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やきとり大吉「STYLE通信」
生業(なりわい)オーナーの心を掴む。
ダイキチシステム株式会社

2009.7.15
辻成晃氏が1977年に創業した「大吉」。直営店は一切持たず、わずか月額3万円の定額ロイヤルティ制度で全国に約900店舗もの加盟店を持つ。その強さは辻氏が説く生業(なりわい)商売術。本部の役割は情報管理に徹し、生業オーナーを活きた情報で刺激している。


「大吉スタイル」の編集人、池努氏(店舗開発部長 右)と、近藤隆氏(東京本部 取締役本部長)。

あけっぴろげなクレーム記事

「大吉」本部であるダイキチシステムの登録業種は、飲食業ではなく情報管理業。直営店も運営しておらず、フランチャイズ協会にも加盟していない。

 同店のロイヤルティは定額で月額わずか3万円。他にかかるのは、専用グリラーの使用料1万円のみ。酒販店の指定と酒類でサントリー製品の扱い義務はあるが、仕入れは自由。加盟対象をあくまでも個人としている故のシステムだ。創業者、辻氏が説く生業商売、生計を立てるための商売にこだわる。ビジネスではない。従って、法人からの加盟は一切受け付けない。

 オーナーには「大吉」の看板を貸してくれるが、後は本人のやる気次第というチェーン。やる気を確認するために、辻氏と現社長の牟田稔氏の両名で最終面接を行う。少ないロイヤルティの中で本部は運営しており、取引酒販店に管理を担当してもらうなどコスト削減を行っている。ロイヤルティを売上高の歩合で求め、スーパーバイザーを定期訪問させるようなチェーンとは全く異なる。

 オーナーと定期的なコミュニケーションを図る手段として活用されているのが、「大吉STYLE通信」というA4サイズの小冊子。1998年12月から毎月発行として始まり、2004年7月からカラー版、隔月発行に変わった。加盟店、取引酒販店、加盟希望者などに1600部が配布されている。


1998年12月創刊「ネットワーク大吉」。「大吉STYLE通信」の前身。


「大吉STYLE通信」第1号。辻成晃氏のコラムが表紙を飾る。

 最新の2009年7・8月号を見ると、社長の牟田氏が携帯メールの効果を説いたコラムが表紙で、会長の辻成晃氏の1週間の食卓日記、創業当時の大吉店主から本部の専務に転身した西川喜啓氏の接客についてのコラムと本部からの連絡事項。

そして、驚かされたのが、「店主が厨房で動物を飼っており、動物を触った手でそのまま調理していた」というクレーム紹介。ホームページから書きこまれたクレームで、本部から問い合わせてもお客は店舗名を明らかにしてくれなかった。そこで、「大吉STYLE通信」にて当たり前過ぎる注意喚起と合わせて公開捜査に踏み切った。

「どうしても動物を飼いながら商売がしたいなら、大吉グループから退会して頂きます。当たり前の話です。該当店舗は名乗り出て下さい。迅速に対応いたします」と締めくくってある。


2009年7・8月号「店内に動物!?」の記事。


生業オーナーに読ませる術

 かつては、本部から伝えたい情報がある度に手紙やハガキを送ってきた。その後、「STYLE通信」の前身「ネットワーク大吉」に変わるが、2色刷りだったこともあり、表紙の辻氏のコラムしか読まれず、中面は見られていないという状況。記事も毎号かぶっていた。読ませることを意識して生まれたのが「大吉STYLE通信」。カラーにすると同時に、写真やイラストを使ってビジュアルで注目させる手法に転換。

「よく売っている店の話は参考にはなるが、切り口が同じだと読んでくれない。最も読んで欲しい売上の悪い店は、良い店のことを書いても響いてくれない。商売は貪欲にと思いますが、ゆっくりやっていけば良し、と思っている人もいます」とリニューアルさせた店舗開発部長 池努氏は言う。

 池氏の改定で人気のコーナーが「他山の石」。外に出かけられないオーナーに変わって、流行っている店に出かけ、大吉のエッセンスを知っている人間が見たらどんな店か、という視点でレポートしている。印象の良くなかった店は店名を伏せる。

