・病院食に革命をおこした「マンスール」
フレンチのシェフがプロデュースする日本で初めての院内レストランとして、2005年にオープンした「ミクニマンスール」。店名は、1970年代にフランス人のシェフ、ミッシェル・ゲラール氏が提唱した「美しく、美味しく、カロリーを抑えた料理」という意味の“キュイジーヌ・マンスール”に由来する。
東京・千代田区にある四谷メディカルキューブは、一般外来のほかに女性専用外来などもある都市型の有床クリニック。ここでは、フレンチの名店「オテル・ドゥ・ミクニ」の三國清三シェフがプロデュースした病院食が提供されている。同施設の最上階にあるレストランは、病院食同様にメニューはすべて三國シェフが監修する。「美しく、おいしく、心と体に優しい料理」をコンセプトに、見た目が美しいだけでなく、カロリーと栄養バランスも考慮されている。
9月のアンチエイジングプレート(2500円)。
入口。
“人にやさしい環境”をコンセプトに、白をメインカラーにした店内は北欧のインテリアデザインを取り入れたバリアフリー設計。レストランは、主に受診者を対象としている。月替わりの「アンチエイジングプレート」(2500円)やコースの「メニューマンスール」(3500円)のランチが好評。日中はやわらかい陽射しが注ぐ中で、夜は落ちついたライティングの中で、ゆっくりと食事をとることが出来る。
明るい雰囲気の店内。
厨房。
厨房から出すすべての料理は、管理栄養士がかかわっている。「シェフと管理栄養士とスタッフが月に1度は必ず顔を揃えて打ち合わせを行います。出来るだけ野菜を豊富にして、バターなどの動物性の油は控え、コレステロールゼロの植物性のものを使ったりして工夫しています。厨房は普通のレストランと変わらないと思いますが、オール電化で安全でクリーンな環境になっています。」と話すのは、管理栄養士の森由香子氏。
四谷メディカルキューブ 医療技術部栄養科 森由香子主任。
人間ドックや検査の受診者が多いという四谷メディカルキューブ。受診者の家族の利用もあるため、オーガニックワインなどのアルコールも扱っている。「入院患者の方から、『入院中でも食欲がわくようなメニューなので早く回復して元気になりました』という声もあります」と四谷メディカルキューブ経営管理部医療連携室の塚原由美子氏は話す。
シェフと医師と管理栄養士がコラボした異色のレストラン。業界に新風を巻き起こし、その風はまた新たな垣根を越えようとしていた。
・ホテル発「ドクターズキュイジーヌ」を謳った人間ドック付き宿泊プラン
美容と健康を促進する「ドクターズキュイジーヌ」を全面に謳い、この夏登場したのが「トータルエイジングケアステイ」。約2万㎡の日本庭園を有し、ジムやエステ、ネイルサロンなどの施設が充実したザ・プリンス さくらタワー東京は、アンチエイジング医療に定評のある「高輪メディカルクリニック」監修人間ドックプランを打ち出した。1室1名利用、1泊2日で92,000円(2泊3日は142,000円)。品川プリンス・レジデンス内にある同クリニックによる特別プログラムに加え、医師と栄養士、ホテルのシェフが共同開発したドクターズキュイジーヌを味わうことができる。
「ル・トリアノン」(グランドプリンスホテル高輪)のフランス料理(一例)。
「高輪 七軒茶屋」(ザ・プリンス さくらタワー東京)の日本料理(一例)。
「古稀殿」(グランドプリンスホテル高輪)の中国料理(一例)。
“健康と美の追求”をテーマに、栄養バランスや塩分、糖分、カロリー等の調整を行い、医師と管理栄養士、シェフの知識と技をいかして出来た「ドクターズキュイジーヌ」。フランス料理、日本料理、中国料理と幅広く、季節に応じて旬の食材を使用する。
キノコや海藻、野菜を多めに使用し、素材本来の甘みとうまみを最大限引き出すように工夫した。「最初にご提案したときは、シェフの顔色が変わってしまうほど、困難な取り組みでした。それぞれの料理を代表するシェフと管理栄養士、私が話し合った上で、ご提案したのが今回のメニューです」と勧める、高輪メディカルクリニックの久保明院長。アンチエイジング、予防医療の第一人者。10年以上前から生活習慣病や老化の処方について取り組み、日本で初めてエイジングに着目した「健康寿命ドック」をスタートしたのも久保院長だ。現在は東海大学医学部抗加齢ドックの教授も兼任している。
高輪メディカルクリニック 久保明院長。
ハイテク検査機器「64列マルチスライスCT」。
