フードリンクレポート


<第67回フードリンクセミナー・レポート>
「それでも、商業施設に出店する?!」
〜過当競争の中で、生き残る〜

林 祥隆氏 株式会社ワンダーテーブル 代表取締役社長
福政 惠子氏 株式会社アクアプランネット 代表取締役
中村 悌二氏 株式会社カゲン 代表取締役CEO
廣野 研一氏 三菱地所株式会社 街ブランド企画部 ソフト事業推進室長 兼 街ブランド企画部担当部長
安達 覚氏 三井不動産株式会社 商業施設本部 本部長補佐

2009.4.15
日本ショッピングセンター協会がまとめた、2008年の全国2876施設の売上高27兆2585億円、0.4%増。6年連続プラス。しかし、作りすぎた結果、過当競争を招き、それに不況が追い打ちをかけている。この中、商業施設に入居する外食店舗はどのように生き残ればよいのか。外食企業側、商業施設側、プロデュース側の3方面からディスカッションを行った。


第67回フードリンクセミナーは5名のにぎやかな講師で行われた。

商業施設に入るメリットは?

<中村・カゲン>
 今、直営は5店。「KAN」を「ベルビア館」に出した目的は、銀座に出したかったからです。立地を探しているときに三井不動産さんから話をいただいて、出店。商業施設では、はっきり言って飲食店は厳しい。頑張っているのは、デベロッパーさんに頼らずに独自にやっている店。もう一つはパートナーとして組んで一緒にやっていくという方法もあるでしょうが、はっきり言って僕は自分の顧客をどんどんとってくるよう努力しています。デベロッパーに頼ってもやってくれないでしょ(笑)。

 時間軸が大事です。商業施設の中で朝、昼、夕方、夜、深夜、どこまで稼働するところかを見る。うちの店はアルコール比率が高いので夜や深夜に強いところに出ていくべき。三菱地所さんは朝も仕掛けているし、深夜も仕掛けている。稼働する時間の長さは大きな要素です。

 飲食は立地ビジネスなのでしっかり分析すること。誘われると舞い上がって、分析しない。勉強もしないでちゃんと考えてやらずに、落とし穴にはまって苦労している人を何人も見てきました。理由は簡単。投資が重いから。極端に言うと路面の倍くらいかかる。夜に強いか強くないか。もしくは、昼に就労者が何人いてマーケットを獲れるか獲れないかをしっかり見極めてやるべき。


中村 悌二氏(カゲン)

<林・ワンダーテーブル>
 今、72店運営しています。繁華街立地は75%。商業施設立地は25%。最大のメリットは、繁華街の飲食ビルに入るよりは人が集まる。認知が早い。逆に災いするケースもあります。商業施設は下手をすればピークが最初になってしまう。どうしても、“こなす”という形になりやすい。知り合いで今まで街場でレストランをやってきた所が商業に誘われてオープニングと同時に行列ができ、マネージメントがおかしくなったというケースも見てきました。が、最初から人が集まって売上が見えやすいのが商業施設の魅力です。


林 祥隆氏(ワンダーテーブル)

<福政・アクアプランネット>
 例えば、「TOKIA」の「アントワープ・セントラル」。出してみて凄く良かったです。3年超えましたが、売上も全く落ちてない。商業施設に出る時に気になるのは、商業施設とは名ばかりで雑居ビルになっていたりする場合。オープンしてからもっと盛り上げていこうとか、施設自体に魂を込めて運営していこうという担当者がいなかったりします。どこがやっているかより、その商業施設にテーマ性があって、担当者が燃えていて、パートナーとしてテナントと一緒にやっていこうという考えがそのビルにあるかどうか。それがあれば後々、大きく展開できます。最初は集客が悪くても可能性が物凄くあると思います。


福政 惠子氏(アクアプランネット)

<安田・フードリンク>
 オープンしたら後は放ったらかしという商業施設が多いんですか?

