フードリンクレポート


改正省エネ法で外食に広がるLED照明、ガスコジェネ、IH調理。

2009.7.1
「エネルギー使用の合理化に関する法律」(省エネ法)が改正され、年間使用エネルギー量が原油換算1500kl以上の事業者、外食ならおおむね15〜25店以上のチェーンは、今年度分の使用量を計算して、来年7月末までに経済産業局へ届出ることが必要となった。届出た事業者は中長期的(3〜5年)に見て、エネルギー効率年率1%の消費量削減が目標とされる。地球温暖化対策、二酸化炭素排出量抑制には国を挙げて、否、世界規模で取り組むべき課題であり、飲食業も蚊帳の外ではもう通らない。先進企業の取り組みを追ってみた。


サッポロライオン「かこいや」の環境大臣からの認定書。

客席照明に全てLED光源を使った日本初の居酒屋

 4月10日、霞ヶ関ビル「霞ダイニング」1階にオープンした「くつ炉ぎ・うま酒 かこいや」霞ヶ関ビル店は、日本初の客席照明に全てLED(発光ダイオード)光源を使った居酒屋である。


「かこいや」霞ヶ関ビル店 外観。


個室。


かまくらを模した半個室。


沖縄紅豚と彩り野菜の炉端蒸し2680円。

 業態としては宮崎県の地鶏「地頭鶏」、沖縄紅豚、その日の朝に獲れた魚を14の提携漁港から直送する旬の魚など、産地にこだわった和の炉端業態だ。きき酒師、焼酎アドバイザーも常駐している。顧客単価はディナー4000円、ランチ950円となっている。

 経営はサッポロライオンで、「かこいや」では18店目の店である。席数は85席。環境省より「平成20年度省エネ照明デザインモデル事業」の1つに選ばれている。 


環境大臣からの認定書。

 きっかけは「かこいや」各店のデザインを担当しているミクプランニングが環境省の省エネ照明デザインモデル事業を選ぶ委員と知己があり、チャレンジしてみないかと提案したこと。

 サッポロライオンはCSR(企業の社会的責任)の一環として、環境対策に力を入れており、面白いのでやってみようとなった。

 LEDを使えば消費電力は大幅に削減できる。しかし、冷たい感じのする光なので、暖かい空間の演出が必要な居酒屋には不向きではないかという懸念があった。だが、実際に店舗に入ってみると、その課題は見事にクリアーされ、古民家を再生した雰囲気とマッチして、全く違和感がない。

「照明関係者が照度計を持って、よくいらっしゃいます。LEDは居酒屋に向かないと思っていたけど、うまく作っている、LEDと思えないと言っていただいています」と、大木慎一支配人は手応え十分だ。

 細かい工夫は随所にある。まず、ベース照明ではなく、スポット照明を使用。テーブルならテーブルだけ、壁なら壁だけを照らすようにした。これによって、月光に照らされたようなやさしい陰影のある照明が実現。古材や土壁にマッチした暖かみある空間を創造することに成功した。

 また、普通にLEDで料理を照らすと青白く見えるため、蛍光灯の光に慣れた我々では、料理の見た目がおいしそうに見えず、テーブルを囲んでいる人々の顔も不健康に見えてしまうリスクがあった。そこは舞台照明用のやや黄色いカラーフィルターを張ることで、課題を解決した。

 問題点を挙げれば、ランチの時に心持ち照明が暗すぎるように感じられることと、テーブルの四隅が暗くて掃除の時に見にくいくらいで、調光ができない難点はあるが、大した問題があるとは思えないほどの完成度の高さである。


エントランスの照明。


電気使用料が従来の5分の1と劇的な省エネ効果

「前例がなかったので、デザイナーさんが秋葉原まで足を運んで照明器具を探したりしながら完成しました。居酒屋用LEDの照明器具は、今後もなかなか出て来ないでしょうから工夫が必要です。当店ではアルバイトも皆、LEDを客席照明に使った店だと知っています。1つ1つの備品を大切に使う意識も、高いですよ」と経営企画室広報担当の西村礼佳さんは、環境に対する意識が末端にまで浸透している効果を語った。


サッポロライオン経営企画室広報担当の西村礼佳さん。

 なお、厨房は素材の色がわからないと、味にも影響してくるので、従来どおり蛍光灯を使っている。

 電気使用料は従来の5分の1と劇的に改善しており、LEDの省エネ効果は明らかである。ただし、LEDがまだ普及していないので、電球の値段が従来の蛍光灯の10倍かかる。一方で電球の持ちは10倍と言われており、イニシャルコストは2年で回収できる見込みという。

