・「Sign」、ファッション・ケータリング
トランジットジェナラルオフィス(以下「トランジット」と略)は、伊勢丹でファッションのバイヤーを担当していた中村氏が2001年に独立して創業した企業。慶応大学の学生時代からパーティーを数多く運営してきたノウハウと伊勢丹時代の人脈を武器に、カフェ「OFFICE」を創業。地下鉄メトロ外苑前駅前のビル5階で33席のカフェを始めた。
中村氏は、6年間働いた伊勢丹時代には“カリスマバイヤー”と呼ばれる藤巻幸夫氏のアシスタントも務め、ファッション業界に強い。その人脈から「OFFICE」はファッション業界人の間で有名になった。その当時のお客の依頼を受けて始めたのが、ファッション業界のパーティーへのケータリング。同社の一番のウリは、“ブランドのイメージに合わせたイケメンスタッフ”。イメージに合ったモデル風のスタッフを使い、カッコいいケータリングとして人気になる。別会社トランジット・クルーを設立し、現在はファッション業界から月に30件程のケータリングを受注している。自由が丘にオープンさせたスイーツショップ「TOKYO SWEETS FACTORY」内にケータリング専用キッチンも設けた。
そして、2002年に「OFFICE」の入るビルの1階に「Sign」1号店をオープン。その後、04年に代官山、08年に五反田と立川、そして、09年に5店目を霞ダイニングに出店した。女性DJやCDコーナー、オリジナルグッズなどで人気を集めている。自社レーベルCD「Essence of life」50万枚ヒットのきっかけを作ったのも「Sign」。
「Sign」霞が関店 外観。
「Sign」霞が関店 店内。
「Sign」霞が関店 店内。
オムライス霞
Signグリルサラダ
Sign霞が関バーガー
チャイニーズピラフ
子羊のタジン
有機野菜のココットロースト
生ハムとくるみのサラダピザ
SignCAKE
Signスカッシュ
SMOOSIEメロウ
苺ロール
奥沢ロール1本
・「CLASKA」「GUCCI CAFE」「bills」でオペレーション
2003年には、東京・目黒のデザイナーズホテル「CLASKA(クラスカ)」の企画と運営受託を任された。ニューメグロホテルをリノベーションして、「どう暮らすか」というコンセプト。現在は、同ホテルはオーナーが変わり、運営は行っていない。
2006年には、グッチ銀座店の1階に「GUCCI CAFE」を飲食プロデュース及び運営受託。高級アパレルブランドが飲食店を併設する走りとなった。神宮前のアウディのショールームにも「AUDI CAFE」を運営している。
そして、2008年、オーストラリアの朝食文化を変えたと言われるほどのレストランター、ビル・グレンジャー氏の人気レストラン「bills」を店舗プロデュース及び運営受託。キャメロン・ディアスやレオナルド・ディカプリオなどハリウッドセレブたちもこよなく愛す人気店で海外初進出。現在は、PR会社サニーサイドアップとトランジット共同で運営会社、フライパンを設立して多店舗展開を目指している。
・空間創造総合企業を目指す
本業は飲食を中心とした企画運営会社。今期の目標年商は20億。現在16店を運営しているが、半分は直営で半分は1件ごとに契約内容は異なるが運営受託。初期投資のかからない運営受託で業績を伸ばしてきた。
「伊勢丹だったんで、バイヤーの藤巻さんとかいろんな先輩がファッション業界に移っています。先輩達から自分では会えないような方を紹介してもらっています。タッチポイントが普通の飲食の方より多いと思います。飲食以外で知り合った人が飲食をやりたい場合に、飲食をやっているトランジットに任せよう、となります。ファッション関係で運営委託をやっているところはほとんどありません」と中村氏。