<福政・アクアプランネット>
 丸の内は街全体として施設同士が有機的にどのように絡んでいくかを考えています。デベロッパーさんが自分自身で遊んでみて、この店が面白いとか、街を作ることに思いを掛けている。丸の内シャンパンナイトなどイベントも行うなど、少しずつ街作りがされていますが、まだまだ通過点。青山・原宿のように目的の人が集まるようにはどうすればよいか。通過点にならない街として溜まりの部分をこれからどう仕掛けていくかを考えています。全部を巻き込んで盛り上げて作っていくムードがある。参加していてやりがいもあるし、スタッフのモチベーションにもなります。

<安田・フードリンク>
 昔の商店街組合みたいな感じですよね。

<福政・アクアプランネット>
 三井さんがリーシングと管理を担当する銀座ニッタビルに「アントワープ・シックス」があります。もともと文化財指定の素晴らしいビルです。私の店が1階のイメージに合うんじゃないかと、お呼びいただいて出店。ビル全体でイベントをやるとかはありませんが、細かい相談に乗っていただきました。担当者の方が素晴らしい。お店の方と一緒にやっていこうという姿勢が素晴らしい。


初年度で売上が上がった後はどうなる?

<林・ワンダーテーブル>
 下がります(笑)。ミッドタウンなんかは最初はびっくりするくらい凄かった。ただ、1年経つと、波が引く。そこからが本当は勝負です。自分たちのお客をつくっていく。失敗したかなと思うのは、あまりにも売上を最初に作ってしまい、“こなす”という感覚になってしまった。高単価の店なので本来はそれではいけないが、それでも売り上げができちゃう。勘違いがスタッフの中に生まれました。

<中村・カゲン>
 路面を出す感覚で商業に出しました。メリットは大ブレイクする。考えられない数字を残す。新丸ビルの7階の「ソバキチ」をプロデュースさせてもらいました。数字は言えないですけど、びっくりするくらいの数字ですよ。でも、人が来ず自分の個店だけでは何もできない、負のスパイラルに入っていくみたいなことがあります。出したって誰も来ないような所が商業施設を見ると結構あります。TOKIAはスタートから右肩上がり。ミッドタウンは一発目を取らないと、後手に回る。下げ止まりをどこまで抑えるかです。読みが外れると人がいっぱいいるのに売上が上がらない。

<安田・フードリンク>
 デベロッパーさん側はどのような事業計画を描いているんですか?

<廣野・三菱地所>
 最初は上がって、それから落ちていくのを当初から想定している訳ではなくて、伸びていくことを期待してやります。丸の内では個々の店舗も大事ですが、まずは街全体をエリアマネジメントする視点で捉えています。個々のビルはそれぞれアンカーです。アンカーとアンカーを結ぶのがストリート。どうやって線や面で繋ぐのかという視点で考えるようにしています。個々の店ではできない取り組みをしています。

 例えばオープンカフェ。実は5年前の調査・検討を経て実施に至っています。オープンカフェは食品衛生法上簡単にできない。外で食べさせるためには、防虫防鼠措置や材質の強い屋根や壁を付けなきゃいけない。それを個店で保健所に行ってやりたいと言ってもできない。我々は千代田区長を委員長にした実行委員会を作って検討しました。東京都、国土交通省や文化庁などにも委員になって頂き、オープンカフェの社会実験を仲通りで、2004年より年間2回のペースで開催しました。PDCAサイクルを回し、みんなの声を聞いた結果を千代田区や東京都に届けた結果、2006年に、都福祉保健局が「飲食店及び喫茶店営業の屋外客席に関する要綱」を公布するという動きになりました。店内の面積と同じ面積だけ屋外客席を出すのであればそれは認めますよ、という流れが出来ました。街全体として色んな人を巻き込んで、地元と行政が一緒に取り組んだ結果として、個店ではできなかった個店の人たちの為になるような制度改正につながっていった訳です。


廣野 研一氏(三菱地所)。丸の内再開発について説明。

<安達・三井不動産>
 銀座のH&Mさんの入るビルのマネジメントを行っています。あんなにH&Mさんが流行るとは思わなかったのですが、ああいう行列ができてしまうと、オープン時の記録を破っていくのは難しい。

 郊外の商業施設では、今年の元旦の売上は、ほとんど全部の施設がプラス。景気が悪い中で、賢い消費者がアウトレットに行こうとか、「ららぽーと」が元旦からバーゲンしたことにも因ります。世の中の動向を見ながら仕掛けをしていくと、初年度に対して、2年、3年目も全て昨年をクリア。イベント、マーケティングエンジンを回していくとか色んなことをやっていく。打ち手は1つではない。

