・地域の絶対的ブランドをブラッシュアップして多店舗展開
JR国立駅から北東に約600メートル、日吉町交差点にある「ステーキハンバーグ&サラダバー けん」国分寺店は、60席ほどの席数で、昨年12月には1750万円を売り上げ、系列店の中では過去最高の月商を記録した繁盛店だ。
「すかいらーくもこのあたりの発祥ですし、感度の高い顧客が集まる国分寺で記録をつくれたので大きな自信になりました。日本全国で勝てる手ごたえをつかみました」と、ロードサイドの居抜き専門で「ステーキハンバーグ&サラダバー けん」23店を首都圏で展開する、エムグラントフードサービスの井戸実社長は胸を張った。土日で500〜600人の顧客が入る。
「けん」国分寺店の店内。
この店は元々ワタミの「和み亭」であった物件で、飲酒運転規制強化の中でワタミがロードサイド居酒屋を整理する一環として、撤退したものであった。それを居抜きで、シートを張り替えるなど約1000万円をかけて改装し、昨年11月20日にグランドオープンした。直営ではなくFCの店である。
日吉町交差点は、地元民とっては、国立駅から西武国分寺線・恋ヶ窪駅に抜ける道と、JR西国分寺駅方面から多摩都市モノレール開通で開発が進む立川市北部に抜ける道がクロスし、路線バスも走っていて、交通の要衝の1つである。ロードサイドの店としてはたいへん有利な立地であり、これが確保できたのが成功要因としてまず挙げられる。
さすが「ロードサイドのハイエナ」、「ロードサイドのエンジェル」などと言われる井戸氏である。なぜ、こんな優良居抜き物件が見つけられたのかと聞くと、「自分のネットワークの中で」とのこと。井戸氏は独立前、店舗流通ネットの社員であり、そもそも飲食店の立地開発を本業としていた人なのであった。
FCに加盟する条件は、加盟金400万円と別途店舗取得費がかかり、売上ロイヤリティが3%である。このまま、月商1000万円以上を売り上げていくと、半年くらいで回収可能だろう。FC加盟者にとっても非常に有利な条件だ。
「ロードサイドのファミレスと駅前の居酒屋では、お酒が売れる居酒屋のほうが儲かります。けれど、居酒屋は店長の人間力で売り上げが変わってくるのですね。店長教育も組織づくりもたいへんです。その点、お酒を売らないロードサイドの店は、ブレが少なく安定しています。ステーキやハンバーグは、誰もが好む普遍的なメニューでもあります」と、井戸氏はなぜロードサイドでステーキとハンバーグの店なのかを語った。FC展開を念頭に入れてのことであろう。
エムラントフードサービス、井戸実社長
「けん」の下敷きになったのは、当初は「肉のハナマサ」が展開しており、現在はエムグラントの傘下に入っている、「ステーキ&ハンバーグ いわたき」。現在は3店あるが、千葉県松戸市、埼玉県三郷市には昭和59年にオープンした店が残っている。20年以上も愛されてきた店で、地元では知らない人がいないほどの絶対的なブランドだ。
サラダバー、ライス、カレー、スープ食べ放題、プラス210円(ランチ105円)でドリンクバー飲み放題、かつ時間無制限などといったシステムは、すでに「いわたき」が構築して、好評を博していたものだという。それだけ競争力の強い方法を踏襲すれば、成功できると井戸氏は踏んだ。
サラダバーは、前のガラス越しにキッチンが見える。
コーヒーゼリー、フルーツも含まれる。
おかわり自由のカレーとスープ。
デザートバイキングはプラス380円。
「いわたき」の営業権を買い取り、ステーキ肉で肉質のやわらかいサーロインを導入するなどの若干の変更を加え、会社を設立して3年。井戸氏の読みのとおり、順調に店舗を増やしている。
国分寺店も客単価は1300円と決して安くはないが、肉の厚みやおいしさ、調理やソースの完成度、鮮度管理がしっかりしていてフルーツやプリンまで付いているサラダバーを考えれば、消費者が納得できる価格と言えるだろう。
主なメニューは「けんステーキ」(150g ランチ1000円、ディナー1140円)、「ハンバーグステーキ」(150g ランチ935円、ディナー1029円)。「けんステーキ」は180g、280gの大きなサイズもあり、「ハンバーグステーキ」はトマト、ガーリックなど5種類のソースが選べる。
「けんステーキ」は、ボリュームがあってジューシー。
「ハンバーグステーキ」は5種のソースがあり、また違うソースで食べたくなる。
同社では離職率が少なく、社風に合わないなどのネガティブな動機の退職者は、昨年1年間1人もいなかったそうだ。気持ち良く働ける雰囲気づくりが、快進撃を支えている面もある。
