・自由度の高い“カスタムサラダ”が人気
各チェーンとも、オリジナルのサラダメニューを数多く取り揃えているが、自分の好きな具材を選び、自分好みのサラダを一から作る“カスタムサラダ”が主流。70種類以上にも及ぶトッピング、ローファットやファットフリーまでタイプも様々なドレッシングを、その日の気分で組み合わせることができる。その組み合わせはまさに無限大で、飽きさせない。
2001年にNYでオープンし、マンハッタン内に4店舗を展開するサラダ専門店『chop't』行列は12時過ぎ位からでき始め、13時半過ぎまで続く。この『chop't』の他、『just salad』『dishes』などがミッドタウンにチェーン展開をしている。
サラダボウル片手にランチを取る男性の姿は、もはや見慣れた光景。
好みのトッピングを組み合わせて作った『chop't』の“カスタムサラダ”(ロメインレタス、プチトマト、レッド・オニオン、エビ、キドニービーンズ、ブロッコリー/$10.2)。『chop't』では、三角にカットされたフラットブレッドが添えられる。
店内には、サラダが出来上がるプロセスに合わせてラインが作られ、客はそのラインに沿って、オーダーをしながら進んでいく。“カスタムサラダ”のオーダーは、大きく分けて3ステップ。まず第1のステップは、ベースとなるグリーンを選ぶ。アルグーラ、スピナッチ、メスクラン、ロメインレタス、アイスバーグレタスなど、どのチェーンも5種類程度のベースを揃えている。
エントランス脇には、オーダーの仕方とカスタムサラダのトッピングリスト、オリジナルのサラダメニューが書かれた大きなパネルがかかる。(『chop't』)
一列になって、プロセスごとにオーダーをしていく。
第2のステップはトッピング選び。選んだベースのグリーンが店員の持つ大きなボウルに入れられ、そこに好みのトッピングが加えられていく。キュウリ、ニンジン、玉ネギなどのオーソドックスな野菜から、リンゴ、クランベリー、オレンジなどの果物、さらに、チーズ、卵、豆、ナッツもそれぞれ種類豊富に揃う。もちろん、肉類もチキン、ビーフ、ターキーなどが揃い、シーフードはエビ、サーモン、ツナなど。店員に選んだトッピングを告げると、次々とボウルの中へ放り込まれていく。大体、4種類のトッピング込みで最低価格($7程度)が設定されていて、そこからトッピングを追加するごとに追加料金がかかる仕組み。追加トッピングは各1種類でそれぞれ、野菜類50¢、チーズ$1前後、肉類$2前後、シーフード$3前後となっている。4〜5種類をトッピングしている人が多い。
色とりどりに並べられた種類豊富なトッピング。
具材を選びきると、最後のステップはドレッシングのチョイス。ドレッシングのバリエーションも20種類を超える。シーザードレッシング、イタリアン、レンチなど、「クラッシック」と呼ばれるお馴染みのドレッシングの他に、各チェーンとも工夫を凝らしたドレッシングが並ぶ。低脂肪、無脂肪のドレッシングでは、「Tofu-Herb Dijion(トウフ・ハーブ・ディジョン)」や「Yogurt Cucumber(ヨーグルト・キューカンバー)」といったヘルシーな素材を使ったもの、「Carrot Ginger Vinaigrette(キャロット・ジンジャー・ヴィネグレット)」「Thai Curry Rocket Fuel(タイ・カレー・ロケット・フュエル)」といった、それ自体の味が気になるような面白いドレッシングまである。ドレッシングがボウルのサラダに加えられると、勢いよくトングで混ぜられ、サラダが完成する。
ドレッシングの数々。
このいくつものチョイスを、流れに乗って次々にオーダーしていなかくてはならないので迷っている暇は無い。しかし、客は皆、慣れた様子で迷うことなくオーダーし、どんどん進んでいく。通い慣れたリピーターが多い証拠だ。この、思うがままに多種多様なサラダを作れる自由度の高さが、常日頃から食べ物に対して注文の多いアメリカ人にはウケているのだろう。
皆、手際よくオーダーし、見た目以上に早く列は流れていく。
