・女将の手料理と自然体の会話が自慢のガールズ小料理屋
東京・東麻布、東京メトロ南北線と都営地下鉄大江戸線の麻布十番駅近くの路地にある「よしの」は、都会の隠れ家の雰囲気が漂う「ガールズ小料理屋」である。
「ガールズ小料理屋」とは、カウンターに店員の若い女の子がいて、会話が楽しめるスタイルはガールズバーと同じだが、女将の手作り料理が楽しめるところが違う。つまり、カウンター和食とガールズバーがドッキングしたような、今までになかった新しい業態なのだ。
「よしの」 外観。
「よしの」 店内。
「よしの」 個室。
オープンは一昨年の7月で、現在のようなスタイルにリニューアルしたのは昨年8月。店内はカウンター中心だが、4人の個室もあり、総席数は22席。カウンターは靴を脱いで上がるお座敷タイプで、掘りごたつように腰掛けられる。リラックスできるから長く居ても疲れない。内装は全般に和風モダンのシックな中にも、華のあるインテリアとなっている。
女性スタッフは総勢50人ほどが在籍し、大学生のアルバイトが主流。常時4〜5人がカウンターに立ち、チャイナ服を着て接客する。
顧客層はサラリーマンが多いが、会社の社長や役員クラスにも常連がいるという。年齢層は35歳以上50代後半までで、男女比では男性が95%と圧倒的だ。
顧客単価は約1万円。夜はオープンの18時30分から20時までフリータイム2000円、以降1時間毎に2000円のチャージがかかる。ラストは12:00くらいまでで、日曜と月曜が休み。顧客はご飯を食べた後、軽く飲んで、2〜3時間を過ごして帰る感じだ。1人で来る人も結構いる。
「よしの」 カウンターと接客風景。
「よしの」 女性スタッフはチャイナ服で接客。
人気メニューは「女将のお勧め料理」(1000円)で、旬の食材を使って日替わりで提供される。「旬の味覚大粒カキフライ」(1000円)や、「健康胡麻たっぷりサラダ」(900円)もよく出るメニューだ。1品の単価は800〜1000円ほどで高くない。
「よしの」 旬の味覚大粒カキフライ。
「よしの」 健康胡麻たっぷりサラダ、鮭のはらす焼。
ドリンクは和食に合う、焼酎、日本酒、ワインが中心(1杯700円〜)。
ランチも営業しており、800〜1000円で、五穀米を使った魚の定食などが提供される。11〜12時まではさらにタイムサービスで500円と格安である。プラス100円でコーヒーも付けられる。ランチの入りも好調で、昼に来た人が夜にも来るといった流れができてきて、最近は夜の顧客の入りも良くなって定着してきたそうだ。土曜と日曜が休みとなっている。
「お客様には、スタッフには大学生が多いという事もあり自然なコミュニケーションを楽しんでもらえるよう努力しています。麻布十番あたりは会社もたくさんありますし、常連には近くに勤めている人が多いです。やっと軌道に乗ってきたので、現在の業態で店舗展開をしていこうという気持ちはあります」と大谷秀一マネージャーは、「ガールズ小料理屋」の可能性に胸を膨らませている。
・もつ鍋屋とガールズバーが合併した一人鍋が楽しい店
「六本木ヒルズ」にほど近い六本木通り沿いの、西麻布の飲食ビル4階にある「満月」は、ホールスタッフが全員女性で、文字通り「ガールズ居酒屋」とうたっている店だ。オープンは昨年の9月9日。
売りは、プリプリの和牛もつで作る「博多モツ鍋」(2人前3500円)、「和牛モツ鉄板焼」(1200円)で、博多本場の甘辛い醤油の味付けで食せる本格派だ。
「満月」 もつ鍋。
この店は、六本木でオープンして10年になる「博多もつ鍋 九」の系列店で、一昨年春にオープンした時は「博多もつ鍋 九」の西麻布店であった。一方で、それとは別のオーナーが経営していた、六本木のダーツのあるガールズバーのスタッフを引き継いでおり、つまり本当に、もつ鍋屋とガールズバーが合体して生まれた新業態である。両店の顧客を引き継いでいるので、平均して1.5回転と好調に推移しており、特に金曜日はウエイティングが出るほど混むのだそうだ。
