・横浜マリンタワーに勝負をかけたゼットンの狙い
今年5月23日にリニューアルオープンした「横浜マリンタワー」。このリニューアルのプランニングに中心的な役割を果たし、運営にあたっているのが、ゼットンである。
同社は発祥地の名古屋で「名古屋TV塔」、「徳川園」、「ランの館」、東京・日本橋で「三井記念美術館」のレストランを運営するなど、公共的施設でのレストランを積極的に手掛けてきた。しかし、施設全体を運営するのは初のチャレンジだ。
「横浜マリンタワー」は横浜開港100周年を記念して建設された灯台で、「氷川丸」とともに横浜のシンボルであったが、顧客減と老朽化で、運営会社だった氷川丸マリンタワーが2006年12月に、いったん営業を終了していた。
その後、横浜市が再生に乗り出し総事業費31億円で改修。ゼットンが地元の不動産会社リストを代表に、横浜エフエム放送、ティケイスクエアとの4社連合を組んで事業計画のコンペを勝抜いて、一括で運営することになった。灯台としての役割は終えて、外観は紅白からシックなシルバーに一新された。
地元に顔がきくリスト、地元メディアの横浜エフエム放送を巻き込んだのが大きく、高さ91メートルの29階・30階の展望台(大人750円、中高生500円、小学生250円、幼児200円、3歳未満無料)の入場者数は、オープン1ヶ月で6万人に達したという。ティケイスクエアはデザインを担当した。
リニューアル前は年間入場者数が最盛期の4分の1近くの27万人まで落ち込んでいたので、好調な再出発と言えるだろう。
レストランは1階にカフェ&ダイニング「ザ バンド」、バー「ミズマチ バー」、4階に「タワー レストラン ヨコハマ」が入る。
「タワー レストラン ヨコハマ」は日本における洋食発祥の地、横浜らしくフレンチとイタリアンをミックスしたような、コンチネンタル料理を提供。メインはオーストラリア産牛肉を使った、ローストビーフだ。ワゴンで席まで運んできて、シェフが顧客の目の前でカットする。
「タワー レストラン ヨコハマ」 テラス席。
「タワー レストラン ヨコハマ」 店内。
野菜と魚介類は地元・神奈川県産が中心で、三浦半島の野菜、サザエ、サクラエビ、三崎港のマグロなどがメニューに使われている。豚肉も神奈川県産の高座豚だ。デザートはクラシカルな、プリン・ア・ラ・モードなどとなっている。お酒はワインが主流。
客単価は、ランチ2500円、ディナー7500円。松本典子PRディレクターによれば、「ディナーは東京なら1万円くらいの感覚の内容なので、かなりお得」とのことだ。冬になって落葉するとテラスから港まで見渡せる、景色の変化が楽しめる。総席数は110席で、50代くらいの地元住民中心に、昼は満席という。
「ザ バンド」はパスタ、サンドイッチが楽しめるイタリアン中心のメニューで、山下公園側につくられた芝生に面したテラスが心地よいオープンカフェだ。
「ザ バンド」 外観。
「ザ バンド」 店内。
客単価はランチ1000円、ディナー2500円ほどで、約110席あり、昼は4〜5回転するほど好調な出足だ。ベビーカーを引いた夫婦、カップルなど顧客層は多様でテラス席は犬連れの人が多い。この店も地元食材を適時取り入れている。
「ミズマチ バー」はカクテルを売りにしたバーで、水町通りに面している。ハーブ、フレッシュフルーツ、野菜などをシェイクせずに潰して使うミクソロジストをバーテンダーに配して、新感覚の横浜のカクテル創造を目指す、意欲的な店だ。リキュールは基本的に使わない。
「ミズマチ バー」
カクテルを作るミクソロジスト
ラズベリーとローズマリーのマティーニ。