 同社はこのほど農林水産省第17回優良外食産業表彰事業の環境配慮部門で、大臣賞を受賞した。その選考においても、「かこいや」霞ヶ関ビル店の取り組みが高く評価された。

「弊社では省エネはコスト削減とイコールと考えています。お客さんがお料理を残して生ゴミにならないように、地域性とターゲットを考え、おいしいものをベストな量と価格で提供するようにしています。発注も細かく管理していますので、廃棄率も改善されています」と広報の西村さん。

 2003年10月にオープンした札幌市の「サッポロライオン狸小路店」ではガスマイクロコジェネレーションを導入。05年6月にオープンした埼玉県川口市「リボンシティ」内の「ピッツア&パスタ工房 ジーオ・パンチェッタ」に太陽光発電設備を設置。05年のリサイクル率5.7%が、07年には24.8%に向上。町内会の清掃やビーチクリーンアップへの参加など、同社の環境への取り組みは多岐にわたっており、企業文化として定着している。

 LEDに関しては、電球が長持ちすることから今後は看板への使用も検討している。電球が切れた時に、クレーンを使うなどして取り替えるコストも、馬鹿にならないからである。


従来光源とLEDの併用で消費電力を約50%削減

 昼はカフェ、夜はバーと2つの顔を持つ「PRONTO」をはじめ「CAFFE SOLARE」、「PRONTO ILBAR」を09年4月末現在、直営・FCを含めて全国に203店舗展開するプロントコーポレーションでは、かねてよりCSR(Corporate Social Responsibility = 企業の社会的責任)を「Customer Smile Relationship」(笑顔の分かち合い)と定義し、その中で環境問題も「地球にもスマイルを」というメッセージに乗せて、環境問題の啓蒙を行ってきた。

 そのような中で、魅力的なデザインで、かつ環境にも貢献できる店作りをかねてより模索していた中で、今回の環境省「省エネ照明デザインモデル事業」の募集があり、応募したという。

 当該店舗は、2月23日にリニューアルされた本社ビル1階にある「PRONTO」品川店。客席照明にLEDを採用した。数値的効果では、従来の標準的な店舗と比較し、照度はそのままで消費電力を約50%削減。二酸化炭素換算において年間約7tの削減を見込んでいる。


「PRONTO」品川店


ナスとベーコンのスパゲティー。

 今回、このモデル事業を中心となり推進したディベロップメント本部店舗開発部設計監理グループの木村修リーダーは、「新たな照明計画の作成にあたってのコンセプトは『talk to the lights〜照明ともう一度向き合って語りましょう』という想いです。店舗内装をデザインする上で、演出効果を向上させる為には多くの照明器具を使用します。それは、近年当たり前の事として捉えられていますが、多ければ良いという訳ではありません。一つ一つの照明器具と向き合って、その効果や照らされる材質の力を引き出すという目的の元、『必要最低限(Simple is Best)』の照明で如何に空間演出が出来るかを再考しなければならなかったのです」と語る。

 光源を見直し、空間演出と省エネの両立を模索する中で、その手法のひとつとして、省エネルギーで非常に強い照度を得られる「LED」があった。しかし、飲食店で使用する場合LEDの演色性が料理を照らすには適さない。ところが、間接照明としては、素材の陰影や素材感を出す上で非常に優れている。結果として、導き出されたのは従来光源とLEDとの効果的な併用だった。

「従来光源では、空間を演出する重要な要素の一つである壁や天井に、折角いい素材を使っているにも関わらずその素材感の演出を効果的にできていませんでした。今回のLEDの採用により、壁面の素材を『透過光を用いたアクリル板』から『レンガ』に変更したバックバーは、レンガの持つ色彩や素材感の演出が特に効果的に演出できた箇所です。他にも、無駄な灯数の削減や、今までとは違った間接光を演出できるペンダントライトの採用なども行いました」(木村氏)

 同社では品川店を一例として照明の様々な手法を再考する事により、空間演出の向上及び省エネに成功できたと考えている。今後は、本事業で得られた結果を元に、今後の新店や改装を考える上での参考にしていきたいとのことだ。