女性スタッフの服装は、白いワイシャツに紺のベストを店舗から支給しており、ボトムはミニスカートでブーツも着用可。常時6〜8人が3交替で勤務しており、大学生中心にモデル、ダンサーもいる。
「満月」 女性スタッフはベストにミニスカという服装。
店内は、屋台、カウンター、個室の座敷に分かれている。顧客は男性が8割と圧倒的に多く、女性は付き添い程度だ。年齢は30代が中心で、場所柄テレビ局の関係者が多いとのこと。顧客単価は8000円ほどで、チャージが1時間ごとに1500円かかる。
「満月」 店内。
「満月」 ダーツもある窓側のカウンター。
1人で来る人も多く、ホールの女性と一緒にもつ鍋を食べたり、お酒を飲んだりして過ごす。営業は、平日は翌朝4時までで、土曜は12時まで、日曜と祝日は休みとなっている。
「女の子たちはずっとお客さんに付いているのではなく、オーダーを取ったり、お皿に柚子胡椒を付けてあげたり、シメのちゃんぽん麺や雑炊をお勧めしたりする中で、お客さんとコミュニケーションを取っていきます」と谷川佳美支配人は店内の接客を語る。
忘年会や新年会では、4時間のどの貸し切りも多く、個室で食べたあと屋台で女の子と飲み直すといったニーズも多いそうだ。不況でお財布の事情が寂しくなった、ビジネスマンにとっては、居酒屋とガールズバーをハシゴしなくても、1店で済ませられるのがお得というわけだ。
ドリンクは焼酎中心で、30種類以上そろい、グラスで800〜1000円で飲める。
おつまみでは、「博多辛子明太子」(あぶり・生 1200円)、「明太子チーズ卵焼き」も本場のいい味を出している。
「満月」 明太子チーズ卵焼き(1200円)。
「満月」 和牛もつ鉄板(1200円)。
内装は和風の満月をテーマにした、ファンタスティックな壁絵が特徴で、窓側のカウンターから月も鑑賞できる。カウンターの幅は55cmとなっているが、これはオーナーが女の子と顧客の距離感が最適として、こだわったものだ。
「満月」 雑誌にも紹介された。
・大阪のアイデア商売、安くて毎日通えるガールズ焼鳥屋
ガールズバー発祥の地、大阪でも差別化の一環として、ガールズ居酒屋を試みる動きがある。
京橋は、京阪本線、JR大阪環状線と片町線、大阪市営地下鉄長堀鶴見緑地線がクロスする大阪有数の交通の要所。1日の乗降客数は合わせて約50万人に達する。駅を中心に繁華街が開けており、ガールズバー激戦地の1つだ。
その京橋で、昨年8月1日にオープンした「ええとこ鶏」は、「ガールズ焼鳥屋」なる新業態である。
カウンターのみ8席の小さな店で、若い女性スタッフ3人で店を回している。
「ええとこ鶏」はガールズ焼鳥屋。
「ええとこ鶏」の焼鳥は網状の鉄板焼で焼く。
こちらの焼鳥は顧客が自ら鉄板で、焼肉のように焼くスタイルで、カットした鶏肉がお皿に盛られて出てくる。焼き上がるまでにかかる時間を女の子と話して過ごすのがミソだ。
鉄板が網目状になっており、余計な脂が網の下に落ちてしまうので、ヘルシーである。油は「ちらしめ油」というサラダ油を使っていて、最初これを鉄板に敷いて鶏を焼く。
串3本分300〜500円が基本で、朝どりの新鮮な鶏肉を使っている。人気は手作りのつくね(500円)、皮せん(皮のせんべい、350円)、せせり(350円)。ビールは400円で、客単価は1000円くらいと安い。
顧客層は30代以上の男女で、男性7に対して女性3。思ったよりも女性客も多いのはカップルが結構いるからでもある。
「つき合い始めたばかりのカップルは、会話に困ることも多いですが、ウチに来ると女の子も一緒に盛り上げるから楽しいみたいですよ。お客さんが退屈しないような、飲んで食べて楽しめる店でありたいです」と百木梢店長。リピート客も多く、ほぼ毎日来る人もいるほどだという。
「ええとこ鶏」の元気いっぱいの女性スタッフ。
経営するアズコーポレーションは2006年の設立で、ガールズバーを2軒、たこ焼き屋を2軒、これまでに出店してきた。過去に出したガールズバー「パーティー」という名で、それぞれ「ガールズ立ち呑み居酒屋」、「ガールズカラオケ」といった特徴ある業態で、前者は女の子がハッピを着ていて、後者はガールズバーでカラオケが歌える趣向だ。
