての『タパス・タパス』のように、店毎の個性を出さなきゃいけないのに、ファミレスのように全部画一化されている。楽しくない店になってしまった。かつては本部が支配する部分と自由裁量の部分があったが、全て本部が支配にしている。客単価は夜でも1500円しかなく、パスタとピザの店になり、アルコールがほとんど売れない。一辺倒の弊害、売上減の弊害、士気の低下の弊害、客離れの弊害が起きている」と、小林氏は分析する。


「タパス・タパス」 サイン


「タパス・タパス」銀座二丁目店

 小林氏の下、「タパス・タパス」は09年3月2日(月)から生まれ変わる。社長就任後1ヶ月という短期間で梶を切り替えた。

「2〜3千円までもっていける陽気な居酒屋風イタリアンレストランに変えます。内外装は変えません。3月2日から4月末まで、昼のパスタランチ10%オフにします。昨年、物価高騰で値上げしましたが、今は落ち着いています。にもかかわらず、世間のレストランの価格は値上げしたまま。食材コストが下がった分のメニュー価格をきちんと下げて、もう一度、お客に戻ってきてもらいたい。」

「お客様に正直な会社だなと思っていただきたい。取り敢えず期間は4月末までですが、それまでに体制を作り上げて、常時下げてもやっていけるようなものを作り上げて、その価格帯でやっていきたい。」

「同じタイミングで、ビール価格を中ジョッキ280円、グラスワイン190円、ワインボトル900円、カクテル類280円に値下げします。アンティパスタも10品から30品に増やし、アルコールの売上増を狙います。宴会メニューも大皿料理10品にフルボトルワイン1本加えて1人2500円のものを準備しています。アルコールの原価率は50%になってしまいますが、料理を含めると全体で原価率32%。まずは、それが再生の一発目です。」


社内外から独立開業希望者を募る

 社員に対しても、独立心を養う施策を打つ。

「メニューを好きにやっていいよ、は自由じゃなくて無責任。人によりスキルは違う。社内でメニューコンテストを行い、現場から提案させる。それを開かれた場所で選んで、全店でメニューにする。コンテストに参加しない人間は、実直に料理を作るだけの人と考えて、区別をしていく。料理の好きな人間はチャレンジする。意欲のある人間とそうじゃない人間を明確に区別します。」

 そして将来、独立開業支援を計画している。今ある店舗のオーナーに抜擢して、若干の保証金だけで自分の店が持てるようにする。本部は店舗を貸し出し、物流やネットワーク、教育を提供する。初年度は10人、次は20人と増やす予定だ。社内だけでなく外からも募集するのがポイント。

「オーナーは失敗してもリスクはゼロ。だめならどんどん次のオーナー希望者に譲っていく。社員には、『君がオーナーになったとする。正社員2人も雇うか。ノーでしょう。たった20坪。料理しながら1人で仕切らなかったらどうにもならない』と言っています。」

「今の店長と社外の人を混ぜて募集する。『外にはもっとハングリー精神旺盛のやつがいるよ。オーナー10人を選ぶとしたら、結果は社外9:社員1になるかもしれない。帰ったら各店で全員集めて、どんな挨拶しようか決めたらいいよ。金太郎飴じゃない。店ごとに違っていい』と言っています。」

 会議でこの独立開業支援を説明すると、店長のほとんどが手を挙げているという。実力主義に変更して、35店を生き返らそうとしている。

「『独立したいって手を挙げたよね。店1軒プレゼントするんだよ。個人では出せないよ』というと、皆がむしゃらになる。ついて来られない人は、店長の資格がないということになる。差別ではなく区別をする」と言う。社員には実力主義を求め、できる人間とできない人間の明確な区別を行う。


次なる外食経営者を育てたい

 ジャパンフードシステムでは、小林氏の下、4〜6月の3ヶ月に全店で前年比110%、7〜9月に全店で前年比115%の達成が当面の目標。小林氏は「確約できます」と宣言した。通年では、売上高35億円で2億5千万円の営業利益を目指す。

「外食の経営を知らない人が多すぎる。きちんとした経営者になるための素地とブレーンが集まって教える。それが独立開業支援。日本の次なる外食経営者を育てていければいい」という。

 苦難を乗り越えてきた小林氏が、再度、外食の表舞台に帰ってきた。刃物のような鋭い会話と、緻密な数字の組み立ては依然と全く変わっていない。若手外食経営者が台頭する中で、51歳の小林氏の活躍にも期待したい。

「今はピチピチしてます」と小林氏は取材の最後を締めくくってくれた。


「タパス・タパス」 http://www.tapas-tapas.com/

【取材・執筆】 安田 正明(やすだ まさあき) 2009年1月28日取材