・アキバからアイドルを育てるライブとバーの複合店が盛況
秋葉原の萌え文化のあり方として、新しい方向性を打ち出したのが、ライブ&バー「ディアステージ」である。
この店の特徴はアイドルを目指す“ディアガール”と呼ぶ女性キャストが、歌や踊りのライブを開催するとともに、バーの店員として接客を行うというもの。ライブハウスとダイニングバーが合体したような、独創的な新業態店である。
「ディアステージ」外観
創業は2007年12月、「ヨドバシAkiba」の北側に1号店を出店。現在はその店は営業を終えて、08年9月にオープンした中央通りの東側、PCソフトやパーツショップ、メイド喫茶などが軒を連ねる、電気街の裏通りのDEMPAビルというビルで営業している。
これまで、メイド喫茶の店員がライブ活動を行った例はあったが、あくまでメイド服を着たメイドの活動の一環であった。また、秋葉原を拠点に劇場ライブを行い「会いに行けるアイドル」をコンセプトとした「AKB48」もあったが、彼女らがお店で接客するわけではなかった。
顧客との距離の近いアイドルという点では、「ディアステージ」のディアガールは際立っている。
1階がライブハウスとスタンディングバー、2階が明るい雰囲気のカフェ・バー、3階がシックなカウンター中心のダイニングバーというフロアー構成。
1階ステージのライブ風景。
1階店内奥にDJ。
1階のライブは毎日3ステージが基本で、オリジナル、アニメソング、ヒットソングなどが歌われ、1本のステージの時間は約30分。2階と3階のモニターに中継される。また、階を自由に行き来でき、2階・3階で飲食していて、ライブが始まれば1階に下りても良い。
混雑時を除き、入替制を取っていないのでゆっくり過ごせる。
席数は、1階は立ち見で80人まで入り、2階は35席、3階は25席。平日・休日を問わず1日に150〜200人が入場する。元々はディアガールを応援する常連が支えている店という印象が強かったが、最近では知名度が上がり、観光客やメディアで知ったライトファン層の来店が増えている。
2階エントランス。
2階カフェバー。ステージが始まるとお客は1階に移動する。
3階、ダイニングバー。
3階ダイニングバーでは、ステージに出演する店員とカウンター越に話せる。
運営会社のモエ・ジャパンでは、「ディアステージ・レコード」というCDをプレスするインディーズレーベルを設立。ディアガールのうちの2人組ユニット、ピヨラビのデビューシングル「光のキャンベル」(09年1月12日発売)が、オリコンインディーズチャートで週間1位を獲得した。サウンドプロデュースには、B'zの楽曲でベーシストや編曲家として活躍するなど、音楽プロデューサーとして評価が高い明石昌夫氏を迎えており、素人芸の域にとどまるものではない。
オリコンインディーズチャート週間1位に輝いたシングルCD。
「やるなら本格的に秋葉原から日本のメジャー、さらに世界を目指したい。インディーズチャート1位を取れたのも、熱く応援してくださるお客さんがいたからですし、できると思っています。萌え系の店舗だからといって料理に妥協することなく、キッチンの手作りにこだわった『ディアめし』という人気の日替わり定食も提供をしています」と、モエ・ジャパン取締役の桂田誠氏は意気込んでいる。
メニューは、「キッチンスタッフ特製日替わり丼」(950円〜)が人気。カレー、パスタ、サンドウィッチ、鶏のから揚げ、手羽餃子、野菜スティック、ケーキなど、幅広いメニューを誇っている。
日替わり丼の豚キムチ丼。
ドリンクもビール、カクテルのようなアルコールから、コーヒー、紅茶などソフトドリンクまで揃えている。なお、9月にグランドメニューが変更される。
顧客層は20代〜30代の男性が中心で、アイドルが好きな人、メイド喫茶のファン、音楽・ライブを聞きたい人、料理やお酒を楽しみにしている人など、アキバのさまざまな萌え文化の愛好家が集まってきている。
顧客単価は2500〜3000円で、これだけ複合的なアミューズメントを提供していることを考えれば安いと言えよう。その割安感も同店の人気の秘訣である。
ミラーボールや文字アートで飾られたステージ。
・日替わり衣装と毎日が個人撮影会で差別化したメイド喫茶も
