フードリンクレポート


まずは、不採算「今井屋」の業態転換。
晴山 大樹氏
株式会社ダイヤモンドダイニング 執行役員 営業本部 副本部長
株式会社シークレットテーブル 取締役

2009.4.10
ダイヤモンドダイニングがフードスコープ店舗の営業権を譲り受ける形で買収した。その受け皿として設立されたのが、シークレットテーブル。松村厚久社長から再建を託された晴山大樹氏に今後の戦略を聞いた。


シークレットテーブルの再建を担当する、晴山大樹氏。ダイヤモンドダイニングと同じビルにある。

フードスコープから31店を買収

 ダイヤモンドダイニング(以下DDと略称)がフードスコープ(以下FSと略称)から譲り受けたのは、雌の比内地鶏を使った究極のやきとり「今井屋本店/今井屋茶寮」全14店の内、譲渡対象外店舗を除いた12店。こだわりの水炊きと会津地鶏「さかえや」全5店。究極の美食素材の饗宴「美食米門」全7店。バリエーション豊富な生牡蠣と炭火焼き料理「MAIMON」全3店。テーマレストラン「キリストンカフェ東京」「原宿エレファントカフェ」「京町恋しぐれ新宿」「京町恋しぐれ渋谷」の4店。テーマレストランはフードスコープが2006年7月にユージーグローイングアップから買収した店舗。合わせて、DDは31店を買収した。

 その受け皿として、シークレットテーブル(以下STと略称)が昨年12月に設立された。DDは、昨年6月西新宿を中心に居酒屋7店を展開するサンプールを買収。同社の目標「100店舗100業態」はあくまでも子会社分は含めず、DD単体で追いかけている。

 FSから譲り受ける予定の33店舗の08年6月期実績は、売上高66億円、店舗営業黒字1.2億円。DDの08年第三四半期売上高は60億円、営業黒字3.1億円であり、今回の買収によって売上規模は倍増する。

 問題は、営業赤字店舗。これを早急に黒字化させることを、シークレットテーブルの晴山氏に託された。


雌の比内地鶏を使った究極のやきとり、「えびす今井屋総本店」。


水炊きと会津地鶏、「さかえや恵比寿本店」。


究極の美食素材の饗宴、「美食米門」名古屋店。


生牡蠣と炭火焼き料理、「MAIMON EBISU」。


テーマレストラン、「キリストンカフェ東京」。


テーマレストラン、「京町恋しぐれ渋谷」。


さっそく、「今井屋本店」浜松町と横浜西口を「九州黒桜」へ転換

 赤字の特に大きい「今井屋本店」の浜松町店と横浜西口店を、4月に新業態『九州黒桜』に転換させる。DD得意の九州料理をテーマとする新ブランドの居酒屋だ。

「松村社長からはST単体で3〜6ヶ月で黒字にするように言われています。不採算店は新たなブランドに替え、この2店をモデルケースにしたい」と晴山氏は言う。さっそく4月が勝負となる。

「DDの出店はまず立地ありき。それに合う業態を慎重に検証します。今井屋の浜松町店と横浜西口店は、FSが急速に店舗展開をした時の比較的新しい店。浜松町や横浜では、客単価6500円の焼き鳥は立地に合っていません。片や、DDが浜松町に作った『博多 黒太鼓』は絶好調。今井屋のマーケットのニーズと若干のズレがありましたが、DDのノウハウを活かせる立地でしたのでの業態変更を早期に決めました。」


DDとFSの違い

 実は、晴山氏の前職はFS。「MAIMON」の事業部長として2年10ヶ月活躍した後、07年8月にDDに転職した。両社の強み弱みを熟知している。

「FSには業態開発という考え方がほとんどなく、1つのブランドを10年愛していただくにはどうしようかという経営。新しい業態の開発より、長く愛されること。スーパーバイザーはDDのようにエリア制ではなく、ブランドマネージャーとして1つのブランドの全店を担当する。商品開発は食材選びから加わることで、演出も含めた常にお客様を飽きさせないメニューを作り上げる。」


DDのFLの低さ、金銭管理の厳しさに驚いた

 DDに転職した当初の感想を聞いた。

「FL率50%という低さに驚いた。FSでは60%。DDではFL率は全て固定費であり、その範囲内で店舗での自由度が高い。50%の中でお客様を歓喜させることがミッションの一つですから、店舗で直ぐに行動に移せるスピード感があります。その時のマーケットや流行りものをいち早く取り入れられる。」

「FSの商品管理部は 食材へのこだわりが強く、スケールメリットよりも希少価値。探してくるというニュアンスが強かった。例えば、ここのおばあちゃんが作った味噌が美味いとなると、そこから流通を作り店舗にいれてメニューを開発する。合わせて食器も作る。」

 要するに、DDはスピードを命とし、FSはブランドを育て、守ろうとする。

「さらには、DDは根本の業態開発にも秘訣がある。高原価、高人件費になりそうな業態作りはしない。手を出さない。その部分が計算されている。」 

「伝票の戻し処理がDDは非常に厳しい。金銭管理がきめ細かくフォローされている。一般の飲食の金銭管理の先を行っている。一般では、間違った伝票の訂正は普通に行われているが、DDではまずは訂正を出さないことが前提。訂正により、不正がおきる可能性がある。訂正は基本ゼロ。訂正したら報告書を提出しなければならない。新人でも金銭管理意識をもたせる。」

 DDは、「お客様に喜んでいただく」、「コンセプトを外さない」、「予算に基づいた利益を上げる」という3つの約束を守ること以外は、各店舗へ大幅な権限委譲を行っている。一見、ゆるそうに見えるが、締める部分は細かく締めている。


昔のFSファンは新業態を見に来て欲しい

 4月に業態転換する『九州黒桜』浜松町店と横浜西口店の客単価は4000円前後。DDの価格帯とほぼ同じ。

「パッケージ、ネーミング、ファサードの作り方はDDのノウハウです。ただ、クオリティの部分はブランドを磨きあげようという気持ちを入れる。ここで昔のFSのファンの方には見ていただきたい。1品1品へのこだわり、お客様を大切にする気持ちは強い。スタッフも、STの中で立候補してもらい選びました。」

「今のSTのFL率も改善が必要です。業態の設計がまるで違うので、50%が可能なのか分からない。どう設計するのかが難しい部分です。無理やり合わせることはないと思います。今までのブランドに付いているお客様に支持されるよう調整していきます。」

 DDのコスト意識を取り入れながらも、FSの良さである、長く愛されるブランド作りを行おうとしている。まずは、収支を改善し、赤字を止めることが当面の晴山氏の課題。DDとは異なるプレミアムブランド企業としてV字回復を晴山氏に期待したい。


■晴山 大樹(はれやま ひろき)
株式会社ダイヤモンドダイニング 執行役員 営業本部 副本部長。株式会社シークレットテーブル 取締役。1971年生まれ。青森県出身。上京し、ちゃんと入社。「Ken’s Chanto Dining」のブランドマネージャーなど歴任。さらに、フードスコープで「MAIMON」のブランドマネージャーを経て、2007年8月にダイヤモンドダイニング入社。

株式会社シークレットテーブル http://www.secret-table.com/

【取材・執筆】 安田 正明(やすだ まさあき) 2009年323取材