「環境問題は何か新しいものに飛びつくばかりでなく、常日頃からの意識の持ち方や当たり前の行動が大切。省エネ照明の導入を機にそうした意識を社員からアルバイトまでチェーン全店にどう醸成していくかが永遠のテーマ」(同)としている。


ガスコジェネを軸に効率的なエネルギー使用を追求

 店舗の中にLEDを使った「かこいや」霞ヶ関ビル店、「PRONTO」品川店に対して、昨年から店舗の外の看板に導入しているのが、吉野家チェーンである。

 約1年の検証後、2008年3月より新店の出店と改装に合わせて、1億5600万円をかけ220店に導入した。看板に関しては約50%の省エネ効果があったという。

「LEDの売りは電球の寿命が長いことですが、本当に7年、10年持つのかどうか、まだ実証し切れていません。最近は5年とも言われてきました。蛍光灯の2年よりは長いですが、色がどのくらい落ちるものなのか。照度基準以下になったら換えないといけません。LEDといえどもメンテは必要で、部品代を含めればあまりコストメリットはないですね」と、吉野家CSR推進本部環境推進担当・廣田雅計部長。

 LEDは電球の値段がまだまだ高く、電気代は半減して二酸化炭素削減の効果は顕著だが、もう少し値段が落ちてほしいというのと、電球の性能が高まった決定的な商品が出てほしいというのが、本音のようだ。


「吉野家」のロードサイド店。


「吉野家」店舗はエコを意識して設計されている。

 看板をLEDにしたからといって、見た目は蛍光灯とほとんど同じで、全く判別できない。その点は問題ない。今年も看板のLED化を少しずつ進めていくが、さらなる積極展開は、店内照明への活用も含め、コストと技術が見合ってきた時になりそうだ。

 吉野家として、むしろ二酸化炭素削減とコスト削減の両立で、期待が高いのはガスコジェネレーションである。昨年は88店に導入した。

 これは店の裏にガスコジェネの機械を設置して、ガスを使ってタービンを回して発電し、電力を供給する。同時に今までボイラーで焚いていた洗浄に使うお湯を、余熱で沸かすことができるので、全体のエネルギー効率が高まる。しかし、これも原油高になると、ガス代と電気代の逆ザヤが生じてしまうのは、悩むところだ。とはいえ、LEDとガスコジェネが、エコに関する2大策であることは変わらないという。 

 そのほか、単価はまだ高いが、冷暖房の効率を良くする、断熱材、被覆ガラスの使用も検討していく。自動販売機を設置している店では、夜だけ照明が光るエコベンダーに切り替える施策も行っている。

 また、給湯の水温は現状42℃であるが、38℃〜39℃でも洗浄効果が変わらないので、全店で39℃に下げ、機械の中にある予備電源を夏場は不要なので切るといったことを直営約700店で実践すれば、かなりの省エネ効果が生まれる。

「地方自治体で行っている『省エネ無料診断』を受けると、今まで気づかないことがわかってきて非常に参考になります。エアコンの排気ダクトの位置を変えたり、衝立を置いたりするだけで性能が上がるというようなことを、学ばしてもらいました」と廣田部長。

 吉野家チェーンでは環境問題への貢献を、コスト削減を前提としながら、今後も調理器具の改善もを含め、多彩に取り組んでいく姿勢で進むという。


厨房のIH化により二酸化炭素排出量を半減させる

 厨房を電化することで省エネに取り組んでいるのは、リンガーハットだ。同社では、長崎ちゃんぽん「リンガーハット」チェーンの中華レンジ、湯沸かし器、洗浄器などの厨房機器を順次ガスからIHに変えている。二酸化炭素排出量はIH厨房導入によって48%減と劇的に削減できる。


「リンガーハット」店舗の外観。


「リンガーハット」の電化厨房 小サイズ。

 最近のIHヒーターの熱量が上がって、性能がガスと遜色がなくなった。それどころか、ガスを使うと輻射熱の拡散が多く、エネルギー効率が悪い。それに対してIHだと加熱させたいものだけを加熱できるから省エネになり、環境に優しいという理由がある。

 また、ガス厨房だと、夏は冷房をかけない状態だと厨房の温度が40℃にも達し、ホールまで熱風が来てしまう。そこまで暑くなるとエアコンをきかせても冷えないし、汗をかくのが不快なのを、IH化によって解決をはかった。