秋葉原で数あるメイド&コスプレ喫茶の中でも、日替わり衣装と、撮影を売りに、新機軸を打ち出したのが「着せかえカフェ キャンディフルーツ・ストロベリィ」だ。
メイド服のブランド「キャンディフルーツ」の喫茶部門で、オープンは2007年2月である。席数は約28席。
倉林康弘店長によれば、「オープンした当時より、これからメイド喫茶ブームは下降すると想定して、コンセプトを考えた」とのことで、従来のメイド&コスプレ喫茶にないアイデアが散りばめられている。
まず、毎日替わる衣装だが、月曜と土曜が「キャンディフルーツ」の制服とメガネを着用する「キャンフルの日」、火曜が社交界デビューをイメージしたパステルカラーのドレスをまとった「ふりふり+ドールの日」、水曜と日曜がメイドの自由なコスプレが見られる「フリーコスの日」、木曜がアニメやゲームのコスプレが中心の「趣味の日」、金曜はセーラー服やブレザーなど「制服の日」となっている。
メイド喫茶は決められた店服を着用するのが基本。メイド各自が自分のセンスでコスプレをするコスプレ喫茶の業態も存在するが、同店のように曜日によって着用する服装が異なるケースはこれまでなかった。
また、メイド喫茶のメイドの写真を撮るのは禁じられている場合が多く、撮影のためにはポイントカードのポイントを貯めて、あるいは別途料金を払ってインスタントカメラで撮影するシステムが主流だ。同店の場合はインスタントカメラで撮影(600円、平日は500円)も可能だが、顧客の手持ちのデジカメで常時撮影できる。
撮影は5分1000円で、別途1000円を払えば衣装チェンジも可能だ。
女性の顧客は店に置いてある80着ほどのコスプレ衣装に着替えて、撮影することもできる。料金は1着1000円。
店内のメイドは有料だが、マイカメラで撮影できる。
ハンガーには着せ替え用コスプレ衣装がびっしり掛っている。
「キャンディフルーツ・ストロベリィ」は店の作り自体が、撮影を想定して、「女の子の部屋」、「病院の診療室」、「教室」、「教会」、「市電」、「宮殿」と6シーンに分かれており、バラエティに富んだ写真が撮れる。衣装と組み合わせれば、1人の被写体でも実に多彩な撮影ができるわけだ。
店内。左は女の子の部屋、右は診察室をイメージ。
左手前は教会、右奥は市電のシーン。
教室をイメージしたシーン。
女の子の部屋をイメージしたシーン。
「常連さんの中には、本格的な一眼レフを持参する人も多いです。コアな撮影マニアは当店の主流ではないですが、キャストとの距離が近いので、撮影するだけのアイドルの撮影会と違ったコミュニケーションを、楽しんでもらっています」と倉林店長。
メイドはトランプなどを使った簡単な手品(300円)を披露でき、顧客とのコミュニケーションのツールとなっている。ゲームや歌のステージはないが、月に一度程度の頻度で行われるイベントや、メイドの誕生会などでは、くじ引きやゲームなどが楽しまれている。
平日は常時6〜7割の入り、休日は満席になり4回転くらいはする。認知が進んで、年々顧客は増加傾向にあるそうだ。顧客層は20代、30代の男性が中心で、男女比は平日9:1、休日7:3くらいだ。顧客単価は1000〜1500円。
メニューもしっかりした食事をキッチンでつくって提供しており、豚丼、牛丼(共にドリンクセット1100円)が人気。これは秋葉原に丼物の店が少ないことにより、メインに据えている。おみやげでレトルトパックでも販売している、オリジナルの「萌カレー」(1200円)もある。
コーヒーは500円で、デザートはしょうゆ味の米粉でつくったワッフル「モッフル」(500円)が新感覚で面白い。
カレーにはお絵描きサービスが付いてくる。
お土産の萌カレーと、萌萌キャンディー。
モッフル。上に掛っているのはアイスクリーム専用の醤油。
メイド系飲食では後発ながら、他店にないサービスとメニューで、秋葉原の観光客の減少にもかかわらず、安定した集客がある点が評価できる。
・セクシー衣装の女性スタッフが接客、新感覚の肉料理居酒屋
秋葉原では居酒屋にも新しいチャレンジを行う店が出現している。中央通り西側の電気街、「九州じゃんがら」ラーメン本店向いの、通称“メイドビル”4階に7月25日にオープンしたのが「こくまろみるく」。
