・感染者は兵庫県と大阪府に集中したがピーク越す
厚生労働省によれば、6月2日までに国内で確認された377人の新型インフルエンザ患者の内訳は、男性が242人、女性が135人。年齢別では、10歳未満が17人、10代が293人、20代が31人、30代が15人、40代が13人、50代が5人、60代以上が3人。
統計上は、女性より男性、年齢別には中高生を中心にした10代の感染者の多さが目立っている。
都道府県別では、兵庫県196人、大阪府157人、東京都4人、滋賀県・愛知県3人、京都府・静岡県・神奈川県・埼玉県・千葉県各2人、和歌山県・福岡県・山梨県・新潟県各1人となっており、兵庫県と大阪府に集中している。
市町村では、神戸市(兵庫県)107人、吹田市(大阪府)28人、茨木市(大阪府)27人、大阪市(大阪府)23人、尼崎市(兵庫県)20人、豊中市(大阪府)19人、箕面市18人(大阪府)、高槻市(大阪府)17人、宝塚市(兵庫県)・八尾市(大阪府)各9人、といった順であり、ほぼ兵庫県南西部・神戸市及び阪神地区と、大阪府北部・北摂地区に集中している。
WHO(世界保健機関)の6月1日調査によれば、世界の新型インフルエンザ感染者は62カ国に広がっており、総数は1万7410人。日本の感染者は、米国8975人、メキシコ5029人、カナダ1336人に次いで4番目に多い。以下、オーストラリア297人、チリ250人、英国229人、スペイン178人、パナマ107人、アルゼンチン100人の順である。うち死者は115人。国別ではメキシコ97人、米国15人、カナダ2人、コスタリカ1人となっている。
日本での死者は確認されていないものの、新型インフルエンザ「豚由来インフルエンザA(H1N1)型」は、弱毒性ではあるといっても、人から人へ感染して北中米では死者も出ているので、注意はやはり必要なのである。しかも、新型であるだけに未だ有効なワクチンが開発されたわけでもなく、出回り始めるのは秋頃になる予定である。
発生状況から見ると北米から、中南米、大西洋を越えてヨーロッパ、太平洋を越えて日本、オーストラリア、アジア・パシフィック各国に広がってきていると言えるだろう。
・神戸では宴会需要が激減も、個人需要は立ち直る
では、飲食店、商業施設などの新型インフルエンザの影響を見ていこう。
最も感染者が多かった、兵庫県神戸市の中心部では、5月17日(日)に予定されていた「神戸まつり」のメインイベント「おまつりパレード」などが、前日の新型インフルエンザ発生を受けて全て中止。7月19日(日)に延期された。
神戸一の繁華街、三宮の地下街「さんちかタウン」ではその影響で、5月18日、19日あたりの人通りは通常の6割と大きく落ち込んだ。
しかし、23日以降の発生数の激減より、28日に発せられた矢田立郎神戸市長の大流行のリスクはとりあえず抑えられたとする「『ひとまず安心』宣言」を受けて、30日(土)までには市内の公立校の最長2週間にわたる休校が順次解除された。
公立校の授業が再開するにつれて、街も活気を取り戻しつつあり、8割くらいにまで通行量は戻ってきている。マスクをしている人も、一時期はほぼ全員であったが、全体の2割くらいまで減っている。
また、神戸の代表的な観光地、中華街の南京町でも、「一時期はいつもの6割の通行量だったが、8割くらいまで戻ってきている」(老祥記・曹英生社長)と、「さんちかタウン」と同様な感触だ。
意外なことに、感染者が2人しか出ていない、県東南部の播州地区の中心都市、姫路市でも学校が休校になったこともあり、山陽百貨店では「18日の週は7割から8割しかお客さんが来なかった。今は9割程度まで戻している」と、兵庫県内では広く影響が出た模様だ。
飲食店の状況はどうだろうか。
神戸市、姫路市、加古川市、明石市といった兵庫県南に店舗網を持つカノコでは、豆冨料理「月の庵」、海鮮居酒屋「膳家」といった、宴会需要に対応した大型店で、企業が自粛したために多人数の宴会のキャンセルが続出。一時期はゼロに近いほどにまで落ち込んだ。
岩明明支配人によると、「18〜23日のキャンセルは当社10店で1000万円を超えています。3500円よりアッパーのゾーンは今も苦しいですね。ホテルは観光のキャンセルも相次いでいますから、宴会のキャンセルとダブルパンチを受けています。低価格の個人で飲みに行くような店は、戻るのは早いです。ウチでも安いイタリアンやパスタは、かなり戻ってきています」と、宴会を主体とする店に甚大な影響が出て戻り切っていない反面、低価格の個人の需要に支えられた店は、影響は出たものの立ち直りが早いと述べた。