大阪のガールズバーは、どんどん進化している印象を受けた。
系列のガールズ立ち呑み「パーティー」。
系列のガールズカラオケ「パーティー」。店名のパーティーはガールズ立ち呑み屋と同じ。
・BSEの逆風を吹き飛ばすヒットとなったコスプレ焼肉
アキバ系の店舗でも居酒屋形式の店が増えている。東京のJR山手線・京浜東北線と東京メトロ銀座線、神田駅のすぐ近くにある「コスプレ焼肉 OK牧場」は、2005年8月のオープン。今年で4年目に入った。
コスプレ焼肉「OK牧場」 外観。
「コスプレ焼肉」は大阪で生まれた業態であり、メイド服、ナース服、アニメのキャラクターなどのコスプレをした女性ホールスタッフが、肉や野菜を焼いてくれる店。肉を焼いている間に会話が楽しめる趣向だ。メイド喫茶ブームの最盛期にオープンした「コスプレ焼肉 OK牧場」は、大阪の店も参考にしながら、改良を加えてつくった店だという。愉快な店名はオーナーがヒラメキで付けたそうだ。
「OK牧場」 肉は神戸の近郊の三田牛を含む食べ放題。
神田は秋葉原から1駅といっても、サラリーマンの街であって、顧客層のメインは電気街とは全く異なる。そこで、顧客にも店内にあるコスプレ衣装が貸し出しできるようにして、女の子と一緒に宴会をしているような、ワイワイガヤガヤと騒げる一体感ある店を目指した。混雑時には、1時間に1度ダンスタイムを設けており、盛り上がる。カラオケ設備もある。
顧客の内訳は、サラリーマン6割、カップルと女性が3割、オタク男性は1割といったところ。1人で来る人も結構いる。また、物珍しさから海外のTV、映画に出たこともあり、たまに海外の顧客も見られる。
席数は103席あり、掘りごたつのテーブルになっている。女性スタッフは顧客の要望で店内に飾られている、別の衣装に着替えてもらうこともできる。
料金は1時間単位で1人につき、食べ放題3500円、飲み放題1500円となっており、セット5000円でオーダーする人が多い。延長料金は、30分3000円、60分5000円で、平均して1時間半〜2時間の利用となっている。
食事のほうは神戸のほうの三田牛を含む、豚肉、鶏肉、ウィンナー、野菜などがプレートになっており、一方のドリンクはビール、各種サワー、マッコリなどが単品でもオーダーできる。
「居酒屋に行って、お姉ちゃんのいる店に行けば高くつきますが、ここに来れば両方がセットになっていますから不況には強いと思っています。最初は近隣から奇異の目で見られましたが、問題を起こさず営業してきたので、地元の人たちからもやさしくしてもらって、今では定着しています」と角屋良店長。
「OK牧場」 スタッフ。
「OK牧場」 アニソンなどのカラオケでも盛り上がれる。
夕方からの営業だが、食事をする店なので早い時間帯のほうが混んでいて、金曜は予約が必要な状況だそうだ。
同店がオープンした頃は、BSEが騒がれていた。焼肉だけでは売りにならないので、コスプレを付加価値として呼び水にした面があるが、毎日のように駅前でビラをまく粘り強い宣伝活動やTVで放映されたのも奏功して、繁盛店となった模様である。
・鉄道マニア向けに萌え要素を加えた新感覚、鉄道居酒屋
さて、東京・秋葉原に昨年2月22日にオープンした「リトルTGV」は、「鉄道居酒屋」という新分野を開拓した店。
電車の車掌か駅員風の、ピンクと緑の萌えるコスプレをした女性スタッフが接客するのが特徴で、従来の鉄道オタクがサロン的にこっそり集まる店とは異なり、メイド喫茶のような明るい雰囲気で、女性スタッフとのコミュニケーションが取れる。
「リトルTGV」 コスチュームは鉄道職員風。モデルは店長の内田ちひろさん。
また、コスプレをしている女性スタッフも、切符を集めていたり、「鉄道博物館」の年間パスを持っているような鉄道好きを採用している。
