フードリンクレポート


フレンチのカジュアル化に、布石となるか!
オープンが続くココット専門店をチェック。

2009.9.9
近年、気軽さ「安い」「ウマい」「早い」が求められつつある外食業界。洋食においてもビストロ、スペインバルなどカジュアル化が進んでいる。その中で続けて各社がオープンしているのが「ココット料理」を積極的に取り入れた洋食業態である。ココットをテーマに、各外食企業の取り組みを比較してみた。表現はそれぞれだが、フランスの一般的な家庭料理のひとつである「ココット」を媒体に、新しい楽しさを提供している点は共通のようだ。そもそも外食における「ココット」の商品としての価値は何なのか、又それを展開する各社の切り口にはどんな特徴があるのか、ココットの魅力に迫ってみた。


「オーブンの家」 チキンとソーセージのカスレ 1239円。

ココットはフレンチを身近にする

「ココット」はフランスの家庭やレストランで頻繁に使われている鋳鉄の鍋のこと。調理器具の名称だが、この鍋で作られた料理そのものを「ココット」とよぶ場合もある。「ココット鍋」で有名なのは、表面加工の特別な手法により独自の機能を有する老舗の「staub社」や、カラフルな色とデザインで家庭使いでも人気のある「ル・クルーゼ」等が挙げられる。鍋そのものは重厚で、じっくり均一に加熱ができ、蒸気を外部に漏らさない。保温性も高く、調理したものをそのままテーブルに出すことができところが魅力だ。

 蓋をあけたときの湯気と広がる食材の香り、テーブルを囲んだ皆で鍋を覗き込み期待を膨らますことになる。シズル感をシンプルに演出することができることがレストランでココットを使う場合の大きなメリットである。フランスでは日常的に使われる調理器具のひとつ、日本では少し敷居の高い「フランス料理」というカテゴリーを、もっと身近に感じさせられる商材として期待される。


大和実業「オーブンの家」

 今年6月に新宿NSビル29階にオープンしたのは、大和実業株式会社の運営する「オーブンの家」。

 元々同社が経営の韓国料理店があった場所である。 リニューアルに辺りガラス面を多く店前に配し、店の外からもパンを焼く様子を見られたり、全体の色もベージュを基調に明るい雰囲気作りにこだわった。パンを焼いているキッチンの脇を通り、西新宿の高層ビル群が眺められるダイニングへと進む。


店内。


パンは発酵から店内で。ランチタイムは食べ放題。

 今回は夜景をお店の看板には考えず、業態として魅力を磨きたいという想いで開発に取り組んだと加藤支配人は言う。ココット鍋は本格的なストーブ社のものを使用、希少価値のある17cmの楕円型をそろえている。鍋敷きや鍋つかみには赤を使い女性に好まれるようなちょっとした可愛いらしさへの配慮も感じられる。鍋の中身は「デミソースで煮込んだハンバーグ」や「鶏つくねと彩り野菜のクリーム煮」と分かり易い全7種(全57のメニューの内)が揃う。新宿の高層ビルという立地だが、お箸がカトラリーにセットされていたり、「料理」「空間」「サービス」共に家族で入り易いファミリーレストランに近い雰囲気のある店である。パンも本格的なフランスの固いパンというよりもどの年齢層にも食べやすい柔らかいものを中心に各種そろえている。


チキンとソーセージのカスレ 1239円。手羽元とソーセージと白インゲン豆を煮込んだ南仏の伝統料理。


ムール貝とあさりの白ワイン蒸し 1239円。鍋の中の貝においしさをぎゅっと閉じ込め、スープの出汁まで美味しい。

 お店側は別の目論みもあるようだ。「light dish」というカテゴリーで10皿を280円から用意、平日の夜は特に洋風居酒屋としての利用を促している。流行の「ハイボール」を置き、ハイボールのフルーツ味各種を「Fruit Ball」と名づけ球状のグラスに各種揃えている。「つまみでお酒を充分に楽しんでその後にココットを2〜3品メインで分け合ってお召し上がりいただきたい」という。


Fruit Ball ザ・ジャパニーズみかん 609円。

 また、特に人気なのが、最後のデザート。ココットを使いオーブンで焼くチーズケーキは20分以上提供までにかかるため、ラストオーダー30分前に各テーブルに周る。それもあって、つい注文してしまう。熱々のケーキを冷たいアイスクリームと共に〆に頂く。オープン以降、予想以上に数がでている人気メニューだ。


焼きたてチーズケーキとバニラアイス 819円。


「オーブンの家」
東京都新宿区西新宿2-4-1 新宿NSビル29F
電話:03-5909-8551
営業時間:ランチ月〜金11:30〜14:00、ディナー月〜土17:00〜23:30、日・祝17:00〜23:00 *無休


ジェイプロジェクト「ココットアンドワインダイニング バルビンゴ」

 横浜モアーズ9階に昨年9月にオープンした株式会社ジェイプロジェクトの運営する「ココットアンドワインダイニングバルビンゴ」も手ごろな価格帯でココットを楽しめる。薄く平べったいココット鍋でグラタン、ココット鍋を使ったパエリアやチーズフォンデュなどココットの特製を活かしながらフレンチ以外の料理も新しく提案している。


ファサード。


店内。


サーモンとアスパラのココットグラタン 900円。


ココットパエリア 1480円。


スペアリブとジャガイモのロティール しょうがの香り 1350円。


「BARBINGO !」
神奈川県横浜市西区南幸1-3-1横浜モアーズ9階
電話:045-328-3533
営業時間:ランチ11:00〜15:00、カフェタイム15:00〜17:00、ディナー17:00〜24:00 *無休


