フードリンクレポート


婚活ブームでチャンス到来!?
レストランウェディングの市場変化を探る。

2009.6.10
今春は婚活をテーマにしたドラマが2本も始まるなど、婚活がちょっとしたブーム。これを外食需要に結びつけることはできないだろうか。レストランはピンポイントで結婚式や二次会の会場となるだけでなく、出会いからまでウェディングまで、トータルにブライダルをプロデュースする視点が必要ではないか。そうした視点で取材してみた。


アットホームさが人気の「フェルミエール」にて、新郎新婦が注ぐシャンパンタワー。

元祖婚活バー、本格ジャズラウンジで出会いを演出

 2006年12月、東京・六本木に1号店がオープンして以来、人気を呼んでいる会員制ジャズラウンジ「en COUNTER(エンカウンター)」。

 既に六本木に3店、銀座に1店を展開しているが、3月2日に赤坂見附駅のすぐ近くに5店目の赤坂店をオープンした。席数は90席ある。


エンカウンター赤坂店 エントランス。


店内。


インテリアは邸宅をイメージした。

 この「en COUNTER」こそが、元祖婚活バーとも言うべき新業態。「紳士・淑女の集いの場」として、じわじわとアラサー、アラフォー世代男女に浸透してきている。

 入場する時に、名刺などで身分証明を行い、会員登録をしてからでないと店内には入れない。一度会員登録をすれば、コンピュータで管理しているので、どの店でも利用できる。空間は邸宅をイメージして、応接のソファーや本棚がある。シックでモダンかつ高級感があり、ドレスコードはないが、スーツまたはジャケットの着用が多い。

 オープンよりラストまで、ミュージシャンによるジャズの生演奏が4ステージ行われており、スケルトンのピアノがおしゃれである。


ジャズのステージ。

 また、料理はフレンチビストロで、体に良いマクロビオティックの考え方を取り入れて小皿で提供され、女性の評判も上々という。オープンから8時30分までは、無料でバイキングが利用できる。


夜8:30までは無料でバイキングが提供される。


マクロビオティックの考え方を取り入れた小皿料理。

 人気メニューは「本日のお薦め野菜料理3点盛り合わせ」(1500円)、「小海老のカクテル スウィート・チリ・マヨネーズソース添え」(1500円)などだ。

 赤坂店は天井まで届くワインタワーが設置されており、ソムリエがワイヤーで宙吊りなってワインを取るパフォーマンスが見られる。ワインの価格は平均するとグラス1300円、ボトル6800円くらいである。ワインのほか、女性受けする「チョコマティーニ」、「チョコレートギムレット」(ともに1500円)のようなカクテルも売りだが、ウィスキー、焼酎、ビール、日本酒と酒類は幅広く品揃えしている。


左にカウンター、右にワインタワー。


ワインタワーからワインを取るソムリエ。

 さて、婚活の部分であるが、顧客がオーダーを取って頃合を見計らうと、店員が異性と同席したいかを聞きに来る。希望があれば、一期一会の出会いがセッティングされて相席できるというわけだ。相席をした場合は、女性会員の会計を男性会員が持つ仕組みになっている。

 客単価は1万円ほどで、テーブルチャージ2000円、カヴァーチャージ2000円(男性のみ)を含んでいる。

「ジャズラウンジですが、料理もホテルで修業してきたようなシェフを入れて、力を注いでいます。料理、ミュージシャン、サービス、すべてにおいて一流を目指したい」と広報の乾守氏。行く行くは全国の主要都市に、「en COUNTER」を広げようという構想がある。

 赤坂店では土曜日はクラブナイト、月曜日に月に一度ずつベリーダンスとポールダンスのイベントが開かれるなど、イベントも随時開かれる。特に半立食形式の会員を集めての交流会は、性別、肩書、職業、国籍の接点のなかった人同士が気軽に知り合いになる機会として、人気がある。

 結婚式の二次会利用も多いという。

 バーチャルの「ミクシィ」が人気になったのも、地域や職場のコミュニティが崩壊してきた現状、会員制で安心感のあるところで、新しい出会いを提供できる仕組みをつくったからだ。リアルな出会いを提供する「en COUNTER」は、レストランやバーの今後のあり方を考えても、1つの可能性を示しているのではないだろうか。