「うちは滞在時間2時間のカフェからスタートして、24時間のホテル、そして、さらに長いマンションもプロデュースすることができました。カフェやった人がホテルやったらどうなるの、ホテルやった人がマンションやったらどうなの、商業施設やったら、病院やったら、学校やったら、この人たちにこんなことやらせたらどうなんだろう、と空間に対するプロデュース依頼が増えてきました。」
空間プロデュースから、空間を作るスタッフの制服や店内の音楽も事業にしている。
「空間創造総合企業を目指しています。空間に関する何でも屋。プロデュースして、オペレーションして、パーティーして、人材の紹介もします。しかも、オペレーション上りの空間何でも屋さん。作りっぱなしじゃなくてオペレーションするのが他社との差別化。」
・トップだけを真剣に選び、後は任せる
中村氏の役割は、営業、PR、アイデア。実際の店の運営はマネージャー、店長に任せている。
「その店に合ったオペレーション、そこに合ったものを考えます。『Sign』だったらカジュアルで若い人、『bills』だったらサーフィンが好きとか。最初のキャスティングが重要で、教育より初めからそこに合った人をキャスティングします。。トップだけを真剣に選びます。下はほとんど任せています。」
「ウチの会社で働くのは外食より楽しい。CD発売や、ファッションとの繋がりで、トランジットグループにいるというのはかなり刺激的です。モデルやクリエイターとのつながりが多く、。月に1回“トランジット・ナイト”というパーティーを社内外の人を集めて開いています。そこで皆が仲良くなります。」
中村氏の元には、日次売上だけでなく、毎日の店舗ミーティング、店舗でのお客の声を集めた「ウォンツ・スリップ」、週1回の店長ミーティングの議事録など様々なレポートが届く仕組みが出来上がっている。それをサポートする優秀な管理部門を持っている。中村氏にとっては様々な人と会い、様々なアイデアを話し合うことが営業。中村氏は会社にいなくとも、パソコン一つで会社の状況が手に取るように分かる仕組みが出来上がっている。
「僕がガタガタ言うとスタッフはウザイんじゃないですか。売上が上がればいいわけで、マネージャーは店の料理も変えてもいい。僕は毎日店にいるわけじゃないので、たまに来てこちょこちょ言われるのは厭でしょう。僕も言われたくないですから。言うなら、毎日来いという感じです。」
幹部は、慶応大学や伊勢丹時代の親友で固めている。
・皆、ビジネスに貪欲になってきた
「僕は少しずつ大きくしていければいい、筋肉質な会社にしていきたいと思います。でも、社員の年齢が上がってきました。あと2〜3年で子供ができて、お金に貪欲になってくるでしょう。そしたら、シフトするしかありません。」
「好きなことだけをやることはしません。会社的には、皆も年齢的にもビジネスマインドになってきているんで、楽しいことだけではだめ。」
「今は、『Sign』を20〜30店にしようというんじゃなく、たまたま企業さんからカフェをやりたいんだけど、と言われてやっているだけ。営業も仕事を取りに行く営業じゃなくて、色んな人と接する中で営業。今のところ無理はなく、いい感じでやっています。しかし、本気で成長しなきゃいけないとなると、これじゃいけない。売上を50億円にしようとすると変わってきます。」
今後はしばらく、直営ではなく運営受託に力を入れる。特に、ホテルのプロデュースと運営受託。そして、サニーサイドアップと共に展開する「bills」の新規出店。「Sign」は本当に良い立地があった場合のみ出店する計画だ。
「本当に楽しいのはオペレーション。作ってオペレーションも絡むとお客さん呼べます。プロデュースだけだと呼べない。オペレーションしないと人と出会えない、定期的なお金も産まないということです。プロデュースだけでは狩人的な仕事。やって終わり、やって終わりで精神状態があまりよくない。オペレーションの仕事の方が好きですね。僕自身が入るのではなく、それに携わる」と中村氏。
仕事を楽しみだけではなく、ビジネスとして見る冷静さを持っている中村氏。景気が好転すれば、本格的に動き出すのは間違いない。