最近は鉄道アイドルの木村裕子さんの登場や「タモリ倶楽部」のようなTV番組で、鉄道ファンのマニアックな話題が、お茶の間にも普及するようになり、女性の鉄道ファンも増えているがオープンの背景にあった。また、秋葉原はJR山手線・京浜東北線・総武線、東京メトロ日比谷線、つくばエクスプレスが集まる、都内屈指の鉄道駅で撮影ポイントでもあるし、06年までは「交通博物館」もあって、“鉄ちゃん”と呼ばれる鉄道マニアにとっても聖地であった。
店内は、鉄道のお宝グッズの展示物、鉄道模型、モニターによる鉄道映像の放映と、鉄道にちなんだものが満載で、車両の座席風のテーブル席もある。また、メニュー表は東京都内のJR路線図に模して作成されていて、値段の安いものが中心部にあって、だんだんと高くなっている。席数は45席。
「リトルTGV」 店内。
「リトルTGV」 店内には鉄道のお宝がさりげなく飾られている。
「リトルTGV」 店内に置かれた鉄道模型。
顧客層は20代〜30代が中心だが、上は60代くらいまでをカバーする。男女比は9:1で男性がほとんどだ。客単価は約3000円となっている。土日祝日はランチ営業を行っており、こちらの客単価は約1000円である。
土日は満席になり、年末には行列ができるほどの人気だという。
メニューで好評なのは、電車の形をした器に入った揚げ物盛り合わせの「NAER(新秋葉電気鉄道)プレート」(1280円)、タマネギの輪切りが入った「渦電流サラダ」(450円)、女性スタッフが目の前で好きな形に握ってくれる「駅員さんのおにぎり」(380円)など。
「リトルTGV」のNAERプレート。
「リトルTGV」 渦電流サラダ、カニ24コロッケ、中央線カクテルと、鉄道にちなむメニュー満載。
「リトルTGV」 駅員さんのおにぎりとNAERステア。
「リトルTGV」 東京のJR路線図を模したメニュー表。
ドリンクでは、ビール、日本酒、ウィスキーのほか、女の子によって味が変わる「NAERステア」(600円)、メロンジャーの「山手線カクテル」(550円)など、カクテルに力を入れている。
「木村裕子さんのイベントや、女の子の歌や踊りのイベントもあるので、アイドル好きの人も来ます。お客さんは1人で来る人が多いですが、共通の趣味がある人がここで知り合って、仲良くなっていますね。一緒に青春18きっぷを使って旅行に行かれた人もいます」と内田ちひろ店長は語る。
「リトルTGV」 おみやげのカレーとスタッフが出したCD。
運営するライトクリエイトは、秋葉原を中心に、小悪魔居酒屋「リトルBSD」、メイドダーツバー&カフェ「リトルPSX」、コスプレ寿司・和風居酒屋「不思議亭」などを次々と出店して軌道に乗せており、いわば萌え系エンターテイメント居酒屋の第一人者といった存在だ。
今回の「リトルTGV」のアイデアも、既存の萌え系居酒屋の常連に、パソコンオタクにして鉄道オタクの人が意外に多く、そうした人たちから「鉄道居酒屋」があったら面白いとリクエストがあって、始めたものなのだという。
・飲んで食べて女の子とワンストップで楽しめるお得感
以上見てきたように、女性店員とのコミュニケーションを楽しむガールズバーと、食事ができる居酒屋が融合した、「ガールズ居酒屋」の試みは確実に広がりを見せている。
今回は取り上げなかったが、札幌出身で東京に既に7店を有している、セクシーなコスチュームが人気の北海道居酒屋「はなこ」が人気を博していることからも、飲食と女の子のいる店を2軒はしごしなくても、1ヶ所でニーズが満たせる「ガールズ居酒屋」には、不況が追い風になっているように思える。
札幌から進出し、東京でヒット中の「はなこ」。
また、六本木など都内に4店ある「キャンパスカフェ バッドガールズ」は、オープンから20時30分まではビュッフェが楽しめる、女の子が横に座ってくれるキャバクラ型接客の店だ。女性キャストは、全員女子大生またはその同世代とうたっている。これは、「ガールズ居酒屋」とキャバクラの中間のような独特の業態といえるだろう。
いずれにしてもナイトビジネスの雄であったキャバクラが、深夜営業の規制強化で昼キャバの営業を模索する中、「ガールズ居酒屋」はナイトビジネスの勢力図を塗り替える、台風の目になるかもしれない。