・休眠客掘り起こし、カフェ世代をファミレスに取り込む
東京都国立市のJR中央線国立駅からJR南武線谷保駅にいたる大学通りと、春には咲き乱れる桜並木が美しいさくら通りが交わる、谷保駅から徒歩6、7分の場所にあるのが、ジョナサンが展開する新業態「ジェイズガーデン」国立富士見台店だ。
近くには大規模な団地、新築のマンションがあり、市役所も近く、徒歩圏内の人口も多い好立地である。
アメリカ郊外のカジュアルレストランをモデルに開発した、日本の店で言うとカフェテイストを取り入れたファミレスである。オープンは2005年11月で、「スカイラークガーデンズ」から業態転換した。「ジェイズガーデン」としては同年7月に転換した1号店の練馬区にある大泉学園店に次ぐ2店目だ。店舗数は首都圏に23店ある。
ジェイズガーデン国立富士見台店外観。駐車場は42台。
ジェイズガーデンの店内。
以来、ランチの時には未だに行列ができる繁盛店となっている。テラスも合わせて160席ほどあり、1日の来店数は450〜500人。パスタとピザを中心とした店で、客単価は1100円である。
顧客層は30代から50代の女性が多く、特にランチは9割が女性というのも、ロードサイドの店としては異色だ。休日のテラスは犬連れの人で賑わう。
カラーリングでは旧来ファミレスではタブーとされてきた白を前面に出し、緑と茶のアースカラーでアウトドアの雰囲気を表現している。また、インテリアでは、ひじ掛けの付いた座り心地の良い椅子、動き回る小さい子供の面倒を見やすいコの字型のソファーを設けるなどの工夫をしている。食事に専念できるように子供が喜ぶおもちゃが置いてある、売店コーナーを廃止した。女性用トイレもホテル並みにきれいである。
メニュー面では、2人、3人でパスタ、ピザを頼んで、大皿のサラダを取り分けてテーブルを囲む食事をイメージ。ドルチェをプチサイズ220円、スープを210円と非常に安くしているのが特徴で、テーブルに賑わいを持たせている。
プチドルチェ「フルーツパフェ」(220円)。
メニューブックも、従来のファミレスのようにハンバーグなどの看板料理を最初のページに載せるのではなく、前菜、サラダ、パスタとピザ、肉料理といったような順に並べており、レストランのスタイルで構成している。
パスタは、スパゲティの乾麺も「ジョナサン」で使用しているものより高級な食材を使っているが、売りは生麺。浜松の製麺所でつくられる、ニョッキ、ブカティーニ、タリアテッレといった生麺は、うどんのように小麦粉を練って板状に延ばしたものをカットしてつくっており、リストランテに多い小麦粉を練った塊を押し出して麺にするやり方とは異なった、歯ごたえある食感が得られる。トマトソースのトマトも有機トマトを使用した本格派だ。
イカ墨のスパゲティ(934円)
生ブカティーニのアマトリチャーナ(有機トマト使用、1039円)。
また、ピザのサイズも11インチと大きめ。生地のもとになる小麦粉を練った塊を店で発酵させ、延ばしてピザにして焼くという、手間をかけたことを行っている。なので、味は専門店と変わらないレベルにある。
ピッツァメランゼーネ(934円)。
愛媛産「蒸しシラス」と4種の海苔ピッツァ(1039円)。
サラダは大皿であるだけでなく、あえてベジタブルのカテゴリーで提供している。シンボル的なメニュー、「30品目取れるサラダ」(740円)は、食材をそろえるのがたいへん過ぎるので、競合店のどこも真似して来ない。
三陸産切り昆布と黒酢寒天の30品目取れるサラダ(777円)。
「ティーバー」(400円、セット315円〜)も特徴的で、紅茶、健康茶、ハーブティーを16種類もそろえている。
ランチでは、カロリーを気にする人向けに、おかず4品に、ご飯、スープ、のりが付く、「ヘルシーバランスランチ」(848円)といった、カフェご飯的なメニューもある。ご飯は、雑穀米、発芽玄米、白米から選べる。
ヘルシーバランスランチの例(890円)。
「食材のこだわり、空間のこだわりで、かつてファミレスに来ていたが最近足が遠のいていた休眠客を掘り起こしていきたいです」と、ジョナサン業態開発部JG業態開発リーダーの野田秀秋氏。
野田氏はメニュー開発のために、よく都心のレストランを食べ歩くそうだ。従来のファミレスにはないセンスは、そうした日々の研究から生まれてきているように感じられた。
「ジェイズガーデン」は同店に限らず好調な店は多く、多摩センター駅前店、王子店、江ノ島店では、毎年10%近く売り上げが伸びているとのこと。すかいらーくグループ全体の戦略の中で一昨年から新店は出ていないが、立地を選んでいけば成長の余地は十分あるのではないだろうか。