席数は38席で、ラズベリーとローズマリーのマティーニ、スモモとバジルのマティーニ、メロンとシソのモヒートなどが人気。1200円前後の価格設定で、東京に比べれば3割ほど安くなっている。
3階はウェディングを中心とした「マリンタワーホール」とチャペルに対応できる「アートホール」がある。横浜市自体が「横濱ウェディング」と称しウェディングに力を入れており、結婚すれば中田宏・横浜市長から電報が届く。
「マリンタワーホール」
「アートホール」
ウェディングのみならずセミナー、講演会、ピアノの発表会など多彩なニーズを発掘していく。
全般に、はとバスや修学旅行のルートになるなど反響は大きく、またレストラン需要は、みなとみらい線開通以来周辺にマンションが増えるなど街の人口増も背景にあって好調だ。
地元意識を考慮した食材選定、演出法、観光客だけに頼らない業態開発には見るべきものがあり、周囲にある「ホテルニューグランド」、「横浜人形の家」、「バーニーズニューヨーク」、「氷川丸」などと連動すると面白くなる。実際、「横浜マリンタワー」再オープン以来、閑散としていた山下公園通りに活気が出てきた。ゼットンは年間売上高10億円を目指すが、初年度は達成できそうな見通しだ。
・ゼットンとダイヤモンドダイニング、注目のコラボ
横浜駅西口に今年7月7日、ゼットンとダイヤモンドダイニングという、気鋭の飲食企業がタッグを組んだ、「DDZ-POINT」という新飲食施設が登場したのも驚かされた。外食産業で、このようなコラボレーション自体が珍しい。
ゼットンが相鉄グループより受注した物件であるが、ちょうど「横浜マリンタワー」のリニューアル・オープンが迫っており、2つ同時に大型プロジェクトをやり切るのが資金的に難しいと判断し、業態開発に強みがあり運営能力のあるダイヤモンドダイニングに声を掛けたのだという。つまりビルを建てたのは相鉄、プロデュースとデザインがゼットン、店舗の企画・運営がダイヤモンドダイニングである。
「DDZ-POINT」 夜の外観。
「DDZ-POINT」 昼の外観。
業態開発のプランはゼットンが相鉄側に提出したものがあり、それを元に両社が1年ほどかけて協議し、今日の形になった。
各階の構成は1階がビアバール「バックストリート・ブリュワリー」、2階がカフェ「セカンド・フロアー・カフェ」、3階が土佐料理「龍馬外伝」、4階が串揚げ「月夜の串五郎」で屋上「ハマカゼ・テラス」を含んでの営業だ。
全般に1階と3階はダイヤモンドダイニング色が強く、2階と4階はゼットン色が強い店になっており、その点でもコラボレーションになっている。
ゼットンの稲本健一社長は「弊社のまちづくりのノウハウを活かし、裏通りにあることを考慮して業態開発しました」と言えば、ダイヤモンドダイニングの松村厚久社長は「僕らは横浜に詳しくないし、今回はチャレンジする気持ちで臨みます」と謙虚だった。
「DDZ-POINT」のある一帯は横浜駅西口の南側、南幸地区にあたり、横浜駅ビルと、新横浜通りを越えた岡野地区の裏横浜と呼ばれるダイニングのメッカに挟まれながら、チェーン系居酒屋やカラオケボックス、キャバクラが多く、大人の集う飲食店がアイリッシュパブくらいしかなかった。
従って、駅と岡野を結ぶ動線をつくる役割が果たせるかがポイントとなる。確かにまちづくりの要素が強い業態開発は、ダイヤモンドダイニングにとっては新しい挑戦で、ゼットンの後押しがなければ手掛けにくかったかもしれない。