 デベロッパーでできることに限界があります。出店していただいたテナントさんと顧客で3方がウィン・ウィン・ウィンの関係を生みながら、店舗の運営やモールの運営をやっていく。正解はない。やってみないとわからないところもあります。

 都心の物件は、それぞれの個店の強さがないと埋もれてしまう。銀座には三井のビルが8棟ありますが、全部中小ビル。「ベルビア館」、「ニッタビル」など。個別点在型のビルなので、それぞれの店舗さんの頑張りがないと難しい。8つのビル共通で銀座でフリーペーパーを配るようなことをやっていますが、郊外に比べると、デベロッパー側の打ち手の範囲が少ない。

 銀座は世界の銀座。空間も人も商品も素晴らしいエリア。我々にとってはお付き合いの幅を広げるというメリットもあります。小さいビルでもそれなりにH&Mさんのよう個性的でそれぞれが頑張れる彩のあるビルにしていければよい。テナントさんとメニューやサービスとか色々と話をしながらやっていければ、永続的に経年劣化ではなく“経年優化”してくるんじゃないかと思います。


安達 覚氏(三井不動産)


デベロッパー側の支援は?

<福政・アクアプランネット>
 丸の内の場合は無料の雑誌やパンフを出しているので、それに掲載していただいたり、こちらが出したいものがあれば載せていただく。

<安田・フードリンク>
 メニューへのアドバイスはありますか?

<福政・アクアプランネット>
 会社としてではなく担当者さんベース。この店はこうなんじゃないと言ってくれる担当者さんもいます。担当者が各店に思い入れがあるかないかです。毎日、担当者の方を見かけていたのに、人が変わるともう1ヶ月の会ってないということがあります。

<林・ワンダーテーブル>
 担当者次第です。外部に覆面調査みたいな形で客観的な視点でサービスとか商品だとかについてコメントをいただくケースもあります。三井さん、三菱さんはしっかりそういうことはやってくれる。役に立つかどうかではなく、こちらが活かすかどうか。こちらが積極的に担当者や上の方に相談します。先日も相談したらこうやってやりましょうかと言ってくれました。待っているだけでは、担当者のレベルにより違う。こちらからお願いや相談すると役に立ってくれます。

<中村・カゲン>
 デベロッパーさんのリーシングもお手伝いするケースがあります。選んだのはお前だろうと思う場合もあります(笑)。いくらデベロッパーさんがやってくれたって、所詮何かできるわけではない。レストランは2〜3時間ゆっくりしてもらって何千円、何万円というお金をいただく訳ですから、3〜4回転させるわけにいかない。

 日々常に商業施設とかを全く意識しないでやっています。1人のお客をどうやって2人にするか、3人をどうやって4人にするか、日々やっています。「ベルビア館」は中規模物件です。あそこで何かをPRやプロモーションしてわんさか人が来ることはあり得ない。期待していたところは潰れていっている。たぶん、どこかに驕りがある。商業施設の中でどうやって生き抜くか、自ら問いかけてやっていく方がよっぽど売上が上がってくると思います。


商業施設への出店の注意点は?

<林・ワンダーテーブル>
 商業施設だからいいことがあるとは考えていません。商業施設を中心に出そうとも思いませんし、区別はしていません。今回セミナーに出るので、商業施設の店を数えたら4分の1しかなかった。

 商業施設に出るときにいつも気を付けた方がいいと思っているのは、例えば、あるフロアにレストランを10件入れるとしますよね、一番商売のしやすい業態ありますよね。難しいという業態もある。デベロッパーがやるとすると、蕎麦屋がいいとしても蕎麦屋ばかり入れる訳にはいかないので、いろんな店を入れたいとなります。何がその施設で1番、2番、3番くじまでに入る場所であり、広さであり、業態であるかを見極めるのが大切。スタッフに商業施設を見に行かせる時に、週末とか人が入っている時は参考にならない。 月曜日の夜9時くらいに行って並んでいる、もしくは混雑している店は、1〜2割くらいしかない。その1〜2割は今言った1番、2番くじ。商業施設だからいいのではなくて、いったいどんな立地、どんな広さ、どんな業態が、1番、2番、3番くじくらいに入っているのか。それと自分が持っている業態がフィットしうるか。商業施設に仮に集客力がなかったとしても、3番くじまでは大きな失敗がないと思う。凄く集客があるところでも、後ろの方のくじを引いてしまうとダメ。これも引きようなんで、どうしてもやるなら デベロッパーさんと交渉して少し条件を良くしてもらう。

<安田・フードリンク> 
 強いくじを引くにはどうすればいいですか?