20代、30代の男性が多い秋葉原だけに、洋風の肉料理をしっかり食べさせる、ちょっとセクシーな衣装の女性スタッフが接客する居酒屋として、オープンしたのだという。
たて看板。
店内。
既存の店では「はなこ」に似ていなくもないが、「はなこ」が海鮮料理を売りにしているのに対して、「こくまろみるく」では圧倒的な種類の肉料理を売りにしている点が異なっているとのこと。衣装の萌え度も高い。
また、“ハーレム居酒屋”と称しているが、これは「顧客が王様になれる」という意味を込めており、メイド喫茶が顧客を「ご主人様」と呼びながらも、終始メイドのペースで接客が進んでいくことへのアンチテーゼとなっている。
「メイド喫茶の過剰接客、ご主人様やお兄ちゃんを演じることに、秋葉原のお客さんも疲れてきたのだと思います。当店のスタッフはお酌をしませんし、ゲームもしない、ダンスも踊らない。おいしい食事を味わい、衣装を見て楽しんでもらえればいいです」と店の狙いを語るのは、運営会社アッフォガートダイニング代表。
この店が1号店であり、アキバ系の顧客のみならず、むしろ一般のサラリーマンを主たるターゲットとして、多店舗展開を行うとのことだ。
メインの料理は「こくまろステーキ」(1200円)で、通常の2人前くらいのボリュームがある。デミグラスソースが掛かっているが、食べる前にテーブルまで運んできた女性スタッフが、首から提げている哺乳瓶の中に入っている特製ミルクソースを、肉の上に掛けて仕上げるパフォーマンスを行う。このエロカワなパフォーマンスを楽しみながら、ダブルソースの食べごたえのあるステーキを味わってもらう趣向だ。
「こくまろステーキ」(1200円)
そのほか、ポークピカタ、酢豚、豚しゃぶ、鶏のから揚げ、鶏のササミのタタキなどのお酒に合う味付けの肉料理を提供。
お酒はビール、焼酎、ハイボール、カクテルなどを置き、ワインは扱わない。
内装は赤い壁と床、黒い衝立やカーテン、白い椅子と、赤・黒・白の3色でまとめたシックな大人の雰囲気で、席数は45席。奥の方にVIPルームがある。
顧客単価は4500〜5000円を想定。1時間につき800円のチャージを取る。
特徴ある衣装は、美少女業界での有名人イラストレーター、みさくらなんこつ氏が手掛けている。
制服イラスト。
7月2日よりプレオープンを開催してきたが、「国産の良い肉を使い、下ごしらえをしっかりと行っているので味はおいしいと好評です。衣装がかわいい、雰囲気が良いと評価していただいています」と、スタッフは張り切っている。
この物件は、元は食事に力を入れた、おしゃれな雰囲気のメイド喫茶が入っていた。代表によれば、内装は全面的に変えたがIHの厨房設備が整っていたので1号店の場所に決めたそうだ。
4階にもかかわらずエレベーターがない不利な面はあるが、隠れ家としてはこれ以上ない立地と言える。秋葉原から新しいヒット業態が生み出せるか、実験的な店と言えるだろう。
・屋台で1日1000食売る、トルコ人起業家のスターケバブ
さて、秋葉原の飲食で特徴的なのは、メイド喫茶をはじめとする萌え系の店ばかりではない。特に駅の西側の電気街は、街を歩いている人が、20代、30代の男性に極端なほど集中している。いわゆるオタクであるが、彼らも常に萌えな店で食事を取るわけではなく、お金と時間を節約する時は安くてさっと食べられるファーストフードを好む。
業態としてはエスニックが強い。しかも、ヨーロッパに地理的に近いインド洋系(インド・中東系)の食事が好まれており、おしゃれな東南アジア系の業態に強い吉祥寺・西荻窪とは好対照になっている。
電気街の人気店「スターケバブ」1号店が、旧「ラオックス ザ・コンピューター館」裏にオープンしたのは、2005年3月。ちょうどその頃よりメイド喫茶を中心としたアキバブームが起こり、テイクアウト専門のこの店は大当たり。
「スターケバブ アキバテラス」外観。
店内。
翌06年12月にはイートインスペースを設けた「スターケバブ アキバテラス」をオープンして、アキバの新名物としての地位を確立した。秋葉原が観光地であり、よそではあまり見かけない業態であることも流行った理由だろう。
