・客数100%、客単価102%でシミュレーション
同社は、3/11にグループの優秀店舗を表彰する「とり鉄アワード」を“サービスの神様”新川義弘氏の東京・六本木ヒルズ「リゴレット」で開催した。優秀なFC店のオーナー、店長、アルバイトを招き、新川氏の講演を聞き、良質のサービスを経験しようという会。その中でも、3/8に開催された第4回S1サーバーグランプリの優勝者、浜松町店店長の布施知浩氏が再度、表彰された。S1での優勝は、「とり鉄」グループとして業績が好転したことの客観的な証となった。
第4回S1サーバーグランプリに優勝し、賞金50万円を手にする浜松町店店長の布施知浩氏。
浜松町店オーナーのマックスコーポレーションの社員と優勝の喜びを分かち合った。
「この1年、中期計画に基づくコミットメントの数字をある程度超えました。それで、タスコシステムの時代に続けていたアワードを再開できるようになりました。去年はできなかったんです。2007年9月に(株)とり鉄がタスコシステムからアスラポート・ダイニンググループに入り、ビール会社がサントリーからキリンに切り替わるなど、バタバタでした。2008年1〜3月を使って加盟企業のオーナー様に全国行脚しました。アワードの計画を練る時間は正直確保できなかったです」と小林氏。1号店のアルバイトから「とり鉄」に出会い、社長にまでなった小林氏は、現場重視の熱血漢だ。
「昨年7月〜今年1月まで既存店プラス。2月は昨年がうるう年で、しかも金曜日が1回少なかったので少しへこみましたが、同日換算ではプラス。FC本部は、加盟店のキャッシュフローを改善していくのが仕事です。長く続く商売をして頂きたいので、2月に無理にディスカウントして100%を超えるような帳尻合わせは行いませんでした。」
「既存店で客数100%をキープできた時、客単価102%になって、結果、売上高102%になるような単価設定とメニュー開発をしました。実際に、客数は100%を超えました。去年は1年間、ブランドのリバリューをテーマに活動を行いました。まずは、損益を改善。小さなコストを1つ1つ極力見直しました。原価率では、1%落とせました。かつ客数100%、客単価102%、売上102%の水準をほぼキープできました。各店舗の売上高平均が600万円なので、年間では100万円近い収益が改善された事になります。」
居酒屋で既存店客数が100%を超える企業は非常に少ない。その大きな理由は、加盟店との信頼関係を築いたことだろう。
「サービスはまだ十分とは言えませんが、全店でサービスの意識だけは持たせようとしています。タスコシステム時代より加盟店オーナーとのリレーションが改善されてきています。」
・ロードサイドは、“3世代居酒屋”
昨年12月にロードサイドの埼玉・吉川店を改装した。まだ期間は短いが、前年比120%以上の実績を上げている。
「レイクタウンから車で5〜10分の立地。苦戦が予想される店でした。新しいコンセプトをいれました。ベビールームを作りました。部屋も仕切っておむつ替え用のベットと、専用のシンク2つ。1つは手や赤ちゃんのお尻洗いなど用に、もう1つはミルク用の給湯ができる用に。専用のポットも置きました。シンクの上にはスティック粉ミルク、換えおむつもS・M・Lと各種揃えました。」
ベビールーム
シンクは2つ。
おむつ換えベッド
授乳室
サービス紙おむつ・ミルク等。
「コンセプトは“3世代居酒屋”。ターゲットの最大化を図ろうと考えました。メニューのベースは「とり鉄」。ロードサイド居酒屋に来ていただけない理由として、お酒を飲んだり食事をしたいんだけど、老若男女が安心して来れる環境が整ってないことかと。サービスというソフト面だけでなく、ハード面も重要なんです。複合型の商業施設が集客できているのは、どんな人が来てもある程度の使い勝手、応じた環境が整備されているからだと考えました。」
「お年寄りが座っても痛くならないよう、クッションを付けた座イスを小上がり全席に配置し、カウンターは普通の椅子ではなく、カップルシートにしました。個室も作りました。4〜5人の家族で自分の家にいるように過ごして欲しいと、液晶テレビを設置。また店内の清潔感を高める為に内装は白っぽくし、店内全席靴脱ぎスタイルに変更しました。年配の方々の寄り合いでも、家族でも、乳幼児連れのお母さんでも、カップルでも使っていただけます。」
カウンターのカップルシート
宴会席
団欒個室、テレビ付き。
「結果は、子供が4割増。自動的に女性が20%以上増えました。男性は若干増。子供を連れていっても安心だね、というお母さんへの動機づけは少しできたのではないかと考えています。」
「自分の中では前年比150%がターゲット。追加投資分は、客数105%では2年回収、120%では1年回収できます。今のペースなら、追加投資分は1年で回収終わりますね。でも僕の中では150%を求めたい。」
「客単価は以前と変わらず2600円〜2700円です。「とり鉄」のメニューだけで、お子様ランチのような低単価はやりません。お客様はドリンクを飲まれますが、アルコールの消費量が街中の店舗と比較すると格段に低いですね。」
・凍結ビールでロードサイドの徒歩客を狙う
また、ロードサイドにもかかわらず、ビールの実験メニューにも挑戦している。急速凍結庫を使って凍らせたジョッキに、樽冷式サーバーで3度に冷やしたビールを注ぐ、凍結ビールも導入。普通の生ビールは5〜6度。お客は、通常の生ビールと凍結ビールを選べる。価格は同じ。
