・土産品卸から、新観光商業の創造へ
TTCが運営するテーマパークは、1号店の「伊豆・村の駅」(2006年1月開業)でノウハウを蓄積した後、那須ガーデンアウトレット内の「ロコマーケット」(2008年7月開業)、大分県日田市の「日田天領水の里 元氣の駅」(2009年4月開業)、静岡県磐田市のららぽーと磐田内の「遠州の駅」(2009年6月)と立続けに出店し、現在4ヶ所となった。地産地消のトレンドに乗り、各店とも繁盛し、デベロッパーから引く手あまたの業態だ。
「伊豆・村の駅」のサイン。
同社のルーツは、土産品卸。河越氏の父親が静岡県熱海市で、東京宝(とうきょうたから)株式会社を起業。兵庫県出身で、宝製菓を営んでいた兄の下、熱海に1人で支店を建てた。おこし(菓子)を自分で作り、熱海駅前の売店で販売を続け、1977年に東京宝を設立して独立。2008年、東京宝はTTCと社名を改め、河越氏の兄、河越康行氏が社長を務めている。
「TTCは“とってもついてるカンパニー”の頭文字です」と、終始笑顔で明るい河越氏は大きな声で教えてくれた。河越氏は、流通業で18年勤務後、実家に戻り、兄を支えている。
同社の業務の柱は5つ。1つ目は、創業時からの観光土産品の企画・開発・卸。2つ目は、観光土産店の直営。土産品の売り場がドライブインからホテル・旅館に移った時、館内売店の直営にいち早く進出。ホテル・グランパシフィックLE DAIBA、ザ・プリンス箱根の売店も運営している。
3つ目は、美容関連商品の企画・開発・卸・販売。ホテル・旅館の風呂場や洗面所に置いてもらい、お客に体験させて帰りに売店で買ってもらうという手法。自然派石鹸「ひのき泥炭石」、保湿クリーム「花雪肌」などヒット商品を生み出した。
4つ目は、飲食事業。FCとして、「牛角」8店、「とり鉄」1店を経営。「牛角」厚木妻田店はレインズの2003年秋のパートナーズフォーラムで、「牛角」三島北店は静岡・甲信越エリアで2005年に優勝した。
自分のものしか買わない若者、海外旅行という逆風で、土産品市場は縮小している。しかし、TTCは創業の観光商業を軸足に、これまでにない店や土産、おもてなしを創造しようと、「新観光商業の創造」というビジョンを掲げている。
・「村の駅」は全て地元主義、出店準備に1年かける
土産品とは、各地域の特性を取りこんで創り出すオリジナリティの高いものでなければならない。そして、同社は地域密着型事業を実行している。支店も分社化し、その地域に本社を構える仕組み。そして辿り着いたのが、5つ目の事業、食のテーマパーク「村の駅」。
「川上から川下まで、商品開発から販売まで一貫して携わりたかった。私たちは癒しを提供しています。今後の小売はモノを売るよりコトを売る時代に来ます。その先駆けとして、『伊豆・村の駅』を地元に作りました。観光導線のロードサイドにありながら、周りに田植えやイチゴ狩りができる環境です」と河越氏。
「できたて、つくりたて、採れたて」の作り手の顔が見える食材を、地元の生産者から集め提供。ただ単に販売するだけでなく、昔ながらのおばあちゃんの味、おふくろの味、匠の技、先人の知恵などを、頻繁に行われるイベントを通じて伝えようとしている。
各「村の駅」で扱うのは、全てその地元で生産された食材。開業にあたっては、その土地の歴史を調べ、食材を調べ、調達ルートを確保しなければならず、準備期間に1年はかける。1号店「伊豆・村の駅」は野菜と魚がメインだが、「ロコマーケット」(那須ガーデンアウトレット)は肉やチーズなど酪農品がメインとなっている。「遠州の駅」(ららぽーと磐田)には、ブラジル野菜コーナーがある。周辺にブラジル人が多いため、ブラジル野菜を専門に育てる農家から調達している。
「伊豆・村の駅」では豚を飼っている。
壊れた耕運機もディスプレイに。
トウモロコシが植えられている。季節毎に作物を変える。
園芸の店もある。
本館の入口。「農産物直売所」の看板が架かる。
入って直ぐにある、村の憲章と、生産者の写真。
店内。
店内。
生産者の写真がいたるところに。
コメにも生産者の写真が貼られている。
「西瓜名人」の作ったスイカ。
・生産者同士で部会を作り、互いに切磋琢磨
「伊豆・村の駅」で契約する地元生産者は約130名。最も多い「遠州の駅」では約180名もいる。