看板メニューは、ピタパンにケバブを挟んだピタサンドで、特に「ビーフケバブ・ピタ」(500円)はテイクアウトのシェアが6割にも達するほどの圧倒的人気だ。「チキンケバブ・ピタ」(400円)もそれに次ぐ勢い。プラス100円でピタサンドはビッグサイズになる。ラップサンドやふかふかのフランスパンにはさんだサンドイッチもあり、トルコ風に食べたければトルコのハンバーグのキョフテや、イスタンブール名物サバを具に選べば良い。
チキンケバブ・ピタとトルコ名産ざくろジュース。
ビーフケバブプレート、オリジナルのヨーグルトソースと辛いトマトソースが掛る。
シシケバブと相性バッチリのトルコビール。
ソースは、ソースなしを含めてオリジナル8種類から選べ、マイルド、ミックス、ホット、ウルトラホットの順に辛くなる。残りの3種類はガーリックヨーグルトソースと、それに辛いトマトソースを加えたものと、辛くないトマトソースを加えたものだ。
トルコのケバブには、ピタサンドなどはなく、ソースもかけないで食べるから、「スターケバブ」で出しているのは、オーナーの創作ケバブだ。全般的に脂が少なめなのも、オーナーの味の特徴である。
「スターケバブ アキバテラス」では外国人や家族連れの比率も2割くらいいて、彼らはイートインで食べていくのが主流だ。「ビーフケバブプレート」(650円)、「チキンケバフプレート」(600円)が人気。ケバブを丼にしたメニューもある。よりトルコ風を求めるなら、ラム肉の串焼き「シシケバブ」(500円)、トルコビール(400円)、トルコ産フルーツジュース(150円)も楽しめる。
顧客単価は全般に500〜600円といったところだ。
肉の塊を刀のような器具で削って提供するパフォーマンスも人気の一因。
オーナーの創業者ムスタファ・ケルティック氏は、トルコの神秘的な石灰棚の世界遺産で知られるパムッカレ出身。1995年に来日後、「恵比寿ゼスト」、「青山ロイズ」、「渋谷ベリーニカフェ」などで調理とサービスの修業を積み、トルコを代表するファーストフードで欧米諸国で人気があり、ドイツでは国民食と言われるケバブ(肉のロースト)にビジネスチャンスを見出した。
99年、車の移動販売でケバブ屋を開業。新宿、池袋、六本木など都内の盛り場を点々とした後、秋葉原ワシントンホテル前で駐車して営業するようになり、秋葉原で認知が進んだという。秋葉原で固定店を持つまでには、紆余曲折があったのである。
スタッフによれば「やはり歩行者天国が中断した影響は大きく、ピーク時よりお客さんは減っている」とのこと。しかしながら、昨年11月より駅前で営業している屋台村のケバブの売り上げは、平日約300食、休日約1000食に達し、全盛時に匹敵する好調ぶりだ。新しい建物ができる予定の、今年9月までの期間限定の出店だが、もう少し延長される見込み。立地次第では爆発的に集客する力があることを、改めて示した。
休日は1000食売るという秋葉原駅前のスターケバブ屋台。
屋台村では女性の顧客もかなり多く、ケバブは決して若い男性にしか好まれない料理、業態ではない。今後のチェーン展開が楽しみである。
・マンモス1kgカレー、アキバの新名物としてヒットなるか
秋葉原の最近の変化として顕著なのは、カレーの店が増えて、都内随一と目される集積になっていることだ。チェーン系、独立系、インド料理系を含めて20店を超えている。中央通り「ゴーゴーカレー」や、昭和通り「CoCo壱番屋」は、カレーショップでは東京一、二の坪効率と噂されるほどの繁盛ぶりだ。
08年5月、電気街の中にオープンした「マンモスカレー」は、05年4月に府中市の京王・JR南武線分倍河原駅前で創業した「ライオンカレー」の2号店だ。
「マンモスカレー」外観。
エントランス。
店内。
運営会社ライオンフードシステムの茂木一幸社長によれば、「秋葉原にオープンしたのは不動産屋からの物件紹介があったから」とのこと。茂木社長はそれまで電気街の裏道を歩いたことはなかったが、当時は驚くほど人が歩いていたこと、カレーショップがサラリーマンでいっぱいだったこと、新陳代謝が激しく常に変化している街であるといった、秋葉原の魅力を感じて出店に踏み切ったそうだ。
