フードリンクレポート


マックがあれば、郊外駅前に出店。
イニシャルが低くて利益率の高い飲食店は可能。
花光 雅丸氏
株式会社sublime(サブライム) 代表取締役

2009.9.2
低投資店舗とそのインフラを活用した店前の屋台をセットにした、ユニークな出店を続けるサブライム。今年は、7月以降12月までに7店を出店し、計22店とする計画だ。都心を避けて郊外駅前に出店を続ける狙いを聞いた。


「ととしぐれ下北沢店」にて、花光雅丸氏。提灯の「山田くんハイボール」はサブライムが開発した、日本酒のジンジャエール割。

京王線つつじヶ丘駅前で35坪、900万円

 サブライムが、京王線つつじヶ丘駅前に7/7にオープンさせた「串揚屋」は、2フロアの約30坪で、初月売上900万円を達成した繁盛店だ。エビス中生390円、客単価1800円という安心価格で地元のリピーター客を掴んだ。同店は築50年という寿司屋の居抜き。しかも450万円しか投資しておらず、1ヶ月半で投資額を回収する見込みだと言う。

 同社は今年に入り、「ととしぐれ武蔵境店」(JR中央線武蔵境駅前)、「芳蘭」(都営浅草線東日本橋駅前)、「串揚屋」(京王線つつじヶ丘駅前)、「生ハム」(地下鉄新宿三丁目駅から徒歩5分)、そして、「備長扇屋」の居抜きを使い、8/17にオープンした「ととしぐれ江古田店」(西武池袋線江古田駅前)。「芳蘭」と「生ハム」を除いて、郊外駅前に出店を続けている。9月の前半に「高円寺店」、中盤に「溝口店」の出店が決定している。

「今年中盤から利幅が大きい店舗を創るコツがわかり、銀行からの信用力がアップしました。資金は潤沢で、年内にあと7店出し、最低でも22店舗体制に持っていく」と花光氏は勢いづく。それも、郊外駅前で繁盛店を作る自信を持ったから。


「ととしぐれ武蔵境店」 外観。


「芳蘭」 外観。


投資額を月商にする

「居抜きなら掛けた金が月商にできるようになりました。串揚屋は450万円の投資で月商900万円なので、投資額の2倍の月商。金を掛けずデザインする力が上がったし、金を掛けなくてもいい物件の開発力も上がった。また、保証金があるとバランスシートが重くなるので、大家さんに保証金なしの替わりに礼金を上げてもらい、一気に損金で落とす。厨房機器も自社で中古を安く仕入れていますが、今後は直接買い付け倉庫にストックしておこうかと考えています。」

 デザイン面では、「シズル感を出せば勝ち。油で揚げる音が聞こえたり、立ち飲みカウンターを付けたり。お金を掛けずにできる内装のコツが分かりました。樽とかメーカーさんからタダで貰える。今までは買っていました。」

「郊外は、実は金を掛けた内装が多い。バーも凝った店が多い。こだわりの方が経営され、趣味とビジネスが一緒です。だから僕らにとっては参入障壁が低い。個店のシズル感を出せばいい。しかも、3年で飽きられると思って出店するので、3年経ったらまた改装する。改装しなくて売れればラッキー!と考えています。カッコイイ店を作る必要はありません。」

「よく『10年続く店を創る』と言われる方がいらっしゃいますが、そのことが徒労に終わる可能性は極めて高い。なぜなら投資をかければかけるほどがんじがらめになり、業態がマーケットの速度に追いつかなくなっていくから。僕は今の僕の業態開発能力なら、その業態は3年続けばいいや、と思っています。飽きられること前提でお店を作った方が、従業員も楽。正直、郊外で金を掛けるのが怖いです。」

「ここがミソなんですが、要するに、経営の原理原則を飲食業に当てはめたらどうか?という僕なりの外食産業に向けての挑戦状なんです。飲食業はイニシャルが高くて利益率が低い。イニシャルが低くて利益率が高い飲食店もできるんだ、ということを量によって証明したいんです。」