特に18日はJR三ノ宮駅構内にある「月の庵」三ノ宮駅前店のオープン日にあたり、景気づけようという矢先のインフルエンザ禍であったのでこたえた。
バルニバービのレストランウェディングを行う「ブレラ・テーブル」でも、披露宴の出席者人数減が相次いだ。
神戸市内では落ち着きを取り戻しているものの、「本当に売り上げが戻ってくるのは夏休みに入ってから」(老祥記・曹英生社長)といったムードが濃厚だ。
・大阪は府の北部に大きな影響、市部も観光苦しい
大阪府内に目を転じれば、大阪市キタの中心地・梅田の人気商業施設「ハービス・プラザ」及び「ハービス・プラザ・エント」では、「10%くらい入場者は落ちたが、神戸市や阪神間ほどの大きな影響は受けなかった」とのこと。
大丸心斎橋店・梅田店でも「ちょうどポイントアップキャンペーンを開催していた頃でもあり、それほど落ちていない。影響があったのは2日間くらいで、5月後半で10%ほど減った程度」と、ミナミ、キタの百貨店とも、大阪市内の顧客はそんなに減らなかったとしている。
大阪市内ではマスク着用で歩いている人は、既に1割を切りほとんどいない。
一方で、むしろ患者が多く出た北摂地区の高槻市にある高槻西武では、「普段の7〜8割に落ち込んだが、今はほとんど戻った」とのことで、一時期は大きく来店客数を落とした。
反面、食品スーパーは、休校するほどのインフルエンザの蔓延で、一週間ほど外出できないと考えた人たちが買いだめに走り、18日は売り上げが伸びる現象が起きた。外食より内食が、インフルエンザで助長された感はある。
飲食店では、大阪市内の梅田や南堀江「燈花」などの店舗を持つ、オペレーションファクトリーでは、「個人で利用する人が多い店はあまり影響を受けていないが、会社での宴会利用が多い店は多大な影響を受けている」と、神戸市あたりと状況は同じだ。
和食系の企業の宴会需要に支えられた店は、一時期宴会客が1割以下になった店もあった模様だ。
大阪市の南船場が発祥のバルニバービでは、「当社の関西の店はどこも、18日からの週はランチが15%減。次の週はかなり落ち着いた。夜も引きが早く、パーティーのキャンセルもかなり出た。6月のパーティー予約も厳しい」(辻本取締役営業部長)とのことで、ランチの立ち直りは早かったが、夜のパーティー需要がなかなか回復しない現状に直面している。
観光需要の多い店はどうだろうか。
かに道楽では「特に道頓堀店は、17日以降パッタリ旅行客が来なくなりました。旅行客ばかりか企業の宴会も自粛されているし、6月に入ってもあまり戻っていません。梅田の店も良くないですし、全般に2割から3割減、5割減の店もあるほどです」と表情は冴えない。
大阪でも神戸同様に、宴会と旅行の自粛が、単価の高いゾーンの飲食店を直撃している図式が見え、やはり回復は夏休みといった空気が広がっている。
・京都と奈良も修学旅行、宴会のキャンセル相次ぐ
「八剣伝」、「酔虎伝」チェーンで知られるマルシェでは、「宴会などのキャンセルは、兵庫県、大阪府ばかりでなく、近畿2府4県全般に及んでいる。当初は感染源がわからない不安感があったのではないか。先週からは当日のキャンセルがなくなった」とのこと。
インフルエンザ発生によって、人の集まる場所を避ける目的での企業の宴会自粛は、広く近畿全域に及んでおり、それによる損失は計り知れない。
京都市観光部によれば、「京都市に来られる年間100万人の修学旅行生のうち、40万人が5月、6月に集中するが、5月下旬はほとんどがキャンセルされて延期になり、1000校に達している。ただ6月に入ってからは、キャンセルは聞いていません」。
修学旅行に来なければ、旅館・ホテルのみならず、お土産屋、昼食をとる飲食店にも大きな影響が出る。
京都市の新型インフルエンザ患者数は2人であり、東京など関東の状況とそれほど違わないのだが、学校や企業の過剰反応で、観光と宴会で多大な影響が出ている。
修学旅行のコースとして京都だけで2泊、3泊というケースは少なく、大阪、神戸、奈良とのセットになることが多い。最寄り駅として新幹線の新大阪駅を使うケースも多く、大阪か神戸がルートに含まれていると、もうそれだけでキャンセルになってしまうのだろう。
また、かに道楽には寺町三条に京都本店があるが、大阪・道頓堀の店と同じく観光客と宴会の激減に見舞われているという。