路面の「バックストリート・ブリュワリー」はベルギービールのみならず世界60種類のビールを取り揃え、ベルギービール業態を得意とするダイヤモンドダイニングらしい店と言える。料理は「ロティサリーチキン」(1300円)がメイン。各種洋風おつまみのほか、パスタ、カレー、リゾット、サンドイッチなども揃え食事のニーズも満たせる。スイーツもあり、使い勝手が良い。想定客単価2500円で、日曜を除き深夜4時まで営業する。席数は48席。
「バックストリート・ブリュワリー」
「セカンド・フロアー・カフェ」は横浜駅西口にカフェが少ないことを考慮した。1階から階段で上がれる。北欧風のデザインを意識し、「氷温熟成コーヒー」(450円)をメインに、スムージー、ラッシー、黒酢ドリンクなど各種ソフトドリンク、さらにはワインやビールの酒類も揃えた。
「セカンド・フロアー・カフェ」
ランチはカレーランチ750円から。パスタ、ライスボール、サンドイッチ、ハンバーガーのような軽食から、メインディッシュ、おつまみ、サラダ、スイーツまで豊富なメニューを誇っている。「ローストチキンとチェダーチーズのラップサンド」(880円)が売り。席数は45席で、想定客単価はランチ900円、ディナー1800円となっている。若い女性や学生をターゲットとしている。
「龍馬外伝」は都内の土佐料理が好調なことを受けての出店。46席で想定客単価は3500円。内装は土佐の民家をテーマに6つの個室を用意している。
「龍馬外伝」
「龍馬外伝」
「はちきん地鶏」の串焼き、鶏しゃぶ、すき焼き、水炊きなど鶏料理がメインで、「かつをの炭火塩たたき」などのかつを料理も味わえる。東京のような新郷土料理ブームが全くない横浜で、マーケットがつくれるかが注目される。
「月夜の串五郎」は肉、魚、野菜の40種類以上の創作串揚げを提供する店で、和風のみならずフレンチやイタリアンも取り入れ、ワインやシャンパンとともにおしゃれに楽しむ店だ。「アボガドと海老の明太マヨネーズ」、「バナナとチョコレート」など、面白い取り合わせの串揚げも多い。68席あり、想定客単価は3500円。ナラ材を使った床、黒い和紙を張った壁、江戸切子の照明、シックなレザーのソファーシートなど和と洋の融合したシックな空間が特徴。オープンキッチンのカウンターはシズル感がある。また、屋上の「ハマカゼ・テラス」は晴れた日には、運河の川風に当たりながら食事を楽しめる。
「月夜の串五郎」
屋上の「ハマカゼ・テラス」
今年後半には、銀座にあった日産自動車の本社機能が順次、横浜駅東口の新高島に移ってくる。従業員2500人にプラスして、接待などの飲食需要も新たに出てくるだろう。そうした時に、面白くなってくる可能性がある施設ではないだろうか。
・ハマボールの飲食はカラオケパセラ、叙々苑が主導
横浜駅西口では、横浜市民に36年間親しまれてきたアミューズメント施設「ハマボール」が再開発されて今年3月、「大人のためのリラックス・ビル」をコンセプトに、「ハマボール
イアス」として再登場したのも話題になっている。 旧「ハマボール」は老朽化のため、06年1月に閉館していた。LPガスのミツウロコの事業。ちなみにこの会社も東京が本社である。
「ハマボール イアス」は旧「ハマボール」から、大胆なターゲット変更を行っている。元はボウリング場を中心に、スケートリンク、ゲームセンター、バッティングセンター、飲食店が入り、若者の遊び場といった風情であった。
それに対して「ハマボール イアス」は、東京ドーム「ラクーア」がプロデュースした「横浜天然温泉
SPA EAS」が核店舗となっており、F1層と呼ばれる20代、30代のおしゃれでセンスのある女性をメインターゲットとしている。
「ハマボール イアス」