<林・ワンダーテーブル>
どういう業態を持っていたら、そこで勝つ確率が高いのか。勝つ業態を開発するということですね。そういう業態を持ってないといけない。持っているような会社に育てていく。


リーシングの基準は?

<安達・三井不動産>
 郊外型は面積・店舗数では、飲食店は全体の15%くらい。都心は飲食店の比率が高まる。トータルのボリュームは決まっているので、ターゲットを見て、イタリアン、和食などバラエティさを出していかなきゃという思いがあります。ある程度の年齢の方がいらっしゃるなら、お蕎麦屋さんがないと。郊外ならカジュアルな讃岐うどんを入れとかないと。

 経験的に商業施設の分類に応じてターゲットと用途、ランチが強い、ディナーが強いで、マトリックスがあります。それに対して想定テナントを物件ごとに入れていく。その時にどこにでもある商業施設を作ろうとすると、イオンさんと全く同じになっちゃう。お寿司であれば、そういえば札幌の何とかというお寿司屋さんがあったかな、から始まっていくつか想定テナントさんに当たり始めます。40人強の営業部隊が年中、日本や世界の美味しいもの、面白い店をウォッチングして走りまわっています。

 それに足りない部分では、郊外型ではフードコートが非常にポイントになってくる。アウトレットや郊外モールは、フードコートはデベロッパー側で運営しています。テナントさんには厨房と食材とシェフが来ていただく形態。「ららぽーと横浜」では大丸さんに行きたいのと同じくらいの来店動機でフードコートに食事にくる比率が高まっています。従来のフードコートと違うものを目指します。

 専門店としての出店と、フードコートへの出店と商業施設では幅があります。専門店の出店は確かにお金がかかります。フードコートは費用が緩和されているので出店がしやすくなる。誘致をしやすくなります。

 どこが1番、2番、3番かは、設計図の段階でパソコンで3次元に落としてみて、ある程度心理学的にお客様はどう動いていくかを測った上で、飲食店さんの業態と合わせて配置しているつもり。でも、なかなか当たるとは限らない。そこをどう解決するか。船橋の「ららぽーと東京ベイ」は28年間で11回の大リニューアル。導線を変えたり、テナントの入れ替えで、全570〜80店の内、毎年1割くらいのテナントさんが入れ換わる。そういう中で新たなチャンスが生まれます。心理学的に導線を変えていくことで売上や集客を変えていきます。


出店費用は? 居抜きは?

<中村・カゲン>
 小さければ小さいほど坪単価は上がります。坪100万円以下ではレストランはできません。

<林・ワンダーテーブル>
 かけない方法は居抜き。競争の中で勝ち残れない店がある。今まではスケルトンに戻していましたが、最近はそれをそのまま上手く使う。しゃぶしゃぶ・すき焼きの「モーパラ」「鍋ぞう」は通常50坪で7〜8千万円かかるところを2千万円くらいで出店するケースがあります。

<安田・フードリンク>
 商業施設も居抜きが増えていますか?

<安達・三井不動産>
 去年のリーマンショック以来は、今まで東京に進出したいがそんなに資金がかかるなら、という方が居抜きでチャンスがあればやりたいという話は増えていると思います。

<安田・フードリンク>
 商業施設側は居抜きでもかまわないのですか?

<安達・三井不動産>
 前の内装がそのままではちょっと困ります。設備などは、お客様に見えないところでそのままでも問題ありません。もったいないという発想をしたら、きれいにして新たな店として出発するのは合理的だと思っています。

<安田・フードリンク>
 フードコートの方が入りやすいんですよね。費用はどうなんですか?

<安達・三井不動産>
「ららぽーと横浜」ですと、フードコートは600席。ブースが10〜12。うな重もあります。通常のフードコートは客単価600円くらいですが、横浜は1100〜1200円と単価が高い。商品、内装、サービスのグレードで上げています。今、家族が同じものを食べるという感じはありません。パパは疲れているので辛いものを食べたい、ママは家で作れないうな重を食べたい、子供はパスタを食べたい。そんな時にフードコートは有効です。その時に家で食べているようなパスタじゃまずい。それぞれの業種で、ちょっと高いけど美味しいね、というところを突いていく。

 出店の際には、厨房の機器と食材とシェフだけ。ホールスタッフを準備しなくていい。デベロッパーの方で用意。その分の人件費は家賃以外でいただきます。これで「ラゾーナ川崎」、「ららぽーと横浜」はフードコートが活性化して成功しています。かなりローコストで出店できます。


商業施設の分煙は?

