フードリンクレポート


歯抜け商業施設でも勝てる!
マルチブランドの知恵。
岡本 晴彦氏
株式会社クリエイト・レストランツ 代表取締役社長

2009.9.25
商業施設を中心に約400店を展開するクリエイト・レストランツ。2009年3〜5月の3ヶ月連結業績では、過当競争、さらには消費不況により集客力が落ちる商業施設が多いため売上高2%減だが、経常利益11%増と好調。マルチブランド・マルチロケーション戦略にその秘訣があるようだ。岡本晴彦社長に聞いた。


クリエイト・レストランツ社長、岡本晴彦氏。

ケンタッキーで「スープストックトーキョー」を企画

 岡本氏は東京大学卒業後、三菱商事に入社。情報通信システム部に配属され、社内の情報システム作りを担当した。そして、入社8年目にケンタッキー・フライド・チキン(以下、KFC)に出向する。それも、同社の社内システム作りのため。

「KFC出向のミッションは、新しい物流システムの企画でしたが、その仕事は約3ヶ月くらいで完了しました。出向期間は2年半。どうしようかなと思っていた時に、当時の大河原社長から新規ビジネスの会議に呼ばれるようになりました。大河原社長の所には、色々な外食企業の社長がやって来られます。新しいビジネスを一緒にやりませんかというお話や相談です。大河原社長は、それ面白いね、後は岡本君よろしく頼むよ、とよく振られたものです。」と岡本氏は苦笑する。

 KFC出向期間中に立ち上げた新規ビジネスに「スープストックトーキョー」がある。のちに三菱商事から出向してきた遠山正道氏(現株式会社スマイルズ 代表取締役社長)と共に2人でコンセプトを作り上げた。

「三菱商事からKFCに売り込みがあり、その担当者が遠山さんでした。面白い人だなと思い、一緒にあるビジネスをやる為に、会社と掛け合い出向してもらいました。2人でKFCのテストキッチンで商品開発に明け暮れ、大河原社長にも度々試食してもらいました。三菱商事のある丸の内ではこんなことは出来なかった。KFCの不振店をスープストックに変えましょうと提案したこともありました(笑)。」

 その後、千葉・舞浜のイクスピアリにある「レインフォレストカフェ」の開業を成功させる。


三菱商事で外食の第一人者に

「たまたま米のレインフォレストカフェの副社長が大河原社長に会いに来られたのがきっかけで、レインフォレストカフェの日本誘致に携わることになりました。出店するなら観光地がいいと思ったので、オリエンタルランドに事業の提案をしに行きました。結果として、三菱商事とオリエンタルランドで合弁会社を作って進めようということになりました。事業の規模は小さかったのですが、三井グループの会社と三菱商事が手を組む新たなプロジェクトとして、三菱商事社内からも注目を浴びました。」

「レインフォレストカフェ」の開業を成功させたことで、外食分野において、社内で一目おかれる存在となった。

「伝統的に商社は川上を押さえるビジネス。資源開発などが花形ですが、入社時の配属の情報通信システム部門も、その後移った外食部門も、花形部門とは言えません。自分のキャリアを考えた時に、三菱商事がまだやっていない分野にこそ光明があると思いました。外食部門の中で自分のアイデンティティを打ち出すべきだと思いました。」

 三菱商事では、上海エクスプレスなどの外食企業に投資し、社外役員の立場で事業に関与。

「その内、外野でやっているのがつまらなくなり、自分で外食ビジネスをやりたいと思うようになりました。スープストックでは事業規模が限られる。レインフォレストカフェのような大企業同士の合弁事業は物事を決めるのに大変な手間がかかる。KFCのようなチェーンは良さもあるが投資回収が重い。それぞれの反省点を感じながら、もっと自由にスピード感のあるビジネスをやりたいと思うようになりました。」


