・男性の5割以上が週1回以上料理をし、きっかけは“節約”と“健康”
ネットリサーチのマクロミルが昨年10月、全国20〜59才以下の男性を対象に行った調査によると、「料理をする」と答えた男性は8割を超え、「週に1回以上料理をする」男性は5割にも達した。
料理を始めたきっかけとして、「お金の節約を意識して」が1位で、特に20代、30代では他の年代と比べ、その理由を挙げる割合が高かった。100年に1度と言われる、この不況において、食費を少しでも減らしたいという気持ちの表れだろう。
また、「一人暮らしで3食とも外食という男性が、危機感を感じて通い始めるケースもありますね。」と、男性が通える教室を持つABCクッキングスタジオの広報西沢さん。初めて料理をした男性から、「料理がどういう過程でできてるのかを知れて良かった。」という、食の安全性が叫ばれる昨今ならではの感想も聞くという。
料理を始めるきっかけは切実なようだが、楽しくなければ続かない。各料理教室とも、趣向を凝らしたレッスンを用意して、男性を惹きつけている。
・夫婦や恋人、仲間と一緒に通う
「男性は通えないんですか?一緒に通いたいのですが。」という女性会員の要望に応え、男性も通える教室を2007年1月にオープンさせたのは、全国に105校の料理教室を展開するABCクッキングスタジオ。男性も通える教室は『ABC Cooking Studio +m(プラスエム)』で、現在、銀座、丸の内、そしてこの3月6日にオープンした名古屋を含め3スタジオ。男性会員数は2007年のオープン以来増え続け、現在300人近くにのぼる。
スタジオの様子。シンプルで明るいキッチン。全体的に落ち着いた雰囲気。
カルファロンのキッチンウェアに、IHコンロ。設備も使いやすい機器が整っている。
この教室の特徴は、夫婦や恋人同士、仲間同士で料理レッスンを楽しめるところ。講師の料理を見るだけのデモンストレーション形式でもなければ、各テーブルに講師が付いて分業しながら進めるグループ形式でもなく、2人1組になって講師の調理をモニターを見ながら同時に作業をしていく形式。少人数で一緒に作業ができるので、料理が初めての男性でも気兼ねすることなく参加できる。実際に、夫婦や恋人同士などの男女ペアや、会社の同僚、友人などの男子ペアでの参加も多い。また、無料体験レッスンや入会金不要で1回完結の1dayレッスン(4000円)もあるので、始めやすくなっている。
「仕事とは異なった頭の使い方をしたり、友達らとワイワイ会話して、リフレッシュの場になってます。」と語るのは、数年前から料理教室に通い始めた30代の会社員男性。料理を習うというより、一つのイベントとして、リフレッシュの場として活用できそうだ。
2人1組で実習。
講師の調理がモニターに映し出される。
・“ご飯を食べに行く感覚”で
3月6日にオープンしたばかりの名古屋スタジオの体験レッスンに参加してきた。
「料理を作ることは楽しい、食べるのはもっと楽しい。」というコンセプトの通り、とにかく料理を楽しんで欲しいというのがスクール側の狙い。「とにかく楽しんでください。基本の分量はお教えしますが、お好みで味付けも調整してくださいね。」という講師の言葉通り、個々のペアで作業をするので好きなように進められ、リラックスした雰囲気で料理を楽しむことができる。
各ペアのペースで作業が進められる。
この日のメニューは、「皮から作る本格焼き餃子」と「中華スープ」。
皮から手作りできる焼き餃子は男性にも人気のメニュー。
一つ一つ延ばした皮に具材を包んで焼いていく。
わずか1時間あまりで、本格的な餃子が完成。
完成したら、ダイニングスペースにて試食。なんと、フリードリンクでお酒も用意してあり、料理に合わせて自由に選ぶことができる。「お仕事帰りや週末に、友達とご飯を食べに行くような感覚で使ってくださる方も結構います。」と広報の西沢さん。エプロンやスリッパなどの用意もされているので手ぶらで行くことができ、会社帰りに気軽に立ち寄ることができる。
キッチンと同じ空間で、半階上がったフロアにあるダイニングスペース。こちらもシンプルでお洒落な雰囲気。
試食と言うよりは、立派な食事タイム。
こんなスペースで、リラックスしながら、妻や恋人、友人達と料理ができれば、料理初心者でもきっと楽しんで料理を覚えられるに違いない。料理も習えて、食事もできてお酒も飲めて、仲間と過せるなら、外食するよりレッスンに行こうかという話になるかもしれない。
この名古屋スタジオ、オープン〜5月6日までの2ヶ月間限定のペアレッスン(参加費500円)の予約は500組を超えているとのこと。『+m(プラスエム)』は、今後数年間で全国の政令指定都市を中心に10校程度展開していきたいということだ。
・レストランのような料理を自らの手で
