・量を捌くため、外食進出
総務省の家計調査によると、2007年の鶏肉の世帯当たり購入量は福岡県が全国トップ。2位は大分県、3位は鹿児島県と、4位宮崎県、5位滋賀県と九州が上位を独占している。「水炊き」「焼鳥」など九州は鶏肉料理の本場。鶏肉出荷量でも宮崎県が日本一。
九州の大手養鶏業は外食に進出している。銘柄鶏「みつせ鶏」を生産する株式会社ヨコオが鶏専門居酒屋「炭寅」を直営したり、「博多一番どり」の株式会社アライが焼鳥居酒屋「博多一番どり 居食家あらい」を直営・FC展開している。
今回取材したトリゼンフーズ。創業者の河津善陽氏は、福岡市内の吉塚商店街で60年以上前に鶏肉小売店を興した。現在も同地で営業をしているという。
2代目社長の河津善博氏は相場に狂わされず販売ができると、15〜16年前に銘柄鶏「華味鳥」を開発。銘柄鶏ブームの走りだ。トリゼン食鳥肉共同組合も設立し、大規模な処理工場も作った。今では九州産「華味鳥」として1日に1万8千羽処理している。
トリゼン食鳥肉共同組合。処理工場は森の中にある。
「華味鳥」は30以上の養鶏農家と飼育契約。雛を農家に売って、飼育方法や餌を指定し、一定の大きさに育つと買い戻し、トリゼン食鳥肉共同組合が処理する。それをトリゼンフーズや鳥善ブロイラーなどのグループ販社が買い取り、大手スーパーを始め様々なチャネルに売り捌いていく。この生産から販社までをトリゼングループとして囲い込んでいる。
「組合が販社に卸す。販社が直販・ギフト・スーパーに販売する。飲食が店としてお客様に水炊きとして提案する。何回も購買をからませて利益を取る仕組みです。消費者1人がコンビニで華味鳥を使ったおにぎりを買う、外食で華味鳥を使ったメニューを食べる、ギフトで華味鳥を使った食料品をもらうなど。マーケットが多面化することにより色んなところで利益が落ちる。お互いがシナジー効果を出す」と手塚氏は言う。これがトリゼングループの強み。現在、グループ計で売上高約130億円。
「華味鳥の生産量は少しずつ伸びています。契約生産をしているので処理数を約束しており減量はできない。捌かなきゃいけない。作り続けなきゃいけないし、売り続けなきゃいけない。そのバランスが難しい。直営店を伸ばしたいのはそこ。いつ別の系種が取り引きされるかわからない。その分の売上がなくなれば鶏肉が余る。」
・安全な鶏肉を鮮度抜群の鳥刺で
しかも1人前380円で提供する「鶏屋 三八」をさらに立ち上げた。 飲食事業部の中で、アッパーとミドルとロープライスのブランドを各々確率。「博多華味鳥」、「博多華善」、 「鶏屋三八」と、それぞれ業態は違えど華味鳥。
外食1号店は「博多華味鳥」祇園店。15年前に「華味鳥」ブランドが誕生したのと同時期に出店。創業の鶏肉小売店当時に営業していた水炊き店を復活させ、ブランド認知を図った。東京にも4年前に5店目として華善として西新宿に関東初出店。
コラーゲンたっぷり、華味鳥の水炊き。
「博多華味鳥」中洲店 外観。
現在、トリゼンフーズ直営外食店は東京、大阪、福岡に16店。売上24億円に成長した。高級版「博多華味鳥」10店、カジュアル版「博多華善」3店、380円均一「鶏屋三八」2店など。「博多華味鳥」の客単価は、福岡4600円、大阪5500円、東京8900円とエリアにより異なる。「博多華善」は東京のみで客単価5500円。「鶏屋三八」は福岡のみで客単価2600円。客単価のバリエーションを広げ、客層の多面化を図っている。
「博多華善」西新宿店 外観。
「鶏屋三八」 外観。
特に「鶏屋三八」は、鳥刺し380円が人気だ。
鮮度保持の仕方に技がある、鳥刺し。
「華味鳥と壱岐牛の焼肉屋を作ったんですが、伸びないので閉めようとしていました。社長から、もったいない、煙もくもくの店がやりたい、全部380円でやろうかという話が出て、施工業者さんと一緒に東京の立ち飲み繁盛店を視察に行きました。そして、わずか3日で改装しオープンさせたのが、三八です。鳥刺し380円が人気でウケけました。鮮度の保持の仕方に技があるんです。」
・鶏の深さを知っている
「鶏の新鮮なものはヘルシーで胃にもたれない。」と言う。東京、大阪の店舗には絞めて1日以内の新鮮な華味鳥が運ばれている。
「東京は16時間、大阪12時間、地元は8時間のものが届きます。鶏は〆てすぐか、1日寝かした方が美味しいという人もいます。〆た後骨付きのまま置いておいて、4時間後ぐらいに解体するのが美味しいという人もいます。いろんな意見があり様々です。でも、有名銘柄鶏の24時間、30時間か経ったものより、ブロイラーの新鮮なものの方が美味いのは間違いありません。」
生産者が外食に参入するメリットを手塚氏は語る。
「物語ができます。華味鳥のこだわりを自分たちでお客様に語れる。僕は育てるよ、僕は新鮮な状態で処理するよ、僕は売る、僕は配送する、僕は料理を作りお客様に、というバトンのリレーが上手くできます。」
しかも、福岡育ちならではのメリットもある。
「このエリアで生まれ育ったので、博多の水炊きと鳥を東京や大阪に持っていっても表現しやすい。郷土感が出しやすい。真似できない、真似されない店が作れると思います。」
最近、外食から生産にさかのぼって農業や畜産を始める企業も出てきた。しかし、生産者から外食への参入は九州だけでなく、各地で以前からある。
「生産者の強みは、深さじゃないですか。ノウハウは直ぐには蓄積できない。逆に外食は後発なんで、外食はまだまだと言われるところもあります。今、100年に1度の不況とか言われていますが、うちの社長はへこたれない。末端に手を出すとリスクも大きいかもしれないが、脅威ではありません。食の安全とか、ずっと取り組んできていますから。」
食材について蓄積されたノウハウを持つ生産者。片や、消費者の嗜好が変わりやすく瞬時の経営判断が要求される外食。この両者のマッチングが完成すれば、強い外食企業が誕生するだろう。