フードリンクレポート


適正化は完了した。5〜6月で新業態5店をオープン。
河下 隆博氏
大和実業株式会社 代表取締役社長

2009.4.24
大和実業は1955年創業。ボトルキープの全盛期をリードし、50年を超える歴史を誇る大阪の老舗外食企業。ここ数年苦戦しながらも、今は会員制「エスカイヤクラブ」、「アジアンキッチン」など10業態を仙台から福岡まで71店舗を直営。2008年度売上高約99億2千万円。本年3/21付けで初の生え抜き社長として、東日本事業部長だった河下隆博氏が就任。適性化から展開に大きく舵を取る。


大和実業初の生え抜き社長、河下隆博氏。

時代の先端を走り続けた大和実業

 同社は創業者岡田一男氏が、1955年に「やぐら寿司」を開業したのが飲食業のスタート。59年にはウイスキーのボトルキープ制を初めて導入した洋酒喫茶「BEBE」をオープン。高度成長期の64年には企業経営者向け会員制クラブ「エスカイヤクラブ」1号店を出店。67年には、大衆向けの洋酒パブ「グランドパブ」1号店を出店。当時としては珍しい若い女性客も集め、ボトルキープブームを押し上げた。

 69年にはいち早くコンピューターを導入し、キープボトルの残量計算システムを開発。お客のキープボトルの残量を記録し、どの店にいっても同量の残量のボトルがお客に提供できる仕組みを作った。

 77年に東京に初進出し、銀座に「エスカイヤクラブ」をオープン。それから一気に全国で大和実業の名は有名になった。

 今の大型居酒屋の草分けとなる「やぐら茶屋」を76年に開店。80年にはワインブームの草分け「ザ・ワインバー」を、93年にはエスニックブームの草分け「アジアンキッチン」、99年には韓国料理ブームの草分け「山ぼうしの花さいた」と続々と時代の先端を進む業態を作り続けてきた。

 85年のバブル期には、日比谷に高級ディスコ「ラジオシティ」をオープン。OL・サラリーマン専門ディスコで、男性はドレスコードによりスーツ・ネクタイ着用の上、社員証を提示しないと入店できない店として有名だった。開店初年の12月1ヶ月で売上高1億円を突破した伝説のディスコ。

 96年に創業者の岡田一男氏が社長を退き、「ラジオシティー」をプロデュースした坂井恒信氏(義子)に交代。そして、2009年3月に坂井氏は代表権のある会長に、河下氏が代表取締役社長に就任した。


流行り過ぎて、やり方を変えられなかった

 2005年頃から、同社の逆境が始まる。

「ここ3〜5年間で飲食業界自体が凄く大きく変わりました。その環境変化にウチの会社は変わらなかったので遅れました。まずは、店舗数が増え過当競争になりました。商品やサービスも変わりました。例えば、商品は産地にこだわった店が増えた。サービスを売りものにする店も増えてきた。いろいろな面で変わった。でも、ウチはやり方を変えなかったと反省します。ウチのやり方はいいんだという考え方から抜けきれなかった。花の時代が長かった」と河下氏。

 その変化の兆候は、真っ只中にいると分からないという。

「ここのところが曲がり角という感覚はありませんでした。環境変化にやり方を変えられなかった。井の中の蛙でいたのかなと反省しています。でも、その最中には分からない。気がついた時には実績が下がり、中堅・ベテラン層が会社を辞めていました。」

「業態開発もやっていました。出店当時は集客できましたが、次の核にはならなかった。3、4店くらいまでしか増えなかった。当時の開発は、カリスマ・オーナーが先導し、専門的なチームではなかった。その体制で200店以上になった訳ですから、それでいいと思っていました。」


3つの方針:①人材の育成

 河下社長は、3月までに不採算店を整理し終えた大和実業を引き継ぐ。初年度は今まで続いた赤字体質から脱却し、利益ゼロベースまで引き上げるのが目標。

「2009年3月期は全社ベースでは売上アップになりました。既存店もほぼ100%前後できている。好調な業態は『ごだいご』(京風おでんと創作和食)と『ザ・ワインバー』。『エスプリ』(ショットバー)は大阪で安定している。『エスカイヤ』東京はサブプライム問題後厳しくなりましたが、大阪は少しいいです」と、明るい兆候を話してくれた。


「ごだいご」 あじわい鶏の焼き鳥盛り 1200円(税込1260円)


「ごだいご」 極上牛ヒレとアボカドのたたき 900円(税込945円)


