フードリンクレポート


焼き鳥の日、8/10(月)。
「鮒忠」創業者は、“焼き鳥の父”と呼ばれた。
根本 修氏
株式会社 鮒忠 代表取締役社長

2009.8.7
昭和21年(1946年)、東京・浅草にて創業した炭火焼きとり・和食「鮒忠(ふなちゅう)」。現在、直営11店、FC40店を展開するが、今年は63年目を迎える老舗居酒屋チェーン。その歴史を活用して、3代目が巻き返しを始めた。


浅草本店近くのオフィスにて、根本修氏。

日本記念日協会に「焼き鳥の日」を登録

 創業者、根本忠雄氏は、“焼き鳥の父”と呼ばれた名物社長。東京・深川の米屋に丁稚奉公した後、向島で川魚の行商を始め、1946年に、川魚を主体とした惣菜店として開店。川魚なので店名に「鮒(ふな)」が付く。そして冬場のつなぎに焼き鳥を始める。


創業者、根本忠雄氏。

 根本氏を有名にしたのは、当時安かった進駐軍向けのブロイラーを大量に仕入れ、販売し大ヒットさせたことだ。世の中を驚かせ、“焼き鳥の父”と呼ばれるようになったという。

 3代目根本修氏は、1999年に実家に戻り、2005年に「鮒忠」の看板を引き継いだ。そして、守るだけではなく、その歴史を活用しようとして考案したのが、「焼き鳥の日」。“焼き鳥の父”と呼ばれた創業者にあやかった。記念日を認定する団体、日本記念日協会に登録し、2007年から8月10日(やきとり)を「焼き鳥の日」として、店頭で炭火焼き鳥を1本10円で販売し、売上金を寄付している。


「焼き鳥の日」登録証。

 3回目となる今年は、8月10日(月)に、店頭販売が可能な、浅草本店、亀有店、錦糸町店、神楽坂店の4店で15〜18時の間、各店で500本を1本10円にて販売する。但し、1人様5本セット1パック限定。しかも、直営店では店内でディナータイムに1本100円で提供する。毎年、長蛇の列ができている。


昭和26年、“ひな鳥の丸むし焼”大ヒット

 昭和21年に焼き鳥を始めた創業者、根本忠雄氏は昭和25年に2号店をオープン。その後、5年間で15店を構えるまでに成功した。その礎となったのが、“ひな鳥の丸むし焼”。

 当時、駐留米軍向けに生産されていたブロイラー。朝鮮動乱で米兵が出国してしまい、売れずに値下がり。そこで、根本氏は大量にブロイラーを仕入れ、“ひな鳥の丸むし焼”と名付けて特価で販売し大ヒットとなる。


“ひな鳥の丸むし焼”を売る創業者、根本忠雄氏。


丸の一羽を炭で焼く。


浅草本店前の集合写真

 さらには、昭和26年にのれん分け制度を採用。新店を開くと何年か働いた人が店長となり、開店に投じた資金を店長が2年間で出した利益で償却すると自分の店になるというユニークなシステム。店舗拡大とともに、仕入部署を作り、後にはブロイラーの処理工場も建設し、自店だけでなく他店への卸業務へと発展させた。


鶏の処理工場も建設。

 昭和36年には、現在のケータリングに当たるパーティー事業をスタート。飲食店経営、卸売、ケータリングと現在の事業の柱が生まれた。現在は、鮒忠を持ち株会社として、鮒忠レストランシステムズ(飲食店経営)、鮒忠フードサービス(卸)、鮒忠ケータリングの3子会社が柱となっている。

 昭和43年にはフランチャイズシステムを導入。昭和50年には、直営30店、FC60店、生産工場4ヶ所、セントラルキッチン1ヶ所、卸営業所10ヶ所に拡大。全国の鶏肉市場において、鮒忠はシェア10%を占めるに至る。日経産業新聞の外食企業ランキングによると、1974年(昭和49年)に売上高98億円、第9位となっている。


9位に、鮒忠。

 根本忠雄氏は広告面でも才能を発揮し、有名演歌歌手、島倉千代子に「鮒忠音頭」を歌わせコロンビアレコードから発売させた。多彩なアイデアマンだった。


「鮒忠音頭」の歌詞カード。「さあさ今夜も鮒忠音頭」と歌う。


当時の人気プロレスラー、力道山も焼き鳥を食べに来た。(右端)


3代目はリバイバルメニューで集客

 若くして他界した2代目を引き継いで、2005年から社長となった根本修氏。かつての老舗居酒屋チェーンが苦戦し、若者向け業態を作ってみたりと試行錯誤する中、「うちは、50〜60代のお客様に来てくれればいい」と言う。

「今は安い店と、専門店の両極端の時代です。鮒忠は味で勝負するので、味を分かっていただける客様に来ていただきたい」と言い、ぶれない。

 浅草本店は今も創業の地である千束商店街にあり、63年経った今も営業を続けている。店内は1・2階合わせて90席あり、店頭では当時と変わらず、焼き鳥など総菜や弁当を販売している。近隣で焼き鳥といえば鮒忠と言われ、シャッターが目立つ商店街にも関わらず月商800万円を維持している。他にも、亀有店は50年を超え、船橋店も40年を超えている長寿店舗だ。


浅草本店。千束通り商店街にある。


店頭には惣菜売り場もある。1日に10万円以上売れる。

 今、3代目根本修氏が力を入れているのが、63年の歴史の中にある昔のメニュー。各店舗ごとに毎月同じ日を「とりの日」「ふなの日」と称し、その日だけ昔の人気メニュー約15品をリバイバルさせ提供している。人気は、「びっくり!シューマイ」480円、「煮玉子入りとり煮込み」580円、「ジャンボ焼き鳥」3本470円〜など。これを目当てに、昔ながらの鮒忠ファンだけではなく、彼らに連れられて新規客が集まってくる。

 老舗の居酒屋チェーンは厳しいところが多い。鮒忠でも既存店は厳しいと言う。しかし、60年以上続くチェーン組織の居酒屋は稀有。そこが、同社の強みだ。レトロがウケる時代に、その歴史を武器に本物のレトロとして活躍して欲しい企業だ。


■根本 修(ねもと おさむ)
株式会社 鮒忠 代表取締役社長。東京都出身。1970年生まれ。アサヒビールに勤務後、1999年に鮒忠に入社。2005年に現職に就任。

鮒忠

【取材・執筆】 安田 正明(やすだ まさあき) 2009年8月6日取材