カスタムが面倒な人には、既にトッピングが決まっているオリジナルのサラダメニューがおすすめ。それぞれのオリジナルサラダに合うドレッシングも提案されていて、迷うことなくオーダーできる。「Cobb Salad(コブ・サラダ)」[ロメインレタス、チキン、アボカド、ベーコン、卵、ブルーチーズなど]や「Caesar Salad(シーザー・サラダ)」[ロメインレタス、パルメザンチーズ、クルトンなど]といったオーソドックスなサラダもあれば、ゴマを使ったチキンやオレンジ、枝豆が入ったアジアンスタイルの「Far East Salad(ファーイースト・サラダ)」(『just salad』/$8.65)、ステーキやフライドオニオンの入った「Steakhouse(ステーキハウス)」(『chop't』/$8.95)というオリジナリティあるサラダもある。
『just salad』のオリジナルメニュー「just salad signature(ジャスト・サラダ・シグニチャー)」[ベイビー・スピナッチ、リンゴ、ターキー・ベーコン、ウォールナッツ、レッド・オニオン、低脂肪チェダーチーズ/ドレッシング:シェリー・エシャロット・ビネグレット]($8.75)好みでスライスされたパンを添えることができる。
単価は、税を入れると約$10前後。サラダにしては立派な値段だが、そのボリュームと充実度からランチ一食に十分匹敵するので、決して高いとは言えないだろう。
・目の前で行われる“チョップ(刻む)”“トス(混ぜる)”の演出とフレッシュ感
どの店も、オーダーを受けてからその場で作る。中でも、チョップ(刻む)スタイルのチェーン店が増えている。ベースのグリーンとトッピングの具材を合わせた後、一度まな板の上に広げて、チョップするのである。三日月のような大きな刃の両端に取っ手が付いた包丁を使って、目にも留まらぬ速さで左右に振りながら刻んでいく。パフォーマンスとしても、なかなか迫力がある。こうする事で、全体がさらによく混ざり、ドレッシングとも馴染みが良くなって、ジューシーになる。ただ、時間が経つと水気が出過ぎて水っぽくなってしまうので、その場で作られるからこそ味わえる美味しさでもある。
目にも留まらぬ速さで刻まれていく。
そして、ドレッシングを混ぜるときは、大きなトングがガツガツとボウルの底に当たる程、大胆にトス(混ぜる)していく。チョップといい、トスといい、動きがあって活気が出るし、目の前で見せられると食欲も増す。いい演出になっている。店の外まで列ができる程込み合っている状態の時でも、進行具合が見て確認できるので待ち時間も長く感じない。実際に作業も早いので、ピーク時でも並び始めてから10分程で会計まで終了する。
素材から見て選べることで、新鮮さも確認できるので安心だ。店側もごまかしが効かないだろう。実際に、並んでいる野菜はどれも新鮮で、状態の良いものばかり。日本ほど、品質管理の行き届いていないアメリカのテイクアウトフードの店の中では、かなりいいレベルだと思われた。
アルグーラをベースに、グリルチキン、ブロッコリー、オリーブ、ローストパプリカをトッピングした『dishes』のカスタムサラダ。フレッシュで鮮やかな色彩が食欲をそそる。
・客の約半数が男性ビジネスマン
サラダランチと言えば、日本では女性が好むイメージがあるが、ここNYでは男性にも広く受け入れられていて、どの店もなんと約半数が男性客。ガッチリとしたスーツの男性たちがサラダを求めて列を成す。男性ばかり4〜5名で買いに来る光景もよく目にする。
その秘密はボリュームにもある。片手にやっと乗るくらいのボウル型の容器いっぱいに、サラダが入って出てくる。肉類やシーフード、チーズなどが入れば、もうそれ一つでランチだったら十分満足のいくボリュームになる。男性が多いのも頷ける。カスタムサラダもオリジナルメニューのサラダも、そっくりそのままサラダサンドウィッチ(ラップサンド)にすることもできる。トスするまでは全く同じ工程で作られ、その後ラップ生地で包むだけだが、また違った食感とボリュームアップ感が味わえる。さらに、サイドメニューとして、デリやスープのメニューを充実させているチェーンもあり、サラダだけでは物足りないという人には好評だ。
