フードリンクレポート


仕入れの大半は契約農家。
有機・無農薬野菜をカジュアルに食べて欲しい。
渡邉 明氏
有限会社イートウォーク 代表取締役

2009.5.27
商業施設から熱い視線を浴びている「やさい家めい」。元グローバルダイニング総料理長であり、今もその味を慕われる渡邉明氏が2006年に放った人気業態だ。4/22には横浜ルミネに”野菜しゃぶしゃぶ”の「やさい家めい」をオープンさせるなど直営11店となった。約20軒の契約農家から直接仕入れるという手間が評価されている。


農家の写真が貼られた東京・中目黒のオフィスにて、渡邉明氏。

「タブローズ」時代から契約農家

 渡邉氏は1992年、グローバルダイニングが代官山に「タブローズ」を開店させたのを機に同社に入社。「タブローズ」料理長を経て、同社総料理長にも就任。その当時から契約農家から野菜を仕入れていた。

「野菜はタブローズ時代から注目していました。会社の発注システムでは契約農家からの仕入れはできませんでしたが、タブローズだけ上手くやらせてもらいました。その当時からの付き合いで15年くらい経ちますが、契約農家はどんどん増えて、今は約20軒。農家さんからの売り込みもあります。」と渡邉氏。

 全ての契約農家と店舗との仲介を渡邉氏が行っている。

「一回一回、料理長に、例えば、お前の店はラディッシュが2列あるから使って、大根あるから使ってと、在庫の調整もマメに行っています。先日も農家さんから怒られました。『言われて植えたのに取ってくれなかったじゃないの! もう種まかないからね』とか、ちょっと油断すると言われる。」

契約農家は青森から長崎まである。使っている野菜のほぼ全量を仕入れている。品切れする場合もあるので、押さえで大田市場の八百屋から無農薬・減農薬野菜を仕入れている。

「ほぼ毎日、ファックスと電話でやり取り。野菜は各店舗に宅急便で届く。支払いも細かい。現金じゃないとダメというところもある。これを植えて下さいと言うと、出来たものを取ってあげないと信用されない。書面ではないが口約束です。それを守らないと真剣にやってくれません。」


「やさい家めい」表参道店 カウンター。


「やさい家めい」五反田店 エントランス。


「やさい家めい」六本木店 店内。


「やさい家めい」横浜店 カウンター。


農家には2週に1度足を運ぶ

「足を運んでいかなきゃだめ。電話だけじゃだめです。各店舗の料理長は月に1回は必ず。僕は2週間に1回、ネットで探した新規の開拓も兼ねて訪問します。」

「農家さんは直売したい所が増えました。顔を知らない人に売りたくない、という気持ちがあります。僕らは美味しかったよ、と返してあげられる。JAに売ると市場を通してスーパーに流れるが、誰に売られているか分からない。自分のところでお客を持って売ろうとしている所は、通販や道の駅で売ったり、ウチのような飲食店に売ったりして経営を成り立たせています。」

「ウチの店が増えたので農家さんも真剣に作ってくれます。1〜3軒ではまだそこまで言えず、振り向いてくれませんでした。最近、8軒くらいになってから振り向いてくれるようになりました。」

「ウチが大きく取引しているのは、近郊の千葉、茨城、埼玉。本当に頑張ってくれる農家さんとガチリと組んで契約して、いろんな種類の野菜を植えてもらっています。後は、ピンポイントでキノコは信州、トマトは愛知ファーストトマト、茄子は京都などで季節毎に仕入れています。」

「野菜以外、豚肉や鶏肉も契約農家から仕入れ。食材の大半は農家さんとダイレクトです。牛肉は仲買を使っています。魚は函館、沼津、長崎の漁港から仲買に卸してもらっています。シケで目当ての魚が獲れないと、替わりのものを入れてくれる。魚は仲買を通さないと厳しいです。」


「やさい家めい」 お野菜たっぷりカレー御膳 1,400円。


「やさい家めい」 煮ごぼうの唐揚げ 800円。


「やさい家めい」 野菜しゃぶしゃぶ(一人前) 2,500円(横浜店)。


「やさい家めい」 レタス納豆と八種の薬味 1,400円(横浜店)。


誰でも来られるカジュアル業態を作りたい

「野菜を中心に業態を作っていこうとしている訳ではありません。野菜は当たり前。パスタハウスなど誰でも来られるカジュアルな業態を増やしていきたい。麻布十番の串焼き『KOTATSU』はカジュアル店のモデルルームみたいなもの。商業施設に訴えるために作りました。商業施設も過当競争。パワーが弱いところが増えています。ウチは強くなって条件面で有利になれるようになりたい。」

 渡邉氏はとんがった店を作ってきたイメージがあるが、時代の流れでカジュアル店に行きついたという。

「今も昔も感覚は同じ。変わっていません。時代の流れで、いろんな飾り付けをやめて、原点帰りをしています。昔はカリフォルニア・キュイジーヌで、いろんな料理を掛け算してきました。カッコよくハデハデしく出して、レストランもカッコイイ。お客さんはそれに価値を感じてくれた。独立してからの1号店の考え方は、隣に家族連れがいたり、おじいちゃん、おばあちゃんがいたり、若い男の子が彼女を連れてきたりする店を作りましょう。料理も素直に食材の声を聞きながら作っています。僕をこう処理してと食材が言ってくる。」