 さらに、ガス器具で調理すると中華鍋を振る技術も難しい。そこでリンガーハットでは、傷みやすい白菜以外の野菜は全て、佐賀と静岡県小山の工場であらかじめカットしたものを店舗に輸送。各店では、「オートパンシェフ」というドラム式の野菜炒め器で野菜を炒め、それを小鍋に移し、片手鍋で煮込み調理をして、長崎ちゃんぽんを完成させる方式をとっている。


富士小山工場の外観。

 この手順なら、アルバイトの女性でも味のバラつきがなく、長崎ちゃんぽんを調理できるのだという。提供時間もIHヒーターに変えることで短縮できたという。IH化への取り組みは既に10年以上になり、「リンガーハット」全454店中180店ほどをガス厨房から転換している。

「洗浄器をIHに変えるだけで60万〜100万円の投資がかかりますし、FCの店舗までは強要できないですが、将来的には100%を目指していきたい。環境に優しいだけでなく、従業員が働きやすくなり、品質のバラつきがなくなって提供時間が早くなるのは、お客様にとってもメリットが大きいですからね」と、リンガーハット執行役員CSR推進室長兼品質保証部担当・深浦義輝氏。

 工場のほうは2005〜06年に導入したコジェネレーションの設備によって、廃熱を利用して電気を起こすなどの活用を行っている。今年4月にはこの功績により、農林水産省総合食料局長賞を受賞した。

 このほか、全店で持ち帰り用の発泡スチロールの容器を紙に変更、割り箸をリユースできる洗い箸に変えるといったような、環境対策をできるところから始めている。

 今後は店舗で使う電球をLEDに変えたり、ダウンライトの白熱灯から蛍光灯に変えたりといったことにも取り組んで、パート、アルバイトの次元まで、ISO14000の環境基準に合わせた店舗づくりの意識を浸透させたいとしている。


多店舗展開する飲食店は環境対策が必須となった

「エネルギー使用の合理化に関する法律」(省エネ法)の改正により、年間使用エネルギー量が原油換算1500kl以上の事業者は、今年度分のガスや電気の使用量を計算して、来年7月末までに経済産業局へ届出ることが必要となった。

 外食はおおむねの目安としてFCを含めて、ファミレスなら15店、ファーストフードの店なら25店以上のチェーンは、届出が必要である。届出を行った特定事業者、特定連鎖事業者は3〜5年中長期的に見て、エネルギー効率年率1%の消費量削減が目標とされる。

 届け出ない企業、削減目標に到達できない企業は、上限50万円の罰金が科せられるとともに、違反した企業名が公表されるペナルティが付いてくる。罰金の金額こそたいしたことないが、企業名が公表されることで「環境を考えない会社」との悪しきレッテルが張られ、イメージダウンにつながるだろう。

 一方でリーマンショック以降の冷え込んだ消費者マインドにより、外食を巡る環境は依然厳しく、新たに投資するのもたいへんである。環境に優しい照明や厨房を導入しようと思えば、かなりのお金がかかり、かつ需要が見込める環境対策商品には、それを製造するメーカーもやすやすと値段を下げるとも思えない。そこに厳しさがある。

 しかしLED電球が従来の半額になるなどの動きが出ているので、まだまだ蛍光灯に比べれば非常に高いが、コスト面は注視していく必要があるだろう。

 現実的な対応としては、まず自社の店舗、工場、事務所で使った電気代、ガス代を集計。そこから原油何リットルに相当するかをきっちり計算する必要がある。あまりに計算が煩雑な場合は、専用ソフトを導入して自動的にパソコンで割り出せるようにすることも必要なケースが出てくるだろう。

 エネルギー効率年率1%の消費量削減については、店舗、工場、事務所の増減に比例して削減することが求められる。ということは既存の店舗はもちろん、新規に出店する店舗はなおさら、環境を意識した店づくりが求められるわけだ。

 まず今年は企業内の全年間使用エネルギー量を把握するとともに、地方自治体の省エネ無料診断などを受けて、冷房の温度をほんの少し上げたり、温水器の湯温を1℃下げたりするだけでも、かなりの効果が見込めるはずだ。

 本特集で挙げた企業の取り組みを参考にしながら、コスト削減、従業員や顧客に対する満足度アップにも効果がある、省エネに取り組んでほしい。


【取材・執筆】 長浜 淳之介(ながはま じゅんのすけ) 2009年6月23日執筆