・本格的なこだわりの味をストリートで
トラックを使った可動式店舗のデザート店が増えている。以前から、ソフトクリームや軽食と共にドーナツやクッキーを売るベンダー(屋台)はよく見かけたが、最近はレストランやケーキショップで提供されるようなこだわりのデザートを販売する、デザート専門のベンダーが人気だ。
本格的なデザートのベンダーとして1年余り前に登場して以来ファンを増やし続けているのが、その名も「DESSERT TRUCK(デザート・トラック)」。この店は、NYのフレンチレストランの名店「Le Cirque(ル・サーク)」のパティシエと、コロンビア大学のビジネスクールの学生が共同で立ち上げた。
可愛らしいデザインのトラックは、街中で目を引く。
アイスクリーム・塩味のキャラメル・プレッツェルがのった温かいブラウニーや、表面をキャラメライズさせたクリームブリュレ、ローズマリーのクッキーとベリーが添えられたゴートチーズのケーキ、などといった本格的なデザート5〜6種類が、$5〜6というリーズナブルな価格で楽しめる。
一番人気の「WARM MOLTEN DARK CHOCOLATE CAKE」($6)
このチョコレートケーキは熱々で、その上にバニラアイスクリームが乗せられる。溶けたアイスクリームと、ケーキの中の思いきり濃厚なチョコレートが混ざり合って、かなりリッチな味わい。オリーブオイルのガナッシュやシーソルトを使ってアクセントが加えられていてまさにパティシエが作る本格的なデザートの趣き。
「WARM CHOCOLATE BREAD PUDDING」($5)。盛り付けも美しく、本格的。
Time Out誌のEat Out Awards2008では、読者が選ぶ「Best Mobile food」に選ばれた。
基本的に一人で、デザートの仕上げ、接客、移動をこなす。トラックには、冷蔵庫、ウォーマーが完備されていて、機能的なミニキッチンといった感じ。注文してから、受け取るまでは2〜3分程。アイスクリームを乗せてソースをかけたり、ブリュレの表面をバーナーで焦がしたりと、最後の工程をトラック内で行う。
どれも、レストラン、しかも高級フレンチレストランのデザートメニューといっても不思議でない味わい。この味で、この価格というのはかなり値打ち感がある。紙のカップとプラスチックスプーンで食べるのが申し訳ないくらいだが、この本格的な味をとことんカジュアルに頂くというのがNYスタイルなのかもしれない。
こちらは、マンハッタンでデザートを販売するトラックの草分け的存在、「Treats Truck」。
「Sugar」と名付けられた店舗のトラック。
2年前にオープンした焼き菓子専門のベンダーで、焼きたてのクッキーやブラウニー、クリスピーなどの約15種類のレギュラーメニューと、日替りのスペシャルメニューを販売している。価格は、1個$1〜3。デリバリーやケータリングも積極的に行う。
人気メニュー「Oatmeal Jammy」(各$1.25)。オートミールを使ったクッキー生地の中央にジャムの乗せて焼き上げたもの。
「Raspberry Brownie」($3)。ラズベリージャムを生地に練りこんだブラウニー。
「Caramel Creme Sandwich Cookies」(各$1.75)。中に挟んであるクリームはかなり甘いが、バターをたっぷり使ったサクサクのクッキー生地とよく合い、クセになる味。
どれも日本人にとっては非常に甘いが、ニューヨーカーにとっては休憩時間のちょっとしたおやつに欲しくなる味のようで、ティータイムにも列ができる程の人気。
午後3時に、スーツを着た会社員の男性たちが甘いお菓子を求めて列を成す様子は印象的。
同様にトラックを使って、ベルギーワッフル専門店を開いているのが「Wafels&Dinges」。店名の「Wafels」はワッフル、「Dinges」はその上に乗せるトッピングを意味してる。サクっとした甘くない生地(Brussels Wafel)と、もっちりした甘みのある生地(Liege Wafel)の2種類から生地を選び、10種類以上のトッピングから好きなものを乗せる仕組み。オーダーを受けてから生地を焼くので、熱々のワッフルが楽しめる店だ。
遠くからでも目立つ鮮やかな黄色のトラック。
注文をすると、その場で生地を流し込み焼き始める。
甘くない生地(Brussels Wafel)を焼いているところ。
熱々で、サクサクの生地が目の前に並べられる。
「Brussels Wafel トッピング:ストロベリー、メイプルシロップ、ホイップクリーム」($7/生地:$5、トッピング:$2)。サクサクとしたライトな生地なので、見た目より重くない。
デザートワッフルだけでなく、甘くない方の生地に野菜の惣菜やグリルドポークなどを乗せたランチ用のワッフルもある。ワッフルのボリュームもあるので、惣菜が乗るとランチとして十分な量。