奈良市内だけでなく斑鳩、飛鳥、吉野など観光名所がひしめく奈良県でも、状況は京都市と似たり寄ったりだ。
奈良県文化観光局によれば「修学旅行のキャンセルは445校、3万3090人に及ぶ。一般の宴会は昼食も含めて1228件、6185人。合わせて約4億1400万円の影響が出ている」。
奈良県内からは1人の患者も出ていないのだが、そのわりには影響は相当なものだ。
京都にしても、奈良にしても、修学旅行は延期になっているので、おそらく8割くらいは戻ってきそうだが、宿泊施設には限りがある。今後はうまくさばききって埋め合わせができるのかが、問題になるだろう。
企業の需要は一度キャンセルになれば、そのままお流れになるのが大半と考えられる。近畿一円の宴会に支えられている居酒屋は、需要を戻すために今後より一層の営業努力が求められるだろう。
・豚肉の消費・メニュー、仕入れへの影響は及ばず
さて、東京の飲食店、商業施設はほとんど影響が出ていないとみていいが、新型インフルエンザは当初、豚がかかったインフルエンザが人に感染したため、豚インフルエンザと言っていた。
そこで、豚肉への影響が懸念されるところだ。
関東に強い2つの大手スーパー、イトーヨーカ堂と西友に聞いたところ、イトーヨーカ堂では「ほとんど扱っているのは国産なので、影響はない」とのこと。
一方、西友では「多少は影響があったが、大きく落ち込んではいない。一時期、豚肉より牛肉や鶏肉を売り込んだこともあったが、今は平常に戻っている」。
特に輸入肉については、影響が出かけたことは事実だろう。しかし、豚インフルエンザが新型インフルエンザと呼びかえられ、風評被害を逃れた。
食品安全委員会より4月27日に、安全宣言が出されている。
そもそも、豚肉・豚肉加工品を食べたから豚インフルエンザにかかるわけではなく、無関係である。万一、ウイルスが付着していても、熱と酸に弱く、加熱調理で死滅するし、胃酸でも死滅する。この頃より、新型インフルエンザという呼称が使われ始めた。
従って日本政府のほうでは豚肉の禁輸などの特別な措置を取っておらず、飲食店の豚肉の食材調達に影響が出たという話は聞かない。
豚肉料理専門店の状況はどうか。
とんかつの「さぼてん」を展開するグリーンハウスフーズでは、「売り上げへの影響は消費の冷え込みのためか、新型インフルエンザのためかは判断できない」としながらも、基本的に新型インフルエンザの影響は認めにくいと考えているようだ。
エーディーエモーションの「黒ぶたや」恵比寿本店では、「心配だったので、お客さんに新型インフルエンザで来るのを自粛しますかと聞いたけれど、皆さんが気にしていないと言われたので安心した。影響は出ていないです」と、気にしてはいたが実際の影響はなかったとしている。
豚肉料理専門店以外では、たとえばバルニバービの店舗ではグランドメニューではなく、毎日のお勧め品のメニューから、豚肉料理を一時的に控えるなどといった動きもあった。
しかしながら消費者は冷静で、豚肉の消費に関しての影響はごく軽微であった模様だ。
・カラオケでは休校中の生徒に自粛を求める動きも
ファミレス、ファーストフード、居酒屋、カラオケの全国チェーンはどうだろう。
ファミレスでは、すかいらーくは「兵庫県やその周辺部で多少の影響は出たが、全国ベースではそれほどの影響は出なかった。豚肉を多く使う中華業態のバーミヤンでも、酢豚をはじめメニューに対する影響はなかった」と、胸を撫で下ろしている。
ロイヤルグループでも、「売り上げへの影響はなく、豚肉をお客さんが敬遠されることもない」としている。
ファーストフードの代表格である日本マクドナルドでは、「大阪、神戸でも顕著に売り上げが落ちたわけではなく、全国的に見ると影響を受けなかった」とのことだ。
居酒屋チェーンのワタミでも、「大阪では少し影響が出たが、全般ではほとんど影響がない」そうで、個人需要の多い低価格店だけに、新型インフルエンザ患者が多く出た地域ですらも、影響は小さかった模様だ。
カラオケでは、兵庫県、大阪府で休校になった学校の学生がたむろしていたと、新聞等で報道されたが、少なくとも「ビッグエコー」、「カラオケ館」のような大手では最初の1日、2日の話だったようだ。
それ以降は業界団体で話し合って、強制ではないが、休校の学校の生徒は利用を控えるように店の外に張り紙をした。カラオケが感染の温床にならないための対策だった。現在は学校が再開されるにあたり、解除している。