<廣野・三菱地所>
 ビルの分煙は、各ビルの中には数ケ所、喫煙のできるクリーンエリアを設けています。千代田区はポイ捨て禁止条例が全国に先駆けてできた極めて厳しい街。外では喫煙できない。丸ビルには5階にクリーンエリアがあります。ビルとして複数フロアに1つ空間を設けています。

<安達・三井不動産>
 商業施設の分煙マネジメントはしっかりしています。基本的な姿勢はタバコを吸う方もどうぞ商業施設に来てくださいという考え方。喫煙室を1フロアに1つずつ作る。「ららぽーと」タイプですと、8〜9ヶ所あります。それもデザイン、吸排気に凝ったり、最新の設備を入れたり。

 タバコを吸うのはリラックスする効果があります。6割方が車でいらっしゃって、パパは運転して、ママは買い物。パパがタバコでも吸うかという時に、外に出ていけというのは難しい。それなら積極的にいい喫煙室を作っていこう。「ららぽーと柏の葉」では音楽も聞けデザインも凝った喫煙室を作りました。

 モールの共用部は禁煙ですが、吸う場所を確保する。アルコールを出される店はタバコを吸わないとなかなか単価が上がっていかないので、面積に応じて分煙ということもあります。個室でタバコを吸えると売上が上がる。そういう設備の対応をしています。設計標準の中に商業施設での分煙の考え方のルール作りをして、テナントさんと話し合いをしながら分煙をしていきます。

<安田・フードリンク>
 アクアプランネットさんは、池袋エチカに出店された「エピスカフェ」でユニークな喫煙スペースを作られたんですよね。

<福政・アクアプランネット>
 駅ナカなんですけど、副都心線の改札の真横。駅ナカでタバコを吸うのはどうか、ということが最初からありました。夜はビストロでワインを出して行きたい。アルコールを出す店でタバコを吸えないとは、サービスやホスピタリティーと言っているのにおかしい。タバコをここでは吸えないので外でどうぞ、と言うと白けるじゃないですか。そんな店にはしたくない。30坪しかなくて、デリも併設。30坪の中で分煙をどうするか考えました。禁煙は頭にありませんでした。

 初めてだと思いますが、エアカーテンで3方を仕切りました。下から空気が立ちあがって煙を排気のところに押し込んでいく。ただ、ニオイがどうなのか。ニオイが厭という方も多いので、ニオイをどう閉じ込めるのかが今回1つのテーマ。壁とかに専用の塗料をぬったりしています。

 禁煙とか分煙はお客様が選ぶこと。飲む時にタバコを吸う店、吸わない店を行政が決めてしまうのはどうか。自分で考えて選択する自由は残しておくべき。お互いが迷惑をかけないことが大前提ですが、上手くやってみたいです。

<林・ワンダーテーブル>
 ウチは禁煙も分煙も業態によってあります。テラスでタバコを吸ってはいけないという商業施設があってびっくりしました。コンセプトはナチュラルなので、店内は禁煙にしてテラスを喫煙にしようと思っていたら、施設のルールで外はダメ、中ならいい。不思議なケースもあります。

<廣野・三菱地所>
 商業施設の場合は各フロアに極力作るようにしています。各店舗の方には、我々は分煙をお願いしています。新丸ビルの「日本再生酒場」は完全に喫煙ですが、クレームは今のところ聞いておりません。

<林・ワンダーテーブル> 
 最終的には全面禁煙になるんじゃないですか? フランスに行ってびっくりしました。フランスは日本人以上に愛煙家が多いけど、EUに残るために禁煙をやりました。レストランに灰皿が1つあるだけで罰金70〜80万円。使おうが、使わなかろうが。もし吸った場合は罰金も40万。やればできるんだと思いました。いいかどうかわからないですが。