軒先を利用した、メニューボード。
この日のランチタイムの出店は、ミッドタウンのオフィス街の中心。52th streetの、6thと7th Avenueの間。
この日の出店エリアは、ベンダー激戦区。昼休みの時間ともなれば、道の両側にベンダーが軒を連ねる。他のベンダーで購入したランチのデザートに買っていく人もいれば、ランチ用に甘くないタイプのワッフルを買って行く人もいて、終始賑わっていた。
・時間帯ごとにロケーションを変えてターゲティング
出店場所を簡単に変えられるのが、トラックベンダーの強み。提供したいターゲットに合わせて、前述の各店舗は一日に2〜3ヶ所の場所を移動している。
ランチタイムは、どこも大体オフィス街に陣取る。時間に追われるマンハッタンのニューヨーカーには、簡単に買えて、オフィスでも食べられるベンダーフードが好まれる。そのランチのデザートにと、ランチベンダーと並んで、デザートベンダーもミッドタウンを中心としたオフィス街に出店している。
ランチタイムの「Wafels&Dinges」
そして、午後〜夕方は学生街やアップタウンの主婦層が買い物をするエリアなどへ。夜は、若者が集まるヴィレッジ〜ダウンタウン周辺に移動する。「Wafels&Dinges」は夜の10時まで、「DESSERT TRUCK」に至っては、なんと午前2時まで営業している。「Treats Truck」は、週末にはブルックリンの郊外へ出店する。
遅くまで若者で賑わうイースト・ヴィレッジ脇のセントマークス・プレイス、深夜12時頃の「DESSERT TRUCK」。
深夜にはさすがに列はできていなかったが、コンスタントにお客が足を止める。飲んだ帰りに甘いものをという人や、バイト帰り風の若者が購入していく。酔いを覚ましながら、美味しいデザートを外で食べるのも悪くない。ただ、深夜12時を回ってからあの本格的なヘビーなデザートを食べるとは、さすが甘いもの好きのアメリカ人である。
・あのデザートの有名店もテイクアウト専門店をオープン
デザートだけのコースメニューが食べられることで有名な、デザート・バー「ChikaLicious(チカリシャス)」も昨年、テイクアウト専門店「Dessert Club ChikaLicious」を「ChikaLicious」の向かい側にオープンさせた。
「ChikaLicious」は、アメリカのデザートを、フランス料理のようなプレゼンテーションで、かつジャパニーズポーションで提供するというのがコンセプト。非常に繊細で優雅なデザートをコース仕立て(プリフィクスコース$14)で、デザートワインやシャンパンと共に楽しむことができる。そのテイクアウト専門店「Dessert Club ChikaLicious」では、繊細で上品な味はそのままに、「ChikaLicious」のデザートをカジュアルに、しかも手頃な価格(プディング$3.5、チョコレートケーキ$4.95等)で楽しむことができると大評判だ。
「Dessert Club ChikaLicious」の店内。テイクアウトがメインだが、店内で食べることもできる。平日は深夜まで営業。
「NY Style Cheesecake」($4.95)滑らかなチーズクリームの上に、細かく砕いたグラハムクラッカー、甘く煮たストロベリー、生クリーム。アメリカのチーズケーキと比べると非常にライトな食感で、手間のかかった繊細な味。
「Brioche Bread Pudding 」($3.5)プリンの中央にはカットしたブリオッシュ。プリン生地を十分に吸ったブリオッシュが美味。その他にも、カップケーキやアイスクリームも人気がある。
・競争が激化するフローズンヨーグルト市場
これからのシーズン、ニューヨークの街角ではアイスキャンディやソフトクリームを舐めながら道を歩く姿が多く見られるが、最近はこの光景にフローズンヨーグルトが欠かせない光景になってきている。暑い日に、さっぱりとした冷たいフローズンヨーグルトを食べるのはたまらない。
よく知られているブランドだけでも6〜7社が店舗数を拡大しながらしのぎを削るフローズンヨーグルト市場。主なブランド名は、「Pinkberry」、「red mango」、「Yolato」、「Berrywild」、「Flurt」、「Yogurtland」、「16 Handles」など。この戦いは、“fro-yo war”=“フローズン・ヨーグルト戦争”(fro-yoは、Frozen Yogurtの略。)とも呼ばれ、マンハッタンの中でも特にこの1年くらいの間に、さらに激化しているようだ。ヴィレッジなど、若者の集まるエリアには、歩いてすぐの距離に違うブランドの店が何店も軒を連ねる。
マンハッタンで人気のフローズンヨーグルト専門店「Pinkberry」のORIGINAL(プレーン味)Lサイズ、トッピング3種($7.85)