仕事帰りに立ち寄って婚活ができるシングルスバー

 六本木交差点の近くに昨年4月にオープンした「GREEN(グリーン)」は、独身者が集まる出会いの場をプロデュースする、シングルスバーを標榜とする店だ。

 この店も会員制を取っており、入場するには名刺の提出または、身分証の提示を義務付けている。年会費や入会金は要らないが、席に通されてから店の趣旨のガイダンスを受けて、登録用紙に必要事項を記載する。会員数は昨年12月で3800人を超え、順調に会員を増やしている。

 また、完全予約制を取っており、木曜、金曜は満席になることも多いという。席数は58席。


「グリーン」のゆったりとした清潔感ある内装。


初めて来店して人はまず席に通されてシステムの説明を受ける。

 年齢層は男女とも20代後半から40代前半が中心で、女性のほうが6割とやや多い。これは19時オープンからの早い時間、女性は和洋中のビュッフェが無料という集客策を取っているからで、ビュッフェは無くなり次第終了となっている。席が隣り合った女性同士が、仲良くなることも多い。

 早い時間から女性が集まるのに対して、男性は1杯飲んで2軒目に来る人が多く、9時以降から入ってくるそうだ。


会社帰りに気軽に立ち寄って婚活できる。

「ダンスクラブはやんちゃな若者たちの特権で、フロアーはナンパ合戦です。そこで付き合って結婚した人もいますが、ダンスクラブに行かないような普通の人はもっといると考えました。仕事帰りにちょっと寄り道して来れる、まじめな出会いの場を提供したいと思い、会員制としました」と語るのは、エグゼクティブプロデューサーの本多有太氏。

 海外のシングルスバーはロードサイドにあって、日本でいうところの出会い系カフェに近いが、同店では「婚活を訴求して、それとは一線を引きたい」と強調する。ホステスのいるクラブやキャバクラに通い詰めて結婚に至る人もいるが、莫大な支出が掛かる。それよりも確実な出会いを提供したいとのことだ。

 料金は男性が、エントランスチャージとテーブルチャージが3780円ずつ、計7560円と、飲み物代がかかる。

 女性はテーブルチャージはかかるがフリードリンクで、相席した場合は女性の飲食を男性が負担する。

 顧客単価は男性平均で2万円弱となっている。

 ドリンクは500円〜2100の価格帯で、生ビールは840円。日替わりでワンコインのお酒もある。


女性受けを狙ったメニュー。

 2、3カ月に一度、男性5000〜6000円、女性2000〜3000円を取ったパーティーを開催しており、前回は7組のカップルが誕生した。

 オープンした当初は認知されず、ポケットティッシュを路上で配布してもあまり顧客は来なかったが、プレスリリースを雑誌やテレビ局に送って、婚活バーとアピールしたところ、秋頃から会員数が目立って増えたという。

 月に2、3回通う、常連客も増えている。


晩婚化に対応、シンプルでモダンなハウスウェディング

 カジュアルなブライダルの本丸である、レストランウェディングも大きな変化が起こっている。

 ゴンドラに乗って新郎新婦が登場するようなホテルの派手派手しい結婚式より、プライベートな雰囲気が演出できるというので、バブル崩壊後に人気になった一軒家レストランでのレストランウェディング。

 しかし、それもITバブルとともに西洋のお城のような迎賓館を使った、ハウスウェディングへと変質。現在はそうした仰々しいハウスウェディングの流行も終わって、もう少し落ち着いた空間づくりへと変わってきている。

 そうした新しい時代のハウスウェディングを牽引しているのが、ノバレーゼだ。同社は2000年に名古屋市内で婚礼プロデュース会社として設立。婚礼衣装のドレスショップを名古屋と青山に出店し、02年にワンダーテーブルと業務提携して飛躍のきっかけをつかんだ。

 同年本社を名古屋から東京に移転し、会社の商号も創業時のワーカホリックからノバレーゼに変更した。

 03年名古屋に郊外型ゲストハウス「アマンダンテラス」をオープンし、レストラン事業を開始。06年に東証マザーズに上場した。

 08年12月期の業績は売上高93億4200万円(前年比20.3%増)、営業利益14億7200万円(前年比20.4%増)、経常利益15億1100万円(前年比20.8%増)と好調。ハウスウェディング大手が赤字に転落する中、健闘が光っている。

 同社の施設はハード面では、既存のゲストハウスがイギリス風、イタリア風と西洋の建物を意識してきたのに対して、シンプルでスタイリッシュなモダンジャパニーズを基調としている。