クリエイト・レストランツを設立

「まずは、商社マンに理解しやすい事業計画書を書きました。4つのブランドを考えて、実際には店が存在しないにもかかわらず、各々何店できる、何年で回収できるといったイメージを作ったのです。そんな計画は、最初の2、3ヶ月で変更してしまいましたが(笑)。」

「新橋で有名な焼肉『徳壽』の2代目、後藤仁史氏が当社の会長です。後藤氏とは、KFCの社長室で会いました。またもや大河原社長がキューピット役だったのです。後藤氏の第一印象は変わった人だなぁと思いましたが、彼のスピードある判断や行動力に魅力を感じました。その後、自分で経営する会社を作ろうとした時、一緒に経営をやっていくパートナーとして後藤氏に声をかけました。」

「僕が一人でやると三菱商事に完全にコントロールされます。外側に軸足を置けば、独立性が保てます。そこで、徳壽にも出資してもらい、後藤氏と一緒にクリエイト・レストランツを立ち上げました。」

 2000年の創業直後にイメージしたのは、10年で300店の展開。実際には、7年目の2007年度に達成した。


マルチブランドx50店

 クリエイト・レストランツは、マルチブランド・マルチロケーション戦略を採る。個々の立地特性に応じて業態を開発し、多様なブランドを展開していくというビジネスモデル。個別の店舗毎に、周囲の環境や想定される顧客層に合わせたメニュー、内装、価格帯等をきめ細かく設定した上で、あるときは自社で既に保有している業態の中からアレンジし、またあるときはゼロからの業態開発を行い、多店舗展開している。

「我々は、多数のブランドを各々ある程度の店舗数で展開します。イメージは、ぶどうの房。一個一個の実が実っていく。一個一個はそんな大きくないが全体として成長していく。小さい実も大きい実もある。1ブランドで、40〜50店を展開。1000店になった時、50店のブランドが15個あって、他に小さいブランドがあるというイメージです。」

「新しい業態をつくって、陳腐化したものを新業態に変えていく。そのスピード感を高める。立地毎に流行り方も違います。」

1号店は台場・ヴィーナスフォートの「ポルトフィーノ」という地中海料理のバイキング業態。新業態のコンセプトは、後藤氏、岡本氏で生み出すことが多いという。

「色々な店を見に行きます。特に、自分達が出店している立地や、しようとしているエリア。そういう場所の商売に長けている人たちの技を見て、ここはいいね、と参考にすることもあります。カウンター周りはこの店のこんな感じなど、パーツ毎に考えてそれらを合体させる。皆のアイデアをディレクションしながら業態を作っていきます。」


フードコート運営、トップクラス

 同社は現在約170店のフードコートを運営している。しかも同社1社のみで複数の店舗を運営する一括オペレーションフードコートができることが強み。

「一括オペレーションフードコートの運営は、日本で一番多いと思います。テナントのコーディネーションだけや、サブリース方式でかかわる企業はありますが、当社は全部、自前で企画し、運営します。」

「他社との品質に因る差別化だけではお客様の慣れがあるので、決定的な差別化は図れません。当社では、業態としての差別化が重要であると考えています。また、出店における立地獲得競争も意識します。レストラン街の中で、ちょっと付加価値のある業態や、一括運営のフードコートのように、他社があまりやらないような業態であれば差別化が図れます。また、面積による差別化もあります。例えば、30〜40坪をやりたい人は多いと思います。50〜60坪で少なくなり、80坪を超えるとかなり業態が絞られてきます。100坪を超えてくると手を挙げる企業はかなり少ないと思います。そこに手を挙げていくのです。」


「ガーデンフードコート西宮」のフードコート 外観。


「ガーデンフードコート西宮」のフードコート 内観。


伸び縮みに有利な業態

「お台場などの観光地ではオンシーズンはいいけど、オフシーズンは全然ダメ。黒字と赤字で結局一年通したら赤字では、何をやっているのかわかりません。一番いいのは、土日も平日も売れて、だらだらとお客様がずっと来てくれる。でも、そういう立地は競争力が高くて家賃も高い。一方で、人件費コントロールが難しい立地はやり手がいない分、いい条件で入れる可能性がある。閑繁の差を何らかの仕組みで他社より上手くやれる仕組みがあれば、有利なビジネス展開が出来ると思いました。」