・毎朝築地からネタ直送、丁寧な接客で好調な回転寿司店
国分寺、府中、国立の界隈で、人気の回転寿司といえば、国分寺市内泉町交差点近くにある、「廻転びっくり寿司」西国分寺店だ。食事時には、いつも駐車場がいっぱいになって、道路に渋滞ができるほどだ。
立地はJR中央線西国分寺駅から徒歩5分ほど。駅前には新しく開発された、大規模な団地が広がっている。泉町交差点は府中と所沢を結ぶ府中街道と、国分寺と国立を結ぶ道が交わる地点にあって、ロードサイドとしては申し分ない。
「廻転びっくり寿司」西国分寺店外観。駐車場は18台。
「廻転びっくり寿司」西国分寺店の店内。
今年がオープンして12年目になるが、68席あって、平日で400人、休日は800〜900人の顧客が来る。平日には800円で、ちらしとにぎりの茶碗蒸しと味噌汁付きランチがあって、売りの1つだ。顧客単価は平日で1250円、休日で1400円ほどである。
この店の最大の良さは、ネタの新鮮さである。通常の回転寿司ではネタは前日に届くが、同店では夜中に築地で競り落とした魚がそのまま朝の6時頃に届く。そして魚を店内の調理場でさばいて、その日のうちにネタを売ってしまう。こういった物流体制を構築しているから、いつもネタが新鮮なのだ。店内に水槽を設けているが、その中で泳いでいる魚もネタになる。
食材の魚が泳ぐ水槽。
1皿の値段は105円〜630円まであり、ネタの種類は60ほど。その中には関アジ、関サバのようなブランド魚もあれば、活けの赤貝、ホッキ、ツブ貝、ミル貝、ホタテといった貝類もある。旬の魚では、夏のシマアジ、冬のキンメダイをはじめ各種そろえている。単に数が多いだけでなく、中身が充実している。
活赤貝(420円)。
まぐろ3点(赤身、中トロ、大トロ 630円)
また、同店では接客に力を入れている。回転寿司に接客は必要なのかとも思うのだが、この質問に店舗プレミアムびっくり事業本部直営店運営部廻転部門・遥元マネージャーは、次のように答えた。
「店員が回転していないネタでも握りますと言っていても、シャイで注文をしづらくしているお客さんもいるんです。そういう時にやさしく店員のほうから声をかけてあげるようにしています。注文を待っているだけでなく、目配り、気配りが大事です」と遥元氏。
遥元マネージャー(右)
遥元氏は、店員に顧客の皿をよく観察するよう指導している。皿を見ていればその顧客が、白身魚が好きか、光物が好きか、マグロが好きか、貝類が好きかは自ずとわかる。そうした顧客の好みを把握した上で、注文を取っていくのだ。一方で、店のお勧めのネタだからといって誰にでも強要しない。顧客目線の接客を職人とホールの両方で、実践しているという。これまでの回転寿司にはなかった発想だ。
お客の好みを把握し、注文を取っていく。
3月からはポイントカードを導入し、その日のある時間帯に、特定の高額なネタや生ビール1杯を105円で提供するなど、イベントを強化していくとのこと。
「廻転びっくり寿司」や「江戸前びっくり寿司」をかつて経営していた、びっくり本舗は昨年10月に民事再生法の適用を申請し、負債総額50億円で倒産。店舗プレミアムに事業売却された。
そうした中で同店も一時期顧客減に見舞われていたが、遥元マネージャーの改革により事業建て直しが図られて、着実に成果が上がっている印象を受けた。
・地元野菜が直売され、フードコートで食せる新「道の駅」
「道の駅」にも「都市型」と言われる新しい流れの施設が登場している。東京都八王子市にある「道の駅 八王子滝山」がそれで、平日で2000人、土日が4000〜5000人を集客し、いつも顧客であふれている。観光バスもよく立ち寄るし、視察者も多い。ちょっとした観光スポットになっている。
「道の駅 八王子滝山」の外観。
全国で900ほどある道の駅は、平成5年より国土交通省(当時は建設省)が登録・案内制度を開始。ドライバーのための「休憩機能」、地域の「情報発信機能」、地域同士の「地域の連携機能」を併せ持っている。休憩所やトイレのほか、地域物産の販売所や地域の食材を使ったレストランが入居するケースが多いが、従来はどこかに向かう途中の「立ち寄り型」であり、道のそのものに行くのを目的としたものが「都市型」である。
東京都の道の駅としても初の施設として、2007年4月にオープンした。立地は中央高速道路八王子ICより北へ約500m、国道16号線より西へ約300mの新滝山街道沿いにあり、南へはひよどり山トンネルを抜けて八王子駅にいたる道が通じ、西方に車を走らせれば約7kmで圏央道あきるのICにいたる、便利な場所である。