 09年5・6月号の「他山の石」では、大吉の新メニューで手羽先唐揚げ「てば吉」に関連して手羽先専門店2店を取材。手羽を掴む指がスパイスで黒くなるのにおしぼりを持ってきてくれなかった。もう1店は鶏肉がスカスカだったとレポート。自店の「てば吉」は自信を持てる、しかし、もっとパウダーをかけ、おしぼりも必ず提供しようと締めくくられている。思わず読みたくなる内容だ。他店の悪い話題の方が読者は面白い。


2009年5・6月号「他山の石」の記事

大吉カード、携帯メール

 さらに、続く大吉の仕掛けは、全国の「大吉」で使える大吉カード。2003年から発行しているが、取引業者が店舗チェックで店舗を訪問する際の謝礼としてスタート。その後、ホームページのお客様アンケートの謝礼として毎月抽選で100名に送っている。月間約1200件の応募があると言う。当選者が友人を連れて店舗に来てくれ、他のお客も大吉カードに関心をもってもらえる。カウンター中心の狭い店ならでは。最近は、自店の販促用に購入し、来店客に配るオーナーも増えている。


大吉カードとそれを入れるポチ袋。

 ちなみにお客様アンケートにはクレームが来る場合もあるが、こんなメニューが食べたい、あのメニューを復活して欲しいなど貴重な意見が多い。同じような意見が違うタイミングで来ると重く扱うそうだ。同じ店で同じタイミングだと隣に座っていたお客かもしれないと考える。

 さらに、本部は携帯メールシステムを作り、各店での携帯メールの活用を勧めている。200店が利用し、店によっては月に1度や、毎週発行し、全国で月間5万5千件のメールが配信されている。個人オーナーの懐具合を考慮して、利用料は年間わずか1万円。
 
 1店平均にするとメール送信リストは100〜110件と少ない。しかし、メール文章はオーナーのパーソナルな、顔が浮かんでくる内容で、集客に繋がっている。例えば「自分の子供が生まれたのでお祝いに飲みに来て!」、「アルバイトの○○君が学校を卒業します。送別会に来て下さい!」など。本部からも文例集が送られる。先般の新型インフルエンザでお客が減った関西で、「マスクをしてご来店の方に生ビール一杯サービス」とメールした店があったそうだ。ユーモアの分かるお客で売上げが倍増したという逸話もある。


20代のオーナーが減っている

 大吉の加盟店募集は、辻会長の書いた『なりわい語録』『金のない人こそ経営者になれ』などの書籍に頼ってきた。オーナーの平均年齢が上がり、高齢者のオーナーの店舗で自然減が始まっている。長い人は30年以上続けている。現在の最高齢オーナーは72歳。他店より営業時間が短く休日も多くてもかまわない、と本部は許可している。

 そこで、若いオーナーを発掘するために、ホームページを強化し、資料請求できる仕組みに変えた。さらに、若いオーナーが興味を持ってもらえるよう、明るい内外装でカクテルを取り入れるなど若いお客を意識した店舗改装も始めている。ただ、改装費用はオーナー持ちであり、ペースが遅いのが現状。


新デザイン店舗。「やきとり大吉 東三国店」2009年2月15日開店。



メニュー。5品まで店オリジナルメニューを加えても良い。きも80円、かわ100円、こころ120円、手羽先180円など(税別)。

「大吉」は不況に強い業態だ。客単価が安く、オーナーとお客との距離が近いから。この時期、既存店での売上高は前年並と、チェーン居酒屋とは異なり、不況知らず。接客力で伸ばしている店もある。生業商売だからこその強さだ。

 辻氏が創業者であり象徴として求心力を維持しているが、若いオーナー層に向けて「大吉STYLE通信」「大吉カード」「大吉メルマガ」と次々の策で、次世代の「大吉」のために着々と準備を行っている。


ダイキチシステム株式会社

【取材・執筆】 安田 正明(やすだ まさあき) 2009年7月6日取材