また、最上階8階にある装いを新たにしたボウリング場「ハマボール」、フィットネス「ティップネス横浜」、パーティーや結婚式二次会の需要に対応する多彩な飲食店も売りで、各店舗が強力な集客力を持つ、非物販を集めた施設となっている。年間来場者数約150万人、売上金額約30億円を見込んでいる。
さて、飲食店は10店あるが、そのうち4階の個室カラオケ「パセラ」とスイーツビュッフェ「ナチュラルレリーフ」、7階のダーツバー「ベノア」とカフェ「プルメリアカフェ」はニュートンが運営し、この施設の飲食の核になっている。
特に顧客ターゲットとぴったりの「ナチュラルレリーフ」はランチを中心に出色の集客という。残りの3店は全てパーティーに対応しており、「パセラ」は接待に使われるケースも多い。
「パセラ」 入口。
2階の「叙々苑」は意外にも横浜中心部では初の出店で、ランチが900円からと安く、施設内の飲食店でもトップクラスの人気だ。コックがカウンターで焼いて接客しながら提供する、鉄板焼スタイルを一部で取り入れており、接待での人気も高いという。宴会も現在は月曜の夜から入っているほどだ。
同じく2階の九州料理「くいもの屋わん 九州自慢」は、神奈川県が基盤のオーイズミフーズ「わん」の新業態店。九州料理やもつ鍋・水炊きを出す店が横浜では少なく、店長の研究熱心さもあって人気上昇中。料理目当ての固定客も多い。独自の仕入れを行っており、福岡市の魚河岸松茂から直送された朝どれの鮮魚、熊本直送の国産馬刺し、横浜のブランド豚「豚王」と鹿児島県垂水温泉水を使用した「豚王せいろ蒸し」など特色あるメニューが提供されている。ランチ800円から、ディナーは3200円を想定と値段も安めの設定だ。
「くいもの屋わん 九州自慢」
2階にあるもう1店串焼きと鶏料理「鳥どり」は、ダイナックによる備長炭で焼く焼鳥のチェーン店で1本190円からある。
1階は顧客ターゲットが施設全体と合致し、パーティー需要が多い店が3店路面で並んでいる。共に横浜駅周辺では貴重なオープンテラスの店で、運河沿いの道に面しており、川風を受けて食事が取れる。
「タパタパス」は地元横浜のアメリカンハウスによるスペインバル、スペイン料理店。横浜では希少な業態で、パエージャがランチ1000円で提供されるなど、値段もこなれている。
「タパタパス」
「ロジック」は石窯で焼くナポリピッツァや炭火焼イタリアンが売りの店で、イタリアンだけに横浜では競合も多いが、ピッツァの味の良さで一度訪れた人の満足度は高い。オオイズミフーズの新業態店だ。
「ロジック」
「リマプル アネックス」は、横浜で成長著しい飲食エリア鶴屋町の人気カフェ「リマプル」が出店。スタイリッシュな空間とアジアンテイストをきかせたメニューが目を引き、カフェ自体が少ない横浜駅西口で重宝されている。
施設全般に、折からの不況や駅から歩いて5分とはいえ、運河を越える利便の悪さはあるが、飲食店は全般に好調、ボウリング場も以前からの顧客も戻ってきて順調とのこと。
裏側には会社のオフィス、マンションも数多くあり、こと飲食に関しては見通しは非常に明るいと思われる。
・稲本=神谷ラインで横浜モアーズレストラン街再生
横浜駅西口と言えば、駅前北側「横浜モアーズ」8階・9階レストラン街リニューアルのインパクトを忘れてはいけない。
昨年8月に8階「ザ・ダイニング」9店、同年9月に「ザ・モスト」6店がオープン。10月には「横浜モアーズ」全館リニューアルが完了している。
「ザ・ダイニング」、「ザ・モスト」ともに、環境面を配慮し、東京駅前の「丸ビル」、「新丸ビル」のように、シックなデザインの中にもフリースペースに自由に座れるシートを配するなど、東京的なセンスで構成されている。
8階、「ザ・ダイニング」。