「やっている内に、伸び縮みに有利な業態が分かってきました。最低人件費が少ないのは何、ピーク時に一番客数が取れるのはコレだとか。オフピークの時のやり方とオンピーク時のやり方を使い分ける。すると、ちゃんと収益があげられる。例えば、人件費を伸び縮みできる業態としてビュッフェ業態がありますが、品質を維持しながらやる為には、様々な工夫が必要となります。」


「越谷レイクタウン」の「ロテルドビュッフェ」 外観。


「ロテルドビュッフェ」 内観。


商業施設の集客力が弱まっても、勝つ

「商業施設の魅力が続けば、お客様は必ずいらっしゃいます。フリーのお客様が多い場合、お客様のメインの目的はショッピングのため、すばやくリーズナブルにお腹を満たす満足が重要となります。」

「自店に限らず色々な店のファサードのチェックをします。入口ディスプレイにおけるメニューとサンプルの位置や、照度などを確認します。他社のファサードをみて、学ぶべき点は参考にします。」

 同社は、商業施設が厳しい中で利益を伸ばしている。

「例えば年間100万人来る施設内に、飲食店が10数店あるとします。業態ごとに利益率が違い、人気も違う。人気順がありますが、集客が80万人に減ると、各店は同じように減ります。ある店だけ極端に減るのではなく、満遍なく減る。どう生き残るか。それにはコストコントロールがしっかりできるかが重要です。」

「追い込まれた店が複数出てくると、そこから安売りが始まります。それに習って、同じような安売りをするグループができ、安かろう悪かろう系に変わる。すると、客数が少し増えても利益は出ない。一方、安売りのグループが出来ても、影響を受けない業態もあります。例えば、定食店が安売りを始めた。同じく和食である回転寿司はどうかというと、影響をほとんど受けない。寿司を食べたい人は、隣に安い定食店があっても寿司を食べにいきますから。」

「店に入る動機の種類はお客様により違います。まだ店を決めていないお客様は、何かこんな感じのものを食べようかと思ってレストラン街にやってくる。何か面白そうな店に入りたいと思うお客様は、特徴のはっきりして店を選びます。しかし、1人なので安くすませようという方は、800円を探す。安くすませようというニーズのパイを皆で獲りあいだすと、収益を圧迫してしまいます。」

「どうしても採算が取れなくなった場合は、業態を変えます。たくさん業態を作ったので、この立地においてこの業態なら、売上・利益がどれくらいかというのは経験で分かります。マルチブランドの形態では、お店が1つ1つ違うと苦労するでしょうと言われますが、苦労してきた分、経験とノウハウの蓄積は、当社の強みになっていると思います。」


歯抜けになっても儲かる業態か?

「商業施設同士の競争で、店が歯抜けになりゴーストタウン化する施設も出てくる恐れがあります。商業施設が滅びるのが一番怖い。施設の年商を何店、何席で売っているのか計算し、社内でデータ管理しています。その数字が小さいところは、悪くなってもそれほど影響を受けないということです。」

「歯抜けの場合でも業態が差別化されていれば強い。最後は体力勝負です。同じような業態でもブレイクイーブンポイントが低い店が強い。同じ売上でも向こうは赤字で、こちらは黒字ということもあります。」


マルチブランドは、社員の自立を促す

「マルチブランドでは、様々なノウハウや、オペレーションのやり方に対する知恵が付きます。色々な店舗がありますので、大きなオペレーションもあれば小さなオペレーションもあります。フードコートでも共通するものもあれば、違うものもある。繁盛店と厳しい店、そのオペレーションの差。その辺りが勉強できます。」