施設内のスタジオでは、ウォーキングセミナーも受けられる。
「運動療法については、13年前から行っていますが、クリニックで行う栄養指導には限界があります。施設の利用者の3〜4割程度が、人間ドックや運動療法の受診者です。リゾートでリフレッシュするような旅行感覚で、日々の生活を見直すことが出来ないだろうか、というのが今回の企画の出発点です。プリンスホテルの力強いバックアップで実現しましたが、コラボレートすることで患者さんによりよいサービスを提供していけたら、と思います」。(高輪メディカルクリニック 久保明院長)
サウナ&ジャグジーも滞在中はフリー。
都心にありながら緑豊かでゴージャスなリラクゼーション施設を有するホテルと医療が結びつき、メディカルビジネスの新しい可能性が芽生えている。その一方で、医療ではなく薬と結びついたレストランの存在も見逃せない。
・薬局併設の医食同源レストラン
品川駅から徒歩3分の距離にある漢方ミュージアム。そこに併設されているのが、「10ZEN」。2004年9月にオープンした店は、対前年比110%以上で売上げを伸ばし続けている。
「10ZEN」外観。
漢方メインの店。
店内。
壁にはアートが。
同店の来店者は、30〜40代の女性が中心だ。ディナーの平均客単価は5,500円。ところどころにアートが飾られ、彩りのある店内の席数は88席。ランチタイムで人気なのが、鉄鍋薬膳カレー。ディナーは「ぷるっぷる美肌鍋」(1名3,800円 ※2人前より)、「毒素排出鍋」(1名4,800円 ※2人前より)など生薬ベースのスープの火鍋がメイン。
3種の焼きチーズカレー(1000円)。
生薬たっぷりのスープ。
一番人気の毒素排出鍋。
漢方の考えをもとに生薬や無農薬野菜を使用し、「薬膳=苦そう、美味しくなさそう」という図式を塗り替えている。料理メニューは中国の伝統医学を実践する中医師や併設する薬局の薬剤師が監修。オリジナルの漢方生薬を漬け込んだリキュールも豊富に揃う。
お茶はもちろん「美人酒」などのオリジナルのお酒も。
「薬膳といっても堅苦しくなく、『こういう食べ物は体にいいんだ』『また試してみよう』という意識を持って帰っていただくようにしています。接客でも、お客さまと楽しくお話するということを大事にしています」と話すのは、同店マネージャーの早川美彩子氏。
今後チェーン展開は考えず、「遠方からも来てもらえる価値のある店にしたい」と考えているという。
・バランスのとれた「スクエアーミールズ」を提供
銀座駅から徒歩1分、中央通り裏手のビル地下にある、隠れ家のようなレストラン「SQUARE MEALSみなもと」。製薬会社の薬剤師として勤務していた五十嵐一正氏が脱サラして再スタートした店だ。
胎内のような半個室。
店名に冠した「スクエアーミールズ」とは、現代のライフスタイルに合わせ“旨・楽・健・食”をキーワードに調和のとれた食事のこと。もともと生活習慣病の患者メインの食餌指導をしていた五十嵐氏は、健康な人たちへの食事を提案したい、と2003年に銀座にオープンした。ロフトのある店内は30席で、手づくり感のある柔らかな印象を受ける。客単価は4,000円から5,000円程度。顧客は周辺に勤務する会社員が中心で、グループの利用が多いという。
ロフト。
海老とアボカドのタルタル(880円)。
渡り蟹の有機全粒粉パスタ(1340円)。
玄米ナシゴレン(920円)。
提供するのは、ほぼオリジナルの創作料理。野菜を中心に、玄米や有機全粒粉を使ったパスタなどを使用し、ヘルシーに仕上がっている。「私がやりたいのは、いわゆる健康料理の店ではありません」とキッパリと話すのは、同店の五十嵐一正店長。「逆に健康意識のあまりない方に来ていただきたいんです。お客さまから『店に来ていただいているうちに、いつの間にか身体にいいものを食していた』と言っていただけるのが理想です。常日頃の食事の中で、野菜が入っていたり、油分を落としたお肉、糖分、塩分を控えたり、それを続けることが大事だと思っています。お客さまが楽しく、美味しく、いつの間にか生活習慣病の予防が出来るような店でありたいですね」と話す。
南高梅のレアチーズケーキ(680円)。
「メタボ」という言葉が蔓延し、ヘルシー志向になる一方で、ファーストフードの隆盛は続いている。美酒美食を楽しめるのも、健康な身体があってこそ。消費者のニーズを探り風をよみ、業界の垣根を越えたオリジナリティを打ち出すことが迫られているのかもしれない。