9階、「ザ・モスト」。タダで座れるこの場所は週末はカップルが取りあう人気。
特にインパクトが大きかったのは、夜向けのお酒が飲める業態を集積した「ザ・モスト」である。フロアーのプロデューサーにゼットン社長・稲本健一氏、デザイナーに神谷利徳氏を起用といったように、名古屋、東京でヒット業態をつくってきたゴールデンコンビの手になる、レストランコンプレックスだ。「新丸ビル」7階の「丸の内ハウス」をイメージしたとも言われる。
横浜における稲本氏の地位を確立した施設といって良い。ゼットン自身もアジアンフーズ&カフェ「A&P
ウィズ・テラス」を出店している。
「A&P ウィズ・テラス」
「ザ・ダイニング」は夜11時に閉店するのに対して、「ザ・モスト」は12時まで営業しているので、特に週末は終電間際の閉店ギリギリまで賑わう。
ゼットンの横浜初進出は、2006年8月にオープンした「横浜ベイクォーター」内に出店したハワイアンカフェ&ダイニング「アロハテーブル」。
「横浜ベイクォーター」の立地は「横浜そごう」に隠れるような形になっている不利な面があり、核店舗だったタラソテラピー「テルムマラン」が撤退するなど全般に苦戦しているが、「アロハテーブル」は横浜の客層に合っており善戦している。入居している飲食店の中で、坪効率は最上位の部類に入る。
その成功は評価されるべきものであり、確実に「ザ・モスト」へと引き継がれている。
「横浜モアーズ」営業チーフ・小島氏は「特に9階は改装してから非常に客層が大人っぽくなり、カップル、OL、女性同士でも来てもらっています」と、満足そうに語った。
6月11日にはゼットン運営のハワイアンビアガーデンを屋上にオープン。悪天候の日を除けば、200席が連日満席の盛況とのことだ。
ただし「ザ・モスト」は「週末の夜の集客は良いのだが、平日の昼にお客さんが入らないのは商業施設の店として改善の余地がある」(ダイヤモンドダイニング執行役員・企画開発部部長河内哲也氏)との声もある。ダイヤモンドダイニングが出店するベルギービアカフェ「グラス・ダンス」もフロアーコンセプトに忠実につくり過ぎたきらいもあるが、夜だけで予算をクリアーしている面があり、ランチの集客に苦慮している。
「グラス・ダンス」
「グラス・ダンス」 店内。
ジェイプロジェクトが運営していたカフェ「カフェブルターニュ」は今年2月に、ココット&ワインダイニング「バルビンゴ!」へと業態変更した。
「バルビンゴ!」。カフェ業態がフロアに合わず業態変更した。
一方、「ザ・ダイニング」のほうでは横浜地場のハンバーグ・ステーキチェーン「ハングリータイガー」が、相鉄ジョイナス店閉店以来2年半ぶりに横浜駅西口に復活して行列ができる人気ぶりだ。
横浜地場の人気店、「ハングリータイガー」。
また、和パスタとトマト鍋が売りの「カフェ・ド・ファニエール」の人気も高い。ポトマックが経営する店だが、横浜と同じ頃開港した神戸を本拠とする会社だけに、横浜の飲食店に必要な何かをつかんでいるのだろうか。
「ザ・ダイニング」はどちらかというとランチ向けの店が多いが、夜はおしゃれに飲みたい横浜市民も、昼は地場に根付いた懐かしい味を求める傾向が強いのかもしれない。
・鶴屋町のダイニングを活性化している東京の面々
最後に、横浜の飲食ゾーンとして発展が目覚しいのは、「横浜モアーズ」のさらに北側、運河に架かる橋を越えた一帯、鶴屋町地区である。
鶴屋町は元々サラリーマン向けの飲み屋やチェーン系居酒屋が多かったが、トレンドの発信地とは言い難かった。しかし、最近は老朽化した建物を建て替えるとともに、東京のヒット業態、あるいは東京でヒットを飛ばした飲食企業の新店が入るケースが増えている。「横浜モアーズ」と一連の東京化が顕著な飲食ゾーンと考えてもいい。