「串揚屋」 外観。


「串揚屋」 店内。


「串揚屋」に併設する、焼き鳥屋台「鶏屋」。


「生ハム」 外観。


「生ハム」 店内。


駅前にマクドナルドがあることが出店条件

「乗降客数が3万5千人以上いれば出店できます。武蔵境駅で12万人、つつじヶ丘駅で5万人くらい。出店余地は本当に広い。山手線の内側で100人でジャンケンして勝てる確率と、郊外の駅で5人相手にジャンケンして勝てる確率とどっちが高いでしょう。但し、駅前にマクドナルドなど大手チェーンが一つでもあることが最低条件です。大手外食企業はガイドラインに基づく立地調査をしてから出店します。僕はそれを利用させていただいている感じです。」

「郊外は保証金が安くて、家賃が安い。客単価も低く、2500円くらい。串揚屋は1800円で、月に5千人のお客様が来ました。その駅を利用する地元の方が、ちょっと立ち寄って家に帰ろうかという動機です。滞在時間も1時間と短い。」

「地元の一番店にならない方がいいんです。ベスト3に入って、あそこでいいやと言われる店になりたい。期待値を下げて、気楽に行ける潰しの店。あそこに行きたいと言うような特別な店になりたくない。週に2〜3回寄って、2000円でおつりが来る店。お客様に店に立ち寄ることを習慣にしてもらう。週末は家族で使われたり、合コンもある。今までは個店に寄っていたお客様か、店が出来たことによって立ち寄ることに目覚めた方々です。」


業態力は店舗数に比例する

「業態力って説得力だと思います。どんなにいいお店でも1店では業態力があるとは言わない。店舗数を持ってはじめて業態力がある。と言えます。その最低ラインが30店舗だと思っています。業態力とは他者を納得させられる説得力であり、説得力は店舗数に比例します。また、店舗数は信用力を増大させます。これをスパイラルアップさせていけばいいだけです。さらに、お店を出すことで業態がブラッシュアップされていくというおまけもついています。」

「郊外で2500円の『ととしぐれ』が50店できるとすると、ブランド力、つまり業態力がついて郊外から都心部に攻めていくことができる。本当の意味での業態力がついてからは都心に出店したいと思っています。郊外は基本路面の1階店舗です。業態力がつけば、都心の空中階も視野に入ります。そうすると、郊外の空中階も視野にはいるわけです。」

「カニバリゼーションを回避するために、いまの僕の実力では、30坪60席の1業態で50店が上限だと感じています。郊外の駅前にはまだまだ、居抜き物件がある。」

 さらに、郊外で出てきた居抜きで小規模物件については、サブリースを計画している。サブライムが借り上げ、得意の小投資で店舗を作り、それを意欲のある独立希望者にサブリースしようとしている。さらには、人材派遣のライセンスも取得し、外食向けの人材派遣も手掛けようとしている。

「本当は30坪で店長1人付けてあとはアルバイトで運営したい。小さな店でウチの人的資産を投入したくないので、独立希望者に貸そうと思っています。ウチでやれば低投資なので、家賃プラス10〜20万円の低価格で貸すことができる。売上の歩合ではなく、定額で貸す。同様のサービスを提供する会社よりずっと安い。保証金も取らない替わりに、売上を全額ウチに入れてもらい、リース料を差し引いて戻す。このシステムなら、銀行からの借り入れなしで、1人10店以上持てます。」

 郊外出店での不安要素は売上。坪18万円売れれば、営業利益は20%以上確保できるという。30坪60席で売上540万円、客単価2000円とすると月間2700人の集客が必要。郊外は平日も土日もそこまで差がないので、1日90人。17〜24時の営業とすると、2回転しなくてよい。しかも滞在時間が1時間程度と短いため、達成可能な数字だ。

「オーラが出る店の作りが分かってきた」と、今年の出店ラッシュで自信を強めた花光氏。今までの屋台から、郊外駅前というエアポケットとも言える隙間立地を見つけ、戦略を追加した。花光氏はこれで最低50店まで突っ走る。


株式会社サブライム

【取材・執筆】 安田 正明(やすだ まさあき) 2009年8月13日取材