「AWkitchenTOKYO」 エントランス。


「AWkitchenTOKYO」 店内。


「AWkitchen本店」(中目黒) 店内。


「AWkitchen figlia」(表参道) 店内。


「AWkitchen10」(麻布十番) 外観。


「AWkitchen」 農園バーニャカウダ 2,100円(東京店)。


「AWkitchen」 AW自慢のトロフィエアラビアータ 1,800円。


「AWkitchen」 二種のトマトと箱根のモッツァレラチーズのカプレーゼ 1,700円。


ウチの会社の技術は、食材を選ぶこと

「ウチのコックに言うのは、うちの会社の技術で一番大事なのは、食材を選ぶこと。これについてこられないコックは辞めていきます。」

「現在のコックは、ほとんど『タブローズ』からアートフードに異動した人たち。残るのはグローバルダイニング出身者しかいない。強くて、食に対して考え方が違う。普通にフレンチをやってきた人は経営がダメでも、自分が楽しくてじっくり作りたい、と考える人が80%。僕らは商売なので、原価率がこうで、FLコストが低くなって、自分たちの給料が高くなって、お客も会社も僕らもハッピーな料理を作れるから頑張ってやっていこう、という考え方ができるのがグローバルダイニング出身者。利益を残そうという意識がある。」

 グローバルダイニングから寄せ集めている訳でなく、渡邉氏の美味しいパスタを覚えていて、他所の会社にいても自然に集まってくる。


まず、利益を生み出せる体質にし、強くなりたい

 今期のイートウォークは、11店舗で売上高18億円。

「上場はないですね。会社の規模も大きくなって、社員に中期計画も話さなきゃいけないのでいろいろと考えています。店を増やしても、利益が変わらないんです。大変になるだけかな。5店の時の方が自分の時間がありました。従業員のモチベーションも、仲間意識も強かった。以前は売上高30億円をやることでした。今はある程度の利益を出せるだけでいいと思います。まずは会社を強くしたい。」

「八百屋さんをやりたいです。広尾や表参道で。でも、資本がかかる。僕は調理人の代表なので、レストランを作った方が向いています。美味しいものを出した方がいい」と、あくまでもレストランで料理を作ることにこだわっている。


渡邉氏、注目の野菜

 最後に、注目している野菜を聞いた。まず、トマトは毎年5月恒例の野菜。全店で「トマト祭」を開催している。

「野菜の原点に帰って、トマト。水をあげないで枯らして、一番上になったトマトだけとる作り方だと、甘いけど1個3〜4百円もします。愛知のファーストトマトは、本来の作り方でいじめないで作る。それを食べると、やっぱりいいなと思います。高く野菜を作ろうと思えば高くできる。でも、普通に出してあげるのがいいんじゃないでしょうか。店で1個千円で売るのは現実的じゃない。頻繁に食べられない。そこまでしなくても十分美味いです。」


「AWkitchen figlia」 トマト祭DM用写真。

 他には、信州黒姫のトウモロコシ「ゴールドラッシュ」。糖度が13度くらいで甘い。8月には、ジュースやスープで出す予定。

 幻のもやし「温泉もやし」。青森県産。温泉水をかけながら育てた、30センチ位ある長いもやし。シャキッとした歯ごたえ。現在は4軒でしか作ってない。

「雪下にんじん」。青森県産。秋に収穫するにんじんを雪の下で冬を越させたもの。甘くて、人参特有の癖がなく、ジュースにすると美味しい。

全国を回り未だ知られていない野菜を発掘し、それを使ったフェアを1〜2ヶ月に1度の割合で行っているのも、イートウォーク店舗の魅力だ。

「息子や娘が農業大学に行って研究して、農家を継ごうとしています。彼らが新しいことをやり始めています。それを消費者が分かってくれて、輸入品の安いものより、国産の美味しいものを選んでくれる。いい方向になってきました。僕らのレストランも国産の美味しさのアピールに努めます。すると、スーパーも負けじと国産志向に変わってきました。いい循環です。」

 有機ゆえに付着する芋虫やナメクジが洗浄の段階で取りきれず、サラダに入っており、お客に謝ることもあるという。それでも、国産野菜の美味しさを伝えるのが自分の使命と、渡邉氏は今も店舗に立っている。


「AWkitchen figlia」 キノコ祭DM用写真。


■渡邉 明(わたなべ あきら)
有限会社イートウォーク 代表取締役。1965年生まれ。埼玉県出身。92年、「タブローズ」開店とともに、長谷川実業(現グローバルダイニング)入社。同社総料理長に就任。2001年、レインズインターナショナル子会社のアートフードインターナショナル代表取締役社長に就任。2003年、イートウォークを創業。「AWkitchen」5店、「やさい家めい」5店、「KOTATSU」1店の計11店を直営。

有限会社イートウォーク http://www.eat-walk.com

【取材・執筆】 安田 正明(やすだ まさあき) 2009年5月7日取材