 これは、IRマネージャー・社長秘書の松井環氏によれば「晩婚化が進んで30代半ばのカップルが増えたので、それ相応の大人のウェディングをターゲットとしたから」だという。

 また、すべてを一から建てるのでなく、既存のゲストハウスなどを居抜きで改装して、ローコストで出店することを積極的に行っているのが特徴だ。外食で言えば、ダイヤモンドダイニングやエムグラントフードサービスを彷彿させる戦略で、従来の半額くらいで新規出店ができる。

 さいたま市大宮区の築40年の結婚式場「出雲会館」を再生させた「ザ・ロイヤル・ダイナスティ」、長野県諏訪市のホテル「ホテル諏訪湖の森」、兵庫県芦屋市の昭和初期に建築された「旧逓信省芦屋別館」を改装した都市型ゲストハウス「芦屋モノリス」といったものが居抜きを活用した例だ。


「芦屋モノリス」外観。


旧逓信省の建物で平日のフレンチは女性に人気。

 今年の秋も広島で、料亭旅館をゲストハウスに転用した施設がオープン予定である。

 従来のゲストハウスが、休日は婚礼が入っていても平日は休業していたのに対して、同社は平日も主にフレンチのレストランとして営業して、料理を楽しんでもらっているのも他のハウスウェディングと異なる点だ。なので、下見がてらにカップルが食事をすることもでき、どちらかというとレストランウェディングの要素が強い。

 たとえば「芦屋モノリス」の料理は野菜がテーマのフレンチで、契約農家で採れる旬の野菜を1コースで40種類以上使うという。従ってケータリングに頼るケースが多い、他社のハウスウェディングとは一線を画している。


チャペル完備、アットホームなレストランウェディング

 そうした中で、しっかりとしたノウハウを持ったレストランウェディングの老舗は堅調だ。

 東京都国立市にあるフランス料理店「フェルミエール」は、オープンして25年になるが、初期の頃からレストランウェディングを手掛けている、この分野の草分け的な存在だ。

「お店にたびたびデートに来られていたカップルが、結婚することになって、ここが想い出のお店なので、親族、友人を招いてパーティーをしたいから手伝ってほしいと、申し出られたのがきっかけです。当時はレストランウェディングという言葉もなくて、ご両親も食事するところで何をするのって心配されておられましたね」と田中宏一営業部長は振り返る。

 しかし、終わってみると、2人がレストランを自宅に見立てて、親しい人、お世話になった人にもてなす形式のアットホームで距離の近い感覚が好評。


アットホームな結婚式がレストランウェディングの魅力。


「フェルミエール」、通常は1階のブラッセリー・フェルミエールで営業。2階はブライダルとパーティー専用。


1階のブラッセリー・フェルミエール店内。


ルイード、2階はチャペル。

「結婚式とは本来こういうものではないか」という声も多く聞かれたという。結婚式場やホテルの進行が決まっていて、新郎新婦がスタッフの誘導でスケジュールをこなし、慌しく終了する回転率重視の結婚式とは一線を画した、新しいスタイルのウェディングが誕生した。

 普通、花嫁は友人が結婚式をした場所で、自分の結婚式を挙げたがらないが、同店の場合は花嫁の友人や兄弟姉妹が、こんな楽しい想い出ができるならと利用者がどんどん増えた。クチコミと相まってレストランウェディングが、定着していったのである。

 クラシックやジャズのディナーショーを頻繁に開いており、下見がてらに食事ができるのも人気の秘訣だ。

「フェルミエール」を運営する曽我の曽我泰夫社長は、伝説のライブハウス「新宿ルイード」の総支配人として一世を風靡した。「新宿ルイード」ではタレントのオリジナル結婚式をプロデュース。たとえばハワイアンバンドを呼んで、アロハシャツとムームーでの参加を呼びかけた、ハワイアンウェディングなどを成功させていた。


新郎新婦が注ぐシャンパンタワー。

 そういったオリジナルウェディングの経験があったからこそ、レストランウェディングという顧客の新しいニーズに、応えることができたと言える。

 レストランである以上、食事の味も重視している。100人以上の会場ともなるとあらかじめつくり置きをして、ウォーマーで温めたものが提供される。しかし、同店は最大でも75人までなので、朝に産地から取り寄せた新鮮な旬の食材を使って、どんどん料理をその場でつくって出す。特に魚料理などは味の違いが顕著なので、ゲストにも喜ばれているそうだ。