<中村・カゲン>
 ウチは店が小さくて、分煙なんかできません。吸える、吸えないは店がジャッジをすればいいこと。吸えるなら吸える、禁煙なら禁煙とはっきりする。お店が選ぶことだと思います。うちの銀座は吸えます。ただ、全面的に吸って下さいとは言っていません。灰皿を1個も置いてない。吸いたいといえば灰皿を出すし、隣のお客さんにすごく気を使う。小さな店だからやれる。分煙ったって小さな店じゃできないですよ。吸えるか、吸えないか。

<林・ワンダーテーブル> 
 商業施設じゃないですが、週末の昼に子供連れが多い店は週末の昼は全て禁煙にしています。日によって時間帯によって禁煙と分煙を分けるやり方もある。

<中村・カゲン> 
 HUGE新川さんの店がそうですね。夜12時までは全部禁煙、12時過ぎると全席喫煙。時間軸で分けるのも1つの方向。


商業施設への今後の出店は?

<福政・アクアプランネット>
 作って終わりではなくて、場所が私の持っている業態に合うか合わないか、が大きい。商業施設としてのテーマをどれだけ持っているか、デベロッパーさんが力をいれてやっていこうとしているか、一緒にやっていけるところには出ていきたい。

<安田・フードリンク>
 アクアプランネットさんの東京の店は全て商業施設ですよね?

<福政・アクアプランネット>
 全部、駅に近い。夜はアルコールがつきまとうので、駅から何分以内とか、直結型しか選んでいません。お声掛けいただくことが多くて、その中でいっしょにさせていただきたいなと思うところに出店していきます。

<林・ワンダーテーブル>
 止めようとか、積極的にとかどっちでもない。おそらく出すと思います。我々の場合は、72店舗あって、これが3つのグループに分類できます。約半分がしゃぶしゃぶとすき焼きの「モーパラ」、「鍋ぞう」という業態。”モナベ”グループと呼んでいます。もう1つはマルチと呼びます。ごちゃまぜ。3つ目は海外ブランド。海外からのブランドを誘致。

 モナベに関してはプロダクトアウトの発想。こういう立地ならいけるというフォーマットがあるので、そういう所を探す。マルチは、マーケットイン。凄くお客様が集まるところがあれば、それに合わせてブランドを作るということをやってみたい。去年店を出してだいぶ打たれました(笑)。打たれないとなかなか事業にならない。3番目はプロダクトアウトとマーケットインのミックス。商業施設に出すこともあります。ただ今年1年はちょっと。

<中村・カゲン>
 今、個性の時代だと思います。光っていれば、1店を大繁盛している人間が商業施設の中にスコンと入れる時代なんですよ。昔はなかった。デベロッパーさんそのものがビルの個性を作ろうとしている。そこにちゃんとはまれば、どっか田舎で1店大繁盛させていればチャンスはある。前向きに考えてトライしてほしい。一気に知名度があがる。すると、デベロッパーさんからお話がくる。銀行と一緒で、お金を貸して下さいと言っても貸してくれない。入らして下さいって言ったって、誰だお前、という感じですよ。

 企業規模を大きくしたり、自分のブランドを一気にもっていこうという経営者は絶対に通らなきゃいけないものかも知れないですね。「紅虎餃子房」の中島さんは三菱地所さんに出店して一気に大きくなりました。皆、そこのステップを踏んでデビューしていく。そこをしっかり見極める力を持つこと。見極められなかったら、周りにいる人に何回も相談した方がいい。なかなか見極められませんから。これがいけるかどうかは。ほんとうに分からない。やってみなきゃわからない。半分ギャンブル。今だからこそ、個性を作って、出店に向かっていって欲しい。


デベロッパーが入って欲しい飲食店は?

<廣野・三菱地所>
 僕は商業施設のテナントリーシングをやってる訳じゃないので、個人のユーザーとしての感想を述べます。体験談から言うと、壁のない空間。TOKIAの「アントワープ・セントラル」がドライエリアみたいになっていて、隣にカフェ・カンパニーの「PLANET 3RD CAFE」もオープンカフェみたい。1階にはPCM。壁のない空間で多くの人が交流して、集まっている姿を見て、また周りの人が集まってくる。ミッドタウンさんだと「A971」がそうですね。更に新丸ビルの7階に「丸の内ハウス」という空間を作りました。これは、山本宇一さんと相談しながらコンセプトを作っていった。基本的に路地裏。路地には人々が集まる。路地を作って、なおかつ壁のない空間。中村悌二さんの「ソバキチ」は路地の角にあって、壁がない。すると廊下を歩いている人たちが、「佐藤何やってんだ、ちょっと来いよ 一緒に飲もうよ」ということが日夜行われている。非常にフレキシブルに対応でき、様々なインタラクション(交流)が生まれるのが壁のない空間です。