「いろんな人脈を辿って農家さんを紹介してもらいます。そして、契約いただいた方全員で『村の会』、『遠州の会』などの組織を作っていただきます。会長や副会長、理事を決め、その下にきのこ部会、野菜部会、果樹部会などを作ります。TTCはあくまでも裏方に徹します。日々の販売数量を農家さんの携帯電話に飛ばすシステムを作りました。農家さんは日々の売れる量が分かり、部会内で生産量を調整してもらいます。例えば、売れると分かったので、ビニールハウスを倍作ろうとか読めるようになります。」
「また、農家さんの顔がお客様に分かるので、間違いないものを並べてくれます。生産者も売れると分かれば、珍しいものも持ってきてくれ、品揃えが充実します。」
「基本的には契約農家さんは途中で増やしません。リスクがあるにもかかわらず、一番初めに協力してくれた方を大切にします。足りない場合は、まず部会で調整してもらいます。それでも間に合わない場合だけ新規を探します。」
「伊豆・村の駅」は駐車場も含めて4千坪の敷地。中古車販売店の跡地。年間約120万人が訪れ、売上高は12億円を超える。週末は観光客がメインだが、平日は地元客。顧客の6割は地元のリピーター。直売所の売上は2割を超え、年収1千万円以上を稼ぐ生産者が5〜6名いるという。
「伊豆・村の駅」では、魚市場や飲食店、土産品店はTTCの直営だ。
カワイイ建物の親子丼の店「たまごや」
親子丼1260円。静岡県産の天城軍鶏を使う。
様々な卵を小売。
壁には「たまごや」のミッションが掲げられる。
コロッケやソフトクリームを売る店もある。
人気のお土産「たまごたっぷりん」は、焼いているところを見せる。
「たまごたっぷりん」。
・参加型のイベントで活気
「売り場は作って終わりではなく、作ってから進化させるもの」と言う。売れ筋商品を探るために、お客参加型のイベントを頻繁に行っている。
「農家さんが店に来るとマイクパフォーマンスです。『杉山さんちのトマトが来ました。皆さんラッキーです。甘いですよ。この人と会えること自体が奇跡です。この人のトマトは糖度が9度以上あって、甘い!』とマイクで話すと、台車からトマト売り場に並べるまでに無くなっちゃう。シイタケ作りの名人ですとか、仕掛けをするんです。」
「これをやると、飛ぶように売れるので農家さんが驚く。那須のロコマーケットでは、何とレンコンがベスト5に入る月があります。とれたてのレンコンは乳白色なんです。我々も知らなかった。これをお客さんに教えると売れた。地域毎にマイクパフォーマンスを行い、反応がよければ名物にしちゃう。次ぎ次に名物を増やす。例えば、クレソンの名人を作ろうとか仕掛ける。すると、その農家さんの名前が売れるようになると変なものは持ってこれなくなる。毎朝、納品に来る農家さん達で『俺のはどうだ?』と品評会になっています。」
手書きのイベント告知。
友の会を作り、リピーターを囲い込む。
TTC直営の魚市場でも鮪の解体ショーを毎日行い、調理人がマイクパフォーマンスで面白おかしく解体しながら、その場で集まったお客に販売してしまう。売れ残った分は、売り場内の寿司コーナーで使う。
河越氏は、流通で働いた経験を活かし、マイクパフォーマンスの指導も行っている。大きな声と明るさが、お客を惹きつける。
魚市場。
脇には寿司コーナー。
マイクパフォーマンス付き、マグロの解体ショー。
ジャンケンで勝った人が買える。
この「村の駅」は、周辺に住む方々に日常的に食料品を買いに来てもらい、かつ、遠方からの観光客に年に1〜2度、観光の度に思い出しで寄ってもらうことで、売上が安定する。
「今後の展開については、成功事例を作ったので、これからは条件や立地をシビアに見ます。出店オファーは沢山きています。でも、これだけを作り込むのは時間がかかる。そこの地域の歴史から入り、研究して作り上げるのでそう簡単にはいかない」と出店には慎重だ。
地産地消型ビジネスとして農産物の直売所は多数ある。しかし、成功している例はあまりないという。観光と地産地消をミックスして、たまにしか来ないが単価が高い観光客と、毎日来てくれるが単価の低い地元客、その両方を取りこんでいることが、「村の駅」の成功のポイントだ。
【取材・執筆】 安田 正明(やすだ まさあき) 2009年8月10日取材