・パチンコ店から、「黒提灯」のアルバイトに
山本氏は中央大学を卒業後、公認会計士を目指して予備校に通いながら、パチンコ店でアルバイトを続けていた。2年後に方向転換する。
「もともと、幼稚園から高校までサッカーをやっており、仲間とはしゃぐのか大好き。そんな自分が、予備校時代は1日10時間以上も電卓を叩いていた。この公認会計士という仕事は違うな、と思いました」と山本氏。
「友人と飲んでいる時、こんな飲食店があったらいいな、というアイデアが浮かんで、これを作りたいと急に思いました。2日後にパチンコ店のバイトを辞めて、そこから1週間で外食企業9社を面接。受かった1つがダイヤモンドダイニング。当時のダイヤモンドダイニングは、たった6店舗。『VAMPIRE CAFE』、『迷宮の国のアリス』、『竹取百物語』など色んな業態を持っていて、僕のやりたいことの勉強が出来ると思って決めました。もちろん、経験もなくアルバイトからスタート。五反田の『黒提灯』のオープニングスタッフです。」
今でも、当時のアイデアを温め、秘密のまま誰にも話してないという。
・全店赤字のサンプールを2ヶ月で黒字化
新宿駅西口の好立地で居酒屋5店舗を経営するサンプールを、2008年6月にダイヤモンドダイニングは買収した。同社初の買収だ。全店赤字の現場を任されたのが山本氏。同社社長、松村厚久氏から2年間赤字続きだった会社を2ヶ月で黒字にするよう求められた。そして、それを実行した。
「最初、サンプールの社長を僕にしたいと言ってくれた。でも、初めてのM&A。上手く行かなかった時のリスクを考えて松村社長が立ってくれました。社長が壁になってくれ、実務は僕に任されました。目標は2ヶ月で全店黒字にすること。しかも、経常利益で20%以上。いつも社長はケツだけ決めて、その間については自分のやりたいようにやらしてくれ、ケツを合わせればいいというやり方です。」
「初めてサンプールの店に行ったのが、引き渡しの前夜の6/30の深夜。棚卸を兼ねて皆で店に行った。すると店長から『次の日から社員は1人も来ません。アルバイト1人もいません。ランチできませんよ』と告げられた。営業を休む気は毛頭なかったので、あわてて夜中に電話してスタッフを一気にかき集め、次の日のランチから始めました。1日も休まず、7/1から引き継ぎができたんです。そこから、4、5ヶ月間休みなしです。以前、社長から『今のうちに休んどけ』と言われたのはこのことだったんだ、と気付きました(笑)。」
山本は、統括部長として担当している店舗から自分の仲間を集めコスト管理を徹底して、2ヶ月で経常利益25〜26%に改善させた。現在もその利益率を維持しているという。
企画開発部長の河内哲也氏は、山本氏をこう評する。
「山本は、ダイヤモンドダイニングしか経験がない。社長の立てた目標に対して、直球しかない。勤務時間が長いなど、どんな不利益があっても、何が何でも目標に到達していく。ストレスなく目標に向かって行ける男です。普通の人は無理というが、既成概念がないからストレートに行ける。外食を他で経験した人はこうはいなかい。こうじゃないとか変なネガティブなフィルターにかけていく。山本は経営理念に対して純粋で、結果が期待以上。社長は、結果を超えた人間に対しては応える。山本はダイヤモンドダイニング・チルドレンです。」
サンプール「季の膳」(東京都新宿区西新宿1-19-5 新宿幸容ビルB1)。
「季の膳」 茨城県産美明豚と笠葱のせいろ蒸し 1800円。
「季の膳」 きたあかりのカマンベール入りコーンコロッケ 780円
サンプール「東府屋」(東京都新宿区西新宿1-16-7 アイ・ディ・エスビル1F・5F)。
「東府屋」 鮭の北海ちゃんちゃん焼き 1人前 880円(2人前〜)
「東府屋」 生つくねの大判焼き卵黄寄せ 580円
・資本金1億円のゴールデンマジック社長に
現在、ダイヤモンドダイニングはホールディング会社構想を持ち、子会社を多数立ちあげて幹部社員に経営を任せようとしている。サンプール、シークレットサービスを合併させず子会社のまま残した理由だ。今までは買収という手法を使ったが、今回の居抜き物件専門の新会社ゴールデンマジックは初めて新事業として立ち上げた。
5/1に設立。目標は、5年で100店舗、売上高100億円、店舗営業利益20%以上。
「ちょっと前に社長に恵比寿のもつ焼き店のレセプションに呼ばれて行ったら、『社長になるか』と言われました。4年しか働いておらず、飲食人、社会人としての経験もわずか。そんな31歳の僕に資本金1億円です。社長には感謝しています。社長と交わした目標は、何が何でも達成します」と山本氏。