席数は24席で、平日5回転、休日7〜8回転する。分倍河原では一番のメイン顧客であるサラリーマンのほかに、カップルや主婦の顧客も多く、カレーをゆっくりと食べながらくつろいでいく傾向がある。一方で秋葉原の顧客は、平日はサラリーマンも多いが、休日ともなると家電、パソコン、ゲーム、アニメの専門店の袋を持った若い男性に偏り、豪勢で、量も多いカレーを素早くかき込んで帰っていく。この違いには茂木社長も戸惑った。
オープン時から分倍河原で人気の「手作りカツカレー」(650円)をメインにしてきたが、実際に営業して見ると、若い男性には豚しゃぶを具に生卵をかけた「スタミナカレー」(750円)が一番人気。「牛しゃぶカレー」(780円)もよく出る。
肉を前面に出したメニューが好評であることを受けて、従来の「スタミナカレー」のごはんが2.5倍で、総重量1キログラムの分量が入った「マンモス1kgカレー」(特価880円)を新たに開発。今年7月より投入した。
マンモス1kgカレー、アキバ名物にするべくプッシュしていく。
やる気を前面に出した宣伝POP。
手作りカツと野菜のカレー。
「これまで店名のマンモスに見合ったメニューがないと、秋葉原のお客さんからよく指摘されてきましたが、これからはがっつりと食べられる『マンモス1kgカレー』を売りにしていきたい。マンモス1kgカレーをアキバ名物の1つにしたいです」と茂木社長は気合が入っている。1キログラムという量は、普通の人がおいしいと感じながら食べられる上限で設定したそうだ。
山形県出身で祖父が農家を営んでいたという茂木社長は、鳥取大学農学部に学び、減反や農家の低収入に疑問を持って、米が売れる仕組みをつくろうと大消費地の東京で起業を決意。8年ほど前の25歳の時に、吉祥寺のアパートに精米機を持ち込み、インターネット通販で米を買い、3輪バイクで配達する米の宅配業を始めた。
茂木幸一社長はコメの消費を上げるためにカレー店を開業した。
しかし、米を宅配するだけではなかなか米の消費が増えないジレンマに陥っていった。そうした時に友人が、カレーをつくって食べるイベントを企画。そのイベントに参加して米を提供した茂木社長は、老若男女誰にでも好まれ、少食の人でも食べられて、毎週食べる人もいるカレーを商売にすれば、米の需要ももっと喚起できるのではないかと考えた。
そこで3年間、試作に試作を重ねて開発したレシピをもとに開業したのが、「ライオンカレー」だった。分倍河原で創業した理由は、準特急も止まる京王線とJR
南武線の乗換駅で乗降客が多いにもかかわらず、駅前に飲食店が少なかったのでチャンスがあると思ったからだという。
ラーメンに次ぐ国民食と言われるカレーは、米料理では最大の市場を有しているだろう。茂木社長のような強い思いを持った有力なカレー専門店が、秋葉原に結集し盛り上げていけば、今後ますます面白くなる。
秋葉原が得意なITはインドの主力産業であるし、隣の御徒町は宝石産業の集積地で、ダイヤモンドの研磨はインドのムンバイが中心地という、カレーに縁が深い地の利もある。
・アイドルと若い男性をキーワードに「アキバフード」が成長
以上、秋葉原の飲食の変化を見てきたが、萌え系に「アイドル」をキーワードにした新基軸が登場したこと、ケバブやカレーのようなインド洋系ファーストフードが日本なりのアレンジをされて、特に市場の大きいカレーでは、西の金沢と並ぶ東のメッカと目されるようになったことが特筆される。
今やカレーの聖地は、東の秋葉原、西の金沢である。秋葉原の超繁盛店「ゴーゴーカレー」が金沢出身であることからも、2つの街はリンクしている。
秋葉原の超繁盛店「ゴーゴーカレー」。
萌え系の業態は秋葉原以外では、大阪の日本橋、名古屋の大須のような電気街でなければ成功しないだろうが、インド洋系ファーストフードの市場は全国である。また、「こくまろみるく」のような肉料理プラス女の子といった、一種のガールズ居酒屋も、成功すれば秋葉原の売りとなるだろう。
メイド喫茶とおでん缶しか、飲食では見るべきものがなかった秋葉原だったが、気づいてみれば全国に発信する飲食の業態を幾つも持つ、ユニークな食の新しい中心地に成長しつつある。
「秋葉原通り魔事件」と歩行者天国休止という厳しい試練を経て、秋葉原の飲食は強くなり、かつ進化した。メイド喫茶、おでん缶を含んだ「アキバフード」、または「アキバメシ」ともいうべき新ジャンルが生まれつつある。