「カラオケ館」チェーンを展開する、ビーアンドブィでは「関西地区ではサラリーマンや大学生が利用を遠慮されているのか、3割くらいは減った。先週で1〜2割減にまで戻ってきている」とのこと。
「ビッグエコー」チェーンを展開する第一興商では、「神戸の三宮では一時期半分くらいの売り上げになったり、大阪の梅田や道頓堀では30%減といったように大きな影響が出た。そのほかの地域ではあまり影響はなかった」と、やはり影響は関西のみにとどまった。
こうしてみると、飲食でも低価格ゾーンはほとんど影響を受けておらず、一方では休校した学校の生徒がたむろしたと批判されたカラオケでは、その後自らを律して休校中の生徒に利用自粛を促したことが見て取れた。
・致死率の高い、鳥インフルエンザが流行すれば恐い
今回の新型インフルエンザでは、5月16〜24日を中心に、神戸市のみならず兵庫県南部、大阪府北部、さらには京都府、奈良県を含む近畿一円で、特に団体客の影響が出た。
修学旅行をはじめ旅行客が自粛したのと、企業が宴会を自粛したために、観光と宴会の需要減に結びついたのだ。
一方で、ファミレス、ファーストフード、個人客の多い低価格居酒屋・レストランは回復も早く、ほぼ既に前年並みに戻りつつある。
豚肉の消費に、2004年の鳥インフルエンザの時のような風評被害が起きなかったのは幸いだ。
しかし鳥インフルエンザであるA(H5N1)型は今も、インドネシア、ベトナム、中国、エジプト、タイなど東南アジアを中心に流行中であり、WHOによればこちらは世界で感染した417人のうち257人が死亡している。
H5N1のほうは、今回問題となったH1N1と異なり、人間同士の感染例はあまり報告されていないが、全く感染しないというわけではなく、インドネシアや中国で確認されている。もしウイルスが人間同士で感染しやすいように変異して流行すれば、6割強の確率で死亡する可能性がある恐い病気だ。
すかいらーくでは「今回重篤者、死者が出なかったのは幸いだったが、今後強毒性のウイルスが出できた時にどう対処すべきか、良いシミュレーションになった。現場の情報、厚生労働省や都道府県・市町村の情報をしっかりと収集し、感染者の出た学校に通っている生徒のアルバイトは自粛してもらうなど、方向性は定まってきた」(広報)と前向きに考えている。
感染地域でマスクをして接客するかどうかは見解が分かれるところだが、すかいらーくはマスクの備蓄はあったものの、現場の意見を尊重してあえて出退勤時のマスク着用も義務付けなかった。過度な反応は現場を混乱させるという判断だ。一方で現在は解除したが、海外渡航を一時自粛していた。
同社では17日に新型インフルエンザ対策本部の準備会合が行われ、18日にはコンプライアンス担当の取締役中心に、10人ほどの社内横断組織で対策本部が設置された。こういった迅速な対策は、今後に生きてくるだろう。
マルシェでも役員を含め、20人ほどで対策本部を、営業、管理の部門長など社内横断でつくって対処した。
神戸地区ではホールでのマスク着用を義務付ける。全体として消毒・手洗い・うがいの励行や、人ごみに出る時は必ずマスク着用、十分に休養を取り、なるべく外出を避けるといったことを、全社員に通達した。
バルニバービでは、関西の全店で、マスクを配布して店舗外に出る時のマスク着用を義務付け、手洗い・うがいを徹底。店に常備薬・うがい薬を置き、検温を徹底して、体調不良者はノロウイルスの可能性もあるので、病院に直行させた。また、店の換気を徹底して行い、ホールの空気を新鮮な状態に保った。
第一興商では、従業員のマスク着用、店舗入口の除菌用アルコールの設置、マイクの除菌の徹底、手洗い・うがいの徹底などを行った。また、熱があったらすぐに検査を受けさせる処置を行った。
なお、農林水産省に問い合わせると「手洗い励行、出勤時の体調確認、感染地域では出退勤時のマスク着用及び、調理部門の業務中のマスク着用」をガイドラインとしている。
今後また新たなインフルエンザなどの疫病が流行した時に、どういう対策を取ればいいかは、飲食業界でもっと情報交換をし合ったほうが良いだろう。
いずれにしても、リーマンショックによって消費が冷え込んでいる上の、新型インフルエンザの流行で、特に近畿地方の飲食店は大変な状況である。やがて梅雨が明け、夏休みになれば雰囲気もがらっと変わる。巻き返しに期待したい。