凍結ビール
「凍結ビールは、キンキンに冷えているレベルじゃない。ジョッキが真っ白に霜が付いています。泡も多少凍っているくらいです。ビール好きの方には味が分かりにくい、と言われそうです。でも、ビールを飲みたいなと思った時に 凍結ビールを飲んだ経験があれば、キンキンな真っ白なジョッキをイメージしてくれる。ビールを飲みたいなと思った時に、あの店行こうぜ、とイメージが湧いてくれる店にしたかった。」
「売価は変えず、普通のビールと選べます。どちらがよろしいですか、と聞きますが、基本的には凍結ビールがお勧めです。アンケートを取ると賛否両論です。ただ、これから暖かくなると、集客のきっかけづくりにはなるのでは。」
「ロードサイドでは酒を飲まないんじゃない、というのが前提。でも、車で来てくれなくても、商圏内で自転車や徒歩で来る人たちが、ガッツリ来てくれればいいでしょう。そんな方、2割はいます。もっと増えればいい。飲まなくなったんじゃなくて、不況で飲みたいけど回数を減らそうと思っていると感じます。周辺からの飲む人が減っても、地元から来てくれる人が増えればカバーできると考えています。」
吉川店は、昨年12/5リニューアルオープン。3〜4月に認知度が上がり、売上アップが期待される。半年の売上を見て、他のロードサイド店の改装も進める計画だ。
・街場は、“烏骨鶏”
3/4から「とり鉄」全店(一部店舗を除く)で“烏骨鶏”メニューをスタートさせた。例えば、「烏骨鶏の出汁巻き玉子」680円(税別)、「烏骨鶏の月見つくね串2本」580円(税別)、「烏骨鶏のたまごかけご飯」480円(税別)、「烏骨鶏つくねの親子丼」780円(税別)など。
“烏骨鶏”は、「薬膳食材の王様」と言われ、中国では古来より、天然の薬用鶏として珍重される高価な幻の鶏。骨髄や卵には、血液をサラサラにするDHA・EPAが含まれ、コレステロールや血圧を低下させるアルカリ性食品。家禽類では唯一のアルカリ性。アンチエイジングにふさわしい食材だ。「とり鉄」では、香川県の烏骨鶏専門農園と契約して仕入れている。
他の鶏業態と明確に差別化できるコンテンツを探していて、22年間にわたって純血の“烏骨鶏”を作り続ける香川県の農園に出会ったという。
「便乗値上げをしないで、“烏骨鶏”のブランド価値を高く理解いただければ、お客様の任意で客単価が上がる。きちんといいものを提供したいと思います。単価は他より高めです。これが狙い通りに伸びると相対的な客単価は7%程度上がるシュミレーションです。まだ1週間しか経っていませんが、“烏骨鶏”メニューの出数は全体の7〜8%。まだまだですが。」
「烏骨鶏のたまごかけご飯」480円(税別)。〆の栄養補給に。
「烏骨鶏つくねの親子丼」780円(税別)。烏骨鶏のつくねと卵で仕上げた贅沢な親子丼。
「烏骨鶏の出汁巻き玉子」680円(税別)。
「難しいのは生産調整です。餌を変えたり、飼育日数を変えたりしました。今まで“烏骨鶏”はほとんど採卵専用でした。それを食肉用に肉質の改善をやってきました。飼育4ヶ月120日〜5ヶ月150日がベストです。“烏骨鶏”はなかなか太らず、筋肉質。体重はブロイラーの半分くらい。ブロイラーは50日で2.5キロぐらいに育ちますが、“烏骨鶏”は150日でせいぜい1.5キロぐらい。経営が成り立たないので、ビジネスとして養鶏している所は少ない。通信販売などでは両足で350グラムのモモ肉が3000円くらい、卵は1個250〜500円もします。」
「農場の社長と1年半くらい取り組んでいます。農場のPLまで見せていただいています。コストがかかっているのは、餌。卵を産むまでの期間がブロイラーと違う。6ヶ月分の餌を与えて、ブロイラーの半分にしか育たない。商用にのっていかない。卵が高価になっていく。ブロイラーは年間2〜300個の卵を産みますが、50個しか産まない。週に1個ペースだから、その分栄養素が濃くなる。卵だけでなく、肉も同時に商流に乗せることにより、驚くほど価格破壊ができます。」
さらに、4月からメインの串料理に使用する鶏肉を「楽美鶏」に変える。
「『楽美鶏』とは、国産照葉樹を主原料に樹皮から抽出した有機成分やミネラルを多く含む“森林のエキス”を配合し、ビタミンEを強化した配合飼料で育てたヘルシーな鶏です。『楽美鶏」は、商標登録しており、当社原材料基準を満たした鶏です。』
・2011年度に100店に
現在、「とり鉄」は直営13店、FC56店で合計69店。昨年は新規2店で閉鎖3店、1店減った。
「中期的目標は年間にFC10店を開発すること。3年で、2011年度に合計100店にしたい。あくまでも投資だと考えるような方ではなくて、理念まで共有できる方とともに育ててゆきたい。本部が絶対的な信頼をいただいて強くならなきゃいけないが、本部が強大化するとコストがかかり、まわりまわって加盟店さんの収益を圧迫します。そのバランスをしっかりと図りたいです。」
「とり鉄」の親会社アスラポート・ダイニングの株式を、「ぢどり亭」を展開する阪神酒販グループが3/12に公開買付けを実施すると発表した。タスコシステム、アスラポート・ダイニングと親会社が変わってきた「とり鉄」にまた転機が訪れそうだ。好調な小林氏の戦略が、今後も継続されることを望みたい。