<安達・三井不動産>
 郊外型では、飲食店は”ミールソリューション”という広い意味でとらえて開発すべきだろうと考えています。郊外では必ずスーパーマーケットが入っています。郊外で一番いらっしゃるのは日々の食材をお買いに来る主婦の方。スーパーだけでは当然満足できない。わざわざ近くのスーパーじゃなくて「ららぽーと」に来ていただくのは、プラスアルファ。安いのか、美味しい食物販があるのか。単に安くて鮮度がいいスーパーがあるのは当たり前で、食物販で美味しいケーキが買えるとか、京都の漬物が買えるだとか、食べることに対するソリューションが満たされるとか、そういう中の1つとして、レストランです。

 フードコートを含めて何のためにお客さんは商業施設に来るのか、ということをもっとマーケティング的に分解する。レストランだけに頼っていると、デベロッパー側としては痛い目にあう。

「ららぽーと新三郷」を作るんですが、2つ先の駅に「越谷レークタウン」という強い商業施設があって、我々の方が小さい。個性的で、ミールソリューションをしっかりターゲティングしながら考えていく。その中でレストランさんに何をやっていただくか、都心の美味しいものをもっていくし、地元の駅前でやっていた方を表舞台に出してあげるということもあるし、テイクアウトもある。

 最近売上が厳しいが、スーパーさんの調味料が売れています。確実に皆さんが家で食事を作られている。ミールソリューションという観点からは内食。2人で食事にこられる方が、平日に郊外でも増えてきた。ソリューションが変わっていることに対して我々はどういうふうに組み立てていって、各テナントさんに説明して、そこに合う業態を考えていってお互い合意すれば出店に結び付けていく。

 最後に、横浜に「ベイサイドマリーナ」というアウトレットがあるんですが、1998年にオープン。アウトレットブームの火付け役。坦々麺を名物にする中華料理店があります。最初は物凄い売上がありましたが、2000年超えたくらから売上がどんどん落ちて、非常に厳しくなった。ちょうどそのころ、私は横浜支店にいて運営をやっていました。どうしようかと考えてメニューを変えました。それくらいならよくある話。変える時に、ファッションのテナント80店の店長を呼んで試食会をモール全体でやりました。店長さんに、今までの坦々麺に対してどう思っていたか聞きました。アパレルなのであまり興味がない方もいましたが、試食を何回か続けた後、いざメニューを変えた。それぞれの店長さんが上顧客に対して「あそこで麺食べてみて下さい。あそこはちょっと私が見てあげた」と言ってくれました。1店のリニューアルをそのテナントさんだけに任せるんではなくて、デベロッパーの我々が火を付けて、悩んでいたテナントの店長さんを皆で盛り上げることでまた絶好調になってきました。


施設の集客力が落ちた時の回復策は?

<会場からの質問>
 商業施設の集客力が落ちてくると、店の業績は比例する部分もあると思いますが、こういう施策を打って戻った。V字回復成功事例を教えて下さい。

<林・ワンダーテーブル>
 こちらが教えて欲しいです(笑)。ウルトラCの技はない。最初にわっと来たのが自分の店の実力じゃないということをしっかり、スタッフが理解していれば大丈夫。施設ではなくて、この施設に行った時に「あそこに行こうぜ」と言わせるような魅力ある店づくりをするつもりで最初からやっていれば、施設の集客力が落ちても売上は落ちない。逆に伸びるケースもあります。

 来ているお客様を”こなす”ことがないようにできるかどうか。”こなす”のに精一杯になっちゃうケースがあると思います。そうすると、知らない間にクオリティが落ちていく。それでもお客が付いてきているんだ、という勘違いを起こすケースがある。それさえ気をつければ大丈夫。

 ただ、落ちた時にどうこうするんじゃなくて、落ちないように常にお客様にリピートしてもらう商品とサービスをやり続けることが一番の正攻法。それでも落ちた時はガラッと変えなきゃいけない。変える時に先ほど安達さんがおっしゃった中華料理店の例はいいことだと思いました。自分たちだけでやらずに周りを巻き込んでやってく。周辺の同業じゃない人たちとも仲良くなって、その人たちも応援してくれる店になれば自然に良くなってくると思います。

 とにかく、最初の売上で思いあがらない、舞い上がらないということ。路面の方は、徐々にあげていくことに慣れているんで、最初にわっと来た時に対応できないことがある。それだったら店を半分閉めて対応できる分しか入れない。「もう開けちゃえ」となるととんでもないことになる。そこだけ気をつけて下さい。


出店したい商業施設は? 参考になる商業施設は?