『chop't』で最も人気のあるオリジナルサラダの一つ、「Cobb(コブ)」のサラダサンドウィッチ($8.45)。かなりボリュームのある一品。
『dishes』は、デリを併設している。
スープも充実。ガスパチョなど、この時期ならではの冷製スープも用意。(『dishes』)
・トレンドとしてのランチサラダ
体を鍛えてそれをキープし、どれだけヘルシーに過ごせるかというのが、ニューヨーカーの大きな関心事であり、トレンドである。もちろん食事はヘルシーさの最大の要素。その象徴の一つがサラダランチなのかもしれない。客層を見ても、その殆どが20〜40代のビジネスマンやOLで、トレンドに敏感なニューヨーカーといった雰囲気。
パークアベニューに面した『dishes』の54thストリート店。大きな窓から見える明るい店内は、スタイリッシュなインテリア。
それを表すかのように、各チェーンとも、店内のインテリア、メニュー、ロゴ、HPにいたるまで、デザインに気が配られ、ポップでオシャレなものが多い。
『dishes』店内。
どの店舗も、客席は少なく、圧倒的にテイクアウトが多い。
明るくポップなデザインでまとめられた『chop't』の店内。
サラダ専門店らしくグリーンが基調で、明るく過ごしやすい。
環境保全というトレンドにも対応している店もある。マンハッタンに5店舗を展開する『just salad』では、再利用できるオリジナルの容器“just saladボウル”の利用を促している。この容器、最初に1ドルを払って購入し、次回からそのボウルを持参すれば、毎回2種類のトッピングが無料で選べる仕組み。オフィスからmyボウルを持参して来店するビジネスマン、OLの姿も多く見られた。
オレンジ、緑、白の3色があり、ポップでかわいらしい容器。
特に気候のいいこの時期、公園や街角のパブリックスペースでは、サラダランチを楽しむ人々の姿が多く見られる。
・単純明解なオペレーションで人件費を抑える
店内に入るとカウンターの中で働く従業員の数が多さに驚く。他のテイクアウトフードの業態よりはるかに多い。これはサラダを作るプロセスにおいて、従業員一人が客一人に付いて、都度オーダーを聞いてサラダを作っていくやり方のためで、狭いカウンターの中でひしめき合うように、ラインになって、流れ作業をこなしている。
常時12〜13人がサラダを作っている。
その殆どが、中南米系の労働者。英語がろくに通じない人も多いが、トッピングする係、刻んで混ぜる係、レジ係と、プロセスごとにその作業分担がはっきりしており、作業自体は単純明解なため、滞ることのない迅速な流れ作業が実現している。人数は必要だが人件費は抑えられているだろう。
また、数多くのオーダーを受けるトッピングだが、具材のリストが伝票となっていて、その伝票にどれをオーダーされたかチェックするだけで、後はサラダボウルと共に客に渡せば、それを客がレジ係に渡し精算される仕組みでスムーズだ。その他、店舗での事前の調理工程と言えば、主にトッピングを用意するためのカットと、肉や魚の調理。火を使う工程は少なく、至ってシンプルである。
素材の名前が並んだオーダー伝票。オーダーが終わると渡され、レジに向かう。
ちなみに、どのチェーンもデリバリーを行っており、電話はもちろん、Webサイトからのオーダーも受けている。店舗でオーダーするのと同じように、具材を選び、ドレッシングを選び、カスタムサラダをオーダーできる。出来上がったサラダは自転車でデリバリーされる。さらに、あらかじめWebでオーダーしておいて店舗でピックアップをすることもでき、この方法なら待ち時間も無くて忙しい人には嬉しいサービスである。
この不況の折、振るわないファーストフード店がクローズし、サラダ専門店に取って替わっている。そして、$10前後のサラダを求めて、どの店舗にも長い列ができる。このサラダ専門店の勢いはまだまだ続きそうだ。
次から次へと客が集まり、ランチタイムに列が絶えることはない。
【chopt't】 http://www.choptsalad.com/
【just salad】 http://justsalad.com/home.php
【dishes】 http://dishestogo.com/