ジョージズファニチャー「HOUSE」

 西麻布の「HOUSE」は、単価もやや高めだが本格的なココット料理を上質な空間で味わうことができる。全40品のアラカルトの内、27品をココット料理が占める。2008年7月にオープンし、西麻布の住宅街でビルの4階というウォークインではなかなか来ない隠れ家的お店である。

 Staub社とルクルーゼ、双方のココット鍋をバランスよく使い、客席から見渡せるキッチンカウンターにもそれを並べインテリアの一部としている。


ココット鍋が積み上げられたカウンター。


オープンキッチン。

 元々インテリアセレクトショップ「株式会社ジョージズファニチャー」が経営母体というこの店。さすがに空間がお洒落で趣がありとても落ち着く。木製のテーブルと床。形がそれぞれ違う椅子。壁には何種もの嗜好のちがう鏡が絵の様に飾られている。奥にある半個室(6〜8名位)のパテーションは木製の格子形の棚を使用。各四角に小物を飾っている。本格的な暖炉も店内の中央で、ゆったりとした時の流れをかもし出している。


店内には暖炉がある。


落ち着いた店内。

 料理はどれも品がよく味も本格的。その日も3〜6名様のお客様が何組か入っており、小さな鍋を置かれては皆で覗き込み分け合う。そして次を注文しながらゆったりとスローフードを楽しんでいた。


おまかせ旬野菜ココット 1750円。


熊本産走る豚のロールキャベツ 2500円。

 特筆すべきは最後のデザート「フォンダン・ショコラ」1,300円。熱々のチョコレートが溶けたところへ、たっぷりな塩アイスクリーム(別注文)のバランスがたまらない。料理はここまで分け合って食べてきたとしても、このデザートは女性であれば間違いなく丸ごと独り占めしたい味だろう。


フォンダンショコラ 1300円。


「HOUSE」
東京都港区西麻布2-24-7 nisiazabu shoucase 4F
電話:03-6418-1595
営業時間:月〜金 17:00〜翌1:00、土・日・祝17:00〜22:30 *不定休


神戸北野ホテルグループ「レ・ジャルダン」

 神戸の北野ホテルグループが経営する「レ・ジャルダン」は昨年9月にオープンしメインディッシュを「ココット」にしたコース料理の形でメニュー展開をしている。玉川高島屋のショッピングセンター内にあり、ターゲットが地元の主婦を含む女性。実際来店客の9割が女性でこのメニュー構成が受け入れられやすいようだ。(アラカルトでの注文も可) コースで注文した場合、パンの食べ放題で付く。


店前でココットを説明。


店内。


パンの食べ放題。

 同ショッピングセンター本館の地下一階には同社のフードブディックも構えそこでは50種ものパンのバリエーションがある。当然レストランでもパンをもうひとつのウリにしている。料理は見せ方が面白く個性的だ。ココット料理というよりも、ココットを器のひとつとして工夫を凝らしている。


スモークサーモンのタルタルとジュレ フレンチキャビア添え。

 キンキンに冷やした小さな柄付き型のココット鍋に冷菜を盛り、陶器の白皿にそのココットを乗せて提供する。夏にはこういう使われ方も新味があってよいのかもしれない。


本日の鮮魚 ハーブ蒸し サフランソース。

 次はココットの上に日本の蒸し器が乗ったもの。日本の食器とフランスの食器のマリアージュだ。テーブル上で蒸し器を外しココットの中の色鮮やかなソースが並べられる。


自家製パスタにフレンチの要素をミックスしたレ・ジャルダン特製パスタ。パスタも調理したパスタを器としてココットを利用し彩りよく盛られている。

 どれも「ココット」の特製を活かした料理という訳ではない。見栄えはよくとも仕込みや盛り付けにおいて、重たいココット鍋は調理器具として使わない場合返ってオペレーションを複雑にさせているのではないかなとも思う。例えば写真のパスタひとつにしても、ココットパスタを盛る場合、白い皿の方が容易で美しく盛り易いことは明らかだ。ただ逆にココット専門店でありながらも、季節指数の影響を受けず通常の洋食レストランとしてのメニューバリエーションを備えているともいえる。スタッフの対応は総じて「背筋の伸びたホテルサービス」。ゆっくりと長居でき、コース料理という決まった金額内の設定で、お洒落に楽しみたい奥様方には少し驚きのアイデア豊富なメニュー展開は「季節を変えて行ってみたい」と感じさせられるのかもしれない。


「レ・ジャルダン」
東京都世田谷区玉川3-17-1 玉川高島屋7F
電話:03-3709-0009
営業時間:ランチ:11:00〜16:00(14:30LO)、ティータイム:13:30〜17:30(LO16:30)、ディナー:17:30〜23:00(LO21:30) *無休(施設に準ず)


ココットは定着するか?

 ココット専門店は他にも今年オープンのカレッタ汐留にある「bois bois」(株式会社クリエイト・レストランツ)や、新橋の「ビストロ ウオキン」のように洋風居酒屋やバールでもその逸品としてメニューのアクセントに取り入れ人気のでているところもある。時代の流れの中で「ココット」がフレンチ或いは欧米料理の気軽さ訴求の為の一役を担い、時には日本人ならではの新しい発想・新しい使われ方で変化をしながらも、日本の外食市場に浸透していけるか楽しみだ。


【取材・執筆】 国井 直子(くにい なおこ)  2009年9月3日執筆