八王子市役所が建設した延床面積約1300㎡の鉄筋コンクリート平屋建の落ち着きのある西洋風の建物で、設計は市内の建築事務所有志たちによるものだ。施設の管理には、高速道路の売店の経営・運営を行っているウェイザが、日本道路興運と組んで、市議会の議決を経てあたっている。
「道の駅 八王子滝山」の特徴は、スーパーと見間違えるかと思うほどの野菜、肉、特産品の品数である。八王子市は約54万8000人の人口を抱える多摩地区最大のベッドタウン、学園都市でもあるが、近郊農業も盛んで、市街には和菓子の名店も多く、かつては織物の町として隆盛を誇っていた歴史がある。そうした市の産品を集積すれば結構なボリュームになる。
「道の駅 八王子滝山」の農産物直売コーナー。
青果、花卉、酪農品については、市内の農家151軒が「道の駅八王子滝山農産物直売所出荷組合」を結成。特に野菜はナス、トマト、キュウリといった八王子の3大野菜をはじめ、朝取れたてのフレッシュな状態で店頭に並べられ、しかも安いので、市民の評判も良い。顧客の半分以上が、青果を目当てに買いに来ているという。酪農品では市内にある磯沼ミルクファームの製品や、高級な豚肉「TOKYO
X」、なども買うことができる。また、青果物については市内で採れないものや、季節的に採れない時期のものは、市場から仕入れて販売している。産地は明記されているので、出荷組合の商品と混同しない仕組みになっている。
朝取れたての地元産の野菜が並び、市民に好評
高級豚TOKYO-Xもここに来れば買える。
モニターで生産者が確認できる。
市内の和菓子の銘菓が一堂にそろう。
八王子の地酒コーナー。
そうした市場からの農産物調達や、まんじゅうやもなかなどの和菓子、織物などの工芸品、地酒など地元の特産品の仕入れ、及び奥にあるフードコート「八農菜」の運営は、高速道路のSAで飲食や物販を手掛けている秀穂があたっている。
休憩所をかねた飲食コーナーは54席、テラスを含めて94席ほどある。八王子の野菜をふんだんに使ったラーメン、カレー、うどんの「八農菜」、地元の農家のお母さんたちが開いた惣菜「はちまきや」、地元酪農家が育てた牛から搾った牛乳を原料に、イタリア・カルピジャーニ社製マシンを使ったジェラート「ミルクアイスMO-MO」、地元野菜を使ったサイドウィッチと本格エスプレッソ・マシンでいれたカフェラテが自慢の「カフェ・ラ・ジータ」といったラインナップ。
ラーメン、うどん、カレーを提供する八農菜。
ジェラート、カフェのお勧めメニュー。
「八農菜」では刻みタマネギが乗った、少しこってり目の醤油味であるご当地ラーメン「八王子ラーメン」が食せるほか、7種類ほどの野菜が入ったカレー、月替わりの旬の野菜のうどんなどが提供されている。
施設全体の顧客単価は、1100〜1200円ほど。全国の道の駅でも坪効率は間違いなくトップクラスである。
・次世代ファミレスは低価格とアッパーに二極化していく
以上、ロードサイドビジネスの先端で激戦地でもある多摩地区から、居抜き物件ばかりを狙うファミレスの新鋭、老舗ファミレスのカフェテイストを取り入れた新業態、巻き返しはかる回転寿司チェーン、全国的に苦戦している道の駅での例外的な成功をピックアップしてみた。
そうした中で、次世代ファミレスの1つの姿が見えてきた気がする。
「ガスト」のような低価格ファミレスは、スタンダードとして定着していくだろう。しかし、学生が長時間占拠するような業態は落ち着けないので、彼らが来ないようなもう少しアッパーなゾーンが開拓されてくるに違いない。
たとえば、喫茶の世界で「ドトール」に対して「スターバックス」が登場し、ハンバーガーの世界で「マクドナルド」に対して「佐世保バーガー」が登場したような二極化がファミレスでも進むのではないだろうか。
そうした時にキーワードになるのが、品質に対するお得感、女性なら女性にターゲットを絞りつつ男性にも対応できるメニューの工夫、鮮度管理の徹底、フードマイレージを意識したメニューなどである。
しかし、もう酒類はほとんど売れないのだから、昔のように単店で年間3億も4億も売るのは、もう無理だ。発想を転換して、1億円台、もっと売り上げが低くても利益が出せる、ビジネスモデルを構築できるかが頭の使いどころだ。
これからロードサイドにはどんどん空き店舗が増えてくる。居抜きによってローコストで新規出店するチャンスが広がっている。