「1つの事例を自分の店に置き換えて抽象化してその技を具体化する。その繰り返しをやる。出店するエリアの他社の色々な店も我々のターゲットです。例えば、中華料理をやろうと思っていれば、あそこのビュッフェの中華は凄いな、と思えばもちろん研究します。」

「チェーンビジネスは商品を絞り込み、その結果、効率運営が出来ますが、反面、変化には弱いところがあります。お客様の嗜好はどんどん変化します。どうやって素早くニーズを察知して出店していくかがこれから勝負ですね。成功する仕組みを作り上げて、出店していく中でブランドの品質も挙げていく必要があると思います。」

 地域毎にエリアマネージャーがいる。担当する店は業態がバラバラで、全員がマルチブランドを経験する。また、メニューに関しては、ブランド毎に調理人がブランドマネージャーとなって開発している。

「チェーン経営の悪いところは、SVが本部から言われたことをやるだけの組織に陥る所。本当の意味で、責任感がある組織は、現場で考えて動いてゆく。それが面白い。ある業態でこの売り方がヒットした、他でも同じ売り方ができないかと考える。実験場が沢山ある感じですね。1つ成功例があると皆で一斉に取り入れて進化を目指してゆきます。」

「美味しさを追求しようと、それぞれの店が自慢の一品を劇的に美味しくすると宣言させ、その工夫を皆で考えるというコンテストを行いました。全店でメニューが違うのでアイデアが400個でてくる。それを集計して実際に素晴らしいアイデアをフィードバックする。 仕込みの時のこの一手間が大事なんだ、とか学習して基礎力が付いていけばいいと思います。」


会社の存在感は不要

「当社は会社としての存在感が薄いと言われます。会社を作る時に、ブランド名と会社名が一致している会社だと、お客様は必ず飽きてきて、そのうち会社も飽きられるというイメージがある。ブランドと会社は完全に切り分けた方が良いと思いました。」

「また、三菱グループがやっていることをお客様に意識されたらアウトだと思いました。なんというか、硬いというか、ガリッという感じ(笑)。飲食業の柔らかい、ゆるい感じが出ない。ただ、すばらしい会社なのでデベロッパーには信頼いただいていると思います。」

「店のプロモーションはやるが、会社の名前を売り込むことははやりません。会社は黒子に徹し、店の名前を売る。結果として、あの店もこの店も、クリエイト・レストランツなんだと気付いてもらえれば、それで十分だと思います。」

「今後もクリエイト・レストランツは今の感じで進んでいくと思います。M&Aで業態を増やしていくというのではなく、一つ一つ自分たちで業態を作っていく。但し、のれんを残したいが後継者がいない等、事業継承で悩んでいらっしゃる方の相談に乗ることはあります。我々の強みは色々な業態を経営していること。調理人もいる。たくさんの業態ができる。利益を出せるオペレーションのノウハウがあります。」

 商業施設の過当競争が昨年から始まっている。商業施設を中心に出店してきた外食企業は、業績が良くないところが多いのが現状。その中で、クリエイト・レストランツは、売上高は減少している中で、利益を伸ばすという快挙を成し遂げている。理論派の岡本氏ならではの分析で、原価・人件費を伸び縮みできる業態を作り上げ、コストコントロールを強化したのが勝因のようだ。



■岡本 晴彦(おかもと はるひこ)
株式会社クリエイト・レストランツ 代表取締役社長。1964年生まれ。兵庫県出身。東京大学卒業。87年、三菱商事株式会社入社。96年、日本ケンタッキー・フライド・チキン株式会社出向。2000年、クリエイト・レストランツを設立し専務取締役として出向。03年、三菱商事を退社し同社代表取締役社長就任。05年、東証マザーズ上場。

株式会社クリエイト・レストランツ

【取材・執筆】 安田 正明(やすだ まさあき) 2009年9月8日取材