魚介料理の例。


肉料理の例。

 5年ほど前に、すぐ2軒先に2階がチャペルになっている「ルイード」をオープン。「フェルミエール」の1階と2階を合わせて、3会場とチャペルを持つこととなった。毎月平均して二次会を含め、15件の結婚式を行っている。

 結婚式に必要なチャペル、控室といった付帯設備がそろっており、牧師、聖歌隊、オルガニストも手配できるので、キリスト教式結婚式が可能。宗教性のない人前式も対応する。

 ウェディングドレス、写真家、花、招待状などは持ち込み自由でその料金もかからないので、ドレスは母親のリメイク、記念写真は親類のおじさん、ブーケは友人の手づくり、招待状は自作といったカップルもある。

 低予算で手づくり感あふれた結婚式が可能なわけだ。1人あたりの予算は2万5000円ほどで、巷間の半額で挙式ができる。なお、通常の営業は1階の「ブラッセリー・フェルミエール」で行っており、顧客単価はランチで2500円、ディナーで5000円ほどであるから23区内に比べれば格段に安い。

 近くにある谷保天満宮と提携しており、和の神前結婚式も可能。この場合、店に戻ってお色直しの後披露宴となる。

 また、国立市内の系列店に懐石料理の「呼福庵」、割烹「大魚菜」を擁しており、フレンチのコースに和食を入れることも可能である。 

「フェルミエール」は桜の名所でもある大学通りに面し、3月、4月の予約はもう来年まで入っているそうだ。10月、11月の紅葉の時期もニーズが多い。

「ウチは料理がおいしく、アットホームで、安くという、レストランウェディングの王道を行きたい」と田中部長。

 こちらはゲストハウス的な要素を備えながらも、レストランウェディングの原点を守った営業を行っていると言えるだろう。


飲食店ならスマートな出会いと結婚式を演出できる

 さて、婚活バー、ハウスウェディング、レストランウェディングの特徴ある店を見てきたが、共通するトーンは箱に高級感があっても必要以上にお金が掛からないということと、浮ついた感じがなくて落ち着いた雰囲気だろうか。

 婚活バーの単価は決して安いわけではないが、キャバクラとは変わらないし、結婚相談所などに比べれば破格に安くて、出会いのチャンスも多いと言える。

 また、秋葉原のフレンチレストランなどで1万円ほどの料金を取り、“合コン以上お見合い未満”の少人数マッチングパーティー「カフェコン」を提供する、待人心という会社がある。これは会員数が増えすぎてかえって選びにくくなった、マッチングパーティーやサイトへのアンチテーゼと言えるかもしれない。

 ハウスウェディングの新鋭ノバレーゼは、派手になりすぎたハウスウェディングのアンチテーゼとして登場し、晩婚カップルをターゲットに、モダンジャパニーズの空間を提案して新境地を開いた。居抜きの手法でのリニューアルや、平日はレストランとしてゲストハウスを活用するやり方も斬新だ。

 レストランウェディングの「フェルミエール」は、チャペルを新設、神社とも提携して洋式・和式どちらの結婚式にも対応できる体制を整えている。しかも、フレンチの店でありながら近くの系列和食店シェフの応援によって、和食の提供も可能である。

 少し付け加えると都内の高級フレンチで、レストランウェディングで成功している、ひらまつの場合は、やはりデートに使っていた顧客から結婚式を店で挙げたいとの希望があってレストランウェディングを始めたとのこと。フランス料理の普及を使命としているオーナーシェフの平松宏之氏は、普段は「ひらまつ」に来ないような田舎のおじいちゃん、おばあちゃんまでもが自分の料理を食べてくれることに感動して、注力するようになったそうだ。


「ひらまつ本店」。

 最近はフランスにワインのインポート会社をつくり、自社レストラン向けにワインを直輸入している。なので系列店では、高級ワインが日本で通常売られている6割以下の値段で提供されている。このワインの価格革命効果も、ミシュラン効果と相まって、レストランウェディング需要増に貢献しているだろう。

 いずれにしても、ブライダルに関連するサービス強化は飲食店にとって、パーティー需要を高めて売上増に結びつけるチャンスを創り出す。空間デザインに自信のあるレストランは、婚活からウェディングまで、顧客を呼び込むプランを考えてみてはどうだろう。


【取材・執筆】 長浜 淳之介(ながはま じゅんのすけ) 2009年5月9日執筆