「ごだいご」 旬のお造り5種盛り合わせ 1600円(税込1680円)


「ごだいご」のおでん
大阪:青首だいこん300円(税込315円)、薩摩赤玉たまご300円(315円)
東京:有機だいこん300円(税込315円)、越後産のこだわり玉子使用たまご300円(315円)


「ザ・ワインバー」


「ザ・ワインバー」 炎で仕上げる!クレージーチキングリル 1000円(税込1050円)


「ザ・ワインバー4」 ラタトゥィユにのせた牛フィレステーキ 1500円(税込1575円)

 新社長、河下氏の基本方針は3つ。①人材の育成、②次の核となる業態を作る、③既存店の活性化。

 人材の育成では、モチベーションと教育。

「過去を引きずることなく、大胆に行動や考えをスピードを持って変えていこうと、社員にメッセージを送っています。今までのやり方を変えなかった自分への反省です。今までのやり方にこだわるな、過去は間違ってたんだとまで思え。大胆に行動して色んなことにチャレンジしてほしい。」

 具体的には、4月から業績評価、人事考課を変えた。業績評価は9項目にしてポイント制とし各人のポイントが完全にオープンに見える。人事考課は上司が一方的に付けていた が、本人にまず何をやるという計画を立てさせて上司とすり合わせ、そのうえで納得いく評価を行う。

 給与体系は5月から変更。同業他社20社と比較し、給与水準カーブが30〜40代でいびつになっていた。30〜40代の主力にやる気をもってもらうよう是正。

 教育は店舗の核である店長への教育。社外講師を招いて2年かけて「店長研究会」を定期的に開く。お店づくりの考え方や店舗での集客方法まで、あくまでも実践ベースで学ばせる。


3つの方針:②次の核となる業態を作る

 業態開発チームは、マネージャー、店長、チーフに加えて、社外の専門家が3名ついて 6名で1つのユニットとして、1つの業態を作り上げる。

「今は5店舗5業態を作ろうとチームを作って、今年1月から動かしています。5月に2店、6月に3店をオープンさせる予定です。立地は、三宮に2店、大阪に1店、東京に2店。洋タイプが4つと和タイプが1つ。期待して下さい。」

 今まで作れなかった、次の時代の核となる業態を社内の若い力と、社外の広い視野を活用して作ろうとしている。ちなみに、昨年8月に銀座、9月に横浜モアーズに開店した新業態「権之介」(土鍋蒸料理)は好調だ。


3つの方針:③既存店の活性化

 既存店では、6月からPOSの変更やパソコンの導入により、情報の共有とスピードアップを図る。リニューアルが必要なところは改装も。

「メニュー変更に力を入れています。4月から春夏メニューを入れ替えました。テーマは感動メニュー。“安さ”、“見やすさ”、“安心安全”、“ヘルシー”、“早さ”という5つの要素を掛け算して、200%の感動を与えましょう。但し、安さは安売りに走るのではなく、期間限定でお客様に元気になっていただこうと、商品もハイボール・カクテル・梅酒に限定して半額キャンペーンを行っています。」

「既存店での赤字の原因は、客数が減っているのと、コスト、特に人件費がかかり過ぎていること。人件費のコントロールが必要です。FL値は60%程度ですが、人件費(L)が30%もかかっています。ただし、ウチは社員の比率が高い。100坪の中型店でフロア2人、キッチン2人が社員は当たり前。」

「新卒は今年5名。苦しくても採用を続けています。人材をおろそかにすると企業は絶対に悪くなる。利益が多少下がったとしても教育に投資していかないと、じり貧になるんじゃないのかなと思います。特に飲食業界は人材の部分が大きい」という。元来、創業者の岡田氏は教育に力を入れており、その伝統を受け継ぐ。

 最後に、河下氏は「輝く目標は立てません。大風呂敷は広げない」と締めくくり、堅実に改善していく姿勢を示した。老舗ブランドを多数持つ大和実業。それが若い外食企業との大きな違い。年配者と若者をブリッジして幅広い客層を呼べる老舗ブランドの再活性化も一案だと思われる。


■河下 隆博(かわした たかひろ)
大和実業株式会社 代表取締役社長。1958年生まれ。徳島県出身。大和実業の名古屋店舗にてアルバイト。1976年、正社員として入社。執行役員・東日本事業部長を経て、2009年3月に現職に就任。

大和実業株式会社 http://www.daiwa-j.com/index.html

【取材・執筆】 安田 正明(やすだ まさあき) 2009年4月16日取材