横浜の飲食のメッカになりつつある鶴屋町の夜。
この地域に変化の兆しが見えたのは、まず2002年12月の青山のカフェ「リマプル」の進出である。横浜駅西口の路面では珍しいオープンテラスのスタイリッシュなカフェで、木村拓哉・竹内結子主演の04年のフジテレビ月9ドラマ「プライド」の撮影にも使われた。
鶴屋町を代表するカフェ「リマプル」。
しかし、周囲にカフェが増えることもなく、横浜駅周辺に東京と同様な顧客が存在することを示すだけであったが、「横浜モアーズ」リニューアルを起爆剤に変貌を遂げつつある。
たとえば、その象徴が「エフテムRONビル」である。このビルの1階には今年3月「HUB横浜鶴屋町店」がオープンし、テラス席を設けたパブの路面店という、横浜では初めてのスタイルで連日満席の大繁盛店となっている。
連日盛況、「HUB横浜鶴屋町店」。
また、同ビル4階には高級焼鳥「今井屋本店」が入っていたが、フードスコープからダイヤモンドダイニングの子会社シークレットテーブルへと事業譲渡されるとともに、ダイヤモンドダイニングが得意な九州料理に業態変更した。
そうしてできたのが、今年4月オープンの「九州黒桜」で、九州料理にプラスして女性の間に人気が高まっているという、コラーゲンたっぷりのすっぽん料理を小鍋と雑炊にして共に980円とリーズナブルに提供。周囲に東京で流行っているような郷土料理の店がないこともあって、「今井屋本店」の頃に比べて30%ほども売り上げが増えて立ち直った。
「九州黒桜」
ダイヤモンドダイニングの低予算、居抜きリニューアルのノウハウを活用し、新築の空中物件では「今井屋本店」は苦しいと判断すると、民芸風な内装に変えて、九州料理に転換した。客単価も約6500円から約4000円に下げて、鶴屋町の顧客に支持されている。
そうしたリニューアル成功例に触発されたか、すぐ向かいの「Sea Plaza 横浜」1階・地下1階、ワイズフードシステムの「浜蔵」が7月7日、漁師料理・鍋・炭火焼「青」に店名を変更した。業態は変わっていないように思えるが、醤油豚骨スープの「横浜系もつ鍋」(1260円)や湘南のしらすを売りの1つにするなど、東京が本社の飲食企業ながら地元色をより強く打ち出しており、注目される。
9月には現在新築中の運河のすぐ北のビルにヒュージの主力業態、スパニッシュイタリアン「リゴレット」なども進出してくる。その「ザ・リゴレット・オーシャン・クラブ」は地元神奈川県産の素材を生かしたタパスなども提供するという。
建設中のこのビルに「リゴレット」が入る。
鶴屋町の飲食エリアとしての重要性は、今後ますます高まっていくだろう。
以上、見てきたようにこれまで排他的だった横浜の飲食が、ゼットン、ダイヤモンドダイニング、ニュートン、ハブ、ヒュージなどといった、東京で実績を積んだ飲食企業の力で活性化し、変貌を遂げつつあることを見てきた。
先述したように日産自動車の横浜移転によって、銀座で磨かれた感度の高いサラリーマン、OLがこれから流入してくる。そうなればいっそう彼らのつくる業態は輝きが増すのではないだろうか。
それにしても、横浜でのゼットンのモテっぷりと存在感は、市街地の大きさから見ればいまや名古屋以上とも思えるほどだ。同社が得意とするハワイアンの業態や稲本社長がトライアスロンを愛することなどが、横浜さらに神奈川県の風土とマッチしているのかもしれない。開港150周年に向けてのまちづくりにからんで勝負をかけた面もある。
今夏は片瀬西浜で、7月〜8月、ハワイアンの海の家も初出店している。