「サンプールが成功した要因は、良い仲間たちと一緒に行けたこと。そして、無茶苦茶なスケジュールをこなしてくれた本部スタッフの存在です。ゴールデンマジックは、今の仲間である程度行けますが、そこから先一緒にやっていけるメンバーを育てられるのかが課題。今から考えています。それを考えて仲間との関係を維持するため、統括部長を兼務しています。店舗数が少ない間は、そこで育てるのにコストがかかる。ダイヤモンドダイニングも見つつ、そっちで人を育て、ゴールデンマジックに移籍させる。店舗数が増えた段階で、ゴールデンマジックで独自に採用して育てるつもりです。」
・チェーン化を念頭
6/17に開店の1号店「三丁目の勇太」は山本氏の独自開発業態。自分の名前も店名に込めた。11月までに5店が今年の目標だ。
「業態は自分で作ります。チェーン化を頭においているので、今期か来期の頭で良い業態があればブラッシュアップしてチェーン化します。リスクヘッジするため、同じ屋号で5〜10店です。コストを掛けないため外部のデザイナーは使いません。施工だけ外注で空家賃が発生しないように短期間で、初期投資をできるだけ押さえる。DMを作るのも1号店だけです。そして、良い仲間で運営し人件費を抑える。僕達が苦労する分だけ、お客様に還元できます。」
「居抜きは失敗している店なので簡単に行く場所ばかりじゃない。そこにマジックをかけて繁盛店に短期で変えられるか、です。」
「来期は15店以上、その次は30店以上。今期と来期で一杯仲間を作ります。僕は100店全部で営業に入ろうと思っています。今統括部長を担当している30店はどの店でも直ぐに営業に入れます。それを続けていきたい。収益は、誰が働いているかで変わります。現場スタッフとの連携を密にすることが大切です。」
ゴールデンマジックは現場主導型。コンセプトや内装、広報などの力も動員するダイヤモンドダイニングとは異なる。人間力と商品力で売る。
・新宿3丁目は「日本再生酒場」に勝ちたい
新宿3丁目に6/17開店の「三丁目の勇太」は、ラーメン店の居抜き。同ビル地下には、同社「九州屋」が営業している。厨房区画や床、壁、天井はそのままで、テーブルと椅子のみ新たに入れた。
「5/31に契約して6/17にオープンです。15日に内装引き渡し、16日レセプション、17日オープンと凄いスピード。6/1から家賃が発生するので一気にやりました。過去には夜中に皆で一気に改装して、翌日から新業態で営業したこともあります。」
「新宿3丁目はリピート率が高いエリア。古い店が流行っています。『野生の風』(現在は『九州屋』に改装し繁盛)の失敗で、新宿3丁目のお客様はどこにお金を使えば喜んでくれるのか、分かりました。純粋に口の中に入るものに金を使っていく。新宿駅東口は雰囲気で来てくれますが、ここは美味しいものを安く食べたいというお客様です。」
「原価率を上げて、頭を使って人件費を下げました。焼酎のボトルキープもダイヤモンドダイニングとは異なり、場所が狭いので4合瓶を10種に絞りました。グラス売りは週替わりで安く出していきます。その中には森伊蔵や伊佐美もあります。リピーターのお客様は、次に来たらグラスで飲める焼酎が変わっています。また、4合瓶は飲み切って帰る方が多いので、オリジナルで量り売りする芋焼酎については、帰り際に新たにキープしてくれれば1000円引き。次に来たら安く飲めます。リピーター対策です。」
新宿3丁目の雄、「日本再生酒場」に勝ちたいと闘志を燃やす。
「三丁目の勇太」外観。
「三丁目の勇太」レセプション時の山本勇太氏。
・1店1億円の壁を乗り越えられるか
1号店はわずか32席。目標は100店舗、100億円。1店当たり1億円の年商を予定している。
河内氏は「出店ペースは過去のダイヤモンドダイニングより早い。当面はマーケットをよく知っている新宿と山手線沿線。マーケットニーズにあった業態を出します。色んなところに店があるので、マーケットが読めます」と言う。
しかし、人間力と商品力、そしてリピーター客を狙うだけでは商圏は狭く、平均年商1億円は難しいだろう。広い商圏を取り込める居抜き店を開発することが、山本氏の次のチャレンジとなる。
外食は独立するだけが夢じゃない。外食企業の中でダイナミックに、多くの人の力を集めて、多くの人の記憶に残る業態や企業をチームとして作ることにチャレンジすることも素晴らしい夢。ダイヤモンドダイニングのホールディングカンパニー構想は、記憶に残る仕事をしたいと考える若い外食人にチャンスを与える試みとして高く評価したい。6/9付けで、同社取締役営業本部長、薬師寺祥行氏がシークレットテーブルの代表取締役社長に就任する人事を発表した。