形はソフトクリームのようだが、クリーミーさはあまり無くフルーツ系のジェラートに近い食感。味は非常にさっぱりしている。フルーツやチョコチップ、シリアルなどを何種類かトッピングして食べるのが主流。
同じくフローズンヨーグルト専門店「Flurt」のトッピングブース。健康志向のニューヨーカー向けか、シリアルのトッピングが充実している。
天気の良い日は長い列ができることも。男性が一人でMサイズやLサイズを食べている光景も目にする。
・“guilt free(罪悪感ゼロ)”の誘惑
何と言っても、最大の人気の理由は“低カロリー&ヘルシー”。依然として、肥満が大きな社会問題であるアメリカ。でも、デザート好きはやめられない。といわけで、デザートにおいても“低カロリー&ヘルシー”は大きなキーワードなのだ。
どのブランドも、プレーンタイプ、スモールサイズ(120g程度)のフローズンヨーグルトは約100〜150kcal。そして、fat free(無脂肪)、材料はall natural(全て自然素材)、no cholesterol(ノンコレステロール)などを売りにしている。各社とも、フルーツのトッピングはとりわけ充実していて、フルーツをたっぷりトッピングすることで、ビタミンも摂れてさらにヘルシーだと謳う。その他にも、牛乳より消化に良いことや、乳酸菌の働きを詳しく解説するリーフレットもあった。これらのブランドの多くが揃って、“guilt free(=悪感ゼロ)”と広告しているのも面白い。
トッピングのフルーツの風味と甘さも加わると、立派なデザート。満足感もあり、これで100kcal台なら、まさに罪悪感が無くまた食べたいと思うに違いない。さっぱりした味が好きな日本人に好まれる味ではないだろうか。
徹底しているのが、その主張の仕方。各ブランドとも、店舗のメニューやホームページ、フライヤーなどで、カロリー表示はもちろん、脂肪分や糖分などその他の栄養表示も強調。ブランド名入りで、他社のアイスクリームとの比較表まで載せているブランドも。いかに、他社よりカロリーが低いか、ヘルシーかを競い合っているのだ。
店内に貼られているポスター。しきりに、ヘルシーで体に良いことをアピールしている。
・多い共通点。急成長後、差別化が今後の課題
急激に店舗数を増やしているフローズンヨーグルトブランド各社であるが、全体的に共通点が多い。ビジュアルは見ての通りで、味もはっきり言って、殆ど変わらない。プレーン以外のテイストが、グリーンティーやザクロだったり、店舗のデザインは明るくシンプルでオシャレという方向性もほぼ一緒だ。
マンハッタン内に7店舗を展開する「red mango」は、2002年韓国で会社設立後、2007年7月にアメリカL.A.へ進出し、2009年6月現在、進出後わずか2年でアメリカ国内の店舗数は60を超えた。そして、後発にしてそれを凌ぐ勢いで急拡大したのが同じく韓国系の「Pinkberry」。「red mango」がフローズンヨーグルトの元祖は自社で、「Pinkberry」のコンセプトを盗んだのは「Pinkberry」だとか、「Pinkberry」のロゴや商品名を他社が真似したなど、各社間で裁判沙汰にまでなる程、熾烈な争いが繰り広げられている。
「red mango」のORIGINAL(プレーン味)Sサイズ($2.95)+トッピング2種($1.25)
「flurt」のORIGINAL(プレーン味)サイズ($2.95)+トッピング2種(各$0.95、計$1.9)。手前のトッピングはグラノーラ。シリアルもフローズンヨーグルトとよく合うので人気のトッピング。
「Berrywild」のPOMEGRANATE(ザクロ味)Sサイズ($3.7)+トッピング2種(各$0.95、計$1.9)。
キウィと共にトッピングしたのは、MOCHI。文字通り餅で、味は甘く、大体どのブランドでもメニューにあるトッピング。
「Berrywild」のGREEN TEA(抹茶味)Sサイズ($3.7)+トッピング2種(各$0.95、計$1.9)。抹茶味といっても、ほんのり香る程度。
どのブランドも、ポップでオシャレな外装、内装が印象的である。
「red mango」の店内。
「Pinkberry」の店内。
「Berrywild」の店内。
「Pinkberry」のファサード。
スーパーなどにオリジナル商品を卸したり、フランチャイズにも力を入れている「Yolato」。
差別化のポイントが少なく、価格競争になりつつあるフローズンヨーグルト戦争だが、これからの夏本番を前にしてさらに激しさを増しそうである。
→「DESSERT TRUCK」
→「Treats Truck」
→「Wafels&Dinges」
→「Dessert Club ChikaLicious」
→「red mango」
→「Pinkberry」