男性のみのレッスンも開講しているのは、有楽町にある料理教室『Flamme Verte(フランベール)』。このスクールは、料理研究家井上絵美さん監修の料理教室で、同じく井上さん監修の青山にある、デモンストレーション形式の料理教室『AMY'S(エミーズ)』とは異なり、実習スタイルとなっている。3年前にオープンしたこちらも順調に男性会員数を伸ばしているという。
新有楽町ビル1F。駅至近で、オフィス街にも隣接する好立地。ガラス張りで開放感があり、ビル内を行き来する人たちも興味を持って覗いて行く。
オリジナル商品を含むキッチンウェアを販売するショップも併設。
コース全6回を1年間の間に受けるという余裕を持ったスケジュールになっていて、仕事が忙しい男性にも好評だ。こちらは、もう少し本格的な料理を段階ごとにレベルアップしながら学べるようなプログラムになっている。入門コースでは、包丁の使い方、魚のおろし方、出汁のとり方など、基礎からしっかり学ぶことができる。
フレンチ・イタリアンなどの洋食メニューのコースと、和食・アジア料理中心のコースがあり、前者の方が人気があるとのこと。「なかなか毎日料理をすることができない男性の場合、料理を作る時にはこだわってレストランっぽい料理を作りたいと思う方が多いようです。洋食の方が、見栄えも味もレストランっぽさを表現しやすいのかもしれませんね。」と事務局の畑さん。
実習メニューを見ても、「鶏もも肉のポワレ レモン風味」、「人参の冷製ポタージュ」、「季節の白身魚のかぶら蒸し 澄んだお出汁の椀仕立て」など、店のメニューのようなラインナップである。
キッチンは、間接照明を効果的に使ったお洒落で落ち着く空間。
・純粋に料理を極めたい、研究熱心な男性たち
取材したこの日は、男性のみのクラスと、男性・女性とシャッフルされ4回完結の特別レッスン「パスタ講座」が同時進行されていた。純粋に料理を学びたい、女性と一緒だとついていけないかもしれないと、あえて男性のみのコースを選択する人や、マンツーマンレッスンを希望する男性もいるという。
真剣に卵白をあわ立てているところ。
パスタ講座のこの日のメニューは、「フレッシュトマトのボンゴレロッソ 黒オリーブの香り サルサポモドーロ」と「牛肉のラグーペンネリガート・ストロガノフ風」。講師が作る様子を見ながら熱心にメモを取る男性たち。男性の方が積極的に質問をし、細かい点まで確認をしていたのがとても印象的だった。
真剣な眼差しでメモを取る男性。
ボンゴレではソースに茹で汁を入れて乳化させるという工程があったが、うまくいかなかった男性(40代・会社員)は、何がいけなかったのか、水分量や加熱時間、火を止めるタイミングについて、細かく講師や他の生徒に確認していた。この男性は、レッスンを受けたら必ず家で何度か復習するそうで、週末は買出しに行き、復習を兼ねて家族に披露するという。
慣れた手つきでフライパンを扱う。
男性は、家事の一つとして料理を作ることが多い女性とは違い、素材にも工程にもとことんこだわる人が多いようだ。
出来上がった「牛肉のラグーペンネリガート・ストロガノフ風」。味も本格的。
・料理を始めてから、外食に対しての目が厳しくなった
「料理教室に通うようになってから、外食する機会は減ったか?」という質問を男性陣にぶつけてみた。
「外食は減りました。週末は必ず作っていますし、平日も早く帰れる日は作るようになりました。お陰で子供とのコミュニケーションも増えましたよ。」と話すのは、会社帰りに教室に通っている40代会社員。
ある男性(30代・会社員)は、「回数は変わりません。平日はなかなか時間がとれないので外食が多いです。でも、適当な店で済ますよりは、自分で作った方がいいと思うようになりました。」
共通した意見としては、「使っている素材を気にするようになった。」「調味料に敏感になった。(油が多い、塩辛いなど。)」「丁寧に作っているかどうかがわかるようになった。」など。
料理教室に通う男性は、もともと食事に興味関心のある人たちが多い。そんな彼らが自ら料理をするようになったのだから、目が厳しくなるのは当然である。
また、「以前と同じように外食はしています。ただ、自分の料理の研究のためという視点で選ぶ店が変わりました。美味しいメニューに出会うと、家で作ってみたり。シェフと会話する機会が増えましたね。作り方や材料について質問してみるんですよ。」という人や、「オープンキッチンのお店では作っているところをかなり観察してしまいます。気に入った料理はコツなど聞いたりしています。」という人もいた。店との新たなコミュニケーションも生まれているようだ。
家族や仲間と楽しみながら料理をする。自分の目で選んだ食材を使って、安全で健康的な食事を作る。男性にとって料理というのは、“食”を通した新たなコミュニケーションの一つであり、“食”の本質を見極める手段なのかもしれない。