<会場からの質問>
 外食企業の方には出店したい商業施設を、デベロッパーの方には参考になる商業施設を教えて下さい。

<中村・カゲン>
 飲食店を縦積みにする開発は終わると思います。物販の上に飲食が入る3フロアがあって、カジュアルゾーンや何とかゾーン、もう終わりでしょう。新丸ビル7階の「丸の内ハウス」がなぜ流行ったかというと、新たなMDを作ったから。基本的に人は上に行きませんからね。今までと違った開発の仕方、コンセプトの作り方。後は、とにかく駅前です。今は駅前で商業施設ができるなら出すよというスタンスですね。

<林・ワンダーテーブル>
 ここだったら出たいという商業施設はない。これも縁です。自分たちが持っているブランド、場所、周辺との競合店とのマッチングの中で決める。商売は厳しいので居抜きでいい話があれば、検討したいな。

<福政・アクアプランネット>
「丸の内ハウス」が空いたらいきたい。作る前から、商業施設の一部を参加するテナントが皆で声掛けあって私たちで作ろうよ、で始まったと思う。テナント募集して入ってくるのではなくて、どういう街にしようか、と皆で考える。そういう所には出たい。商業施設だけではなくて、路面も考えていて、商業施設にこだわりなくやっていきたい。

<廣野・三菱地所>
 個人的な見解ですが、古民家を改装した店に興味があります。さびれた街の中にぽつんと立っていたり、川沿いにちょこっとあったり。周辺では春には桜が咲き、秋には紅葉があるような借景。丸の内の中でそういうのができたらいいな。丸の内は1ヘクタールもあるので、「丸の内ハウス」は路地裏を作りたいという発想からできました。自然環境、癒しがあるような空間。実は「丸の内ハウス」は検討のプロセスでそこに旅館を作るアイディアもあった。中に小川を流して、古民家を作るようなね。そうすると外は和風庭園ですよね。都会のど真ん中なのに人のぬくもりとか、自然とのかかわりあいとかそういうものが感じられるものが丸の内にあるといいな。すぐそばの皇居には野鳥が沢山いるので、そういうとこから鳥がくるような環境共生空間がいいですね。

<安達・三井不動産>
 商業施設の開発のベースは人が住んでいる所から始まる。国道16号線の船橋からスタートして、だんだん都心に「ラゾーナ川崎」、「東京ミッドタウン」。住んでいる人だけじゃなくて働いている人も対象。三菱地所さんのように素晴らしい土地をもってない。郊外から攻めのぼってくる。今、郊外の16号線はかなりギャンブルだと思います。一番確実なのは、駅前と都心。湾岸エリアにもずい分お客様がマンションをお買い求めになっています。職住近接ということで、東京の中心部や湾岸部で住んで働いている人がいるところがベース。その時に単に商業施設じゃなくて、マルチユースで、ホテルがあったり、美術館があったりというところがいい。世界の都市を見ても、いいホテルがあって美術館があって当たり前。ようやく東京でもいいホテルができて、美術館や文化的な香りがあるところに働くとか住むとか、ようやく中心に集まってきているような気がします。

 あと、最後に、われわれも日本橋を3〜4年かけてやりますので、これから2〜3年後には日本橋をウチの営業マンがお勧めに伺います(笑)。今の日本橋は三越さんを筆頭に年齢が上の方なんですけれども、マンダリンホテルができて美人が街を歩くようになりました。また、ウナギや蕎麦屋はあるが、我々が仕事を終った後にちょっとベルギービールが飲める店はない。日本橋の開発は三菱地所さんをお手本に、全く同じものは作りませんけど、是非、ご検討下さい。


【開催】 「コンファレンススクエア エムプラス」(東京・丸の内)にて、2009年3月25日開催。